日本だけ気付かぬ 単独制裁の落とし穴

北朝鮮の核実験で強硬論強まるが

                                                                                                   記者名 : 矢野宏・栗原佳子

▲在日朝鮮人への人権侵害が・・・
 
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核実験実施以来、対北強硬論が大手を振るっている。いち早く単独制裁を発動したうえに、敵地攻撃論、周辺事態法見直し、迎撃ミサイル配備、核武装論、そしてNHKに対する放送命令まで……。北の脅威にかこつければ全て許されるのだろうか。その一方で、またしても、在日コリアンに対する人権侵害が各地で頻発している。
 11月の日曜日、大阪市東成区の中大阪朝鮮初級学校で行われた一般公開授業。1年生の教室では、児童10人が「国語」(朝鮮語)の複合母音を習っていた。教師の口元を好奇心旺盛な瞳で見つめ、復唱する児童たち。質問のたび、元気よく「イエッ(はい)!」と一斉に手が挙がる。
 この学校は地域住民に民族教育を理解してもらおうと2、3年に一度、授業を公開している。児童50人、園児10人。子どもたちの数は10年間で約半数に減り、中級部は今年、別の学校に統合された。

▲在日朝鮮人への人権侵害が・・・

 全国的に朝鮮学校に通う子どもたちは減少している。少子化、各種学校扱いゆえに被る不利益の数々。理由はさまざまだが、制服のチマチョゴリを切り裂かれるなど、日朝関係が緊張するたび繰り返される嫌がらせに不安を持ち、敬遠する親がいるのも事実だ。
 今年7月5日、北朝鮮のミサイル発射が報じられた後、この学校にもこんな電話があった。「何やってんねん。はよ出ていけ!」。男の声で、一方的にまくしたて、切れたという。
 李俊男(リ・ジュンナム)校長は「その後うちの子ども達が直接被害を受けた事例はないのですが……やはり心配です」と案じる。 
 
 ▲「対話なくして拉致問題の解決はない」と訴える朴さん
 
 朝鮮学校の児童生徒に対する暴行事件や学校への脅迫電話、施設破損などの被害は、7月のミサイル発射から核実験後の10月13日までで169件が確認されている(在日朝鮮人・人権セミナー調べ)。
 その後も被害は増え続け、神戸朝鮮初中級学校では、正門の表札が何者かに赤いスプレーで塗り潰された。また、朝鮮総連系の「金剛山歌劇団」は全国各地で公演活動をしているが、この間、8カ所で右翼の妨害があり、6つの自治体が後援を取り消したという。

▲「対話なくして拉致問題の解決はない」と訴える朴さん

 「日本政府が独自に実施した『制裁措置』は、国連安保理決議の範囲も超え民政部門にまで及ぶ反人道的措置であり、深刻な人権侵害を招いています」「『制裁』や圧力一辺倒では、なんら解決の糸口を見出すことはできず、むしろ在日朝鮮人に対する不当な民族差別と迫害行為が社会的に助長されるだけです」――。 夕刻のJR大阪駅前。続発する人権侵害を憂い、在日コリアンと日本人のグループがビラを手に、道行く人に訴える。
 「日朝国交正常化の早期実現を求める市民連帯・大阪」共同代表の有元幹明さん(70)は「一番心配していたことが実際に起きてしまいました」と嘆く。
 「いかなる国の核実験も反対。ただ、あの国は怖い、そんな日本の偏狭なナショナリズムの立場で見てしまうと、見えなくなってしまうものがある。
 日本の米軍基地のミサイルが自分たちの方を向き、アメリカにへつらう日本がいる。現実問題としてイラクに何が起きたかも見ている。むしろ、怖がっているのはあの国のほうです」
 有元さんたちは90年代、北朝鮮で膨大な餓死者に出したといわれる大飢饉の後、人道支援の一環として仲間たちで小さな田んぼを借り、作った米を送ってきた。しかし、この冬は、それもままならない。
 北朝鮮は今年も大水害に見舞われたが、ミサイル発射以降、海外からの支援は激減し、世界食糧計画(WFP)は、来年1月で備蓄した支援の食糧は底をつくとしている。

 『制裁』には在日朝鮮人の再入国禁止や制限、日朝間を結ぶ「万景峰号92」の入港禁止も盛り込まれている。家族が現地にいる在日は不安を募らせている。大阪市生野区の在日朝鮮人2世、夫満寿(プ・マンス)さん(75)もその1人だ。
 1959年から始まった「帰国事業」で、満寿さんは5人の子どものうち、4人を帰還させた。朝鮮総連の活動家だった夫が「共和国(北朝鮮)のために活動してきたのだから、子どもを受け入れてくれるだろう」と66年に長男、長女、次女の3人を、8年後に三女を送り出した。当時、一家は借金を抱え、中学校を卒業した長男を高校に入学させるお金もなかった。
 現在、4人の子どもたちはピョンヤンで暮しており、孫も12人いる。
 「孫が結婚するので、来てほしいと言われているのです。行ってやりたいけれど、万景峰号の入港が禁止されているので行くに行けません」
 万景峰号での渡航費は17万5000円。入港が禁止されているため、北朝鮮へは飛行機で行くしかない。中国・瀋陽経由で行くと30万円かかる。
 満寿さんは無年金生活者。10年前に亡くなった夫の保険などで、ひと月7万5000円で暮しており、自分の生活だけで精一杯だ。
 「共和国は戦争をやろうと思って核実験をしたわけではない。それを今にも戦争が起きるように騒ぎ立てて、肉親の情を断ち切ることが許されていいのでしょうか」

 朝鮮半島問題や在日問題など独自の視点で提言している大阪市立大学大学院教授の朴一(パク・イル)さん(49)は「万景峰号の入港禁止など、人・物・金を入れないようにすることで結果的に北朝鮮へ帰国した在日への仕送りがとまり、飢えと貧困を招くことになる。罪のない人を苦しめるのが今の経済制裁。金政権を追い詰めることにはならない」と言う。
 しかし日本では、拉致問題以降、北バッシングそのものに異議を唱えるのはむしろ少数派だ。朴さんはこう警告する。
 「日本にとって最悪のシナリオは、拉致問題に絡んで制裁を強行すること。このまま制裁だけが先行すれば拉致問題の解決とは逆の方向へ行くだろう。解決には皮肉なことだが北の情報が必要。対話なくして、拉致問題は解決しません」
 北朝鮮が6カ国協議に復帰することにより、さしあたり「再実験」の危険性は遠のいたと見られている。対話の道は開かれつつあるが、それでも大部分のマスコミは追加制裁などを大きく報じるばかりだ。
 「北朝鮮の脅威論にはマスコミが一役買っている。ナショナリズムをあおり、それでますます日本社会は右傾化する。メディアは利用されているんですよ。もっと冷静な議論が必要です」
 もちろん私たちも、核と人類は共存しないと思う。しかし、北の脅威をあおられ、踊らされたその行き着く先には、何があるのか。一度立ち止まり、冷静に考えたい。

 

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