記者:高 貞子
耳は横に二つ。
ひょっとして心は後向きなのだろうか。
過ぎし時、そして過ぎ去った人を思い出しては、その時のことを反芻しているような気がする。
黒田さんはテレビで時々拝見していたが、言葉を初めて交わしたのは、新井英一のコンサートだった。
席が隣であった。
新井英一の歌を聞いて涙ぐんでいる黒田さんを見た。
「新井さんの歌聞くたび、自分の幼い頃を思い出して、つい……」とおっしゃった。
私はその時の黒田さんの表情が忘れられず、新井英一の歌を聞くたび、あの時の黒田さんの表情を思い出す。
前を見なければ人は生きていけぬ。
横にいる人の言葉に耳を傾けなければ独りよがりになるかもしれない。
そして後向きの心にとめおいた過ぎし時、過ぎ去った人々を思い出しては自分の生の確認をしているのではないだろうか。
人はそんな時を持つことによって前を向いて歩いていけるのかもしれない。
新井英一が歌う、魂が叫ぶ、そして私もまた過ぎ去った人々と共に蘇る。
〝この街に父母眠る アリラン〟