黒田さんのメッセージ

記者:小松尾直利

黒田さんが息を引き取る一時間ほど前に、私は病院に駆け付けることができた。そこには六時間ほど前に苦しみで顔を歪め、悶えていた黒田さんの姿はなかった。体はピクリとも動かず、顔は血の気もなく硬直している。唯一、目で確認できた「命」は心臓の鼓動に合わせて微かに動く右首筋の細い血管だけだった。

長い時間だったような気がする。人の死を看取るのは初めての体験だった。祖父でもなくて父でもない黒田さんの最後を見守りながら、私はなぜか妙なことを考えていた。

--苦しみに悶え、最後は生きてるかどうか分からんになって消えてく「命」があるんやなぁ。大晦日の夜の参拝帰りに溝にはまったままひとりぼっちで凍死したお祖父ちゃんは、どんなふうに死んだんやろ。戦時中の兵隊さんたちはどうやろう。鉄砲や砲弾で即死した人もいたやろうけど、多くの人が傷を負ってどうすることもできずに時間をかけて苦しみ、最後は虫の息になって孤独に死んでいったんやろなぁーー

なぜか無性に腹が立った。ベッドに横たわる黒田さんは決してひとりぼっちではなかったのだが、私には戦場で死に行く兵隊のように見えてきた。「戦争なんて絶対に許したらアカン」。何も新しい感情ではなかった。だからこそ、今あらためて心の底から静かに強く沸き上がってきたことに違和感もあった。

担当医がやってきて病室が急に慌ただしくなった。心電図のモニターが映し出され、黒田さんの命が少しずつ消えていくのが目で分かった。ピーッ。私は涙も出なかった。悲しみより怒りに似た感情があったように思う。
なぜ、あんなに冷静にあの時間を過ごし、戦争について考えていたのか。自分でも不思議に思う。でも、人々の幸せを根こそぎ奪っていく戦争を心から反対し続けてきた黒田さんから、私に届いた最後のメッセージやったのかなぁと、勝手に解釈することにした。

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