JR脱線事故前社長無罪判決

記者:矢野宏

「営利優先」個人問えず

2005年4月25日、107人が亡くなったJR福知山線脱線事故で業務上過失致死傷罪に問わ

▲JR西日本本社

れたJR西日本前社長、山崎正夫被告(68)に対し、神戸地裁は1月11日、無罪(求刑禁錮3年)を言い渡した。未曾有の鉄道事故の刑事責任を経営幹部に問えるのか注目されたが、岡田信裁判長は「JR西日本の安全対策は、期待される水準に及ばないところはあったが、山崎被告個人については、過失は認められない」と指摘。「経営幹部が責任を取らなければ、企業体質は変わらない」という遺族らの願いは届かなかった。
兵庫県警が業務上過失致死傷容疑で書類送検したのは、歴代3社長や死亡した運転士を含む10人。井手元会長ら3人については嫌疑不十分、運転士は死亡を理由に不起訴処分となり、起訴されたのは山崎被告だけだった。

1996年12月に尼崎市のJR福知山線の尼崎―塚口間のカーブが半径600㍍から304㍍の急カーブに付け替えられ、97年3月にはダイヤ改正で快速列車の本数が増えた。カーブ付け替え直前にはJR函館線の半径300㍍カーブで貨物列車が脱線する事故が起きている。当時、山崎被告は安全対策を統括する取締役鉄道本部長。速度超過で脱線事故が起きる危険性や自動列車停止装置(ATS)があれば事故を防ぐことができると認識していながら、ATS設置を指示しなかったというのが、検察の主張だった。

10年12月の初公判以降、昨年秋までに27回を数える公判の中で、事故現場のカーブの危険性を認めた社員らが次々と供述を覆していった。ATS整備について、山崎被告は「事故防止ではなく乗り心地のため」と発言して、遺族らの反発を招いている。
裁判の争点は「予見の可能性」。カーブを急角度に付け替えたのは事故の9年前のこと。脱線事故を予測することができたのか。

判決によると、予見可能性について「現場のようなカーブはかなりの数あり、危険性について進言はなかった」として否定。「カーブにATSを整備する法令上の義務もない」と述べた上で、「事故を防ぐ措置を取らなかった過失は認められない」と結論付けた。

山崎被告に対して無罪を言い渡したが、岡田裁判長はJR西日本の安全対策について「大規模鉄道事業者として期待される水準になかった」と非難している。

それでも、山崎被告が無罪になったことについて、事故で長女を亡くした大阪市の藤崎光子さん(72)は「ひどい不当判決。有罪になるものと思っていましたから『無罪』と聞いて胸にドンと来ました」と話した。 さらに、公判を振り返り、裁判ではJR西の幹部らが供述を次々と覆した不誠実さに怒りを抑えきれない。

「ATSの開発に携わった人が『R304のRが半径とは知りませんでした』などと、子どもでもわかるウソをつき、判決はそれを鵜呑みにした。最初から無罪ありきで組み立てられた判決としか思えません」
事故で次男が大ケガをした伊丹市の西尾裕美さん(53)も「JR西側は『カーブで脱線はありえない』などと口裏合わせをしてウソの証言ばかり。これだけの被害を出しているのに、判決文そのものが現実とかけ離れたひどい内容で、納得できません」と話していた。

20年前の信楽高原鉄道事故で妻を亡くした宝塚市の吉崎俊三さん(78)は「トップが責任を問われなければ企業は変わらない。営利優先の企業体質が変わらないと事故は繰り返される」と述べ、こう語った。

「脱線事故のとき、当時の垣内社長が『信楽とは違う』と言ったことが忘れられない。JRには責任がないと言いたかったのだろう。山崎前社長だけでなく、歴代3社長にも営利優先で安全をおろそかにした責任がある」

刑法は個人を対象にしており、組織の責任は問えない。それならば、企業の幹部が責任を問われなければ、その企業の中で安全意識が向上するわけがない。

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