大阪府・市教育基本条例案

 記者 :栗原佳子

保護者に重い 「義務」規定

▲大前ちなみさん

「大阪維新の会」の教育基本条例案が成立目前だ。2月23日に大阪府議会、28日には大阪市議会が開会、松井知事、橋下市長はそれぞれ条例案を提出する。府議会は維新が単独過半数。市議会も、公明などが賛成にまわれば過半数に達し、成立する可能性が高い。子どもを取り巻く状況はどう変わるのか。保護者には他人事ではないはずだが、この条例案、実は、保護者たちをも強く拘束する内容になっているのだ。

維新の条例案は保護者をこう規定している。<部活動をはじめとする学校運営に参加するなど、主体的に積極的な役割を果たすよう務めなければならない><学校教育の前提として、家庭において、生活のために必要な社会常識及び基本的生活習慣を身につけさせる教育を行わなければならない>

「貢献」を強制する一方で∧教育委員会、学校、校長、副校長、教員及び職員に対し、社会通念上、不当な態様で要求等はしてはならない>と牽制。正当な要求も、恣意的な解釈でモンスターペアレント扱いされかねない。

まだある。<校長が、保護者や地域住民からなる「学校協議会」を設置し、教員の評価や教科書の推薦を協議する>。しかも府市教委は<校長の推薦を尊重して教科書を採択しなければならない>。昨年9月、大阪で講演した教育学者の高橋哲哉さんはこう警鐘を鳴らしている。「実際に教科書を使う現場の教員とは無縁のところで首長の政治的意思を介した教科書の採択が可能になる。こうしたシステムを導入すると「つくる会」系の教科書の採択が一挙に広まるだろう」。

条例案はどう受け止められているのか。例えば朝日新聞とABCが府民を対象に2月18、19日、共同で実施した世論調査によると条例案に賛成は58%と過半数を超え、反対は26%だった。

ただ、賛成と答えた人も、中身を熟知しているかといえば疑問符がつく。大阪市都島区の大前ちなみさん(40)は「周りの保護者は、驚くくらい条例案のことを知らない」という。小2のを頭に3人の子どもの母親。「保育所でも『橋下さん、いいやん』って保護者、本当に多いです。でも、『それちょっと違うんじゃないの』って言える雰囲気じゃない」という。若い保護者にも橋下人気は絶大だ。

しかし、条例案の内容を知れば知るほど、「本当にこれは子どものためのものなのか」という疑問が膨らんでいく。「保護者はこの問題の当事者。子どもを持つ親というだけで渦中にいる」。大前さんは2月上旬、保護者仲間と「発言する保護者ネットワークfrom大阪」を立ち上げた。条例案への危機感を共有する、大学生までの子どもを持つ現役の保護者同士、メーリングリストで意見や情報を交換しあう。参加した保護者の一人は「条例案に危機感を持つが、PTAで『おかしい』というと浮いてしまう」と吐露した。

ただ参加の条件として橋下氏や維新に対するスタンスは問わない。仲間うちだけの運動は広がらない。丁寧に対話を重ね、共感を広げていきたいと考えている。

居住地も問わない。「橋下流」教育改革の流れは全国に広がる可能性があるからだ。参加者は北海道から沖縄にまで広がっている。メーリングリストは保護者限定だが、ホームページやブログ、ツイッターで発信。大前さんはそれらのウェブサイトの管理人をしている。

教育基本条例案は10年前、米国のブッシュ時代に導入され、破綻した「落ちこぼれゼロ法」の再来とも指摘される。その米国ではいま教育の現場で「揺り戻し」が起きているという。

残念ながら大阪では条例案が可決される可能性がきわめて高い。「アメリカは10年かかりました。その『揺り戻し』を早くするためにも声をあげ、発信するしかないと思っています」。

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