大飯原発再稼働へ

記者:高橋宏

4月13日、政府の野田佳彦首相や枝野幸男経済産業相、細野豪志原発事故担当相らは、定期検査で停止中の関西電力(以下、関電)大飯原発3、4号機の再稼働を「妥当」と判断しました。今後「地元の理解」が得られれば、大飯原発3、4号機は再稼働することになります。さらに、大飯原発の再稼働が大きな既成事実となって、定期検査等で停止中の他の原発も再稼働していくことでしょう。

昨年3月の福島第一原発事故以降、緊急停止した原発、そして菅直人首相(当時)が停止を要請した中部電力の浜岡原発に加えて、運転中の原発が次々と定期検査に入りました。定期検査とは、一定間隔で原子炉を止めて、その本体や付属設備の点検を行うもので、通常はおよそ半年かかります。

ところが、定期検査が終了しても再稼働することができなかったため、日本の54基の原発(高速増殖炉「もんじゅ」や廃炉中の原発を除く)のうち、運転しているのは北海道電力の泊原発3号機のみとなっているのです。それも5月5日に定期検査に入る予定で、このままいけば日本の全ての原発が停止するはずでした。

大飯原発3号機は昨年の3月18日から、4号機は7月22日からと、いずれも福島第一原発事故以降、定期検査に入り運転を停止しています。福島第一原発事故を受けて、国は原発の再稼働にあたってストレステストにパスすることを条件としました。ストレステストとは、コンピュータシミュレーションによって地震などがあった場合に、どのくらいの事故になるのか予想するというものです。

今回、大飯原発3、4号機が最初の再稼働の判断の対象となったのは、特に安全性に優れていたからというわけではなく、ストレステスト結果の原子力安全・保安院への提出が早く、原子力安全委員会の了承が3月23日に得られてしまったから、というだけに他なりません。

野田首相ら関係閣僚が最初に会合を持ったのが4月3日。その後、6日に再稼働のために必要な「安全性の判断基準」(全電源喪失事故の進展防止のための安全対策実施など主に3点を示したもの)を了承し、それに照らして再稼働の判断をするとしました。また、9日には関電が中長期の安全対策の実施計画(工程表)を枝野経産相に提出しています。こうした流れの中で、初会合からたった6回の会合、わずか11日間で再稼働に向けた安全宣言を出したのでした。

今回の政府の判断について問題点を挙げればキリがありません。しかし、①福島第一原発事故の詳細が未だに明らかではない段階で安全基準を考えていること②関電が提出したストレステストの結果を従来の原子力安全・保安院や原子力安全委員会が短期間で了承していること③安全対策が実施済みというわけではなくほとんどが今後の「計画」であることだけでも、「安全性の確認」などあり得ないのは明らかでしょう。とにかく「再稼働ありき」で強引に手続きが進められているわけで、これでは福島第一原発事故以前と全く状況は変わっていません。あの事故から政府は何を学んだのでしょうか。

また、政府は再稼働の必要性について、原発依存度の高い関電の場合、夏場に最大2割近い電力不足になるという試算を理由にしています。原発以外の発電施設を利用することによる電気料金の値上げの可能性まで言及しました。しかし、そうした試算の根拠は明確ではありません。

また、枝野経産相は会見で「突然の電力不足は特に社会的弱者に深刻な事態をもたらす」と危機感を強調しましたが、再稼働が妥当とされていち早く歓迎ムードに染まったのは、財界(社会的強者?)であることを忘れてはなりません。何かあれば「社会的弱者」にしわ寄せがいくという現代社会の構造を放置しておいて、それを再稼働の理由付けに使うなどもってのほかです。

政府判断の翌日(14日)、枝野経産相は福井県庁を訪問し、西川一誠知事や時岡忍大飯町長らに再稼働を要請しました。知事も町長も判断は保留していますが、時岡町長は再稼働を待ち望んでいた人物です。また、福井県の意思決定のカギとなる県議会や同県原子力安全専門委員会は、「もんじゅ」の運転再開を認めた組織です。委員会の中川英之委員長は「個人的にはハード面はほぼクリアできていると思う」と発言していますし、最終的には再稼働を認める流れがあると考えて良いでしょう。ただ、今回は福井県に隣接する滋賀県や京都府は再稼働に慎重ですし、大阪府は反対を明言しています。国の言う「地元」にこれらの府県が加わった場合(現段階では国は「地元」と認識していません)、容易に再稼働することはできないかも知れません。

関電の筆頭株主である大阪市の橋下徹市長は、大飯原発の再稼働を総選挙の争点とすることに意欲的です。こうした動きも、国は無視することはできないでしょう。しかし、私は再稼働の問題を、政争の具としてはならないと思います。大飯原発のみならず、「もんじゅ」をはじめとした若狭湾一帯の原発が深刻な事故を起こした場合、近畿圏は甚大な被害を受けるのです。

福島第一原発事故では、放出された放射能の多くが太平洋に向かいましたが、同じような風向きならば、若狭湾一帯の原発から放出される放射能のほとんどは、陸上の生活圏に降り注ぐことになるのですから。政治や行政の世界だけではなく、近畿圏で生活する全ての人々が当事者意識を持って、大飯原発の再稼働問題と向き合わねばなりません。

ここで「政治判断」による再稼働を許してしまったら、また福島第一原発事故以前の、巨大なリスクを抱えた暮らしを強いられることになるのです。

Comments Closed