朝鮮学校問題

同じ社会で生きる「隣人」なのに

 朝鮮学校を排除する風潮に拍車がかかっている。北朝鮮の核実験を受けて安倍政権は朝鮮学校を高校無償化の対象から外すことを決め、大阪や神奈川など7都府県も朝鮮学校への補助金支給を見送った。かつて安倍首相は「良質で負担の少ない公教育があってこそ、子どもたちが明日へのチャンスをつかむことができる」と主張したが、同じ社会で生きていく「隣人」たちはそこには含まれていないのか。(矢野 宏)

 「大阪府は朝鮮学校への補助金を一日も早く再開してください」「朝鮮学校の生徒や保護者も、私たちと同じ大阪府民です」――。

 寒風の中、ハンドマイクを持った市民らが大阪府庁に向かって訴える。

 朝鮮学校の保護者や学校関係者、支援者らが結成した「朝鮮高級学校無償化を求める連絡会・大阪」による「大阪府庁前火曜行動」。メンバーらは毎週火曜日の正午から1時間、大阪府庁前でアピールし続けている。昨年4月から始まり、この日2月12日で40回を数えた。

 大阪市東成区の団体職員、宋裕子(ソン・ユジャ)さん(48)は仕事の合間を塗って、第1回から休むことなく参加している。

 「継続することが大事だと思っています。前(ゴール)は見えないけれど、何もしなかったら子どもたちに対しても胸を張れません。ありがたいことに、回を重ねるごとに日本の支援者も増えています」

 宋さんには朝鮮学校に通う小学5年の一人娘がいる。近所のそろばん塾に通わせているが、塾が終わると日本人の子どもたちと一緒に帰ってくるという。

 「今は一緒に遊んでくれていますが、朝鮮学校を攻撃する報道がこのまま続くと、いつか娘が仲間外れにされるのではと不安です」

 学校の月謝は1万8000円。弁当持参でイベントごとの出費も少なくない。

 夫は大阪朝鮮高級学校の教師。2010年度に大阪府が当時の橋下知事の主導で朝鮮学校への補助金支給を中止したこともあり、経済的な負担は大きいという。

 それでも朝鮮学校へ通わせるのは――朝鮮語を学び、朝鮮の歴史や文化を身に着けることは朝鮮人として生きていく上で大切なことだから。さらに、こうも言い添えた。「私自身、朝鮮学校へ通ってたくさんの仲間と出会えて幸せだったから」

無償化対象外に

 高校無償化制度が始まったのは10年4月。私立の高校生や他の外国人学校の生徒は年12万円を国から給付されるようになったが、朝鮮学校だけが「北朝鮮と国交がなく、指導内容がわからない」などの理由で除かれている。

 その秋、当時の民主党政権は適否を判断するための基準を規定。3年の修業年限や年800時間以上の授業時数といった内容で、「具体的な教科内容は問わない」とした。

 ところが、同年11月に北朝鮮が韓国を砲撃すると、朝鮮学校の適用手続きを9カ月止め、その後も結論を出さなかった。

 民主党から政権を奪還した安倍内閣は、北朝鮮による拉致問題に進展がなく、教育内容などに在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の影響が及んでいるとし、高校無償化制度適用の対象から外すよう指示。北朝鮮の核実験もあり、文部科学省は、朝鮮学校を無償化の対象にしないことを決め、2月20日付で省令を改正した。

 補助金支給を見送る都道府県も相次いでいる。現在、大阪や東京、宮城、埼玉、千葉、神奈川、広島の7都府県を数える。神奈川県知事は見送った理由について「核実験を強行した国の強い影響下にある学校へ補助金を続けることは、県民の理解が得られない」と説明している。

 だが、それは筋違いだ。高校無償化の対象は学校ではなく、生徒個人だから。

 こうした排除に対し、大阪、愛知で無償化適用を求めて提訴。全国朝鮮高級学校校長会は今後、裁判を起こすことを表明した。

排除の風当たり

 北朝鮮が核実験を強行した2日後の14日、一人の在日3世の女性と再会した。趙日順(チョウ・イルスン)さん(40)。1990年6月、大阪朝鮮高級学校3年で女子バレー部の主将だった趙さんは高体連加盟問題の渦中にいた。

 当時の朝鮮高級学校は、高校体育連盟への加盟が認められず、高体連が主催する大会には出場できなかった。趙さんは大阪府高体連の役員たちの前で「私たちは悔しい思いをしました。後輩たちに道を開いてやってください」と涙ながらに訴えた。大阪で「朝鮮学校を排除するのはおかしい」という世論が起こり、全国へと広がっていった。4年後にはインターハイへの門戸が開かれたのである。

 朝鮮学校の教師となった趙さんは、結婚を機に退職。二児の母となり、今は大阪・和泉市にある物流関係の商社で、本名で働いている。

 核実験について「いいとは思っていません」と語ったあと、20数年前と比べて「朝鮮学校への風当たりが厳しくなった」と振り返る。

 「あの時は『応援しているで』と激励されるなど、周りも温かかったです。新聞やテレビも今のように攻撃的な報道ではなく、私たちにも好意的でした」

 今回の高校無償化、補助金見送りなどに対して、趙さんは「憤りもあるけれど、何でやろという疑問ばかりです。この大阪で生まれ、大阪が好きで、周りに日本人の知り合いも多い。行く学校が違うというだけで朝鮮学校が排除されなければいけないのですか。これは弱い者いじめです」

 趙さんは「何か起こればひっくり返される。絶えず不安です」と語った。

 朝鮮学校に通う生徒の多くは日本で生まれ育った在日4世。私たちと同じ社会で生きる「隣人」なのだ。そんな彼らを排除する権力の刃は、いずれ私たちにも向けられる日が来る。

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