西谷文和 世界で平和を考える シリアルポ③

行列や団地空爆アレッポの街

闇の中、トルコからシリアへ国境を越えてアナダンという「戦場の街」に入った。アナダンからアレッポへ。山本さんが殺害された最激戦地の一つ。自由シリア軍兵士の車に乗り込み、いよいよアレッポに入った。

「着いたよ」。兵士たちが路地に20人ほどたむろしている。古ぼけたビル、1階が散髪屋で2階がパーマ屋。この2階のパーマ屋が、兵士たちの隠れ家になっていた。パーマ屋の狭い店内では、兵士たちがせっせとカラシニコフ銃に弾を込めているところだった。

その中に英語をしゃべる若者がいた。ファラーク。彼の父親がムスリム同胞団の幹部だったため、父アサドが彼の父を弾圧。父アサドはイスラム主義者を危険視して、徹底的に弾圧していた。ファラークはシリア人でありながら、ヨルダンで生まれ、ドバイ、アブダビなどを点々として育った。だから英語がしゃべれるのだ。

ファラークからひとしきり状況を聞く。「今日だけで戦車を4台もやっつけたよ。最近はこちらにも(自由シリア側)新しいロケット弾が入ってくるようになったからね」

深夜ロケット攻撃

午後10時、やることがないので3階に上がって早めに眠る。うとうとし始めたその時、ドッカーン、ドッカーンと2発の爆音で叩き起こされる。近いぞ! もしロケット弾、戦車砲がこのビルに飛び込んできたら……。私の隣では兵士3人がすやすやと眠っている。こいつら、怖くないのか。よーこんな状態で寝てられるなーと感心するも、こちらは恐怖で寝られない。51歳で死ぬのは、まだ早すぎるなー、遺書を書いとかなあかんかな、妻と子ども、実家の両親は泣くだろうな、世間を騒がせるのはイヤだな、などの考えが頭をぐるぐる回っていく。

さらにドカーン、ドカーン。続けて4発入った。その後、タタタッタタ、と乾いた銃声。こちら側からも反撃しているようだ。さすがに兵士が起き出して、状況を確認している。
「当たれば仕方がないんだ。どうせなら即死の方がいいな」。轟音に慣れつつ、あきらめつつ、自分の人生、命って何だろうと考え始めたのが午前2時頃。するとあれほど入ってきたロケット攻撃がピタッとやんだ。そうか、相手側兵士も眠るんや。戦争とは日常生活の中の非日常。撃ち疲れて「今日はこれぐらいにしといたろ」みたいな感覚で日々を過ごしているのだ。

5時起床。起きたのは私だけで、兵士たちはすやすや眠っている。隠れ家の出入り口から思い切って外へ。大通りの向こう側に警備の兵士たちがお茶を飲んでいる。小走りに兵士たちのところへ。

兵士たちによると、昨晩聞いたあの爆音は、地対地ミサイル、イラン製のハウワーンというもので、一晩で22発撃ち込まれたという。そんな話をしていたら、「俺に付いて来い。爆撃の跡を見せてやる」。
兵士の後ろを付いて狭い路地を行く。大通りに面したところで兵士が立ち止まる。

「3、2、1、ゴー」

走り出す兵士の後をついて、大通りの景色を撮る。通りの中央分離帯のところに大穴。2日前の空爆によるものだ。モスク周囲の商店街が粉々になっている。大通りの対岸にも路地があって、そこに駆け込む。どうやら路地に入っていれば、撃たれることはないようだ。

ゴミ収集車も標的

最前線の防衛ラインへ。土のうが積まれ、兵士が銃を構えている。アサド軍支配地域とは約300㍍。

大通りを行くと、長蛇の列に出くわす。パンを買いに来た人々だ。戦争になり、パン屋が爆撃された。パンを待つ人々を撮る。ビデオカメラが珍しいのか、この虐殺に抗議するためか、たちまちカメラの前に黒山の人だかり。「アサドを倒せ!」と叫び出す。

ここはその後空爆され、パンを求めて列を作っていた人々40人が殺された。
パンの行列を後にさらに行くと、異様なにおいが鼻につき始める。生ゴミを街角で燃やしている。
「アサドはゴミ収集車を空爆した。町を不衛生にしようとしたんだ。伝染病を流行らせようとね」

ゴミの山の中で、金目のものを拾い集める少年2人を撮影していたら、ドーンという大きな爆音。近いな。

ゴミの山に別れを告げ、さらに進むと、もうもうと煙が立ちこめているのが見えてきた。さっきの爆音。あれはミグ戦闘機からの空爆で、なんと団地の方角から黒い煙。かなり大きな爆撃だ。おそらくあの一発で何十人と殺されただろう。あの団地に住んでいる人々が、すでに避難してくれていればいいのだが。

煙に向かって進むが、あの空爆の場所に近づきすぎるのは危険だ。まだ上空には戦闘機がいて、次の空爆を狙っている。

町の中心部にも大きな空爆跡。一昨日の空爆、一発の爆弾で70人が殺された。ビルの地下には大きな穴があき、その穴に水道水が溜って池になっている。住民たちが避難を始めている。軽トラックに家財道具を積む人々。トルコへ逃げる予定だ。

無事、元の隠れ家に戻る。午後2時頃、戦闘がピークに。あちこちでパンパンパンと銃撃戦の音がこだまする。シュルシュルシュルーと不気味な音がして、ドッカーンと爆音が続く。

午後5時。アレッポの町を出る。上空にはまだアサドのヘリがいる。この車が狙われるかどうか、「神のみぞ知る」。運を天にまかせて、ゴーストタウンとなったアレッポの町を突っ走る。アレッポの市街地を抜けるのに約30分。緊張の時間、ヘリからの銃撃はなかった。マーシャアッラー(神の祝福あれ)。

アレッポを無事抜けることができた。やがて日没。もう大丈夫だ。アナダンまであと2時間。あとはトルコとの国境を無事越えられるかどうかだけだ。(了)

Comments Closed