秘密保護法成立  体験者と「過去」に学ぶ(中)

立ちっぱなしで学生たちに訴える滝本さん

立ちっぱなしで学生たちに訴える滝本さん

国に騙された

偶然目にした新聞で理由を知った。大本営は日本の戦果を大きく報じる一方で、「我が方の損害は航空母艦一隻喪失、同一隻大破、巡洋艦一隻大破、未帰還飛行機三十五機」と過少報告していた。実際は空母4隻が撃沈され、搭載していた300機を超える戦闘機や爆撃機が次々に海に沈んだ。瀧本さんもそれを目の当たりにした。

大本営は全く信用できない。そう感じた瀧本さんだが「洗脳」は解け切らなかった。44年2月、トラック諸島に配属が決まると「今度こそ」と意気盛んだった。しかし現地に着くと、武器弾薬はもちろん食料もない。トラック島守備隊4万人のうち2万人以上が餓死したという。
「栄養失調で死んでいくときは骨と皮だけ、人間の姿ではありません。生き地獄です。朝になって隣で寝ている戦友が死んでいる。一日が終わると、『ああ、今日も生き延びた』と思う毎日でした。生き延びることだけが戦闘行為でした。この島で人知れず死んでいくことが国のためになるのか。ヤシの肥やしになるだけではないか。何のための戦争なのか。そして初めて国に騙されたと思い知ったのです」

瀧本さんは特定秘密法案にも触れながらこう説明した。

「親よりも先に子どもが死ぬ。それが戦争なんです。戦争になれば人の心が変わってしまう。息子が戦死した母親は泣くこともできなかった。『名誉の戦死をして帰ってきたのに涙を流すとは何事や。非国民が』と言われた時代でした。暗黒の社会でした。この法律ができたら戦前以上の暗黒の社会になります。外交、防衛、スパイ活動禁止、テロ活動禁止ともっともらしいことを言っていますが、それは建前です。本当の狙いは国民一人ひとりを監視することであり、思想や行動を制限することです。しかも反対する人間は力づくでも押さえつける、それが権力のやり方です」

真剣に聞き入る学生たちに向かって、瀧本さんは発破をかけた。「戦争の準備は国民の知らないところで着々と進んでいますよ。気がついたときにはもう遅い。沈黙は国を滅ぼす。なんで声を上げないのか、もっと怒らないのか、そんな社会に腹が立っている。このままでは安心して死ねないと思うとります」

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