阪神大震災19年「今年は成人式」息子に贈る絵本

阪神大震災から今年1月17日で19年。当時1歳6か月の長男を亡くした兵庫県西宮市の主婦、たかいちづさん(52)は、成人式を迎えるはずだった息子に二十歳のプレゼントをした。「優しいあかりにつつまれて」と題した絵本。東日本大震災で8か月の息子を津波に流された仙台市の竹沢さおりさん(38)との共作で、息子への思いと、いつもそばにいてくれる愛娘への感謝の気持ちをそれぞれの物語に込めた。(栗原佳子)

自費出版した絵本

自費出版した絵本

たかいさんは1993年7月、待望の赤ちゃんを授かった。結婚して7年半。男女の双子だった。長男のしょう君、長女のゆうちゃん。双子の子育てに悪戦苦闘しながらも幸せに包まれる日々。それを、あの激震が引き裂いた。

当時、暮らしていた山口県岩国市から、たかいさんの西宮の実家に里帰りしていた。夜はたかいさんを挟んで右隣にしょう君、左隣にゆうちゃん、川の字になって寝た。

大きな揺れ。うめき声で我に返り、すぐ手を伸ばした。しかし手に触れたのはタンス。その上には崩れ落ちた天井や梁も……。助け出され、病院にやっとたどりついたが、待っていたのは残酷な宣告だった。

助けることができず、たった一人で天国に旅立たせてしまった。守ってあげられなくてごめんね。なぜ自分は生き残ってしまったんだろう。ママが生きていてごめんねーー。

悲しみと自責の念と後悔に苛まされ、家に閉じこもって泣いてばかりいた。桜のつぼみが膨らむのも悲しみを倍加させた。息子が生きられなかった時間を思ってしまうため、娘の成長も素直に喜べなくなってしまった。

娘の存在が支えに

震災から4年後の99年、夫の転勤でふるさとに戻った。まちは復興に向けてゆっくりと進んでいたが、自分は悲しみから抜け出せないまま。そのギャップにも苦悩した。

震災から1カ月後のこと。ゆうちゃんは、しょう君の写真たてを抱きしめ離そうとしなかった。「死」の意味はわからないかもしれない。だが、おなかの中から一緒だった双子の不在を感じたのだろう。

「悲しみのあまり、そばにいる娘の心のことを考える余裕もなかった。毎日泣いていて、娘にとってはいままでの母親ではなくなってしまった。娘にすればきょうだいと母親をなくしたも同然だったと思います」とたかいさん。

ゆうちゃんはママを幼いなりに必死に慰めてくれた。「ママ、大丈夫。しょうちゃんは近くにいてくれるから」とヨシヨシしてくれたり、あるときは台所の片隅で泣いているところに「ハイ、どうぞ」と大きな大根を抱えてきたり。

3年目の1月17日、たかいさんはしょう君の名が刻まれた西宮市の震災記念碑公園「追悼之碑」へ。その名を見ているうち、はっとした。「娘の名前でもおかしくなかった」。ゆうちゃんは「生きていてくれた子ども」だったことに気がついたという。

震災から5年目の1月17日、たかいさんは、しょうくんの名を冠したブログを始めた。表面上は笑顔も戻っていても、実際は、傷ついたままの心の人たちがいることを知ってほしい、そう思ったからだ。言葉にすることは、たかいさんにとって、ぐちゃぐちゃになった心を少し整理することができる、意味のあることだった。

震災から10年。はじめて同窓会にも出席。たかいさんは一歩ずつ前を歩きはじめた。

「東日本」契機に

たかいさん(左)と竹沢さん。手前の写真は左から。しょう君、雅人君。

たかいさん(左)と竹沢さん。手前の写真は左から。しょう君、雅人君。

ところが2011年3月11日、東日本大震災が発生。衝撃的な映像に、ようやく出来はじめた「心のかさぶた」がひっぺがされた。「あの日」がフラッシュバックする。再び家から出られなくなった。そして、しばらくやめていたカウンセリングを再開した。

カウンセラーは、治療の一貫として「何か目標を持つこと」を勧めた。たかいさんが考えたのは、娘に晴れ着を用意するように、しょう君にも二十歳の贈り物をすること。「しょう君の生きた証し」として絵本作りを思い立った。

そのころだった。仙台市の竹沢さんが、たかいさんのブログに出会ったのは。竹沢さんは宮城県名取市閑上の実家が津波にのまれた。預けていた雅人君が両親と祖母と一緒に流された。雅人君と母はいまも行方不明のままだ。

どう生きていけばいいのか。子どもを亡くした親の手記をネットで探した。出会ったのがたかいさんのブログだった。

メールのやりとりから交流が始まった。名取市の慰霊祭へはたかいさんとゆうさんが参加。今年の1月17日は、たかいさんたちが毎年参加している神戸市・東遊園地の追悼行事に竹沢さん一家が訪れた。震災後、授かった雅人ちゃんの妹(1)も一緒だった。娘に雅人君のことをどう伝えたらいいか、考えあぐねていた竹沢さんに、たかいさんが「一緒に絵本を作りませんか」と背中を押したという。

伝えたい思い

絵本にはたかいさんの「二十歳になったあなたたちへ」、竹沢さんの「いっしょに」の二編を収録した。イラストは双子のイラストレーター、ひらたゆうこさん、ひさこさん。たかいさんは、ゆうさんの成長の軌跡をエピソードとともに綴った。かつて、きょうだいを亡くした子どものための本を探したが、なかなか見つからなかった。「絵本がその一助になれば」と願うからだ。

大学2回生になったゆうさんには、しょう君の記憶はない。少し前、ホームビデオに映る自分たちを母娘で見た。「会いたい」気持ちはより強まったという。成人記念の家族写真には、しょう君も一緒に収まった。家の仏壇には成人したしょう君のために、アルコール類も供えられている。

税別1600円。申込は「オフィス優しいあかり」のHPから。

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