◆2025年12月号(NO.242)の目次
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1面~4面 ミサイル拠点化 大分ルポ 「有事」部隊と弾薬庫増設(矢野宏、栗原佳子)
高市首相が「台湾有事」について存立危機事態になりうるとの認識を示した国会答弁が、日中間の新たな火種となった。タカ派の本性が露呈したとはいえ、台湾有事を想定した軍事的な準備を着々と行っているのが現実だ。沖縄・南西諸島へのミサイル基地化が完了し、九州や西日本でも戦争準備が進められている。ミサイル部隊配備や弾薬庫増設など、有事の最前線に変えられつつある大分県の現場を歩いた。
大阪から新幹線と特急ソニックを乗り継いで4時間あまり。11月半ばの日曜日。JR大分駅に降り立つと、「大分敷戸ミサイル弾薬庫問題を考える市民の会」(以下、市民の会)のメンバーの訴えが駅前広場に響いていた。
「自民党が少しずつ積み上げてきた戦争への道を一気に開こうとしています」「高市首相は、中国に対して宣戦布告に近いことをやってしまった」「国民を戦争の危険にさらすような首相はいりません。発言の撤回とともに、退陣してもらいましょう」−−−−。
高市発言の撤回と辞任を求めるアピール行動。抗議の意思表示をしようと、前日に決めたという。
問題の発端は7日の衆院予算委員会での質疑。立憲民主党の岡田克也氏に、台湾をめぐってどのような状況が日本にとって「存立危機事態」にあたるかを問われ、高市首相は「戦艦を使い、武力の行使も伴うのであれば、どう考えても存立危機事態になり得る」と答弁した。
存立危機事態は、2015年に安倍元首相が推し進めた安全保障関連法で新たに規定された。日本が直接攻撃を受けていなくても、密接な関係にある他国が攻撃された際に「日本の存立が脅かされ、国民の生命などに明白な危険がある」と政府が認定すれば、集団的自衛権の行使が可能となる。
中国側は猛反発。中国の薛剣(せつけん)駐大阪総領事がSNSで「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない」と投稿したことが、外交危機を一気に拡大させた(後に削除)。
高市首相はその後、「最悪のケースを想定した答弁」と釈明し、「従来の政府見解と変わらない」と軌道修正したが、発言は撤回していない。
中国は、日本の治安悪化を理由に渡航自粛を促し、日本への留学を慎重に計画するよう呼びかけた。大分市で12月6日に開かれる南京事件の証言集会も、遺族の来日が危ぶまれているという。
市民の会運営委員の池田年宏さん(60)はギターをかかえ、自作の歌を交えながら、道行く人たちに呼びかけた。
「政府はミサイル配備を抑止力強化による戦争防止のためと主張している。抑止力の考えは際限のない軍拡競争を繰り広げます。その結果、戦争の惨禍をもたらすことを歴史が教えている。近隣諸国に対して武力をもって威嚇することが抑止になるのか。相手もそれに対応して武装する。対話と協調、平和と友好こそが本当の抑止力です」
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5面 沖縄住民 参院会館でシンポ 「避難計画」募る不安(栗原佳子) ※全文紹介
南西諸島で加速度的に進む防衛力増強の政府方針に抗議し、11月14日、国会内で沖縄の住民らがシンポジウムを開いた。「沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック」などがつくる「琉球弧の戦場化を許さない実行委員会」の主催で、約230人が参加した。登壇したのは与那国島、石垣島、宮古島、沖縄本島の住民。戦争に巻き込まれかねない島々の現状や不安を説明、「沖縄だけの問題ではない。戦争を止めるために力を合わせよう」と訴えた。
政府は「防衛の空白地域を埋める」として「南西シフト」を進め、2016年に与那国島へ陸上自衛隊沿岸監視隊、19年に宮古島、奄美大島、23年に石垣島にミサイル部隊を配備した。22年末の安保3文書改定以降、さらに前のめりの増強が進み、3月には「台湾有事」を想定した「島外避難計画」が公表された。
国民保護法に基づく武力攻撃予測事態の想定の下、宮古・八重山諸島(先島諸島)の石垣、宮古島市、竹富、与那国町、多良間村の5市町村の住民ら約12万人を九州・山口の8県に避難させる内容だ。
宮古島で陸自ミサイル配備に反対する市民団体「てぃだぬふぁ島の子の平和な未来をつくる会」共同代表の楚南有香子さんは兼業農家。「ここを失う可能性があると考えながら暮らしている。畑仕事をしていても涙が出る時期があった」と吐露した。
石垣市議の内原英聡さんは避難計画について「なぜ先島だけなのか。台湾に近いからか。ミサイルやドローンの時代、沖縄だって東京だって一緒だ。沖縄県民146万人の9割が暮らし、米軍基地が集中する沖縄島は屋内避難。『先島限定戦争』を想定しているからか。それとも沖縄島は最初から見捨てる想定なのか」と指摘した。
昨年3月、陸自勝連分屯地にミサイル部隊が配備されたうるま市からは、「ミサイル配備から命を守るうるま市民の会共同代表」の照屋寛之さんが参加。「政府は沖縄を犠牲にしてでも安保を安定的に運営したいと考えている。先の大戦で大変な目に遭った沖縄を、また犠牲にするのか」と憤った。
与那国町議の小嶺博泉さんは畜産業を営む。08年、町議会が自衛隊誘致を決議した際、ただ一人反対し、苦境に立たされた。避難計画やミサイル基地計画が浮上する中、反対の意思を再び明らかにし、夏の町議選で議員に復帰した。「自衛隊で人口は増えたかもしれないが、労働力人口は減っている。住民サービスは低下し、来年は医師も島を離れる」と危機感を露わにした。
シンポに先立って政府交渉も行われた。住民側の追及に対し、防衛省の担当者が「皆さんは中国、中国というが、我々は特定の国に対抗するという立場をとっていない」と反論する一幕も。
内原市議が「防衛省の説明は、以前までなら理解できる。だが、首相答弁があった後では矛盾している。どちらが正しいのか」と問いただすと、担当者は「私の立場では総理の言葉がどうこうと責任を持って答えられない」と避けた。
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6面~7面 日鉄跡地に複合防衛拠点 呉の海自基地強化計画(湯谷邦彦)
穏やかな瀬戸内海の港湾都市・広島県呉市。戦前から「東洋一の軍港」として栄え、その中心だった「呉海軍工廠」は米軍の度重なる空襲を受けて壊滅した。跡地には戦後、日本製鉄瀬戸内製鉄所呉地区(日鉄呉)が操業したが、鉄鋼需要の低迷で2023年に事業停止。跡地130㌶を防衛省が一括購入し、「複合防衛拠点」を整備する案の検討が進んでいる。市は再び、国防という国策に翻弄されている。
呉は戦前から海軍の街として栄えてきた。1889年に全国の五つの海軍区の一つとして「呉鎮守府」が設置され、造船部が置かれた。日露戦争前年の1903年には「呉海軍造船廠」と兵器工場の「呉海軍造兵廠」が統合し、日本海軍最大級の呉海軍工廠が設立された。41年には、世界最大の戦艦「大和」が建造されるなど、最先端技術が集まる街だった。
呉海軍工廠で建造された艦艇は133隻。工員は1940年の時点で5万6650人と、人口は動員学徒を含めると、40万人を超えていたという。
太平洋戦争末期、呉への空襲は45年3月から14回行われ、苛烈を極めた。米空母艦上機を中心に軍港に停泊する艦船や軍事施設を狙ったもので、呉海軍工廠は徹底的に破壊された。
市街地も標的にされた。45年7月2日午前0時2分から2時間、B29爆撃機152機が1081㌧(16万454発)の焼夷弾を投下し、あっという間に炎に包まれた。犠牲になった市民は1800人以上。2万戸を超える家屋が全焼全壊し、12万5000人が家を失った。
戦後、呉海軍工廠の跡地に51年、日亜製鋼呉製鉄所が稼働。59年には日本鐵板と合併して日新製鋼となり、その後も吸収合併を繰り返し、日鉄呉が発足したのは2020年4月。ところが、造船や自動車向けの鉄鋼需要が低迷。2基ある高炉を21年9月までに休止し、製鉄所も23年9月末に全面的に停止すると表明した。
工場は今後、10年で100億円かけて解体される。工場閉鎖に伴い、協力会社を含め約3300人が職場を去ることになったという。
日鉄呉の跡地は130㌶。甲子園球場の34個分だ。
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8面~9面 N党の立花容疑者逮捕 死者の名誉毀損 踏み込む(粟野仁雄)
政治活動や言論の自由を盾にして傍若無人の限りを尽くす言動を重ねてきた男は自ら墓穴を掘りそうだ。
兵庫県警は11月9日、NHK党の立花孝志党首(58)を名誉毀損容疑で逮捕した。同容疑者のデマに呼応した人たちの脅迫などを苦に1月に自殺した竹内英明元兵庫県議(享年50)に対し昨年12月、大阪府泉大津市長選に立候補した演説で「警察の取り調べを受けているのは多分間違いない」と発言。竹内前県議が亡くなった翌日の1月19日にも自身のSNSで「明日逮捕される予定だったそうです」と発信し、虚偽発言やデマで名誉を傷つけたとされたことが直接容疑。
名誉毀損罪での逮捕はまれだが、容疑はこれにとどまりそうにない。
故人の名誉毀損は肉親しか告訴できないが、竹内氏の早大時代の先輩で9月に亡くなった石川知裕衆院議員らの励ましで6月に立花氏を告訴した妻は逮捕について、「不安もありましたが、ほっとしています。仏前で報告できたのは一つの区切り。死者の名誉の毀損とかなり踏み込んでくださった。これ以上の犠牲は生まれてほしくない」などとオンライン会見した。
立花容疑者は学歴詐称の騒動になった静岡県の伊東市長選に出馬を予定していたが、逮捕は出馬会見の前日だった。立花容疑者は兵庫県知事選後も南淡路市長選、千葉県知事選などに出馬したのはすべて「逮捕逃れ」と見られていたためだ。10月にはドバイに出張し、県警は「逃亡、証拠隠滅の恐れあり」とみた。
1月19日の「逮捕発言」を受けて当時の村井紀之・兵庫県警本部長は翌日の県議会委員会で「逮捕予定など事実無根で遺憾。明白な虚偽が拡散されている」と怒りを見せた。県警本部長による公の場でのこうした発言は異例中の異例。問題発言は「逮捕される」であり、県警も当事者だ。その事実がないことには県警も確信はあったはずだ。
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10面~11面 【連載】ヤマケンのどないなっとんねん 働いたら日本輝くのか(山本健治)
高市首相の支持率が高いことから早期解散、総選挙論が出ているようだが、やりたかったらやったらいい。パフォーマンスばかりで内実が伴っていないから思ったようにはならないだろう。
少し前、自衛隊の地方幹部たちが複数搭乗したヘリコプターが相次いで墜落、全員死亡したようにヘリコプターは危険で、テロでも一番狙われることから警戒が必要なことは危機管理の基本で、日米各々がヘリコプターを用意していた。にもかかわらず、高市首相はトランプ大統領に誘われるままアメリカのヘリコプターに乗り、下世話に言えばデレデレしていた。危機管理の原則を忘れた行動である。首相たるもの基本をしっかり守って決してこびへつらってはならない。
吉田茂以来、何人もの首相を見てきたが、独立、保守を叫ぶ首相ほどアメリカにこびへつらう姿を見てきた。岸、佐藤、中曽根、小泉、安倍らすべてがそうで、現憲法はアメリカ占領軍に押しつけられた憲法であり、一日も早く我々の手で自主憲法を制定しなければならないと叫びながら、アメリカに入ったとたんにこびへつらい、「ファーストネームで呼び合う仲になった」などと喜びながら言いなりになり、帰ってきたとたんに対等に話し合ってきたなどと言うのだからアホらしくて聞いておれなかったが、いま高市首相は保守の中でも、さらに保守である立場を自ら強調していながら、あのデレデレした姿だから情けなくなる。今後の日米関係が思いやられる。
テレビで派手に伝えられたように「私は働いて、働いて、働いて、働いて、働きます。ライフ・ワーク・バランスを捨てます」と、「働いて」を5回も繰り返した。初めての国会を前にして、朝の3時から勉強会を行い、これまた派手に報道され、「午前3時のヒロイン」などと呼ばれ、「ナポレオンの3時間睡眠」どころか、「サナエの2時間睡眠」伝説でもつくりたいのかと思いたくなる行動をした。
それならそれで貫徹すればいいのに、時間を遅らせたり、リモートに切り替えたりしているようだから、結局は報道を意識してのパフォーマンスでしかない。
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12面~13面 【連載】世界で平和を考える ルワンダ大虐殺から31年(西谷文和)
2011年11月、モンゴルを訪問した。日本ではまだ長袖シャツにブレザーくらいで過ごせていたが、首都ウランバートルではダウンジャケットが必須。街のメインストリートも市内を流れる川もすでに凍りついていて、顔の露出部分、耳や鼻が霜焼けになるような寒さだった。世界一寒い首都はモスクワやヘルシンキではなく、ここウランバートルなのだった。
逆に世界一暑い首都ではないかと思ったのが南スーダンのジュバ。赤道直下でナイル川流域の低地にあり、下手に外へ出たら頭クラクラ、すぐに汗が吹き出して、おまけに通訳の車に冷房なし。ずっとサウナの中で取材している気分だった。
南スーダンには自衛隊が5年間も派遣されていて、白ナイル川にかかる橋の建設とデコボコ道を整備して舗装道路を造っていたのだが、16年7月に政府軍と反政府軍が武力衝突。なんと自衛隊基地を挟んでの撃ち合いになった。その時の日報が隠されていて、情報公開請求で明らかになった資料によると、戦車砲が基地に飛び込んで隊員に負傷者が出ていた。南スーダンでの隊員死亡は2名だと言われているが死因は分かっていない。
ちなみにイラク戦争でもサマワの自衛隊基地に何発もの迫撃弾が飛び込んでいて、おそらくかなりの数の自衛隊員が死傷している。「日本は戦後80年、平和憲法に守られて誰も殺さなかったし、誰も殺されなかった」との言説は誤りで、正確には「数名の自衛隊員はすでに戦争で殺されてしまった」のが真実である。
18年2月、猛暑のジュバで宿泊したホテルのテレビから流れていたのが平昌冬季オリンピックだった。フィギアスケートの羽生結弦選手が華麗に舞っていたが、ジュバの人々は彼が何をしているのか、一体何の競技なのか分からないので全くの無関心であった。
南スーダンでの取材を終えてジュバから飛行機で約2時間、ルワンダの首都キガリ国際空港に降り立った。涼しい!キガリは標高1600㍍で気温は20度台、高原の爽やかな空気を吸い込み、生き返った、とホッとしたものだ。
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14面~15面 【連載】フクシマ後の原子力 揺らぐ二つの「三原則」(高橋宏)
私たちは戦後「最悪・最恐」の政権を生み出してしまったようだ。10月21日、自民党の高市早苗総裁が、第104代内閣総理大臣に選出された。公明党の連立離脱という痛手を受けた自民党は、日本維新の会と手を結ぶことで埋め合わせ、数的優位で高市内閣を発足させたのだった。
初の女性首相が誕生したことについては、それなりの評価をすべきであろう。毎年、世界146カ国のジェンダーギャップを公表している世界経済フォーラムの順位で、政治分野のランクアップには寄与するはずである。「外交での高いコミュニケーション能力」などと高市首相をもてはやすメディアや、「推し活」ならぬ「さな活」に熱心な人々を否定するつもりもない。
だが、そうした人気や期待から生み出された高い内閣支持率に乗じて、この政権が掲げる政策や方針が次々と実現されていくと考えただけでも背筋が冷たくなってしまう。高市首相が訴える「強い国家」というキーワード一つから、十分に予見できるはずだ。防衛関連予算を国内総生産(GDP)比2%まで増額する目標を、今年度に前倒しすることを早々に明言するなど、防衛力に前のめりの姿勢はそれを端的に表す一例であろう。
特に原子力政策をめぐって、日本維新の会との合意書にとんでもない記述があった。原発についての「電力需要の増大を踏まえ、安全性の確保を大前提に原子力発電所の再稼働を進める」は、想定内のものであった。問題は、外交安全保障についての記述で「長射程のミサイルを搭載し長距離・長期間の移動や潜航を可能とする次世代の動力を活用したVLS搭載潜水艦の保有についての政策を推進する」という項目があることだ。
「VLS」はミサイルの垂直発射システムのことで、「次世代の動力」とは原子力を指している。要は、日本が原子力潜水艦を保有するということだ。早くも小泉進次郎防衛相が、テレビ番組でトランプ米大統領による韓国の原潜建造承認に触れ「周りの国々は皆、原潜を持つ」と、導入の必要性に言及している。
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16面~18面 万博跡地活用マスタープラン 形の見えない「未来社会」(木下功)
2025年大阪・関西万博が閉幕し、万博跡地活用の議論が活発化している。閉幕1週間後の10月20日、まちづくりの方針である「夢洲第2期区域マスタープランVer・2・0」が公表された。6月に同案が示され、府民意見(パブリックコメント)の募集を経て策定されたものだ。パブリックコメントには、大屋根リングをそのまま残してほしいという要望が寄せられるとともに、マスタープラン自体の議論が不十分として新たな協議体の設置を求める意見、生物多様性を実感できる湿地の再現を望む声など、さまざまな提案が寄せられた。しかし、万博閉幕後の段階で、跡地活用の根幹部分が決まっていないこと自体が問題ではないか。「夢洲第2期区域マスタープランVer・2・0」とはどのようなものなのか。
マスタープランの対象となる万博跡地、夢洲第2区域は46㌶という広大な土地だ。大阪湾を埋め立てた約390㌶の人工島である夢洲の中央部に位置する。万博跡地北側の第1区域では、カジノを中心とする統合型リゾート施設(IR)の建設工事が進んでおり、計画では30年に開業する。
第2区域のまちづくりのコンセプトは「万博の理念を継承し、国際観光拠点形成を通じて『未来社会』を実現するまちづくり」。方針として「エンターテインメントシティの創造」「SDGs未来都市の実現」「最先端技術の実証・実践・実装」の3点を挙げている。
「エンターテインメントシティの創造」では、IRとの相乗効果を高めるエンターテインメント機能、レクリエーション機能、産業や人材育成機能の導入に加え、万博の理念を継承する最先端技術などを体感できる環境整備を行うとしている。
「SDGs未来都市の実現」はカーボンニュートラルや都市の自然生態系への環境対策によって目指すとし、「最先端技術の実証・実践・実装」は万博のテーマ「命輝く未来社会のデザイン」を継承し、万博で実施された最先端技術の実践・実装に向けて取り組むとしている。
土地利用は、万博跡地を大きく四つに区分する方針だ。
夢洲駅に最も近い「ゲートウェイゾーン」では、大阪が強みを持つ産業・研究の拠点機能や展示機能、万博を契機に創出される最先端技術やイノベーションに触れられる機能などを導入。
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19面 李香代さん訴訟 「犬笛ヘイト」認定(栗原佳子) ※全文紹介
大阪在住の在日コリアン3世、李香代(イ・ヒャンデ)さん(59)がSNSの投稿でヘイトスピーチを受けたとして、大阪・泉南市の添田詩織市議=自民=に対し550万円の損害賠償と投稿削除を求めた訴訟の判決が10月24日、大阪地裁であった。山本拓裁判長は「プライバシー権、肖像権、人格権を侵害する違法行為」と認定、市議に55万円の支払いと投稿の削除を命じた。公人がSNS上で支持者らをあおる「犬笛型ヘイト」の構造を初めて認めた。一方、差別的意図については踏み込まず、原告側は控訴した。
原告の李さんは大阪市のイベント制作会社「TryHard Japan」役員で大阪朝鮮高級学校のオモニ会元役員。添田市議は泉南市と業務委託契約を結んだ同社について、「中国系企業に多額の公金がダダ漏れしている」などと週刊誌などで批判、同社は昨年2月2日、添田市議に損害賠償と投稿の削除を求め提訴した。添田市議がⅩ(旧ツイッター)上で李さんに対する攻撃を始めたのはその日からだった。
投稿には、朝鮮学校への補助金復活を求めて街頭活動する李さんの写真を複数載せたり、「いとこは在日留学生捏造スパイ事件で死刑判決を受けた」などと書き込んだりした。李さんの従兄は韓国の軍事独裁政権に「北のスパイ」とでっち上げられ、長い獄中生活を強いられた李哲(イ・チョル)さん。再審で無罪が確定している。
判決は一連の投稿が、会社から提訴された「反感等に基づく可能性」があり、公益性がないと指摘。「朝鮮学校に関係している原告も北朝鮮による何らかの非合法活動に関与しているのではないかとの印象を抱かせる」などとして、「李さんの社会的信用を低下させ、名誉を棄損する」と判断した。
また、添田市議がSNS上で数万人のフォロワーを持つことに言及。一連の投稿は「一定の政治的思想を持つ者による個人攻撃を誘発する危険性を含む」と指摘した。
報告集会で弁護団は「市議という公人が一私人に行った名誉棄損、プライバシー侵害、肖像権侵害がいずれも認定された。『犬笛型ヘイト』の構造を認めたうえで、投稿の削除を命じた。政治家のSNS利用のあり方に警鐘を鳴らした点で画期的な意義がある」と判決を評価。李さんは、「声を上げ、社会に問いかけることが大事だと裁判を闘ってきた。これからも、おかしいことはおかしいと言いたい」と話した。
ただ、「添田市議の侵害行為は差別的意図を有する人種差別・民族差別である」という主張は認められなかった。
判決後、添田市議が公表したコメントには、反省や謝罪の言葉はなかった。李さん側は「再び同様の侵害が繰り返される懸念がある。ヘイトの認定をしなかったことが原因 で、司法が深刻な人種差別・民族差別に向き合えていない現状が示された」として、11月7日、大阪高裁に控訴した。裁判の究極の目的である「差別のない社会の実現」のため、不服部分の是正を求めていくという。
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20面 「城が燃えた」出版 旧国宝6天守が焼失(矢野宏) ※全文紹介
太平洋戦争末期、米軍による空襲で当時国宝だった六つの天守が焼失・倒壊した。城はどのような戦災を受けたのか。市民は炎に包まれた天守をどんな思いで見つめていたのか。空襲史料をひもとき、記憶をたどる「城が燃えた」を西日本出版社から上梓した。戦後、いずれも鉄筋コンクリートで外観復元された6城は戦禍の記憶を伝える「無言の証人」でもある。
1945年3月10日の東京大空襲を皮切りに始まった5大都市への無差別焼夷弾爆撃は、6月15日の第4次大阪大空襲をもって完了。米軍は次の攻撃目標を全国の中小都市と各地の軍需工場に移した。日本の40年の国勢調査の結果を参考にして人口の多い順に180都市を選び、1番目の東京市(当時)から180番目の熱海市までの攻撃リストを作っていた。
日本の近代都市のほとんどは、江戸時代に藩の政庁が置かれた城下町。その中心部には城があった。
最初に焼失したのは名古屋城天守。5月14日、名古屋上空に472機のB29爆撃機が来襲。2500㌧を超える焼夷弾が投下されて市街地は焼け野原となり、大天守も2時間余りで焼け落ちた。
6月29日未明には、岡山城天守が炎上した。外壁が黒塗りの下見板で覆われ、市民から「烏城(うじょう)」と呼ばれていたが、激しい炎に包まれた。
7月9日深夜からの和歌山大空襲で、御三家紀州徳川家の居城だった和歌山城天守が、29日深夜には岐阜県大垣市の空襲で大垣城天守が灰燼に帰した。
8月6日午前8時15分、原子爆弾が広島市にさく裂。広島城天守は炎上こそしなかったが、爆発直後の衝撃波と爆風を受けて天守台の上で崩落。敗戦1週間前の8日には、広島県福山市が空襲に見舞われ、五重五階の福山城天守が焼け落ちた。
いずれも旧国宝に指定され、終戦前の3カ月で失われた。
地方都市への空襲の惨状を語り継ぐため、焼けた六つの天守のほかに、市街地が空爆されながらも焼失を免れて天守が現存する姫路城、高知城、松山城。模擬天守ながら再建から90年を超えた大阪城の三代目天守も取り上げた。
また、旧国宝に指定され被災した徳島城の鷲の門、高松城の桜御門の戦後復興の歩みにも光を当てた。
西日本の12の都市で戦禍を生き抜いた体験者の記憶に耳を傾けるとともに、戦後、外観復元されて惨状を今に伝える「燃えた城」にも注目していただきたい。
定価1980円。ご希望の方は書店か、うずみ火事務所(送料込み2000円)でお買い求めください。
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21面 映画「よみがえる声」 「沈黙の記録」復元(栗原佳子)
在日朝鮮人2世の映画監督、朴壽南(パク・スナム)さん(90)と長女の朴麻衣さん(57)が共同制作したドキュメンタリー映画「よみがえる声」が全国公開されている。 壽南さんは58年に起きた小松川事件の少年死刑囚、李珍宇(イ・ジヌ)との往復書簡『罪と死と愛と』で注目された。60年代、長く顧みられずにいた朝鮮人被爆者を、広島や長崎で一人ひとり探し歩き、証言集も出版した。しかし、言葉にもできず身体を震わす姿に接し、「沈黙」を伝えようと映像に移行。4作のドキュメンタリー映画を発表した。
一方、自宅には40年間撮りためた未公開の16ミリフィルムが保管され、劣化の懸念があった。麻衣さんは約50時間分のうち10時間分をデジタル化し復元。病気で視力を失った母に伴走し、別に収録された音声テープを地道に映像と同期させていったという。
被爆者、長崎県の軍艦島(端島)や筑豊の炭鉱、沖縄の戦場などに強制連行された在日一世、日本軍「慰安婦」にされた女性たち。関東大震災の朝鮮人虐殺の事実も貴重な証言でよみがえらせた。
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21面 映画「はだしのゲンはまだ怒っている」(栗原佳子)
6歳で広島の原爆を体験した中沢啓治さんが、自身をモデルにした漫画「はだしのゲン」。その誕生から現在までを見つめるドキュメンタリー映画『はだしのゲンはまだ怒っている』が公開された。
連載開始から半世紀、「はだしのゲン」は25カ国で翻訳・出版される一方、広島市の平和教材から消えるなど、作品を巡る論議が絶えない。社会を揺り動かす、そのエネルギーの源は何か。込山正徳監督は、体験者ら、ゲンにまつわる人たちにインタビューを重ねた。
映画は、監督が昨年、「BS12トゥエルビ」で手掛けた45分の番組の劇場版だ。制作のきっかけは映画『オッペンハイマー』。広島・長崎の地獄絵図が描かれておらず、違和感を拭えなかった。対するゲンは、原爆を落とした米国に真正面から怒り続けている。
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22面 読者近況「歌とダンスで綴る30年」「田中正造研究50年誌」「長生炭鉱クラファン実施」(栗原佳子) ※全文紹介
歌とダンスで綴る30年
【兵庫】神戸市須磨区の井芹史見代さんが11月2日、同市垂水区で「フレンドリーなパーティー」と名付けたシャンソンと社交ダンスのランチショーを開いた。阪神・淡路大震災で被災した1995年にさかのぼり、30年の歩みを4部構成で振り返った。
井芹さんは1950年生まれ。震災翌年の96年1月24日、歯科医の夫を医療過誤で亡くした。20回目の結婚記念日だった。
高2と高3の娘を抱え、専業主婦からフルタイム勤務と生活は大きく変わった。夫はなぜ命を落とさねばならなかったのか。納得がいかず提訴。2000年12月、勝訴的和解した。
長女の勧めで始めた社交ダンスとシャンソンが、喪失、不安、絶望に押しつぶされそうな井芹さんを大きく支えた。03年にはその日々を綴った『天国へのダンスパーティー』も出版した。
ライブやコンテスト、地域や医療施設などでも歌声を披露してきた井芹さん。9年前の大腸がん手術も乗り越え、この日はプロのダンスインストラクターの長女夫妻らと華麗なダンスも披露し、温かい拍手に包まれていた。「社交ダンスと歌で感謝の気持ちをお届けしたかった。集大成のパーティーになりました。まだまだ頑張って歌って踊ります」 (栗原)
田中正造研究50年誌
【埼玉】足尾銅山鉱毒事件と被害者救済に奔走した田中正造研究の草分けで、2022年に50年の活動に幕を下ろした
「渡良瀬川研究会」が活動記録『渡良瀬研究会50年誌』を発行した。巻頭は『田中正造とその周辺』(随想舎)などの著書がある研究者で、顧問の赤上剛さん(84)=草加市=の「渡良瀬川研究会の研究成果と残された課題―五〇年の軌跡」。
渡良瀬川研究会は1973年発足。正造と足尾銅山鉱毒事件の研究を深め、思想と運動の継承を目的に、事件の舞台である渡良瀬川流域を拠点に、鉱毒シンポジウム、フィールドワーク、公開研究会を軸に活動した。正造の生家を守る運動や渡良瀬遊水地開発の反対運動などにも取り組み、最大400人超の会員を有したが、役員も高齢化。解散を決定し、半世紀の歩みをまとめることにしたという。
「在野の研究団体として、特定の事務所もない中、研究と直面する課題に立ち向かってきた歴史をお読みいただければ幸いです」と赤上さん。随想舎刊。税込み2200円。問い合わせは☎028(616)6605(同社)。 (栗原)
長生炭鉱クラファン実施
【山口】宇部市の宮本輝男さんが理事を務める「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」が来年2月の「長生炭鉱遺骨収容プロジェクト2026」に向け、クラウドファンディングへの協力を求めている。8月に初めて犠牲者の遺骨を収容。来年2月には世界各国の水中探検家が、確認された4体の完全収容と坑道内の全域調査と遺骨収容を目指す。
2100万円を目標に11月末まで実施。クラウドファンディング「For Good!」のページから。郵便振替01590・7・32405(長生炭鉱の「水非常」を歴史に刻む会)でも受け付ける。備考欄には「ピーヤカンパ」と明記を。
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23面 【連載】会えてよかった 比嘉博さん⑫(上田康平)
普天間基地爆音訴訟団
沖縄国際大学ヘリ墜落から20年を振り返るパネルディスカッションの後、ご挨拶させていただいたとき、比嘉博さんからいただいた名刺には第3次普天間米軍基地から爆音をなくす訴訟団副団長とあった。
今回の取材に比嘉さんは――
米軍機の危険性と爆音に晒されている。訴訟団に入るのは当然。入らない選択肢はなかった。
これから訴訟団ホームページや関係する資料、比嘉さんのお話で爆音訴訟について書いていきたい。
「静かな日々を返せ!」
平穏な生活・生命と健康・安全な教育環境のため、米軍機による爆音の差止めと賠償金を請求します。
このホームページ1頁の記述が原告団のみなさんの声である。
当たり前の生活をとりもどすため、爆音の差止めを求めている。賠償金が受け取れたらいいということではないという。また、普天間基地の移設は深刻な基地被害の県内たらい回 しと考えている。
米軍機の爆音と危険性
宜野湾市普天間飛行場返還アクションプロ グラム(2004年) によると――
普天間飛行場は(中略)近年は米軍ヘリ部隊が常駐し、学校、病院、保育所、教会などの住宅地上空で旋回飛行訓練を繰り返す米軍ヘリによる航空機騒音被害が著しく激化している。その上にジェット戦闘機も飛来するようになり、市民はさらなる爆音被害に晒されている。いまや普天間飛行場は最も危険な海兵隊航空基地として認識されるにいたっている。
私は住宅や学校などが近接する普天間飛行場にジェット機が離着陸するのは危険すぎて信じられないが、離着陸している。12年にはオスプレイも配備された。比嘉さんは老朽化したヘリの危険性を指摘される。
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24面 【連載】日本映画興亡史 娼婦と逃げた脚本家(三谷俊之)
太平洋戦争におけるフィリピンでの日本人戦死者は約50万人。単一の戦域としての死者は中国を超えている。激戦地であったルソン島北部の山岳地帯イフガオ州キアンガンの、緑したたるジャングルにも、今も置き去りにされた多くの遺骨が残る。その密林のどこかに、脚本家・山上伊太郎の遺骨も眠っている。
山上は時代劇映画史上の傑作といわれる、マキノ正博(後に雅弘)監督の『浪人街』3部作の脚本家として映画史に名を残す。1903(明治36)年8月、京都五花街の一つ、宮川町の米屋・山上伊三郎を父として生まれる。生い立ちは複雑だった。父と再婚したエイにはタミ(当時26歳)という連れ子がいた。山上は父とタミとの子だった。その関係を知ってエイは家を出た。1年後に父が亡くなった。自殺という説もある。タミ母子は実弟(エイの前夫との子)の家で暮らすようになった。だが、タミはまともに仕事もしないため、追い出されてしまう。母子は大津に暮らし、山上は小学校卒業後、滋賀県庁の給仕となった。
23(大正12)年、山上20歳の時、東亜キネマの脚本部研究生となる。26年、仁科熊彦監督の『帰ってきた英雄』で脚本家デビュー。マキノ・プロダクションに移籍して書いた『闇乃森』が、マキノ省三に認められ、映画化された。27(昭和2)年、山上のオリジナル脚本による『浪人街』を、マキノ正博監督で制作。『キネマ旬報』誌ベストワンになった。監督、20歳。脚本の山上23歳。カメラ(三木稔)25歳。若い彼らを組ませたのは省三である。正博がいう。
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25面 【連載】坂崎優子がつぶやく 国際競争力とデジタル化
昨年、近所のラーメン店が閉店しました。張り紙には「人手不足のためやむなく閉店します」と書かれていました。従業員が確保できず店を閉めるところは増えています。
日経新聞と日本総合研究所は、2024年の人手不足による機会損失を16兆円と試算しています。高市首相は「ワーク・ライフ・バランスという言葉を捨てる」と語り、現行の労働時間規制の緩和も検討する動きをみせています。人手が必要な業種で業績を伸ばす企業は事業を効率化し、従業員が働きやすい環境を整えることに力を入れています。首相が示す方向性には疑問しかありません。
25年の「世界競争力ランキング」。日本は35位です。このランキングは人口が多い国は不利になるとはいえ、GDPの上位国は10位台に位置しています。日本はGDPも落ちてきて、26年には5位になりますが、一応トップ5に入っています。にもかかわらず競争力がなぜこれほど低いのかを考える必要があります。 「世界競争力ランキング」の主な要素は「経済パフォーマンス」「政府の効率性」「ビジネスの効率性」「インフラ」の四つです。この中で足を引っ張っているのが「政府の効率性38位」と「ビジネスの効率性51位」です。競争力の低下は生活水準の低下につながるので、結果は現状を表しています。
日本の99・7%は中小企業で、そのIT化は遅れています。新しい技術である生成AIも、専門の人材が不足していて、ビジネスでどう生かせばいいのかがわからないという声が多く出ています。先日、某シンクタンクの企業向けセミナーに参加しました。「今の生成AIという新しい技術に乗り遅れると、もう世界には追いつけなくなる」と強く訴えていたのが印象的でした。
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26面~29面 読者からのお手紙&メール(文責 矢野宏)
食糧自給率アップ
なんで目指さない
浜松市 粟野春之
私が住んでいる周りは畑ばかりです。そのほとんどは農業団体が借りているか、「売土地」の看板が立てられています。私の土地に隣接している畑も貸し出されており、一昨年、キャベツが栽培されました。肥料を大量にまき、農薬を繰り返し散布して順調に生育しましたが、誰も収穫に来ません。トラクターが来たかと思うと、全部つぶしてしまいました。
この団体は他にも畑をたくさん借りてキャベツを栽培していたので、数千個、あるいは数万個が土に返ってしまいました。伝え聞くところでは、収穫期にインドネシア人作業員を確保できず、キャベツが大きくなり過ぎて出荷用ダンボール箱に収まらなくなったために廃棄したそうです。日本人だけでなく外国人作業員を確保することも難しい現状なのです。
昨年は冬野菜が不作で、白菜やキャベツが信じられないほどの高価でした。今年は米価が昨年の2倍以上で推移するなど、日本の農業は供給が不安定です。食料自給率を大幅に上げる必要がありますが、20年前より低下しています。そこで期待したいのが「食料安全保障」です。
米価を例にあげます。主食である米の安定供給は大事なことですが、鈴木農水大臣は「さらなる減反推進」「価格は市場に任せる」「消費者にはお米券配布」などと言っています。これでは米は品薄になり、価格が高騰して庶民はますます購入できなくなります。食料安全保障とは真逆です。高市内閣が手本としている時代がわかった気がします。当時の大蔵大臣(のちに首相)は国民に言いました。「貧乏人は麦を食え」と。
その高市首相から歯の浮くようなせりふをよく聞きます。「世界の真ん中で咲き誇る日本」。私には、日本人を不幸にする呪いの言葉に思えてなりません。欧米から見れば、日本は極東、辺境の地。経済は30年も停滞しています。安倍元首相がアベノミクスで円安を誘導し、円の価値を低下させた結果、GDPは世界4位へ転落しました。咲き誇るという表現は全く的外れです。むしろ、枯れかけているという方が近いのではないでしょうか。
首相がこんな大嘘を語るのはなぜか。太平洋戦争時の大本営発表が連想されます。ということは、日本経済の破綻が近いということでしょうか。それを思うとゾッとします。軽薄な広告代理店が考えたできの悪いキャッチコピーであってくれればいいのですが……。
(鈴木農相は事実上、石破政権下で決まった米の増産方針を撤回しました。今回の米不足は長年生産を抑えすぎてきた上に、猛暑が重なったため。失敗をまた繰り返すのか、はたまたアメリカからの輸入米に頼ればいいというのか。米農家はますます衰退していくことでしょう)
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27面 【連載】車いすから思うこと 段差は今もあるけれど(佐藤京子)
車イスドライバーとしての生活も随分と長くなった。何と30年を超えた。その間、いろいろなことと闘ってきた。思い返すと、忘れられないことも多々ある。つらいこともあったが、少しずつ忘れている。記憶とはけっこういい加減で、忘れてしまう機能があるようだ。そうでなければ、正常な気持ちを失ってしまうからだろう。
車イスで街を移動する際に最も感じるのは、社会のバリアフリーとユニバーサルデザインの進展と課題だ。段差の解消やスロープの設置、エレベーターの増設など、年々環境は改善されているものの、まだまだ「ちょっとした段差」に苦労する場面が多くある。
例えば、駅の改札や飲食店の入り口、公共施設のトイレなどに障壁がある。事前に目的地の情報を調べることが日課となり、時には周囲に助けを求めることもある。
最初は「迷惑をかけてはいけない」と考えていた。車の運転を再開してからは、移動の自由が格段に増した。運転席に自力で移り、車イスを折りたたんでリフトで収納する一連の動作は、慣れるまで時間がかかった。しかし、どこへでも自分の意思で行けるようになったことで、自信と誇りを持てるようになった。新しい景色や人と出会い、車イスでも「できること」は無限に広がっていると実感している。
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28面 【連載】絵本の扉「ぼくはへいたろう」(遠田博美)
古今東西を問わず、人間は目に見えない実体のないものに興味が湧くものです。科学の進歩が著しい21世紀の現在でも、子どもたちは「ゲゲゲの鬼太郎」が大好きだし、「学校の怪談」や「都市伝説」は、内容が変化しつつも人気が衰えることはありません。江戸時代から広島県三次市に伝わる「稲生物怪録」という妖怪物語を絵本にしたお話を今回は紹介します。
表紙は、りりしい顔立ちの少年がひざまずいて刀の柄にいるカエルを見つめる絵です。背景には柳が描かれ、見開きには1カ月の月の満ち欠けが……。スタートから謎を投げかけているようです。
昔々、へいたろうという子どものさむらいがいました。ある日のこと、友達から「ひぐまやまに化け物が住んでいる噂なので肝試しに行けるか?」と問われます。へいたろうは、平気な顔で暗い山道をすたすたと進んでいきます。山道を行く描写は、山の木々の様子が妖しげに描かれています。絵を描いたのは、宇野亜喜良さん。ポップでなまめかしいイラストでお馴染みの方です。彼が描くとすべてが妖しく無気味に見えるのが最初の場面から伝わってきます。
さて、へいたろうは、山頂に到着しても怖がることなくお札を置いて下山します。しかし、この日から毎日、妖しく恐ろしいことが彼に襲いかかります。家の壁や柱が揺れ、障子の向こうが火事のように赤くなります。しかし、家の中は静まり返ったままです。 次の日は、鼻紙がチョウのように部屋を飛び回ります。その次の日は部屋の中に水があふれて溺れそうになりますが、「きっとこれは肝試しの際に付いてきた化け物のせいだ」と思うとスッと消え、全く濡れていません。
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30面 空襲証言DVD「パンプキン」完成 ピースおおさかに寄贈(矢野宏) ※全文紹介
新聞うずみ火がクラウドファンディングに挑戦し、制作に取り組んでいた空襲証言DVD「パンプキン爆弾を知っていますか」が完成し、11月11日にピースおおさかの森久子館長に手渡した。森館長は「小中高校に貸し出し、平和学習に役立ててもらいます」と話した。
パンプキン爆弾とは、原子爆弾の投下訓練用に開発・製造された4・5㌧爆弾。長崎で使用された「ファットマン」とほぼ同形で、中には核物質ではなく通常の爆薬が詰められていた。黄色に塗られ、でっぷりした外形から「パンプキン」(かぼちゃ)と呼ばれた。
パンプキン爆弾が大阪市東住吉区田辺に投下されたのは1945年7月26日。完成した証言DVD(約20分)は、町工場に動員学徒を引率し、作業部屋の隣の部屋に移動して九死に一生を得た龍野繁子さん(100)の体験を中心に展開している。
「7・26田辺の模擬原爆追悼式」実行委員会の吉村直樹さん、児童書「パンプキン!」作者の令丈ヒロ子さん、神戸にも投下されたパンプキン爆弾の調査を続ける神戸大大学院生の西岡孔貴さんの証言を盛り込んでいる。
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30面 編集後記 ※全文紹介
新聞うずみ火創刊20周年を迎え、11月1日にPLP会館で開かれた読者との祝う集い。執筆陣も駆けつけてくれ、心温まる励ましの言葉をいただきました。ありがとうございました。発刊は2005年秋、小泉政権による「郵政選挙」で自民党が300近い議席を取り、憲法が改悪されるとの危機感から。おかげさまで、今では北は北海道から南は西表島まで2000人を超える読者がこの小さな新聞を待ってくれています▼創刊20年を迎えた節目の年に誕生した高市政権。維新との連立もあり、最悪の政権となりそうです。早速、「台湾有事」について存立危機事態になりうると発言。日中関係は急速に冷え込みました。高市首相に撤回する気はないようで、改善の兆しはまったく見えません▼「高市発言は中国に対する宣戦布告と同じだ」との批判も飛び出しましたが、中国側の不信感や怒りはそれだけではないようです。南西諸島をはじめ、九州や西日本では台湾有事を想定した戦争準備が着々と進められています。大軍拡に私たちの税金が使われ、私たちの命が脅かされるなんて、こんなバカな話はありません▼祝園で、南西諸島で、そして大分で、政府が進める軍事要塞化に抗う人たちと出会い、勇気をもらいました。一人ひとりの力は小さいけれど、それぞれの胸にともる「埋火」がさらに燎原の火となると信じ、これからも一号一号積み重ねていきます。さあ、21年目に突入です。
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31面 うもれ火日誌(文責 矢野宏)
10月12日(日)
矢野 午後、「大阪人権シネマ」を主宰する佐野哲郎さん宅の「集い処ATIUS」で露の新治さんの人権落語を聞く。懇親会前に読者の訃報が入り、事務所へ戻る。
栗原 午後、大阪市内で開かれた「リブ・イン・ピース☆9+25」主催「大分敷戸ミサイル弾薬庫問題を考える市民の会」事務局次長の葛城知明さんの講演会を取材。
13日(月・祝)
矢野、栗原 午前、大阪・扇町公園で開かれた「団結まつり」で、「京都・祝園ミサイル弾薬庫問題を考える住民ネットワーク」(祝園ネット)共同代表の呉羽真弓さん、「戦争止めよう!沖縄・西日本ネットワーク」運営委員の池田年宏さんらに話を聞く。
14日(火)
矢野 夜、吹田市内で営まれた小泉雄一さん(享年74)の通夜に参列。2年前の10月にすい臓がんが見つかった時、余命宣告を受けていた。8月19日に抗がん剤治療を断念したとのメールを受け取っていた。「副作用で悶々とした日々を過ごすより、動ける状態で充実した毎日を送ることを選択しました。残された生命の時間が確実に短くなることを覚悟しながら、最期まで自分らしく生きたいと思います」
16日(木)
矢野、栗原 午後、京都市精華町へ。陸上自衛隊祝園分屯地で全国に先駆けて弾薬庫の増設工事が始まり、19日の全国集会への参加を呼びかける祝園ネットの活動を取材。
17日(金)
午後、石田冨美枝さんが新聞折込チラシのセット作業。夜、大阪大招へい教授の木戸衛一さん、関西学院大教授の中川慎二さんが来社。
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32面 大阪忘年会、東京忘年会、埼玉忘年会のお知らせ(矢野宏) ※全文紹介
大阪忘年会は12月6日(土)午後6時~淀川区宮原の韓国料理店「セント」(地下鉄御堂筋線「東三国駅」から徒歩3分)で開きます。会費は5000円(予定)。新聞うずみ火創刊20周年を写真で振り返るスライドショー(角家年治さん作成)も。
東京忘年会は13日(土)午後5時半~新宿2丁目の中華料理店「隨園別館・新宿店」(都営線「新宿3丁目駅」C4出口から徒歩3分)。二次会は近くの沖縄料理店「海森2号店」(03・3355・5183)で午後8時半から開く予定です。
翌14日(日)は埼玉忘年会。午前11時に西武新宿線「新所沢駅西口に集合。会場は歩いて5分ほどの「トラットリア・デルフィーノ」で開催します。要予約で、申し込みは幹事の根橋さん(090・9245・0531)まで。会費は4000円です
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32面 うずみ火講座 1月講演「空襲と城」 3月水野晶子さん朗読会(矢野宏) ※全文紹介
2026年1月10日(土)午後2時半~大阪市北区のPLP会館で、矢野が「城と空襲」(西日本出版社)出版した記念の講演会を開きます。
太平洋戦争開戦までに現存した天守は20城を数えましたが、空襲で六つの国宝天守が焼失・倒壊しました。
城を通して地方都市を襲った空襲の惨状について紹介します。
会場まではJR環状線天満駅から南へ徒歩5分。地下鉄扇町公園駅から南東へ徒歩4分。参加費は1000円。オンライン視聴600円。
うずみ火20周年コラボイベントとして、フリーアナウンサー水野晶子さんによる朗読会を3月1日(日)午後2時~大阪駅前第3ビル地下2階の「RHYコンサートサロン 大阪梅田」で開きます。
ピアノ演奏付きの朗読で、1部は「田辺聖子 18歳の戦中日記」、2部は「天気予報と戦争~気象学者・増田善信さんの遺言」です。
参加費2000円。定員60人で、うずみ火事務所までお申し込みください。
【新刊本】「城が燃えた—太平洋戦争 西日本大空襲」
太平洋戦争末期、米軍による空襲で当時国宝だった六つの天守が焼失・倒壊した。城はどのような戦災を受けたのか。市民…
【空襲証言DVD】「パンプキン爆弾を知っていますか」完成 ピースおおさかに寄贈
新聞うずみ火がクラウドファンディングに挑戦し、制作に取り組んでいた空襲証言DVD「パンプキン爆弾を知っています…
【忘年会】12月6日(土)大阪、12月13日(土)東京、12月14日(日)埼玉で
大阪忘年会は12月6日(土)午後6時~淀川区宮原の韓国料理店「セント」(地下鉄御堂筋線「東三国駅」から徒歩3分…
【うずみ火講座】1月10日(土)「空襲と城」
2026年1月10日(土)午後2時半~大阪市北区のPLP会館で、矢野が「城と空襲」(西日本出版社)出版した記念…
【うずみ火20周年コラボイベント】3月1日(日)水野晶子さん朗読会
うずみ火20周年コラボイベントとして、フリーアナウンサー水野晶子さんによる朗読会を3月1日(日)午後2時~大阪…
【編集長の決意】創刊20周年を迎えて
新聞うずみ火創刊20周年を迎え、11月1日にPLP会館で開かれた読者との祝う集い。執筆陣も駆けつけてくれ、心温…


