私はジャーナリズムの世界とは関係なく今まで生きてきました。それが、ジャーナリストである父・むのたけじが年老いて面倒を看るようになったとき、父からの一言が状況を変えたように思います。今のジャーナリズムの有様を見て、「たいまつ新聞」を何号か発行して、新聞の本来の姿を示してから死にたいから手伝ってくれと。
 

私はこの父からの申し出を断りましたが、このことがあったから、今事務局を束ねている武内暁さんから「むのたけじ地域・民衆ジャーナリズム賞」の創設の話を頂いたとき、お手伝いすることになったように思います。もし父が目指しているような報道をしている人や団体が見つかったら、それを励ますことで、埋め合わせが出来るのではないかと考えたからです。


 

それで、父が「たいまつ」をふたたび掲げて、やりたかった思いは何かを思い出そうとしました。私は断ったこともあって、ハッキリとした言葉で聞いていないので、父の話の断片からの想像です。

 

新聞は読者とのつながりが大切だとたびたび言っていたから、そのことがポイントの一つでしょう。だからといって、読者に媚びることではないことも加えていました。徹底的に読者のことを考えて伝えること。そういう姿勢で報道していると、時には読者を叱ることもあるのではないか、と。
 

実際に応募作品を拝見していると、父の思いと同じくする作品に出合うことがあります。受賞作は事務局スタッフの一次選考を経て、共同代表の激しい議論をして選ばれるのですが、地域と読者との結び付きがより強いものが最後まで残っているように見えます。
 

現代社会は、インターネットが発達して、だれもが容易にソーシャルネットワークサービス(SNS)を利用して、自分の意見を発することができます。もちろん、個人が自分の意見を言うことは大切なことです。しかし、それだけでは社会としてまとまることができない。地域住民の声を客観的に見る存在が必要で、そこに地域紙の存在意義があるのではないか。
 

この点で、この第3回むの賞は、書き手と読み手の合作の色彩がとりわけ強いものが選ばれたように思います。大賞の「新聞うずみ火」は、新聞発行の他に茶話会などを催したり、読書欄にコメントを付けたりして読者とのつながりを深めています。同人誌「季刊しずく」、子ども問題研究会ミニコミ紙「ゆきわたり」、在日総合誌「抗路」など優秀賞の作品も、自分たちが抱える共通の問題をともに解決しようとして、深い結びつきが見られます。


 

ポストコロナ時代のジャーナリズムは事実を伝えるだけでなく、社会問題をともに解決しようとする思いも含まれる必要がある。コロナ禍を克服するためにも。(むのたけじさんの次男)