第3回「むのたけじ地域民衆ジャーナリズム賞」選考委員の一人として、大賞受賞お喜び申し上げます。反戦平和を訴え続けたむのさんの魂が黒田清さんへ、そして矢野宏さんと栗原佳子さんに継承された思いがしました。
心揺さぶられたのは、大阪都構想に関連した記事でした。大阪のメディアは一部を除き維新一色に染め上げられています。私は大阪で生まれ育ちました。友人のなかにも、都構想は地盤沈下するこの街を元気にすると錯覚する人が少なくありません。ムードをあおる維新に対して、「うずみ火」が敢然とウソを暴き警鐘を鳴らすことに大きな意味があります。公務員をたたき、教育・医療・福祉を破壊したことがコロナ禍の土壌をつくったとも言われます。ファクトが尊重される社会のために、「うずみ火」の存在感は一層高まっています。
いま私が力を注いでいるのが、2年前の「あいちトリエンナーレ・表現の不自由展」の続編の展示です。「慰安婦」をあらわす平和の少女像や、昭和天皇の写真が燃えることで論議を呼びました。私はタブーに挑戦する作家や作品に敬意を抱き、多くの人に見てもらいたいと願ってきました。しかし東京展は、度重なる街宣車の攻撃にさらされ、会場変更を余儀なくされました。
あいちの際は、電凸(電話での嫌がらせ)や、脅迫が繰り返され、わずか3日で中止に追い込まれました。その後多くの方の努力のおかげで再開されましたが、さまざまな傷が残りました。
今回の攻撃はあらかじめ予想されたことで、自業自得だと言う人がいます。でもそれは違います。憲法21条「言論・表現の自由」を脅かす重大な問題です。くじけるわけにはいきません。
私の母は広島の爆心800㍍で原爆に遭いました。占領下で原爆を伝えることを禁じた「検閲」(プレスコード)の研究者・堀場清子さんは著作『禁じられた原爆体験』の中でこう語っています。
「なぜ私たちの文化は言論の自由について、かくもこだわらないのであろう。正確さと執念のないところに、伝説が流通し、すでに過去に属する危険についてならば、強調によってとかく、武勇伝的色彩も加わる。私たちがこれから言論の自由を守ってゆくための防塁としては、砂よりも、砂糖よりも、脆いだろう。しかも日常的な、地味な闘いの積み重ねを軽視させる作用によって、害毒をさえ流すだろう」
言論・表現をめぐる地味な闘い。「うずみ火」もまさにそのただ中で闘っておられると思います。
永田さんの略歴 1954年大阪生まれ。77年NHK入社。ドキュメンタリー・教養・情報番組を制作。著書に『NHKと政治権力』『ヒロシマを伝える』『奄美の奇跡』など多数。現在、武蔵大教授。表現の不自由展実行委員。監督として、映画『命かじり』『闇に消されてなるものか』を制作中。