新聞うずみ火 最新号

2024年1月号(No.219)

  • 1面~3面 「要塞化」進む宮古島 戦争の「足音」が「姿」に(矢野宏、栗原佳子)

    戦後の安全保障政策を大きく転換した安保関連3文書が閣議決定されて12月16日でまる1年。軍備拡張の波は特に沖縄や奄美の島々に押し寄せている。12月半ば、「戦争の足音が聞こえる」どころか、「戦争の姿が見えてきた」という厳しい現実に直面する宮古島(沖縄県宮古島市)で取材した。

    クリーム色の外壁に沖縄の赤瓦をのせた新しい中層の集合住宅。遊具も並び、子どもたちの姿もある。宮古島駐屯地の隊舎が並ぶエリア。畑や民家がへばりつくようなフェンス沿いの道を行くと、弾薬庫やおびただしい車両があらわれる。発射台を搭載した地対艦、地対空ミサイル車両が目と鼻の先だ。
     
    敷地約22㌶。宮古島駐屯地は島中央部のゴルフ場「千代田カントリークラブ(CC)」跡地に2019年3月、開設された。警備隊が先行配備され、地対艦、地対空ミサイル部隊とあわせ約700人体制になった。いまも敷地内では、半地下構造とみられる大型建物の「倉庫」の工事が行われ、ヘリパッドにもなるグラウンドの整備も始まっていた。
     
    「来年度末までに隣接した場所に電子戦部隊を追加配備するといわれています。通信やレーダーの妨害を行うサイバー部隊ですが、宮古島市も何も知らされていませんでした。私たちは、住民説明会を開くよう何度も求めていますが、防衛省は聞く耳を持ちません。防衛省の資料では今後、レンジャー訓練の施設もつくると見られています」と清水早子さんがいう。「ミサイル基地いらない宮古島住民連絡会」の共同代表だ。
     
    国は10年、「防衛の空白地域」を埋めるとして南西諸島への防衛力強化を打ち出した。与那国島に16年、陸自沿岸監視隊を編制したのを皮切りに、19年に宮古島、奄美大島、そして23年3月、石垣島に陸自ミサイル部隊を配備した。特に、宮古島は宮古海峡があり、中国をけん制するために戦略上重要とされる。
     
    防衛省が宮古島に配備を正式に打診したのは15年。ゴルフ場「千代田CC」と北部の大福牧場周辺を候補地に挙げた。しかし、宮古島はサンゴ礁が隆起した島で、飲料水など全てを地下水でまかなう。市審議会が牧場の地下水源汚染の可能性を指摘し、市民は猛反発。千代田CCに駐屯地、その後、東部の保良(ぼら)地区への弾薬庫建設が決まった。配備を受け入れた当時の下地敏彦市長は千代田CCを事前に防衛省に売り込んでおり、駐屯地開設後の21年、贈収賄事件で逮捕された。
    ……

  • 4面~5面 安倍派「崩壊の始まり」 自民党派閥に強制捜査(矢野宏)

    年の瀬迫る永田町に激震が走った。自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金疑惑で、東京地検特捜部は12月19日、安倍派と二階派の事務所の家宅捜索に踏み切った。政治資金規正法の「抜け穴」を利用した組織的な裏金作りは強制捜査に発展した。政権を支えてきた安倍派はどうなるのか。岸田首相は退陣に追い込まれるのか。長年、政界を取材している時事通信社解説委員の山田惠資さん(65)に今後の見通しを聞いた。
     
    政治資金規正法違反(不記載)の疑いで強制捜査のメスが入った安倍派と二階派は、政治資金集めのためにパーティー券の販売を所属議員に課していた。ノルマ以上に議員が集めたパーティー券の収入は派閥の政治資金収支報告書に記載せず、派閥幹部を中心とする議員側にキックバックしていた。
     
    特に安倍派は、還流分を支出として収支報告書に記載しておらず、裏金化していた。受け取った議員側も収入として不記載。組織的な裏金作りが長年続いたとされる。
     
    これまでの報道によると、安倍派の裏金は2018~22年の5年間で5億円に上る可能性があり、二階派の不記載も1億円を超えるという。
     
    特捜部はいずれも悪質性が高いと判断。派閥の会計責任者や事務担当者に任意聴取を重ねてきたが、今回捜索に踏み切った。裏金が政治活動とは無関係に使われていれば、脱税に問われる可能性もある。いつから、誰が始めたのか、指揮系統の解明に乗り出すとみられる。
     
    岸田首相は国会閉会直後、疑惑の渦中にある安倍派の大臣と副大臣を事実上更迭したが、二階派所属の小泉龍司法相と自見英子万博担当相の進退について、続投させる意向を示した。人事の整合性が問われるだけでなく、捜索を受けた派閥に所属する議員が検察を所管する法相に留まることを疑問視する声に抗しきれなくなったのだろう。小泉法相は二階派を離脱した。
     
    今後の捜査の焦点は、実務を取り仕切った歴代の事務総長やキックバックを受けた所属議員を罪に問えるかどうか。
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  • 6面~7面 ドイツと「イスラエルの安全」 ナチスの過去 ガザア攻撃支持(矢野宏)

    イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへ攻撃が苛烈を極めている。ガザ側の死者は2万人を超え、その多くが民間人だ。国際社会の批判が強まるなか、ドイツ政府はイスラエル寄りの姿勢を貫いている。ナチスによるユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)の罪悪感から批判を制限していると言われるが、ドイツ近現代政治が専門で元大阪大教授の木戸衛一さん(66)は「ホロコーストの歴史的責任は、パレスチナ人を大量虐殺するイスラエル政府と連帯することなのか」と疑問を投げかける。
     
    ガザを実効支配するイスラム組織ハマスがイスラエルに越境攻撃を行った5日後の10月12日、ドイツのショルツ首相は所信表明で「イスラエルの安全はドイツの国是」と述べ、17日には軍事衝突開始後、G7首脳として最初にイスラエルを訪問。ネタニヤフ首相との共同会見でも、ショルツ首相は「国是」を強調し、「ドイツの歴史とホロコーストから生じた我々の責任により、イスラエルの国家の存立と安全のために立ち上がることが我々の使命だ」と宣言した。

    木戸さんは「2008年3月に当時のメルケル首相がイスラエル国会で『イスラエルの安全への特別な歴史的責任は私の国の国是』と述べたことに由来している」と指摘する。
     
    ユダヤ人が自らの国家樹立を目指す「シオニズム」によってユダヤ人難民問題を解決したい欧米が画策したのが1948年のイスラエル建国だった。いわば、ヨーロッパが生み出したユダヤ人に対する嫌悪や偏見を意味する「反ユダヤ主義」の矛盾をパレスチナに押し付け、その後も向き合おうともしなかった。皮肉なことに、ナチスによって大量虐殺されたユダヤ人が今は逆にパレスチナ人を迫害している。
     
    ドイツがイスラエルを擁護するのは、ナチス時代に600万人のユダヤ人を大量虐殺した「負の歴史」を抱えているからだと言われる。ドイツでは、社会全体でナチスの反省を共有し、二度と繰り返さないとの誓いを受け継いできた。
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  • 8面~9面 袴田巌さん再審公判 検察側 新たな証拠なし(粟野仁雄)

    1966年6月に静岡県清水市(現静岡市清水区)でみそ会社の専務一家4人が殺された事件で死刑判決を受け、無実を訴える袴田巖さん(87)の再審公判が12月10日に静岡地裁であり、傍聴した。
     
    庁舎前で5566番の整理券を腕に巻かれ、「外したら無効です」と女性職員。運よく当たると、番号が書かれた傍聴券を再度手首に巻かれた。番号と一致する「指定席」に座れという。傍聴券テープも「外したら無効です」。要は傍聴券を譲渡できないのだ。
     
    202号法廷で午前11時の開廷だが、荷物検査と身体検査がある。職員が「筆記用具以外は持ち込めません」を繰り返す。さらに「身体検査で見つかると絶対入廷できません」。指定席は弁護団席に近い側の前から2列目だった。国井恒志裁判長ら3人の裁判官がすでに着席していて驚いた。通常、裁判官は最後に入室し、傍聴者も「起立、礼」をさせられるがそれもない。違和感を覚える中、審理が始まる。
     
    巖さんの姉ひで子さん(90)は弁護団席の最前列で小川秀世事務局長の隣に座っていた。午前中は検察側の有罪立証。検察は従業員の証言記録から、巖さんはみそを取り出したり踏んだりする「みそ出し」という役割で仕事時間も多く、「被告人には犯行を実行するチャンスがあった」と主張。「(5点の衣類が出た)1号タンクには160㌔のみそがあり、5点の衣類を隠せた」とした。
     
    さらに、事件直後に警察がみそタンクを捜索しようとした際、「商品が損なわれ大損害になる」などと抵抗してやめさせたMという従業員が事件の翌年、「5点の衣類」が発見された際、「捜索させてもらえればもっと早く解決した」と警察に怒られたと話していたことを紹介、「捏造はあり得ない」と主張した。
     
    また、「他の従業員が気づかれずに5点の衣類をタンクに入れることは不可能」「血染めの服が入ったみそなんか誰も買わないから従業員が放り込むはずがない」と強調した。
     
    休憩後、午後は1時20分から。庁内に入るだけで傍聴券をチェックされる。やはり裁判官は先に待っていた。
    ……

  • 10面~11面 愼蒼宇教授「関東大震災虐殺の背景」㊤ 植民地弾圧と共通(栗原佳子)

    関東大震災では「朝鮮人が井戸に毒を入れた」「暴動を起こす」などのデマが広がり、関東各地で6000人以上といわれる朝鮮人が軍隊、警察、自警団らに虐殺された。なぜ朝鮮人が標的とされたのか。法政大学社会学部の愼蒼宇(シン・チャンウ)教授は、朝鮮民族運動に対する軍事暴力が繰り返された「植民地戦争」の延長上にあったと解き明かす。11月12日に東京都立川市のシビル市民講座で行われた講演「朝鮮人虐殺の歴史的背景を探る」をもとに上下編で要旨を紹介する。

    朝鮮人虐殺はまぎれもない「人災」でした。1960年代以降、多くの研究者や市民によって真相究明と資料の発掘、歴史認識の構築、慰霊と継承への努力が行われてきました。しかし、それにふさわしい責任追及や、歴史認識が日本社会に構築されたと言えるでしょうか。残念ながら、虐殺を正当化する動きが近年、より大きくなっています。
     
    最大の原因は100年にわたる日本政府の姿勢にあります。日本政府は、流言がデマと気づいた直後から軍隊や警察の責任を回避し、自警団に転嫁してきました。2003年に日本弁護士会が調査報告書に基づき「国は朝鮮人、中国人虐殺の全貌と真相を調査し、その原因を明らかにすべきである」と勧告しましたが、20年間なしのつぶて。今年、国会でも野党議員が公文書の存在を示し、政府の見解をただしましたが、警察庁の楠芳伸官房長は「仮に指摘の資料を確認しても、内容を評価することは困難」と答弁しました。歴史研究者と連携し、自分たちの責任で真相究明するという意思もありません。
     
    二つ目は近年の歴史改ざんの動きです。書店では、学説に基づいて虐殺否定論を批判している書籍の隣に、否定論の書籍が置かれています。デマゴーグも、様々な意見の一つであるかのように。特にここ数年、両論併記の認識が浸透していると感じます。
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  • 12面 万博諸経費増 大阪市の負担 市民1人6万円超(矢野宏)

    「2025年大阪・関西万博」について、政府は12月19日、国の負担費が最大1647億円になると発表した。一方、大阪府・市は負担分が1113億円との見通しを示したが、市が負担するインフラ整備費は含まれていない。市民団体「どないする大阪の未来ネット」(どないネット)は、市民一人当たりの負担額が6万円を超えると試算しており、「万博後に控えるIRカジノ建設を考えれば、公費投入は青天井になる」と警鐘を鳴らす。
     
    国が負担する費用の内訳は、国と大阪府・市、経済界が3分の1ずつ負担する会場建設費783億円をはじめ、日本館の建設費360億円、途上国の出展支援に240億円。そのほか、会場警備費199億円、宣伝費38億円を見込んでおり、万博誘致にかかった27億円も含まれている。
     
    インフラ整備費は9兆7000億円に上る。万博と関連付けて確保した道路整備や南海トラフ地震対策の強靭化なども含まれており、政府は「大阪・関西万博のみに資する金額を算出することは困難だが、あえて事業ごとの合計額を示した」と説明する。
     
    さらに、万博で運行予定の「空飛ぶクルマ」の実証事業などに3兆4000億円かけることも明らかにされた。
     
    どないネット事務局長の馬場徳夫さん(81)は「万博とは直接関係ないと言いつつ、9兆7000億円との金額を持ち出したのは、万博負担を小さく見せるためだろう」と指摘する。
     
    一方、府・市が負担する費用1113億円の主な内訳は▽会場整備費783億円▽大阪ヘルスケアパビリオン建設費118億円▽大阪地下鉄輸送増強費46億円▽府内の小中高校生の招待費34億円だが、会場となる夢洲への地下鉄延伸費(国86億円、市490億円)や夢洲インフラ整備費(市572億円)などが含まれていない。
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  • 13面 辺野古代執行訴訟 沖縄県敗訴 民意がつぶされた日(矢野宏)

    米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設をめぐり、辺野古沖の軟弱地盤の工事を国が県に代わって申請を承認する代執行に向けた裁判で、福岡高裁那覇支部は12月20日、国の主張を認め、県に3日以内に承認するよう命じた。県が承認しなければ、国は代執行に踏み切り、軟弱地盤が広がる大浦湾で埋め立て工事を始める。県は上告できるが、工事は国が逆転敗訴するまで止められない。2017年に米軍機部品落下事故のあった宜野湾市の緑ヶ丘保育園で父母の会副会長をつとめた明(あきら)有希子さん(44)はこの判決に触れ、「沖縄の民意がつぶされた」と語った。
     
    辺野古の埋め立て工事は18年12月に始まった。大浦湾に軟弱地盤が見つかり、防衛省は20年4月に設計変更を申請したが、県は「地盤の安定性の検討が不十分」などとして承認しなかった。
     
    国と県は設計変更をめぐって法廷闘争となり、23年9月4日の最高裁判決で県の敗訴が確定した。それでも県は承認しなかったため、国が10月5日、地方自治法に基づいて代執行訴訟を起こした。
     
    代執行の要件は「公益侵害」。県の対応が著しく公益を害しているかどうか。国は「工事が進まないことで日米間の信頼関係に不利益が生じている」と主張。県は「移設反対が多数を占めた19年2月の県民投票で示された民意こそが公益性だ」と反論したが、三浦隆志裁判長は判決で、普天間飛行場の危険性除去が公益とし、「最高裁判決後の放置状態も含め、公共の利益を侵害する」とした。
     
    明さんは宜野湾市出身で現在、関東在住。「敗訴の伝え方からすでに沖縄だけのことだ」と感じたという。
     
    「まず、在京テレビのテロップが『国が勝訴』。どうして沖縄ばかりが国と対峙しなければいけないのか。どうして沖縄だけ裁判をしなければいけないのか。沖縄の米軍基地なのか。本土が押し付けた米軍基地問題だ。そもそも地盤改良工事を伴う設計変更申請の承認という内容自体が異常なこと。法定受託事務の代執行の判決は史上初というが、そこまで米軍のためにするのかと政府や司法が心底恐ろしいと思った」
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  • 14面~15面 ヤマケンのどないなっとんねん 「美しい国」はカネまみれ(山本健治)

    前号から今号の間も着目すべきことが多々あった。11月29日の屋久島沖でのオスプレイ墜落、米軍は不時着水と言っていたが、隠しきれなくなって墜落を認めたように対応は相変わらずで、日本政府も弱腰、根本はオスプレイのような危険なものは飛ばしてはならないし、購入してはいけないにもかかわらず、配備運用しようとしているのだから、いいかげんにしろと言わなければならない。
     
    2019年7月18日、社員36人が犠牲になり、24人が重軽傷を負った京アニ事件の裁判が連日報道され、12月7日の公判で検察が死刑を求刑、来年1月25日に判決ということになったが、21年12月17日に起きた、被疑者が医師と25人の患者を道連れにした大阪北新地のクリニック放火事件のその後も報道された。この二つの事件は「失われた20年、30年」によって生じた日本の様々な歪みが底にある事件であり、それに真剣に向き合わなければならないのだが、大谷選手が10年で総額7億㌦(約1015億円)でドジャース移籍というようなことが出てくると、みんなの関心がそちらに向いてしまい、さらに日本をおかしくしてしまう。
     
    これは政治でも同じで、事件が連続すると前のことがフェードアウトし、あいまいなまま終わりにされる。その結果、また腐敗が繰り返される。前号では柿沢未途法務副大臣の江東区長選での公選法違反、神田憲次財務副大臣の税金滞納、山田太郎文科政務官の不倫と、岸田内閣のどうしようもなさがまた明らかになり、辞任ドミノ、内閣は崩壊状態、即刻退陣・即刻倒閣以外にないと書いたが、自民党内有力者は様子見ばかりで岸田おろしの流れは出てこない。
     
    一方の野党・立憲は「5年後に政権交代」などという人物が代表だからどうしようもなく、国民はいらだつばかりだと書いた。柿沢公選法違反事件は東京地検特捜部が捜査に入ったので、それなりの決着がつくだろうが、他の2件は副大臣と政務官を辞任して終わりだ。これではどうしようもない。こんな議員を辞めさせるようなところにまで追い込まなければならない。
     
    そうこうしているうちに、神戸学院大学の上脇博之教授による安倍派の政治資金パーティーをめぐる政治資金規正法違反(不記載・虚偽記載)の刑事告発は、12月13日の臨時国会閉会で、東京地検特捜部が本格的捜査に入った。安倍派の裏金は5億円にも達していることなどが明らかになり、岸田内閣の閣僚や自民党要職者で安倍派のすべてが更迭、辞任に追い込まれたことは周知の通りである。安倍派だけではなく、岸田派でも二階派でもキックバックが行われ、自民党全体が裏金にまみれてていることが明らかになった。
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  • 16面~17面 世界で平和を考える ウクライナ最新報告③ 自閉症の子供が急増(西谷文和)

    (前号まで)2023年10月、ポーランドのワルシャワから夜行バスで首都キーウに入る。陸軍病院には手足を失った傷病兵が多数。今夏から始まったウクライナの反転攻勢は、明らかに失敗し戦線は膠着、このままだとロシア、ウクライナ双方に犠牲者数が積み上がっていくだけだ。すぐに停戦させねばならない。キーウ2日目はまず下町のチェルノブイリ博物館に行き、ついで郊外の孤児院を訪問した。
     
    9年ぶりのチェルノブイリ博物館。14年3月のマイダン革命を取材したときに、この地を訪れたのだが、あの時は受付に「ふくしまとともに」とひらがなで大書された看板があって、双葉町や飯館村の写真が飾ってあった。今はその同じ場所に、ロシア軍侵攻直後のチェルノブイリの写真が飾ってある。チェルノブイリ原発の位置図の周囲は赤のインクで塗りつぶされている。大量の放射能が拡散してしまったのだ。
     
    22年2月24日、ロシア軍は北のベラルーシから南下してきた。首都キーウを目指す国道に原発があった。ロシア軍は戦争初日に原発を占拠した。博物館の壁面に戦車の車列が原発に侵入する写真が貼ってある。敷地内で野営したロシア兵は塹壕を掘った。そこは「赤い森」と呼ばれている場所で、37年の時を経て地中に沈殿してくれていた放射能が、ボッと吹き出してしまった。さらにロシア軍は原発周辺の「赤い森」を焼いてしまった。森に溜まっていた放射能が再び飛び散った。こうしてチェルノブイリ原発はまたも「誰も近づけない場所」になった。ウクライナ兵士が防護服を着て放射線を計測している写真が飾ってある。もうチェルノブイリは兵士しか入れない場所になってしまったのだ。
     
    37年前、数10万人ものリクビダートル(原発事故処理作業員)の命と健康を犠牲にして押さえ込んだ放射能が、ロシア軍によって再びばらまかれてしまった。事故当時、決死の思いで原子炉を冷やし続けた作業員、火事を消し止めた消防士、建築労働者が被曝しながら作った石棺……。そんな命がけの作業が、ほんの少しの塹壕と山火事で水泡に帰した。戦争は残酷だ。
     
    ザポリージャ原発の現状を示す写真があった。ロシア軍が原発敷地に侵入する写真と、敷地にロケット弾が打ち込まれた直後の写真。背筋が凍る。原子炉まで100㍍あるかないか。「ロシア軍はずる賢いよ、原発に駐屯すれば俺たちが攻撃できないからね」。通訳のダニエルが悔しがっている。心配なのはカホフカダムの決壊。あのダムは琵琶湖の3分の2の水量を誇る人造湖を形成していて、原発はその水で冷却していたのだ。水位が下がり、冷却できていないのでは?「大丈夫だ。ダムは下流、原発はかなり上流にあるので、水位はそれほど下がっていない」。ダニエルの解説に少し安心するが、今やザポリージャは激戦地である。いつ間違ってミサイルが当たるか、どうか分からない。
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  • 18面~19面 フクシマ後の原子力 「第五福竜丸」被曝の演劇(高橋宏)

    11月末から12月中旬にかけて、核や原子力に関連した国際会議などが相次いだ。
     
    まず、11月27日から5日間の日程で、核兵器禁止条約の第2回締約国会議が開催された。今回は、条約に署名・批准しておらず、アメリカの「核の傘」に依存する北大西洋条約機構(NATO)加盟国のドイツとベルギー、ノルウェーがオブザーバーとして参加した。日本政府は、条約への署名・批准を求める決議が671自治体で採択(11月2日現在)されていたにもかかわらず、今回もオブザーバー参加していない。
     
    前回に引き続き、日本からは被爆者やNGO団体が参加し、「人間らしい自由な生き方を奪うのが原爆だ」「ウクライナとガザから伝えられる光景は、被爆者にとって『あの日』の再来だ」などと訴えた。会議は、国際情勢の緊張や核リスクの高まりに警鐘を鳴らし、核廃絶が急務であることを強調した上で、核の威嚇に基づく抑止論の正当性を否定し、脱却を求める政治宣言を採択して閉幕した。
     
    また11月30日、国連の気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)が開幕し、アメリカ政府は、50年までに世界全体の原発の設備容量を3倍にする宣言を公表した。この宣言に22カ国が参加したが、何と日本もそこに名を連ねている。岸田政権は、原発回帰の方針に転じているが、宣言への参加でその姿勢が鮮明になった。
     
    12月4日には、国連総会本会議で日本が毎年提出している核兵器廃絶決議案が148カ国の賛成で採択された。今回は特に中国やロシアを念頭に「世界の核兵器貯蔵数の減少傾向が反転するリスクが高まっている」という警告が含まれた。当然だが、中国やロシア、南アフリカなど7カ国は反対している。なお、日本の核兵器廃絶決議案は16年当時、109の共同提案国があったが、核兵器禁止条約への対応以降は激減し、今回は26カ国にとどまっている。
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  • 20面 長生炭鉱水没事故 遺族が政府交渉 遺骨返還「韓国との約束」(栗原佳子)

    山口県宇部市の海底炭鉱、旧長生(ちょうせい)炭鉱で81年前、水没事故が起き、坑内に183人が閉じ込められた。犠牲者のうち136人は朝鮮半島から強制的に連れて来られた労働者だった。遺骨はいまも引き揚げられていない。韓国の遺族らは遺骨の発掘・返還を求めており、12月8日、衆議院第一議員会館で開かれた政府との意見交換で早期解決を訴えた。
     
    長生炭鉱の水没事故が起きたのは1942年2月3日朝。長生炭鉱の海底に延びたおよそ1㌔㍍沖の坑道で天盤が崩壊して海水が侵入、坑内労働者183人が犠牲になった。
     
    太平洋戦争が始まって2カ月、石炭の量産が強いられ無理な採掘が行われていた。特に当日は量産目標が掲げられた「大出し日」だった。
     
    91年、市民有志らが「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」(以下、刻む会)を結成。朝鮮半島出身の犠牲者らの名簿の住所に手紙を送付したのをきっかけに、92年、韓国で遺族会も発足した。毎年2月3日の慰霊祭は韓国の遺族を招いて開催されており、市民の募金によって2013年、現場近くに追悼碑も建立した。
     
    新たに目標に掲げたのが遺骨の発掘と返還。「ピーヤ」(排気・排水口)内での潜水調査などを独自に実施、可能性を探ってきた。炭鉱会社は戦後すぐに清算され、刻む会は日韓両政府に協力を呼び掛けてきた。
     
    戦時中の民間徴用者の遺骨をめぐっては04年の日韓首脳会談で廬武鉉大統領が「日韓共同宣言」(1998年)に基づき返還を要請、小泉純一郎首相が「何ができるか真剣に検討する」と応じ、05年から総務省が全国で遺骨調査などを進めている。
    ……

  • 21面 ドキュメンタリー映画「メンゲレと私」 強制収容所生き延びた(栗原佳子)

    ナチス・ドイツのホロコーストを体験したユダヤ人男性の証言を記録したドキュメンタリー映画「メンゲレと私」が全国公開された。男性はリトアニア出身のダニエル・ハノッホさん(91)で、アウシュビッツを含む六つの強制収容所を生き延びた。大阪・第七芸術劇場で12月6日、先行上映され、監督のクリスティアン・クレーネスさんとフロリアン・ヴァイゲンザマーさんが舞台あいさつした。
     
    「メンゲレと私」は「ゲッペルスと私」(2018年)、「ユダヤ人の私」(21年)に続くホロコースト証言シリーズ第三弾。両監督は、第2次世界大戦の体験者が減少する中、同じ過ちを繰り返さないため映像に記録してきた。ハノッホさんとは「ゲッペルスと私」のエルサレム上映会で出会った。上映後に最初に発言し、「これは歴史を考える良い映画だ」と、6カ所の強制収容所を生き延びた過酷な実体験を語ったという。
     
    ハノッホさんは1932年、リトアニアのカナウスで生まれた。父母と兄、姉の5人家族で、材木商の父は、パレスチナとも貿易を行っていた。
     
    41年夏、ソ連占領下のリトアニアにナチスドイツが侵攻。ハノッホさんら一家は郊外のゲットーに強制収容された。その後、ソ連の反転攻勢が強まる中、ハノッホさんは強制収容所で家族と引き裂かれ、アウシュビッツに連行された。当時12歳。金髪の美少年だったためか、悪名高いメンゲレ医師に気に入られ、赤十字の視察の際には食物や新品の毛布などを与えられ、事実を隠すためのモデルを演じさせられた。列車の降車場で、死体や、各地から連行されてきた人々の荷物を荷車で運搬する仕事に従事させられた。
    ……

  • 22面 経済ニュースの裏側「パレスチナ」共存の日は来るのか(羽世田鉱四郎)

    「乳と蜜の流れる(肥沃な)大地」と聖書に記されているパレスチナ。16世紀以降は、オスマントルコ帝国の領土の一部で、ユダヤ教徒、キリスト教徒、イスラム教徒が併存していました。
     
    領土と人口構成 イスラエルは、2・2万平方㌔(日本の四国に相当)の領土に約950万人が暮らし、8割がユダヤ教徒、2割が非ユダヤ教徒のアラブ人です。パレスチナ自治区は、ヨルダン川西岸地区とガザ地区に分割された6000平方㌔に、535万人が住んでいますが、他にヨルダン、レバノン、シリアなどに300万人のパレスチナ難民がいます。
     
    二重政府のパレスチナ自治区 2005年の大統領選挙、06年の立法評議会選挙で、イスラム原理主義組織ハマスが与党になりましたが、イスラエルや欧米諸国などはイスラム主義政党の勝利、政権把握を拒否したまま。また、パレスチナ自治政府の内部分裂もあり、ヨルダン川西岸地区はファタハ政権(アッバース大統領)、ガザ地区はハマス政府に分裂しています。
     
    イスラエル建国 1948年に宣言。4度の中東戦争を経て、国連の決議、勧告を拒否し、軍事占領、入植地の拡大を続けています。47年、国連が「パレスチナ分割決議」を採択もまとまらず。反占領闘争が87年に勃発、ハマスの誕生につながっています。
     
    93年にイスラエルのラビン首相とPLO(パレスチナ解放機構)のアラファト議長が「オスロ合意」を締結したものの、有名無実に。イスラエル軍の占領下は継続したまま。79年にエジプトとの間で平和条約を締結し、シナイ半島を返還、2020年にUAE、バーレーン、スーダン、モロッコと国交を正常化しました。
    ……

  • 23面 会えてよかった 久高政治さん⑨ ジェット機事件の現場に資料館を(上田康平)

    平和学習施設で
     うるま市教育委員会の再考を
     2022年11月、沖縄タイムスが
    「630会へ部屋貸与取りやめ」と
    報じた。私は同年の慰霊祭で久高さ
    んが宮森小に併設の幼稚園跡の教室
    を借りて、資料館ができることにな
    ったと報告されていたので、ようや
    くみなさんの念願がかなったと思っ
    ていた。ところがこの記事である。
    市教委は不登校対策の教育活動を優
    先したという。
     久高さんは琉球新報に投稿した。
    要約すると−−−−22年8月には入室で
    きるよう、改修工事が行われること
    になっていました。
     毎年市内の小・中・高でジェット
    機事故の講話を実施。また、うるま
    市児童・生徒平和文学賞と銘打って
    詩、短歌・俳句を募集し、入賞者を
    表彰するなど、学校と密接に連携を
    とって平和教育の一環を担ってきま
    した。更に市内の小・中の教員向けの平和研修(フィールドワーク)を
    実施し、先生方の平和教育のサポー
     ト。こうした長年の活
     動が評価され、教育委
     員会や市議会の賛同が
    ……

  • 24面 日本映画興亡史 第3章傾向映画の時代「制作のたびに借金抱え」(三谷俊之) 

    根岸寛一について、少し紹介したい。大プロデューサーであり、日本映画史のみならず、戦前の芸能史、アジア史に大きな足跡を残しながら、彼の生涯はほとんど忘れ去られているからだ。
     
    根岸は1894(明治27)年11月、茨城県筑紫郡小田村(現つくば市)で、文具店を営む立花寛二郎の長男として誕生。尋常小学校卒業後に上京。米国連合通信東京支局(後のAP通信)の給仕の傍ら英学校に学ぶ。その後、浅草の劇場王、根岸興業の根岸浜吉の娘婿で叔父・小泉丑冶の援助を受け、早稲田大学政経学科に入学。大正7年に卒業し読売新聞記者となる。3年後、叔父の勧めもあって根岸興業に入社、下足番から始める。
     
    大正10年、根岸家次女と結婚し、根岸姓となる。浅草六区の金龍館を拠点に根岸大歌劇団が人気を呼び浅草オペラが隆盛を極める。それまでは上流階級の教養でしかなかった西洋音楽を、一気に大衆のものとした。系列の観音劇場には「犬猫刑事ノ類入ルベカラズ」という貼紙が揚げられていた。自由と反抗の情熱を愛した人々の集まりであることが想像できる。
     
    アナキストもボルシェビキ(マルクス主義)も、未来派やダダイストなどのアヴァンギャルド芸術も、ごった煮のように同居していた。異質な思想の持ち主が自由に呼吸していた時代であり、場であった。それこそがこの時代の最大の魅力であり、その地熱のただ中に根岸寛一はいた。
     
    1923(大正12)年9月1日に起きた関東大震災は、それらを一挙に崩壊させた。劇場は壊滅的な大打撃で松竹傘下となり、根岸は鎌倉の小さな別宅に引きこもる。久米正雄ら鎌倉文士と付き合いを深め、直木三十五と意気投合。大正13年、根岸は直木の勧めでマキノ省三に新国劇の澤田正二郎を斡旋。マキノと根岸がここで邂逅する。
    ……

  • 25面 坂崎優子がつぶやく ゆがんだ「ネット先生」

    11月に息子が結婚しました。おいしいものを「おいしいね」と言い合え、日々の生活を一緒に楽しめる相手だと聞き、良きパートナーと出会えてよかったと思いました。
     
    式と披露宴はウエディングレストランで行いました。親族以外はすべて友人ながら、列席者が100人。初めは「なんとバブリーな」と思いましたが、参加者が皆、心から祝福してくれていることが伝わり、こんなに大勢の友人に恵まれたのかと、親も幸せな気持ちになりました。
     
    披露宴は祝辞や余興はなく、挨拶は乾杯の時のみ。列席者にはおいしい料理とお酒をゆっくり楽しんでもらうという、もてなしを主眼に置いたものでした。全く親には頼らず、費用も含めすべて自分たちで準備しました。乾杯を頼んだのは2人がお世話になった先輩です。
     
    「先輩へのお礼を預けるから当日渡してくれる?」と頼まれ、「お礼?」と思いました。「乾杯の挨拶にお礼などいらないよ。それ誰から言われたの?」と尋ねると、ネット情報を示してきました。結婚のマナーについての記事でした。そこには「お礼の相場は乾杯が○○円、祝辞は○○円」などと書かれていたのです。ついでに他のサイトも見てみると、どれも同じようなことが書かれています。祝辞のお礼についてのQ&Aには「祝辞をしたのに、お礼がありませんでした。時間をかけて考えたのにお礼がないなんておかしくないですか」というものまで出てくる始末。「あなたはレンタル友人か!」と思わず突っ込んでしまいました。
     
    いつからこんなことがマナーとやらになってしまったのでしょう。一人のライターが適当なことを書き、それがコピペ、コピペされて、古くからのしきたりのようになっていったのかもしれません。
    ……

  • 26面~29面 読者からのお手紙&メール(文責・矢野宏)

    学会員だった祖母
    原点は東京大空襲

      千葉県松戸市 白井政幸
     創価学会の池田大作名誉会長が死去したニュースを知り、母方の祖母を思い浮かべました。祖母は創価学会員でした。しかし、週刊誌などで報道されるような学会一辺倒な人ではなく、近所付き合いを大切にし、子ども(私の母と叔父)と孫家族の幸せを静かに見守る誰にも優しい祖母でした。
     祖母の家に家族で訪ねて一泊すると、朝から「南無妙法蓮華経」を唱える声が聞こえてきたのを覚えています。甥っ子と一緒に祖母に連れられて地元(東京都足立区)の会館のような場所に行ったこともあったと記憶しています。
     創価学会と公明党との関係に疑問を持ち、母にそのことを告げた時、「おばあちゃんはそうだけど、同じ家族でも信じる宗教などは別々だっていいのよ」と言われ、おそらく祖母も同じ気持ちなのだろうと理解しました。
     祖母が亡くなった時、日蓮正宗の僧侶ではなく、学会員が導師としてお経をあげる「友人葬」でした。ただし、本来ならば樒(しきみ)しか許されない祭壇に多くの花が飾られ、母が死に水に替わって祖母が大好きだったお茶を唇に湿らせ、みんなで見送りました。
     あらためて信仰とは何かと考えることがあります。創価学会は高度経済成長期に急速に信者を増やしたそうですが、祖母はそのような流れに乗って生きた人ではありません。1945年3月10日の東京大空襲の時に小さかった叔父たちを連れて逃げ回ったことで二度と戦争のない世の中にしてほしいとひたすらに願っていたのです。
     公明党が自民党と連立して変質したことに対し、何も言わず心を痛めていたようでした。学会からは地区支部の永久名誉支部長の号が送られましたが、私たちを温かい心で包んでくれた祖母の人生は学会員としてではなく、素晴らしき人生だったことを忘れないようにしたいです。
     (おばあちゃんは戦争を二度と子や孫に体験させたくないと、入信されたのでしょう。残念ながら自公連立政権になって、この国はどんどん戦争に近づいています。皮肉なものですね)
    ……

  • 27面 車イスから思う事 早く来て待つわけ(佐藤京子)

    12月になっても気温が19度もあった東京の一日。気温は高いのに降っている雨は冷たい。こんな日に朝から病院へ向かった。まだ、受け付け前の午前7時半なのに薄暗い待合室ですでに5人ほどが座っている。自分と介助犬イムア君もその列の最後に並んだ。受付時間は午前8時、何だかこの順番待ちを笑うしかない。
     
    早い人だと6時から並んでいるそうだ。どうして、そんなに早く来るのか聞いてみた。答えてくれた人々は「待つことが苦痛」だという。それなのに、朝6時の明りもついていない待合室で2時間待って、診察開始までまた1時間、計3時間待たなければならない。午前9時に受付を済ませて正午までで3時間なら、9時に来ても良いのではないかと思う。
     
    以前、高齢者医療に関する仕事をしていた時に、当時の65歳以上は1カ月の支払いの上限があって、それ以上は負担がなかった。その頃、高齢者が待合室で、知り合った人と話したりと、さながらサロンのようだと社会問題になっていた。まぁ、そのくらい目くじらをたてなくてもと、時間にゆとりのある時は仕方がないと考えるが、時間に追われている時は、勘弁してほしいと思ってしまう。
     
    最近の待合室はスマートフォンの普及で、顔を下に向けていて、話をする人は少なくなっている。これはこれで静かな時間が過ぎる。自分は電子書籍を読んで過ごしている。それでも、イムア君がいるといろいろと会話が湧いてくる。
     
    本音を言えば、あまり病院で知り合いを作りたくない。なぜなら病院に長く通っていると、それなりにあいさつをすることから始まり、いろいろ知り合うわけだが、出会いの場所が場所だけに、亡くなった人もいる。やはり、今でも気持ちがざわつく。もうそのような思いをしたくないからだ。
    ……

  • 28面 絵本の扉「あめだま」(遠田博美)

    韓国で人気の絵本作家、白希那(ペク・ヒナ)さん。作品のほとんどが絵ではなく、緻密に作られた人形で、アニメーションのように表情豊かに物語が進んでいきます。今回紹介する「あめだま」も同じ手法で展開していきます。日本語訳は絵本作家の長谷川義史さん、しかも関西弁です。
     
    主人公はドンドン。8歳の内気な少年です。家族はお父さんと愛犬グスリ。表紙にはおかっぱ頭のドンドンが不思議そうにあめだまを持って見つめている顔が。ドンドンは、グスリと散歩に出かけるのですが、公園でビー玉遊びをしようと仲間に声をかけられない。帰り道の文房具屋で店のおじさんに勧められたのは六つのあめだまでした。家に帰り、まず縞模様のあめだまをなめると……。リビングから「ドンドン、ドンドンくん、ここや、ここ……」と声が聞こえる。声の主はソファ。リモコンがはさまっていて、痛いから取ってほしいという。

    あめが溶けたら声は聞こえない。不思議なあめだまだとわかった彼は、ブチ模様のあめをなめる。すると、今まで分からなかったグズリの本音が聞こえてくる。ドンドンが生まれた時からいるけど本音を聞いたのは初めて。ドンドンが三つ目のあめをなめたら、帰ってきたら口うるさく注意するパパのドンドンへの愛にあふれる本音が……。ここの場面は何とも言えず胸がキュンとなるシーンです。
    ……

  • 30面 うずみ火掲示板 「塚﨑塾」が偲ぶ会 1月13日、大阪市立総合生涯学習センター(矢野宏)

    立命館大コリア研究センター研究員で在日朝鮮人研究家の塚﨑昌之さんが亡くなって3カ月余り。遅ればせながら、塚﨑塾として「塚﨑さんを偲ぶ会」を2024年1月13日(土)午後2時~大阪市立総合生涯学習センターで開きます。
     当日は、塚﨑さんが19年9月のうずみ火講座で講演した際に収録したDVD「韓国はなぜ『徴用工』問題にこだわるのか~大阪の朝鮮人強制連行から考える」を上映します。当時、韓国大法院の「元徴用工訴訟」判決から1年、「昔の話を蒸し返すな」「解決済みだ」などと韓国バッシングが吹き荒れた時期で、塚崎さんは戦中、戦後、現在の強制連行被害者への三つの加害についてわかりやすく解説してくれました。
     塚﨑塾発起人の一人でMBSディレクターの亘佐和子さんは「塚﨑さんをインタビューした際、『私一人で聞くのはもったいない』とメディア関係者に呼びかけてスタートした塚﨑塾。2年は続けようと思っていたのに1年で終えることになり、本当に残念です。ご参加いただき、一緒に塚﨑さんを偲んでいただけると幸いです」と語っている。
    【日時】2024年1月13日(土)午後2時~
    【会場】大阪市北区の市立総合生涯学習センターの第2研修室(大阪駅前第2ビル6階)
    【資料代】500円

  • 30面 編集後記(矢野宏)

    2023年も残すところあと数日。この号がお手元に届くころには迎春準備に追われていることでしょう。振り返れば光陰矢の如し。いい1年でしたか。▼先日、西谷文和さんが主宰するネットラジオ「路上のラジオ」にゲスト出演し、この1年の出来事を振り返りました。西谷さんがトークに選んだ出来事は以下の通り。「コロナ5類に引き下げ」「フランスで10万人デモ」「ウクライナ戦争から1年・岸田首相が電撃訪問」「日銀総裁に植田和男氏」「東日本大震災・福島原発事故から12年」「大阪、奈良で維新知事」「岸田翔太郎氏更迭」「首相演説会で爆発物」「G7広島サミット・ゼレンスキー大統領参加」「自衛隊で銃乱射事件」「LGBT理解促進法成立したが…」「デジタル庁に立ち入り検査」「ビッグモーター問題」「ジャニーズ問題」「ワグネルのブリゴジン氏墜落死」「第2次岸田改造内閣」「リビアで洪水」「阪神・オリックス優勝を万博利用」「ハマス奇襲攻撃」「政府三役が次々辞任」「自民党裏金疑惑」。すべて取り上げたわけではありませんが、おっさん2人が怒りと笑いのトークを繰り広げました。▼さて、24年はどんな年になるのか。岸田政権はいつまで続くのか。解散総選挙はあるのか。ウクライナ戦争とガザ攻撃はどうなる? 南西諸島で進む要塞化、大阪万博・カジノを止められるか。新聞うずみ火には死活問題となる郵便料金の値上げも……。▼現場と読者の声を大事にして一号一号積み重ねていきます。小さな小さな新聞ですが、来年も応援してやってください。いい出会いと再会がありますように。良いお年をお迎えください。(矢)

  • 31面 うもれ火日誌(矢野宏)

    11月9日(木)
     矢野 午後、滋賀県立膳所高校2年生360人の人権学習で「空襲と人権」と題して講演。10年近くお声掛けいただき、帰り際に冨江宏校長から「来年もお願いします」
    11月10日(金)
     矢野 夜、大阪市立阿倍野区民センターで開かれた「三池炭鉱炭じん爆発から60年 原点はここにあった高次脳機能障害と現代社会」を取材。
    11月11日(土)
     矢野、栗原 午後、大阪市港区で開かれた大阪IRの環境影響評価準備書の住民説明会へ。運営主体のIR株式会社や大阪市の担当者も出席せず、カジノ事業者のMGMとコンサルタント会社が対応しようとしたため参加者の多くが途中退席する。
    11月13日(月)
     矢野 午後、大阪市が5年間で1万9000本を伐採する「公園樹・街路樹の安全対策事業」の見直しを訴える「大阪市の街路樹撤去を考える会」の渡辺美里さん、谷卓生さんに話を聞く。
    11月14日(火)
     栗原 夕方、鹿児島新港からフェリーで徳之島へ。「奄美の自然と平和を守る郡民会議」事務局長の城村典文さんと合流。自衛隊統合演習が行われる島内で取材し、16日夜、奄美大島経由で帰阪。
    ……

  • 32面 うずみ火講座① 1月27日、岡真理・早稲田大教授「パレスチナ問題

    イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザへの苛烈な攻撃が続いています。新年最初の「うずみ火講座」は1月27日(土)、パレスチナ現代史、アラブ文学が専門の岡真理・早稲田大学大学院教授に解説していただきます。
     
    ガザを実効支配しているハマスはテロリストなのか。岡さんは、ハマスの攻撃は殺され続けてきた側がそうするよりほかなかった民族解放運動の闘いだという。「占領者の暴力と被占領者の抵抗暴力を同列で語ることはゆるされない」

    【日時】1月27日(土)午後2時半~
    【会場】大阪市浪速区湊町1丁目の市立難波市民学習センター
    【交通】JR難波駅直結、OCAT4階。地下鉄なんば駅から徒歩5分
    【資料代】1000円、一般1200円、オンライン視聴500円。
     
    いつでも視聴できます。希望される方はご連絡ください。URLをお伝えします。

  • 32面 うずみ火講座② 2月3日、水野晶子さん朗読会

    元毎日放送アナウンサーの水野晶子さんが、「国境なき医師団を支援する朗読ライブ」を2月3日(土)午後2時半~大阪市北区のPLP会館で開きます。
     
    「パレスチナの現状に胸を痛めながらも、何もできないとあきらめている方は多いことでしょう。私もその一人でした」と語る水野さん。だからこそ、自分にできることを考え、罪のない市民の生命を救う人たちを応援しようと考えたそうです。
     
    参加費2000円。収益金は国境なき医師団に寄付します。
     
    先着60人。参加希望者は新聞うずみ火まで申し込んでください。

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