新聞うずみ火 最新号

2023年1月号(No.207)

  • 1面~3面 安保保障3文書改定の本質 米の戦争に加担の道(矢野宏)

     相手国のミサイル基地などを破壊する「敵基地攻撃能力」の保有を記した安全保障関連3文書の改定が12月16日、閣議決定された。歴代の政権が戦後一貫して堅持してきた専守防衛を空洞化させる安保政策の大転換だ。さらに防衛関連予算の倍増も明記されるなど、「軍拡増税」が進められようとしている。その背景には何があるのか。防衛ジャーナリストの半田滋さん(67)に聞いた。(矢野宏)
    安保3文書改定の閣議決定を控えた12月15日夜、反対する市民らが国会前で抗議の声を上げた。
     「戦争準備は憲法違反」「武力で平和はつくれない」
     主催者側発表で約800人が参加。横断幕やプラカードを掲げ、「勝手に決めるな」と訴えた。
     安保3文書とは、外交・防衛の基本方針である「国家安全保障戦略」、防衛の目標と手段を示す「国家防衛戦略」、防衛費の総額や装備品の数量や経費などを定める「防衛力整備計画」。今回の安保戦略改定の核心は、敵基地攻撃能力を持つと宣言したことである。
     政府は「相手国に攻撃を思いとどまらせる抑止力になる」というが、半田さんは否定する。「抑止力は神話のようなもの。国家の安全は外交や経済、人的交流など複合的な要素が組み合わされて初めて保障される。敵基地攻撃の実態は先制攻撃を含む。攻撃の応酬。日本壊滅につながる恐れが出てきた」
     今回の改定は、2020年6月に陸上配備型の迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」計画が中止になったことがきっかけだ。
    「イージス・アショアは17年、安倍首相がトランプ大統領に兵器の大量購入を迫られ、導入を閣議決定した肝いり案件です。契約解除の3カ月後、安倍首相は持病悪化を理由に辞任し、『安倍談話』を残した。イージス・アショアの代替措置を考えてほしいということと、『抑止力の強化』という言い方で敵基地攻撃能力の保持を政策にしてほしいということ。代替措置は後任の菅首相が閣議決定によって、イージスシステム搭載艦を建造することで決着した。敵基地攻撃能力については、岸田首相が閣議決定で保有を認めることになったのです」
    ……

  • 4面~6面 「南西シフト」安保3文書 琉球弧強まる「最前線化」(栗原佳子)

    安保3文書は、沖縄の陸上自衛隊第15旅団を師団に改編するなど「南西シフト」が鮮明になった。中国を封じ込める「第一列島線」上に連なる琉球弧(南西諸島)の島々には、敵基地攻撃の柱となる長距離ミサイルの配備も決定。「台湾有事」を口実に、住民たちは「最前線」に立たされる。戦後77年間、基地と無縁だった石垣島も、ミサイル基地建設が進む。沖縄戦の体験に根差し、反対の意思を静かに示し続ける女性たちの声を聞いた。             (栗原佳子)
     石垣島(沖縄県石垣市)は人口約4万8000人。八重山諸島の政治経済の中心で、サンゴ礁に囲まれた亜熱帯の島中央部には、県最高峰の於茂登(おもと)岳が雄大な山容を見せる。山すそに広がるな平得大俣(ひらえおおまた)。対艦・対空ミサイル部隊と「有事」の初動を担う警備部隊計600人の今年度中の配備に向け、畑や民家と隣り合わせの予定地約46㌶で、突貫工事が進められている。
     周辺の四集落は配備計画が降って沸いた2015年当初から「ミサイル基地反対」を貫く。しかし、激烈な騒音を撒き散らしながら工事は強行されている。「安保は国の専権事項」だとする中山義隆市長は、県の環境アセス条例が適用されないよう画策。配備の賛否を問う住民投票の実施を求める署名が有権者の4割集まったにもかかわらず、市議会は否決した。
     防衛省は「防衛の空白を埋める」として南西諸島への陸自配備を推し進めた。16年に与那国島に沿岸監視隊、19年に奄美大島(鹿児島県)の2カ所にミサイル部隊を配備した。同年、宮古島に駐屯地を開設、ミサイル部隊も配備した。そして来年春の石垣島。現在は中距離誘導弾(射程約150㌔)だが、安保3文書に記されたように、今後は長距離ミサイル(射程約1000㌔)の配備が想定されている。別の島が占領された場合に撃ち込む高速滑空弾の配備も決定した。
     観光客に人気のバンナ公園の展望台からは工事現場がよく見える。いくつもの建物が同時並行で建設されていく様子が肉眼でもわかる。弾薬庫は四つ。3文書では「持続性・強靭性を高めるため、主要司令部など重要施設の地下化」をうたったが、石垣島でも、ここにきて「地下司令部」が造られつつあることが明らかになった。攻撃されることを想定しての設計。住民説明会などでも一切知らされてこなかった。
    ……

  • 7面 西之表市長リコール署名 基地「容認」に不信(栗原佳子)

    鹿児島県西之表市の馬毛島への米軍機訓練(FCLP)移転と自衛隊基地整備計画を巡り、市民有志でつくる「市長に辞任を求める西之表市民の会」(三宅公人代表)が、計画「不同意」の公約を破ったとして、八板俊介市長のリコール(解職請求)を目指し、署名活動に取り組んでいる。選挙人名簿登録者数は12月1日現在1万2326人。来年1月1日までの1カ月間で有権者の3分の1以上の署名が集まれば、リコールの賛否を問う住民投票が行われる。過半数が賛成した場合、市長は失職する。          (栗原佳子)
    2011年、日米の外務、防衛大臣による会合(2+2)が馬毛島を自衛隊基地とFCLP候補地として共同文書に明記。19年11月、国は鑑定評価額の約4倍の160億円での買収で所有者と合意した。
    20年8月、防衛副大臣が西之表市に自衛隊基地建設を正式に伝達。今年1月には基地整備を正式決定した。年度内にも本格的な着工を目指すという。約8平方㌔の無人島は「南西シフト」体制下の事前集積拠点、自衛隊初の陸海空統合演習場・訓練場として整備される。馬毛島と種子島の西之表市との間は11㌔しか離れていない。
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  • 8面~9面 袴田さん再審請求 差し戻し抗告審終結(栗原佳子)

     「裁判官は巖に優しく接してくれましたよ」。袴田ひで子さん(89)がほほ笑んだ。
     12月5日、第2次請求差し戻しの即時抗告審が東京高裁で行われ、弟の巖さんは初めて裁判官3人と面談し、審理はすべて終了した。1966年6月に静岡県清水市(現静岡市清水区)で味噌製造会社の専務宅の一家4人を殺したとされて死刑が確定している元プロボクサー袴田巌さん(86)と姉の闘いは、年度内に出される再審の可否を待つ。
     この日、陳述を終えたひで子さんは「巖はね、今朝、裁判官さんに会ったんですよ。昨日、支援者の人が巖を車に乗せてきてくれました。でもホテルで巖が『こんなところに寝られない』と言い出して困ったのですが、支援者が散歩に連れ出してくれました」
     高裁で裁判官3人と対面したが、まだ拘禁症状の影響が強く残る巖さん。「事件はない」「誰も殺されていない」「裁判は終わった。俺は無罪になっている」などと述べたという。さらに「龍(たつ)の時代だ」と言ったが、大善裁判長は「龍って最強ですよね」などと話を合わせたという。ひで子さんは「裁判官さんはわかった振りをして聞いてくれていました」と喜んだ。 会見で記者から「裁判という認識はあるのですか?」と聞かれると、「ないですよ」と笑った。「それでも自分が死刑囚だという認識はあるんではないかな。だから死刑反対と強く言っていたようです」
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  • 10面~11面 ヤマケンのどないなっとんねん「軍事大国化に断固反対」(山本健治)

    この1年も傍観できない様々な問題に直面した。紙幅の関係で絞るが、第1は2月24日にロシアが開始したウクライナ侵略である。第2は参院選終盤の7月8日、安倍元首相が奈良市で演説中、旧統一教会被害者男性に銃撃されて亡くなり、霊感商法などによる高額寄付と家族崩壊や2世問題、その政治団体である国際勝共連合と岸・安倍3代、自民党議員との関係が改めて明らかになったことである。第3はロシア・北朝鮮・中国が軍事的脅威となっているとして、改憲、敵基地攻撃能力保持など自衛隊の軍備増強、防衛費のGDP2%への引き上げ、そのための増税の動きである。第4は大阪をバクチ都市する「IR」について、住民団体が住民投票の実施を直接請求をしたが議論らしい議論をせず否決したことである。
     ウクライナ侵略については日々報道され、破壊と殺戮が依然として続き、市民が傷つき命を落とす一方で、双方の戦死者も増えている。侵攻開始当初は世界でも日本でも抗議行動が行われたが、10カ月もたつとその声は小さくなり、行動もほとんど行われなくなっている。
     殺戮・破壊、掠奪・性暴力などが当たり前の風景になることほど危険なことはない。侵略を止められないことに無力感を感じ、何もしなくなることが戦争と侵略を継続させる最大の原因であり、次の戦争と侵略を呼ぶからである。
     私は少人数でもいいから声を上げようと領事館前で抗議スタンディングをしたり、JR高槻駅前でアピールしているが、いくら抗議行動したり、外交で侵略を終わらせようとしてもできないではないか、勝てないと思わせる軍事力を持たない限り抑止力にはならないし止められない、敵基地攻撃能力の保持や憲法を変えて自衛隊を軍隊にして強化するよりないと言う人物が必ず出てくる。世論調査でもそうした声が強くなっている。
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  • 12面~13面 世界で平和を考える アフガニスタン報告④ 残飯で飢えしのぐ少女(西谷文和)

    「タリバン政権1周年」を迎えた8月、首都カブールは静かな日々であった。「対アメリカ勝利記念集会」などをするのかなと思っていたが祝賀集会はなし。表向きは「人が集まるとテロが起きるから」だったが、本当は「誰も祝おうとしないから」だった。人々はタリバン政治に辟易としていて、食料なし、仕事なし、自由なしの生活を耐え忍んでいた。首都カブールの中流階級でさえもギリギリの貧困生活。貧困層、とりわけ戦争で家を失った避難民たちはどうしているのだろう。
     8月19日、カブール最終日はチャライカンバーレ避難民キャンプを訪問した。毎回ここを訪れるが、やはり悲惨な状況だ。薄汚れたテントが延々と続く。水道なし、電気なし、食料なし、そして屋根もなし。米軍撤退前までは、国連の難民高等弁務官事務所がテントシートを配っていた。人々は泥を乾かして土塀を作り、その上に配給されたテントシートをかぶせて屋根にしていた。 毎年冬になると雪が積もり、その重みでテントシートが破れる。国連がいればまた新しいテントシートが配布されるが、今やその国連がいない、または少人数。なので人々は天井のない粗末な土塀の家で暮らす。夏はまだいい。問題は冬。カブールの冬は寒い。しばしば氷点下20度まで気温が下がる。だから秋のうちに天井を張り替えないとならない。そんな困窮した避難民たちに、なんとタリバンが地代を要求している。ここは政府の土地だから勝手に家を作るな、ということ。
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  • 14面~15面 フクシマ後の原子力 人の姿なき震災復興(高橋宏)

     11月28日、経済産業省が今後の原子力政策の行動計画案を示した。その中で、原発の新増設や安全性を高めた次世代原発へのリプレース(建て替え)を「具体化を進める」と明記した。さらに、現行法で最長60年と定めた運転期間については、延長を可能とする新ルール案まで提示している。脱炭素化などに向けて、原発を長期的に活用する方向性を明確化したのだ。岸田文雄首相が十分な議論もないまま表明した原子力政策の大転換が、いよいよ現実のものとなってきた。
     福島第一原発事故から11年余りがたつが、その処理はいまだに目途が立っていない。今まさに進行中である原発事故を教訓とともに過去のものとするかのような暴挙である。一方で、最近伝えられる原発事故の被災地の様子は、復興が順調に進んでいるかのような印象を受けるものが多くを占めている。遠く離れた関西では、被災地の「今」をリアルに捉えることが難しい。今月号から数回、自分の目と耳で確かめてきたことを報告していきたい。
     11月21日から23日、私は和歌山県平和委員会のメンバー4人と共に、福島県へフィールドワークに赴いた。仙台空港から、レンタカーで海岸線に沿って南下していった。被災地を訪れるのは2013年以来9年ぶりのことだ。当時も仙台市内から車で南下したが、海岸線はまだ大津波被害の跡をとどめていた。だが、今では被害の跡があったエリアのほとんどが更地となり、新しい建物がポツポツ建って様相はすっかり変わっていた。
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  • 16面 沖縄のPFAS汚染 疫学調査と規制求める(栗原佳子)

     体内に取り込まれると長く蓄積されてしまうことから「フォーエバーケミカル(永遠の化学物質)」とも呼ばれ、発がん性などが指摘される有機フッ素化合物=PFAS(ピーファス)。国内では米軍基地周辺や自衛隊施設などで相次いで検出されている。特に被害が深刻な沖縄では市民団体「有機フッ素化合物(PFAS)汚染から市民の生命を守る連絡会」が住民の血液検査を独自に実施。11月25日、参院議員会館で集会を開いて分析結果を公表し、基地立ち入りや疫学調査の実施などを求める要望書を提出した。 (栗原佳子)
    PFASは水と油をはじく性質があるため、フライパンや防水の衣類、空港の泡消火剤などに日常的に使われてきた。しかし、がん、肝機能等への影響、低体重出産などの健康リスクが指摘されている。
     沖縄では16年、県の検査で嘉手納基地周辺で取水する北谷浄水場の高濃度汚染が判明、大きな問題になった。同浄水場は中南部7市町村45万人に水道水を供給している。
     その後も、普天間飛行場やキャンプ・ハンセン周辺で、河川や湧き水などの汚染が判明した。汚染源は基地内と見られ、県は立ち入り調査を要求しているが、米軍側に裁量があり、実現していない。
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  • 17面 「火曜日行動」500回 学ぶ権利 みな同じ(矢野宏)

     毎週火曜日に大阪府庁前で朝鮮学校に対する差別の是正などを訴える「火曜日行動」が12月13日に500回目を迎えた。大阪市中央区の大阪城公園教育塔前に朝鮮学校の保護者や卒業生、日本人の支援者ら約300人が集まり、すべての子どもたちに等しく学ぶ権利を求めた。(矢野宏)
     集会は「高校無償化求める連絡会・大阪」事務局長の長崎由美子さんの司会でスタート。大阪朝鮮中高級学校オモニ会会長の梁淑子(リャン・スッチャ)さんが「大阪のオモニたちは強いです。なぜなら支援してくれる日本の方々、全国からの支援、韓国同朋からの支援、海外に住むコリアン同朋からの支援があるからです。差別に負けず、勝利のその日まで、先頭に立って闘っていきます」と訴えた。
     高校無償化は民主党政権の2010年度に始まった。朝鮮学校への適用を先送りしたまま、その後に発足した安倍政権が13年に拉致問題などを理由に除外した。
     それに先立ち、大阪府と大阪市は学校法人「大阪朝鮮学園」への補助金を打ち切った。当時の橋下徹知事は10年3月、補助金交付の条件として「朝鮮総連と一線を画す」「北朝鮮指導者の肖像画の撤去」などを求めた。学園側は応じて補助金を得たが、12年3月、府は生徒の訪朝を問題視して8080万円の交付をやめた。
    ……

  • 18面 大阪大空襲の証言DVD上映会と落語会 戦争の悲惨さ語り継ぐ(矢野宏)

     新聞うずみ火が制作した大阪大空襲の体験者の証言を記録したDVD上映会と三代目桂花団治さんの落語会が12月10日、大阪市北区のPLP会館で開かれた。11月に91歳で亡くなった「大阪戦災傷害者・遺族の会」代表の伊賀孝子さんの映像に、長女の幸さん(68)は在りし日の母親をしのび、涙ぐんでいた。 (矢野宏)
     太平洋戦争末期、大阪への空襲は50回を超え、うち100以上のB29爆撃機による攻撃を大空襲といい、計8回を数えた。空襲による犠牲者は行方不明者を含めて約1万5000人、重軽傷者は3万人以上と言われている。
     上映に先立ち、証言DVD「語り継ぐ大阪大空襲Ⅱ」を制作した私が大阪大空襲についてパワーポイントを使ってわかりやすく解説したあと、38分間のDVDを上映した。
     映像に登場するのは空襲時6歳から13歳までの4人。その1人、大阪府茨木市の浜野絹子さん(83)は1945年7月10日の堺大空襲(第6次大阪大空襲)で母と弟を亡くした。父親は出征中で、病弱で寝たきりの母親は一緒に避難することができず、当時6歳だった浜野さんを外に出し、家の中から鍵をかけた。
     来場した浜野さんは「母にすれば、私だけでも生き延びてほしいという思いからだったのでしょう。戦争は何の罪のない子どもたちの夢や希望も奪ってしまう。二度と繰り返してほしくない」と語った。
    ……

  • 19面 夢洲カジノ差し止め訴訟 鍵握る「基本合意書」(矢野宏)

    大阪市民5人が市とIR事業者との間で結ぶ土地の定期借地権設定の契約の差し止めなどを求めた「夢洲IR差し止め訴訟」の第2回口頭弁論が12月16日、大阪地裁で開かれた。原告側は市に対し、4月にIR事業者と取り交わした「基本合意書」の提示を求めているが、「協議中の内容が含まれている」と開示を拒否。裁判所に文書提出命令申立書を提出した。(矢野宏)
     この裁判は、市が土地課題対策としてIR事業者に約790億円を支払うことを決めたことが違法であるとし、その契約ならびに費用負担の差し止めを求めている。
     基本合意書は、市の負担や対応について「基本協定書」よりも具体的な内容が盛り込まれている可能性があり、裁判には必要不可欠な情報だ。
     開示請求の前に、原告の一人で名古屋市立大名誉教授の山田明さんが市に対し情報開示請求したところ、「内容が複雑で公開決定することが困難」として1カ月間待たされ、出てきたのは表紙だけ。あとは黒塗り状態だったという。
    ……

  • 20面 チョコレートな人々 「魔法の食材」に託す夢(栗原佳子)

     愛知県豊橋市に本店を置く「久遠(くおん)チョコレート」を舞台にしたドキュメンタリー映画「チョコレートな人々」(東海テレビ放送、鈴木祐司監督)が来年1月、公開される。全国に52拠点を展開する人気の専門店で、作り手の過半数は心や身体に障害があるという。チョコレートは「温めれば何度でもやり直せる」食材。代表の夏目浩次さんはチョコレートを通し、誰も置き去りにしない理想の社会の実現を目指す。鈴木さんは、そんな夏目さんに共鳴し取材を続けてきた。山あり谷ありの19年が丁寧に描かれる。(栗原佳子)
     久遠チョコレートは2014年創業。余計な油分は一切使わない「ピュアチョコレート」の素材、各地の食材を使った看板商品などでファンを拡大、年商16億円(21年度)に成長している。従業員約570人のうち6割は心身に障害があり、子育てや介護中の人も多い。独り親、性的少数者、引きこもりの悩みを抱えた若者。多様な個性が、凸凹を組み合わせるように共に働く。 前史は03年、26歳の夏目さんが商店街の空き店舗で始めた小さなパン屋に始まる。障害者の給与のあまりの低さに驚き、障害者3人を含むスタッフの最低賃金保障に取り組んだ。しかしパンは手間がかかる割に利益が薄い。売れ残りは廃棄。理想と現実との間でもがく当時を追いかけたのが、同世代の鈴木さんだった。
    ……

  • 21面 経済ニュースの裏側 貨客混載進めるべき(羽世田鉱四郎)

     今年は、日本に鉄道が開業して150年。公共交通機関の現状を探ってみます。 
     国鉄の解体 臨時行政調査会(臨調)の答申を受け、1987(昭和62)年、中曽根内閣が分割・民営化を決定。旅客部門は北海道、四国、九州と本州3社(東日本、東海、西日本)に6分割し、貨物部門は全国一元の法人になりました。多くの地方路線や貨物駅、操車場などの廃止や売却を実施。本州3社の長期債務は清算事業団に移し、新幹線は一括所有して本州3社に貸し付ける形に。発足時の人員は、旅客部門が16万8000人、貨物部門は1万5000人。余剰人員3万2000人はリストラ。長期債務は、83(昭和58)年度末、19兆9832億円でしたが、無関係の分まで入れて膨張し、未消化分は、最後に、国の一般会計に組み込まれました(国民の借金)。
     苦悩する労組 改革には、全施労、全動労が全面的に協力し、過激な行動で「鬼」とまでいわれた動労も雇用確保のため協力し、世間を驚かせました。反対の立場を取り続けたのは最大勢力の国労。広域移動(転勤)の実施など、政府や当局の様々な圧力にさらされ、内部崩壊や分裂を繰り返し、18万8000人を数えた組合員も、85(昭和60)年には4万人に急減しました。自治労や国労などが大きな比重を占めた総評や、日本社会党(現・社会民主党)の衰退にも大きくつながっていきます。JR発足の趣旨や意義も「民営・分割化ありき」が前提。後に中曽根元首相は「国鉄改革は労組解体が目的」と白状。原発の導入・普及も含め、彼の「負の遺産」が大きな重荷になっています。 
    ……

  • 22面 会えてよかった 島袋艶子さん(上田康平)

    自治会長と「でいご娘」の活動、
    スムーズだった。自分たち、きょう
    だいもお互い大人になっていたし。
    じっくり楽しんでいるという。
     故郷、読谷村楚辺の慰霊祭で
     「艦砲ぬ喰ぇー残さー」を歌う
     毎年、6月23日には楚辺区でも慰
    霊祭が行われる。そのとき「艦砲ぬ
    喰ぇー残さー」を歌っておられた区
    長さんが亡くなり、それで区の方か
    ら「でいご娘」に歌ってくれないね
    と話があった。区長さんが歌ってお
    られたことは知らなかったし、きょ
    うだいで「もっと早く行くべきだっ
    たね」と、慰霊祭に参加して、「艦
    砲ぬ喰ぇー残さー」を歌った。
     歌碑建立に向けて始動
     翌年、楚辺区の方から、「艦砲ぬ
    喰ぇー残さー」の歌碑建立の話が出
    て、実行委員会が結成され、資金造
    成の取り組みが始まった。実行委の
    企画で、「でいご娘」のCDも作ら
    れ、もちろん自分たちも資金造成コ
    ンサートを開くなど共に活動したと
    いう。
    ……

  • 23面 日本映画興亡史 第3章傾向映画の時代「不良少年の映画でええ」(三谷俊之)

    1910年代、日本に「若き天才の群れ」がいた。美術の領域では、感傷と頽廃の絵で一世を風靡した竹久夢二。孤立し満身創痍の中から歓喜の歌を見つけようとした長谷川利光。高村光太郎が「強くて悲しい火だるま槐多」と書いた村山槐多。幻想と詩感に満ちた関根正二。時代と拮抗し、傷つき斃れしもの歌を乗り越えようとした時代が過ぎたが、昭和を迎えてもまだ映画は「青春」のただ中だった。
     「傾向映画」と呼ばれた映画群があった。『日本大百科全書』(小学館)によれば、「当時の経済恐慌や社会文化状況を反映して、階級社会の暴露や闘争を描いた作品が映画企業から輩出したが、これらを傾向映画と呼んだ」
     「左翼的傾向のある映画」と要約されてもいるが、矮小化するまい。「傾向映画」は、日本映画史の一時期のエピソードにとどまらないのだ。ルポライターで映画評論家の竹中労が「傾向映画とは、日本映画の戦前における集中的表現であった」(日本映画縦断Ⅰ』)と明言するように、マキノ映画や伊藤大輔の「敗北の美学」が傾向映画の先駆けとなる。 関東大震災以降の不況に、世界的な経済恐慌が重なり失業者がちまたにあふれた。昭和2(1927)年には中国の山東半島への軍派遣が始まる。翌3年、共産党員やシンパ千数百名が治安維持違法で一斉検挙。6月には関東軍による張作霖爆殺事件。翌4年3月には衆議院議員・山本宣治が右翼のテロ「七生義団」に刺殺される。暗鬱な時代が始まっていた。
    ……

  • 24面 坂崎優子がつぶやく 見かけない電子商品券

    神戸市では11月、市内在住者向けに「プレミアム付電子商品券」を発売しました。1口5000円で購入すれば6500円分の買い物ができます。スーパーなど多くの店が参加していて日常の買い物に使えるので助かります。
     申し込み数に合わせて1人何口まで購入可能かが決まり、今回は5口が上限となりました。申込者は希望口数の料金をクレジットカードやコンビニで前払いします。決済は〇〇ペイと同じくスマホで行います。ちなみに同様の事業をこれまでは紙のクーポンで行っていました。とはいえ紙の商品券の時もそうでしたが、電子クーポンをお店で使っている人をほとんど見かけないのです。神戸新聞の記事によると、今回の申し込みは12万9000だったそうです。全市民の1割に満たないと考えると見かけないのもうなずけます。
     この事業に参加しているお店の店主は「知らないお客さんが多い」と話していました。情報を得られていない層がいるようです。市の事業は全戸配布の広報紙に掲載されますが「読んだことがない」という人が私の周りには結構います。
    ……

  • 25面~30面 読者からのお手紙&メール(文責・矢野宏)

    障害者支援施設で
    クラスターが発生
      兵庫県尼崎市 向畑聡子
     私が暮らす障害者支援施設でクラスターが発生しました。定員52人。身体障害に加えて知的障害の人がほとんどですが、利用者の半数以上がコロナ陽性者となり、職員の何人も感染しています。
     新聞うずみ火9月号に老人ホーム職員のお母さまが書いていましたが、療養明けを待たずに出勤してもらわないと、介助者が足りないのが現実です。互助会的な組織を通じて施設に支援員が来てくれましたが、それでも足りません。感染を最小限に抑えるためにも、社会福祉協議会などから、要請に応じてヘルパー資格を持って登録している人に陰性者の介助をしてもらうシステムを考えてほしいです。
    ……

  • 26面 車イスから思う事 1カ月の「休養入院」(佐藤京子)

    11月に入院した。最初から期間を1カ月と決めた、いわゆる「休養入院」。介護者に休養を取ってもらうため、一時的に入院することがある。私には介護者はいないが、日常生活に行き詰まった時、一時的に「何もしない時間」を作るため入院することになったのだ。
     ベッドの空き状況で、高齢者・認知症病棟に入った。入院してみると、病棟ごとに独自のルールがあり、驚いたりあきれたり。まず、食事がすべてペースト状で、原形をとどめていない。茶色のペーストの上に緑のペースト。これは何だ? 食べてみると、ハンバーグとブロッコリーのような……。まあこれも1週間の辛抱だと思っていたが、休日の関係で2週間も我慢しなければならなくなった。ご飯はお粥がドーンと140㌘。高齢者病棟ゆえ、誤嚥を避けるためらしい。
     2週間後、歯科医に嚥下の指導を受け、ドロドロ食事から解放された。お粥はご飯になったが、柔らかく炊いてある。それも蒸らしていないような柔らかさ。おかずは、原形を想像できるようになったが、一口サイズにカットされている。このような食事は、2週間後に退院するまで続いた。
    ……

  • 28面 絵本の扉 マーヤのさるたいじ

     昔話と聞いてどんな話を思い浮かべますか。『桃太郎』『浦島太郎』『花咲か爺さん』など、主人公の年齢はさまざまですが、男性が主人公の話が多いです。女性を主人公にしたお話が少ないのに気づきます。今回紹介する日本の昔話は、奄美諸島の沖永良部島に伝わる昔話の再話(さいわ)です。マーヤとは、島言葉で「お姉さん」という意味です。
     ホーラ(川原)のマーヤと呼ばれる姉さまが川で洗濯をしていると、桃の種が流れて来る。それを持って帰り、大きくなれと願いを込めて歌いながら育てる。桃は大きくなるが、高い枝の桃は取れない。マーヤが困っていると、猿がやってきて取ってやるという。しかし、自分だけ熟れた桃を持って帰る。だまされたとわかったマーヤはおむすびをたくさん作って猿退治へ。途中、鳩、蜂、臼、黒い牛に出会う。それぞれに事情を話し、おむすびを一緒に食べようとみんなで猿の家へ向かいます
     この話の展開に、おやっと思われるでしょう。そう、「桃太郎」と「さるかに」に似ています。どちらも力を合わせ、強くて悪賢い者に立ち向かう昔話。しかし、読み進めて行くと少し違うぞ、と気づきます。マーヤは自分でおむすびを作ります。「一つやるからお供しないか?」ではなく、「昼御飯がないなら一緒に猿を退治して最後に食べよう」と仲間を募ります。マーヤは、みんなで力を合わせ猿を退治した後でおむすびを一緒に食べます。
    ……

  • 30面 うずみ火掲示板 大阪大空襲の証言DVD ピースおおさかに寄贈(矢野宏)

    新聞うずみ火は12月15日、平和学習に役立ててもらうため、クラウドファンディングを利用して制作した大阪大空襲の体験者の証言DVD5枚を大阪市中央区の大阪国際平和センター(ピースおおさか)
    に寄贈した。
     映像に登場するのは、1945年7月10日の堺大空襲(第6次大阪大空襲)で母親と3歳の弟を亡くした大阪府茨木市の浜野絹子さん(83)▽12歳の時に第3次大阪大空襲に遭い、家族と離れて一人で逃げているときに爆弾の破片で右ひざに大けがを負った兵庫県西宮市の小林英子さん(90)▽45年3月13日深夜からの第1次大阪大空襲で父親を亡くした大阪府吹田市の森永常博さん(89)▽13歳の時に第1次大阪大空襲で母親と弟を亡くし、自身も顔や手足に大やけどを負った大阪市住吉区の伊賀孝子さん(享年91)。「大阪戦災傷害者・遺族の会」代表だった伊賀さんは撮影から2カ月後の11月に亡くなった。
     伊賀さんの「最後の証言」と他の3人の証言DVDはピースおおさかで視聴できるほか、うずみ火でも小中学校や高校に無償で貸し出し、平和学習に役立ててもらうことにしている。(矢野)

  • 30面 編集後記(矢野宏)

    編集後記

    2022年も残すところ1週間を切りました。あっという間でした。年を取ると1年過ぎるのが早いと感じるのは「ときめいてないから」だそうですよ。ボーと生きていたら叱られる番組で教えてもらいました。ともあれ、この号がお手元に届く頃には大掃除や年賀状書きに追われていることと思います。今年もご購読くださり、ありがとうございます。おかげさまで1号も休むことなく毎月お届けすることができました。▼さて、新聞うずみ火の1面の見出しからこの1年を振り返ってみましょう。まずは1月23日に発行した2月号から。「大阪万博・カジノ最終案 公費負担どこまで膨張」、3月号は「『第6波』大阪コロナ死最多 繰り返す医療機器」、4月号は全世界で抗議の声が上がった「ロシアのウクライナ侵攻1カ月 平和願う心よ届け」、5月号は記念すべき200号「大阪IR国に認定申請へ 増す負担ツケは市に」、新たな一歩を踏み出した6月号も「大阪IR住民投票ラストスパート カジノ反対『市民力』示せ」ーーと2カ月連続で大阪IR・カジノ問題を取り上げました。▼さて、後半。7月号は「参院選後は『空白の3年』 改憲・軍拡阻止へ一票」、8月号はまさかの「安倍元首相銃撃死と参院選 岸田政権 困難の政局」、9月号は元参院議員の平野貞夫さんへの取材からうまれた特ダネ「吉田茂元首相国葬の背景 憲法軽んじる閣議決定」、10月号は「『群馬の森』朝鮮人追悼碑 記憶と反省 撤去の危機」、11月号は反響が大きかった「借金、暴力、そして家庭崩壊 依存症 周囲巻き添え」。▼12月号は「沖縄・与那国島で日米共同訓練 台湾有事 住民に不安」、そして1月号も「安全保障3文書改定の本質 米の戦争に加担の道」。来年こそは明るく楽しい紙面をお届けしたいものです。それでは皆さん、ときめきを忘れず、よい年をお迎えください。     (矢)

  • 31面 うもれ火日誌(矢野宏)

    11月8日(火)
     矢野 午後、せせらぎ出版から大阪IR・カジノのブックレットを出版することになり、岩本恵三社長と打ち合わせ。過去に2度、「大阪都構想」反対のブックレットを出し、住民投票で否決した。今度もカジノ誘致を止めることができるか…。
    11月9日(水)
     矢野 夜、天満天神繁昌亭で三代目桂花団治さんの独演会があり、師匠の二代目桂春蝶さんの十八番だった「糸切り」などを堪能。
    11月10日(木)
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  • 32面 1月21日(土)路上からの反撃「大阪府民の集い」(矢野宏)

     西谷文和さんの「路上のラジオ」が主催する「まだ止められる大阪カジノ 路上からの反撃『大阪府民の集い』」が1月21日(土)、大阪市中央区島之内の市立中央会館で開催される。
     大阪IR・カジノ予定地の大阪湾の人工島・夢洲は大阪市の土地。地盤改良などで莫大な税金がつぎ込まれることになる。西谷さんは「2023年4月の統一地方選でカジノに反対か賛成かの、かつての『都構想』の住民投票のような市長選をすれば、カジノ反対市長の誕生も夢ではない」と語る。
     集いでは、西谷さんと矢野がカジノについて報告した後、市長予定候補を交えてパネルディスカッションを行う。
     当日は午後1時半開場、2時開演。資料代500円。
     会場には地下鉄・堺筋線、長堀鶴見緑地線「長堀駅」から徒歩7分。
     問い合わせは「路上のラジオ」(06・6170・4757)まで。

  • 32面 うずみ火講座 1月28日(土)玉本英子さん「ウクライナ報告」(矢野宏)

     2023年のスタートを飾る「うずみ火講座」は1月28日(土)午後2時から大阪市北区のPLP会館4階で開催する。ロシアに侵略されたウクライナに入り、南部の都市オデーサに1カ月滞在して市民の声を取材した映像ジャーナリストの玉本英子さんが「ウクライナ南部 戦時下の人びとは今」と題して講演する。
     会場にはJR環状線「天満駅」から徒歩5分。
     資料代は1000円、オンライン600円。

  • 32面 年間購読料3960円のお願い(矢野宏)

     先月号でもお知らせしましたが、新聞うずみ火の購読料改定のお願いです。
     2005年の創刊以来、これまでに2度の消費税増税がありましたが、発送費用などを見直すことにより料金改定を行うことなく、消費税内税方式で新聞を発行してきました。しかし、ここにきて印刷代や配送料などが高騰し、消費税内税での新聞発行が難しくなってきました。
     ページ数を減らすことなく、現場の声と読者の声を大切にした紙面作りを進めていくため、2023年1月号から現行の新聞代300円(税込み)とは別に消費税10%をいただくことにいたしました。
     1年間ご継続いただく場合には、これまで3600円でしたが、3960円となります。2023年1月1日以前に継続していただいた場合には、3600円とさせていただきます。
     円安と物価高が進行する中、誠に心苦しいのですが、ぜひとも、ご理解いただきますよう、お願い申し上げます。
        新聞うずみ火 矢野宏
           スタッフ一同

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