新聞うずみ火 最新号

2022年11月号(No.205)

  • 1面~3面 借金、暴力、そして家庭崩壊 依存症 周囲巻き添え(矢野宏)

    カジノを中核とする統合型リゾート(IR)について、市民らの反対運動が広がっている。大阪府・市から申請された整備計画を審査している政府は、この秋にも結論を出す。「カジノはいらない」「計画を認めないで」。切実な思いは政府に届くのか。懸命に声を上げる市民の中に、ギャンブル依存症の家族を抱えて苦しむ人がいた。
     
    ピアノや家具などが差し押さえられた。山口さんはランドセルも買ってもらえず、入学式に着ていく服もない。見かねた叔母が赤いワンピースを縫ってくれた。
     
    父はパチンコから戻ってくると、酒を飲み、病弱な母に暴力を振るうようになった。親戚や知人から金を借りるようになり、サラ金やヤミ金にまで手をつけた。
     
    一家は夜逃げ同然に家を転々とし、6畳2間の市営住宅で肩を寄せ合った。
     
    それでも昼夜を問わず、借金の取り立てがやってきた。
     
    「父ちゃん、どこにおるんや」。土足で上がり込み、父がいないとわかると、腹いせに手当たり次第に物を壊した。窓ガラスや食器が割れるたび、子どもたちは身をすくめた。
     
    夜中、山口さんは突然、お腹を踏みつけられ、一瞬、息ができなくなったことがある。それ以来、あお向けで寝ることができないという。
     
    山口さんは服を買ってもらえないので、体操服で通学していた。でも1セットしかないので、汚れが目立つと恥ずかしかった。洗うと乾くまで学校を休んだ。「台風が来るとうれしかったです。サラ金の取り立ても来ないし、学校も行かなくていいから」
     
    ある日、追い詰められた母が、包丁で父の足を刺した。「返り血を浴びた母の姿が忘れられず、今でもトラウマになっています」
    ……

  • 4面~5面 横浜・寿町の精神科医に聞く 「依存症は誰もがなりうる」(矢野宏)

    東京の山谷、大阪の釜ヶ崎と並ぶ三大寄せ場の一つ、横浜の寿町で、精神科医としてギャンブル、アルコール、薬物などの依存症患者を診てきた越智祥太さんは「依存症は誰でもなりうる病。だからこそ、その環境を作らないことが重要だ」と話す。
     
    なぜ、ギャンブルに依存するのか。そのメカニズムについて、越智さんは「人は『ドーパミン』という神経伝達物質(脳内ホルモン)の働きによって中枢神経が興奮し、快感を覚えます。ギャンブルでしか高揚感が得られなくなり、自分をコントロールできなくなる。結果として、家族や周囲の人を傷つけ、生活破綻に追いつめられるのがギャンブル依存症です」と説明。典型的な例として、「かせいだお金をすべてつぎ込み、ウソをついて借金を繰り返して家族や友人を失う。これまで頑張ってきたという自尊心や経験の積み重ねもなくして野宿生活を送るようになり、寿町にたどり着いた人を何人も見てきました」と話す。
     
    日本には20兆円産業と言われるパチンコ店が約1万店あり、ギャンブル依存症の8~9割がパチンコやパチスロなどでの依存症と言われている。寿町では9割を超えるという。「競馬や競輪では、あまり依存症になりません。レースとレースとの間が空いており、冷静になる時間があるからです。でも、パチンコやパチスロはマシン相手なのでそうはいきません。しかも、どのタイミングで『出る』と快感を得るのか、どのくらいの間『出ない』と深追いするのか、すべて科学的に分析され、コンピューター制御されています。それがさらに進んだのがカジノのスロットマシンです。最初に大勝ちさせて次第にのめり込ませ、あり金を巻き上げるビジネスモデルです。カジノを誘致すれば、間違いなく依存症患者は増えるでしょう」
    ……

  • 5面 博打で大阪潤すなんて(矢野宏)

    この春、市民団体「カジノの是非は府民が決める 住民投票をもとめる会」(もとめる会)が呼びかけた住民投票条例制定を求める署名は21万筆を超えた。請求代表者として署名活動に関わった大阪府豊中市の竹林久榮さん(77)もギャンブル依存症家族の一人だ。「私の原点は、農業をしていた優しい祖父が博打で田畑を失った結果の家庭崩壊と貧困です」と語る。

    竹林さんの母方の祖父は福島県耶麻郡高郷村(現喜多方市)で農業を営んでいた。母は一人娘。田畑は1町(1㌶)あり、村でも裕福だったという。真面目な祖父だったが、博打場に通うようになり、借金のかたにすべての田畑が取られた。村にいづらくなったのだろう、祖父は祖母と母を置いて村を出たという。
    ……

  • 6面~8面 SNS「ヘイト投稿」波紋 コロナ禍 抗議行動は続く(栗原佳子)

    沖縄県名護市辺野古。翁長雄志氏、9月再選した玉城デニー氏と県民は新基地建設反対を訴えた知事を選び、2019年1月の県民投票では7割超が新基地建設ノーを突き付けた。海底の軟弱地盤が判明、完成すら見通せない。しかし工事は止まらない。それでも、県民の地道な抗議行動は深刻なコロナ禍でも続けられている。そんな中、ネット掲示板創設者「ひろゆき氏」がSNSで米軍キャンプ・シュワブのゲート前での座り込みを嘲笑、無知と差別意識をさらけだし、デマをまき散らした。座り込みの現場はどうなっているのか。辺野古を訪ねた。
    ……

  • 9面~11面 安倍元首相「国葬」 反対デモ、当日もあちこち (粟野仁雄)

    国葬取材のために上京したわけではないが、9月27日は東京に居たので現場を訪れた。

    日比谷公園で反対集会があると聞き訪れると、正午頃から日比谷公会堂に近い公園東側の門の方に続々と人が集まっていた。
     
    午後1時出発とされていた約1500人(主催者発表)のデモ隊の行進は、スタート時間になっても多数の警官が「通せんぼ」して出発させない。苛立った中年男性が「お前らなんや、なんで行かせんのや」と怒っていた。
     
    まもなく出発。先頭で横断幕を持ったのは発起人となっていたルポライターの鎌田慧さんと作家の落合恵子さんらだ。デモ隊は「国葬反対」「税金使ってやりたくないぞ」といった声を上げながら、「STOP! 国葬」「追悼の強制は拒否」などと書かれたプラカードやのぼり、ボール紙などを手に銀座方面を回って大手町まで練り歩いた。
     
    一方、「言い出しっぺ」の岸田首相が参列した武道館の国葬は2時から。こうした集会やデモ行進は都内では、前夜も渋谷や新宿などで繰り返されていた。国民は国会も通さずに政権が勝手に決めた「無用の行事」に対して、ぎりぎりまで抵抗を見せていたのだ。
    ……

  • 12面~13面 ヤマケンのどないなっとんねん 世襲議員が諸悪の根源(山本健治)

    岸田首相が首相の椅子に座って10月4日で1年が過ぎた。売り文句の「国民の声を聞く政治」は「自分に都合のいい声だけを聞き、聞いたふりだけして実行せず、言葉だけ並べる政治」で、「決断と実行」など選挙スローガンだと国民の多くが確信した1年だった。支持率は下がる一方で、政権維持の危険水域に入ったと言われるが、それがわからず息子を政務秘書官にして不支持は決定的になった。
     
    田崎史郎氏ら御用評論家は後継者を内外に明確にし、手元で政治教育しようということであり、何が問題なのか、騒ぐ方がおかしいというようなコメントをしていたが、ふざけるな。議員の世襲は単なる後継者問題ではない。政治・権力の世襲であり、それは権力・政治を「私物化」することであって許されていいことではないのだ。
     
    封建時代、将軍や藩主が世襲し、国や領地は俺のものと好き放題して領民を困らせ、時には一揆などが起きたが、その間違いの根本は権力の「世襲=私物化」である。それでヨーロッパでは革命が起き、皇帝や領主らによる封建時代は終わって、みんなが主役の民主主義・共和政の時代になった。それがわからず、21世紀の日本ではまだ議員の「世襲=権力の私物化」がまかり通っている。
    ……

  • 14面~15面 世界で平和を考える アフガニスタン最新報告②(西谷文和)

    タリバン政権になって1年。首都カブールの街から女性たちの姿が消えていた。イスラム主義組織タリバンの下で、外出時にはブルカを被らなければならず、12歳以上の女子は学校で勉強もできなくなった。街で目立ったのはアメリカ製の銃で武装するタリバン兵と物乞いの子どもたち。たまに子どもの手を引きながらブルカの女性が通り過ぎる。これでも首都カブールはマシなのだ。官公庁や国際人道支援組織の本部があるので、そこで働く人には給与が支払われる。地方はもっと悲惨。飢餓状態に絶望し、子どもを殺して自殺する親、子どもの腎臓を売って生活費にする家庭も増えている。困窮する地方都市はどうなっているのか? 中村哲さんの用水路建設の取材も兼ねてアフガン東部ジャララバードを訪れた。
     
    8月16日、カブールに比べてジャララバードはさらに貧困で、様々な問題が横たわっている。街から離れること20分程度、郊外の貧困地区にアリ・ラフマンさん(56)が住んでいる。玄関に9人の子どもが待っていた。13人家族で、11人の子どもがいる。そのうち娘が10人、3人が障害を持っている。訪問時、妻は2人の子どもを病院に連れて行って不在だった。さっそく聞きにくいことを聞かねばならない。
     
    ーー あなたは子どもを売ったのですか?
     
    「はい。タリバン政権になってすぐ」
    ……

  • 16面~17面 フクシマ後の原子力 独断専行まかり通る(高橋宏)

    多くの人が反対や疑問を呈する中、まともな説明が一切ないままに安倍晋三元首相の国葬が強行された。憲政史上に大きな汚点を残しただけではない。今後、検討や議論もなされないまま、為政者がやりたい放題に政策を次々と実施していくことが当たり前になる危機的状況の到来を告げているのである。
     
    それは早くも現実のものとして、私たちの生活を脅かし始めた。10月13日、河野太郎デジタル相が唐突に、健康保険証を2024年秋に廃止し「マイナ保険証」としてマイナンバーカードに統一する方針を発表したことは、その端的な例だ。マイナンバーカードは、かつて大きな問題となった「国民総背番号制」に通じる危険性が払しょくされていない。これまでポイント付加などの「アメ」で普及を促してきたが、現時点で所持率は5割に満たない状況だ。
     
    それを、健康保険証という社会福祉に不可欠な書類を、強引にマイナンバーカードに変更させるという「ムチ」で普及させようというのだ。河野氏は「面倒くさくない日本にする」とメリットを強調しているが、その裏には人々を「管理しやすい日本にする」危険をはらんでいる。慎重な議論が求められるべき大問題だ。それをいともたやすく方針として発表し、既定路線化しようというのである。
     
    岸田文雄首相が原子力政策の大転換を、十分な議論もないまま表明したことを先月号で伝えたが、それを加速するような動きがあった。原子力規制委員会の山中伸介委員長が5日、政府が検討している原発の運転期間延長について、現行の「原則40年、最長20年延長できる」との規定を、原子炉等規制法から削除することを容認したのだ。
    ……

  • 18面 大阪で中国人強制連行犠牲者追悼 日弁連に人権救済も(矢野宏)

    太平洋戦争末期、大阪に強制連行されて過酷な労働を強いられ、命を落とした中国人犠牲者の「第25回追悼会」が10月15日、大阪市港区の天保山公園で行われた。今年は日中国交正常化50周年。参列者は両国の平和の誓いを新たにするとともに、中国人強制連行の歴史的事実の継承を確認した。
            
    市民らでつくる「大阪中国人強制連行受難者追悼実行委員会」(代表・冠木克彦弁護士)が毎年この時期に開催しているもので、25回目。
     
    1942年11月、当時の東条英機内閣は財界からの強い要望を受けて「華人労務者内地移入に関する件」を閣議決定。国内の労働力不足を補うため、4万人の中国人を強制連行し、三井鉱山を含む42の炭坑など全国135の事業所で苦役を強いた。そのうち、死者は6830人に及ぶ。
     
    外務省報告書「華人労務者就労事情報告書」によれば、大阪港に1022人の中国人が連行され、築港での荷役労働や安治川河口のしゅんせつ工事などに就かされた。劣悪な生活環境、食料も十分に与えられず、監督による暴行などによって1年足らずで86人が亡くなったという。
    ……

  • 19面 映画「裸のムラ」 地方はニッポンの縮図(栗原佳子)

    保守王国の石川県を舞台にしたドキュメンタリー映画「裸のムラ」が大阪・第七芸術劇場、京都シネマなどで公開された。富山市議会の不正をテーマにした映画「はりぼて」(2020)の五百旗頭(いおきべ)幸男さんが、富山から石川に拠点を移して取り組んだ最新作。新型コロナ感染拡大の中で、長期県政、ムスリム一家、車で移動しながら暮らすバンライファーなどを取材、家父長制やムラ社会の姿をコミカルに描き、「ニッポンの縮図」をあぶりだした。
    ……

  • 20面 映画「百姓の百の声」 農家という「異国」見聞記(栗原佳子)

    食の原点である「農」。しかし、食卓の向こう側にある「耕す人々」の世界を消費者はどれだけ知っているだろうか。自然と向き合い、作物を熟知する人々とその英知を描いたドキュメンタリー映画「百姓の百の声」が11月19日から大阪・第七芸術劇場で公開される。「ひめゆり」(2006)「千年の一滴 だし しょうゆ」(14)などの柴田昌平監督(59)が、近くて遠い世界の入り口に消費者を誘う。
    ……

  • 21面 経済ニュースの裏側 世界経済の動向(羽世田鉱四郎)

    コロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻など、先が見えない展開になっています。トピックスを中心に世界経済を概観してみます。
     
    米国 コロナ禍のパンデミックは峠を越し、経済が回復基調にあります。2020年半ばに、全労働人口の28・3%にあたる4400万件余の求人もあり、労働需給がひっ迫しています。名目賃金は上昇も、インフレで実質賃金はマイナス。消費者物価指数は、8月で前年比8・3%。政府は立て続けに政策金利を引き上げ、インフレ鎮静化に躍起になっています。GDPの7割が個人消費です。鉱工業も19年後半から持ち直し、住宅とともにGDPの下支えに。
    ……

  • 22面 会えてよかった 島袋艶子⑤(上田康平)

    艶子さんは「1972年、73年、74年は一番大変な、語りつくせない時期だった。必死だった」という。
     交通事故で両親が亡くなる
     73年10月10日、那覇市でのステー
    ジを終え、読谷に帰る途中、宜野湾
    市の国道58号線で両親の乗った車が
    飲酒運転の米兵の車に衝突された。
    母は即死、父は4日後に亡くなった。
     「でいご娘」も活動を始めて10年、
    父もいよいよこれからと言うときだ
    った。父は56歳、母は49歳。母はと
    ってもやさしい人だったという。
     艶子さんは26歳。72年に大学を卒
    業、結婚前でしあわせ一杯の時期だ
    った。そんなときの事故。不思議で
    あるし、両親がいなくなったのが悲
    しかった。憎い加害者より、悲しみ
    が大きかった。

  • 23面 日本映画興亡史 マキノ省三伝(三谷俊之)

    新国劇の沢田正二郎(沢正)と組んだ映画は大当たりとなった。沢正との間に立ったのが作家の直木三十五だ。映画に深い興味を持ち、親しくなったマキノ省三の後押しもあってプロダクション「連合映画芸術協会」を設立。再び沢正を担ぎ出し、製作を省三に依頼して『月形半平太』を撮ることになった。省三は監督を衣笠貞之助とした。これが東亜との決裂の原因となった。 東亜側は「省三はうちの人間であり、東亜の撮影所で撮るのだから,配給権は東亜にある」といい、直木側は「後援者の省三個人に製作を依頼したので、省三が東亜の設備などを使った費用は払うが、配給権は省三であり連合にある」と対立。現場も東亜とマキノ派に別れて対立した。省三は両者に挟まれて苦しんだ。等持院撮影所が火事となりステージが焼失。心のふるさとだった撮影所を失い、阪妻引き抜きなどもあり、東亜を辞めることにした。東亜側はヤクザを使って妨害をしたが、省三は「マキノプロダクション」を創立し大正14年6月、御室天授が丘に撮影所を建てた。
    ……

  • 24面 坂崎優子がつぶやく 諦めを希望に変える

    10月初めに東京に行く用事があり、そのついでに、東京ビッグサイトで開催された「国際福祉機器展」を見てきました。リアルに開催されるのは3年ぶりとのこと。製品を見ながら説明を聞き、試すことができるこうした展示会は、やはり対面が一番です。どの福祉機器も進化していて目を見張ります。中でも開発中、また開発間もない機器の特別企画は印象的でした。
     
    まず目についたのが、立って使用できる車いすです。筑波大学発のベンチャー企業Qolo(ころ)が開発しました。走行型と起立訓練などに使うリハビリ型とがあります。走行型は車いすユーザーを対象にした製品です。高い位置にあるものが取れるなど、座るだけのタイプよりも仕事や日常生活の幅を広げます。また立ち上がる動作ができることで、股関節が固まるのを防ぐなど、運動機能も高めることができるといいます。
     
    これまでも起立できるものは作られていたそうですが、スムーズに立てなかったり、価格が高かったりと問題点がありました。Qoloの製品は使用者の立ち上がろうとする動きに応じたアシストを行います。電気は使わずバネの力と本人の体の傾きを使うため、従来のものよりも大幅にコストを下げることができたとのこと。
    ……

  • 25面~ 読者からのお手紙&メール(文責・矢野宏)

    ストレス多い教師
    次男が硬膜下血腫

       大阪府 柏節子
     
    新聞うずみ火、毎月ありがとうございます。世の中に次々と起こること、テレビだけの情報だけでは不安ですが、大事なこと、忘れてはいけないことを教えてもらっています。
     
    それにしても、読者も含めてコロナに感染されたこと、大変でしたね。やはり、密になることは危険なのですね。
     
    実は、うちの大黒柱の次男が学校で倒れました。硬膜下血種でした。今は自宅で療養中ですが、教師はストレスの多い仕事ですから心が痛みます。
     
    私は健康を維持するだけでひと仕事です。心のバランスを取るために、これから地域の文化祭、「クレーの会」と絵手紙、大人の塗り絵と、地域の仲間と出展に向けて取り組んでいます。
     
    そうそう、新聞うずみ火の中に知った人の名前を見つけ、ニコッとしています。
     
    (その後、息子さんの容態はいかがですか。くれぐれもお大事になさってあげてください。絵手紙を同封いただき、ありがとうございます。ホッとしますね)

    ……

  • 26面 車イスから思う事 ささやかな幸せ(佐藤京子)

    携帯電話が壊れた。必要不可欠なものだけに、これには困った。まず、当たり前だが電話できない。ネッㇳも使えない。放置しておくわけにもいかないので、店を探さなければならない。数日ぶりにパソコンを開き、着いたところはパソコンの販売も兼ねている店だった。駐車場があり、平地なので、とりあえずはひと安心。意外と言うと失礼だが、なかなかバリアフリー化されている。久しぶりに車イスでのトラブルもなし。最近、通路の狭いお店が多く、「すみません」を連発していた。
     
    低いカウンターで、説明を受けた。修理するにしても、新調するにしても、いろいろと手続きがあるようだ。待っている間にトイレへ行くと驚いた。扉が広くて引き戸だ。ああ、このお店は車イスの客がいることを想定していると感じた。何だか少し嬉しくなった。こんな小さいことでもなかなか街の中では広がらない。外出するにも、トイレがあるかどうかが気になるのだ。そんなことを気にしていると結局、出不精になる。外出が楽しくない。
    ……

  • 27面 絵本の扉 メアリー・スミス(遠田博美)

    表紙の口を膨らませてストローの様な物をくえている女性の職業は何だと思いますか?「彼女は、月曜日の朝の夜明けを待たずに家を出て町へと急ぎます」……。彼女の名はメアリー・スミス。少し硬いゴムのチューブを背負い、小さな豆をポケットに入れて、寝静まった町へ向かいます。
     
    一軒二軒と通り越し立ち止まると、ポケットから豆を取り出し、チューブに詰め込み、プッとひと吹きする。豆はカチン!とパン屋の窓に命中。コツン!今度の豆もまたまた命中。その時、部屋に灯りがともり、パン屋が顔をのぞかせ礼を言う。その後、車掌、洗濯屋、魚屋などの家々をずんずん歩いて起こして行く。そして、最後に向かったのは市長。彼女がいないと町は眠りに付いたままで何も始まらないと礼を言う。その通りと彼女はうなずき、7時7分発の汽車の汽笛を聞きながら動き始めた町を後に家路に向かう。ところが、自宅に戻った彼女は、びっくりする出来事に出合うのです。
     
    メアリーの仕事は「ノッカー・アップ(めざまし屋)」。イングランドなどでは、精度の高い目覚まし時計が容易に手に入る1920年代の終わりまで存在したと言われています。依頼者が睡眠から目覚め、仕事に速やかに行けるために必要不可欠でした。こん棒で窓を叩いたり、メアリーのように、豆鉄砲を使ったり。報酬は一軒につき数ペニーで、依頼者が目を覚まして窓や扉を開けるまで立ち去ることはなかったとか。
    ……

  • 30面 編集後記(矢野宏)

    住民の合意なき大阪IRカジノ誘致計画を止めるべく、大阪市が大阪IR株式会社に誘致予定地の夢洲の土地を貸す「定期借地権設定契約」の差し止めを求めた裁判が10月18日、大阪地裁で始まった。原告は名古屋市立大名誉教授の山田明さん(大阪市淀川区在住)ら5人。

    夢洲は言わずと知れたごみの島。土壌汚染や液状化の可能性があるとして、市は約790億円の負担を決定した。山田さんらは「過大な支出を軽減する地方財政法などに違反する」として住民監査請求したが、「合議不調」となったため、提訴に踏み切ったのだ。

    「監査請求で大阪市は居直ったかのような姿勢だった。公共事業や地方財政を研究してきた者として、底なしの財政負担をするリスクは看過できない」。日ごろ柔和な山田さんが語気を強めた。奇しくもその日は、誘致の是非を問う住民投票を求めた府民の直接請求が臨時府議会で否決された日だった。法定数を大きく超える21万筆の署名が寄せられたのに、わずか半日の審議で即日採決。府民の願いは門前払いさながらに退けられた。
    ……

  • 31面 うもれ火日誌(矢野宏)

    9月13日(火)
     矢野 午後、クラウドファンディングで資金を呼びかけた空襲体験者の証言DVD「語り継ぐ大阪大空襲②」の制作で、ABCリブラのディレクター尾川浩二さんと妻の由佳里さんとピースおおさかへ。第1次大阪大空襲で母と弟を亡くし、自らも顔や手などに大やけどを負った「大阪戦災傷害者・遺族の会」代表の伊賀孝子さんにインタビュー、撮影。
    9月14日(水)
     午後、茶円敏彦さんが宛名のラベル張りのお手伝いに。
    ……

  • 32面 うずみ火講座 「旧統一教会とは何か」有田芳生さん

    ■10月29日午後6時半~

    旧統一教会を40年にわたって取材しているジャーナリストで前参院議員の有田芳生さんの講演会は10月29日(土)午後6時半~大阪市立住まい情報センター・ホールで開講します。演題は「旧統一教会とは何か~安倍元首相暗殺事件の背景」です。
    オンラインで視聴される方はウェブサイト「うずみ火商店」で検索してお申し込みください。
     
    市立住まい情報センターは、地下鉄谷町線・堺筋線、阪急「天神橋六丁目駅」③出口すぐ。
     
    資料代は1000円、オンライン600円

    ■11月12日午後2時~

    在日コリアンが多く住む京都府宇治市のウトロ地区のフィールドワークを11月12日(土)に行います。ウトロが「京都飛行場建設」に携わった労働者の飯場であったこと、戦後差別を受けながらも民族教育を続けてきたことなど、ウトロと在日コリアンが歩んだ歴史を学びます。
     
    午後2時に近鉄京都線「伊勢田駅」改札口に集合。
     
    いずれも参加希望者は「うずみ火事務所」まで申し込みください。

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