新聞うずみ火 最新号

2020年11月号(No.181)

  • 1面~3面 大阪市廃止 11月1日住民投票 重い選択 市民動く(矢野宏、栗原佳子)

    政令指定都市の大阪市を廃止し四つの特別区に分割する、いわゆる「大阪都構想」の賛否を問う2度目の住民投票が告示され、大阪市内は11月1日の投開票に向け、激しい論戦が展開されている。各種世論調査では賛否は拮抗している。僅差で反対が上回った2015年5月の住民投票から5年。再び重い選択を迫られる市民の動きを追った。

    鐘や太鼓の軽快な「天神囃子」に乗せて、何十本ものピンクのプラカードが上下する。「大阪市廃止に反対」。大阪・ミナミの繁華街を東西に流れる道頓堀川で、告示後初の日曜日となった10月18日、「大阪都構想を考える市民の会」(綱島慶一会長)が企画した水上パレードが行われた。   参加した78人は湊町船着場から日本橋までの約1㌔を2往復。スピーカーから天神祭りのお囃子や、「大阪市歌」(1921年制定)を流しながら、川沿いの遊歩道などを街歩きする人やすれ違う船の乗客に「大阪市を守ろう」と呼びかけた。

    見た目にも楽しい、水都・大阪らしいアピール。市民の会の綱島会長は、告示目前の10日に御堂筋を700人が歩いた
    「大阪市反対を訴えるサイレントデモ」の実行委員長も務めた。

    市民の会は4月に東住吉区の住民が結成。コロナ禍にもかかわらず、情報も不足したまま住民投票実施が現実味を帯びていくことを懸念、6月には延期と詳しい説明を求める要望書を大阪府知事や大阪市長、府議や市議に送った。8月には東住吉区で、元大阪市議の柳本顕さんを講師に迎え「『都構想』を考える集い」を開いた。

    中立の立場で、賛否の意見を聞くため、維新市議にも出席を呼びかけたが断られた。

    「大阪都構想」について自前で勉強会を重ねていく中で、綱島さんら市民の会は一つの結論にたどり着いたという。

    「変えることは良うなることという期待感もわかるが、今回だけは違う。かつての橋下徹知事が言った『大阪市から権限とお金をむしり取る』、それが『都構想』の本質。読み・書き・そろばんができる人なら、みんな反対するはずや。読まないから賛成なんや」

    水上パレードと同じころ、ミナミでは、大阪維新の会代表の松井一郎市長と代表代行の吉村洋文府知事、公明党の山口那津男代表がそろって街頭演説を行っていた。

    公明党は5年前の住民投票で大阪市廃止に反対したが、今回は一転して賛成に。昨年春、府知事・市長を入れ替えるダブル選で圧勝した維新が、衆院選のすみ分け解消をちらつかせたためだ。

    水上パレードに参加した市民の中に元大阪市立大教授の木村収さん(84)=東住吉区=の姿があった。「道頓堀川から船で道頓堀の街を仰ぎ見るのは初めて。橋の上から手を振って賛同してくれる人たちに元気をもらいました」とほほ笑む木村さんは大阪市役所で財政局長などを歴任、退職後に研究者の道に進んだ。「都構想」の設計図である協定書を作成する「法定協議会」を37回すべて傍聴した市民の一人だ。

    「多数会派によるシナリオ通りの進行で、少数派の異論は法定協の目的に反するとして排除される、きわめて政治色の強いものでした」

    こうして出来上がった協定書の中で、木村さんが問題視する一つが一部事務組合だ。
    市町村などが行政サービスの一部を共同で行うことを目的として設置する組織で、特別区同様に特別地方公共団体。協定書では150以上もの事務・事業を共同処理する例のない「マンモス一部事務組合」が生まれることになる。

    特に木村さんがあぜんとしたのは、超高齢社会において、核心的な業務である介護保険事業が一部事務組合へ丸投げされていたことだった。

    「東京23区では介護保険事業をそれぞれの特別区が担っていますが、大阪の特別区では直接所管できない制度設計になっています。一部事務組合には議会が置かれますが、介護保険事業をはじめとして多種多様で相互に関連のない事務・事業を行う一部事務組合の運営に、議会がどのように関与できるのか大いに疑問です。いずれにせよ、一部事務組合が複雑で、市民の目が届かない存在になることは確かです」
    ……
         

  • 4面~5面 反「都構想」学者会見「大阪市廃止の危険性」(矢野宏)

    大阪市を廃止し四つの特別区に分割する、いわゆる「大阪都構想」の賛否を問う住民投票に向け、防災や行政、地方財政などを研究している学者26人が10月11日、大阪市内で記者会見を開き、それぞれの専門分野から「都構想」の危険性を訴えた。呼びかけ人の一人である京都大大学院の藤井聡教授が「メディアでイメージ論が振りまかれ、このままでは大阪市民が適正に判断することが困難。今求められているのはリスクを明らかにするインフォームドコンセント(説明と同意)だ」と指摘。この日までに全国の学者130人から所見が寄せられていることを公表した。以下、記者会見に出た学者のうち主な発言を紹介する。

    関西の活力失う

    ■藤井聡・京都大大学院教授(公共政策論、国土・都市計画)
    「大阪都構想」と呼ばれる過激な行政改革は、あらゆる学術的視点から考えて「論外」としか言いようがない。第1に、大阪市の廃止は「生き物」である都市、一つの社会有機体の「死」を意味し、柳田国男が徹底批判した、いわゆる「家殺し」(文化形態の破壊)に他ならない。第2に、大阪市民が税金の支払いを通して享受している厚生水準が大きく損なわれる。第3に、大阪市という大きな活力を携えた共同体の解体で、それによって支えられていた大阪はもとより、関西、日本の活力と強じんさが失われ、大きく国益が損なわれる。

    防災の考慮なし

    ■河田恵昭・京都大名誉教授(防災学)
    今回の都構想では特別区の区割りや大阪府との役割分担において、防災や減災がまったく考慮されていない。南海トラフ巨大地震が発生したら、大阪市の半分が水没する。四つの特別区も新淀川区は淀川で分断され、区全体で一緒に動けない。5万人を超える犠牲者が出ると言われているが、天王寺区は浸水しない。なぜ、こんな不平等な区割りをするのか。行政はゼニ勘定ではなく、住民の生命を守ることを第一に考えなければならない。

    権力闘争の産物

    ■冨田宏治・関西学院大教授(政治学)
    「都構想」を支えている論理は、かつて橋下徹市長が言った「多数決こそ民主主義」という思想だ。だが、民主主義の本質は「熟議」であり、数の力で押し切る多数決ではない。政令市である大阪市を廃止して、村以下の権限と財源しかない特別区に分割するという「都構想」はそもそも熟議による合意形成の対象となり得る代物ではない。禁じ手とも言うべき知事と市長のクロス選、公明党の不可解な方針転換という熟議を欠いた政治過程の末の住民投票。背後には維新、首相官邸、創価学会本部の間のパワーゲームの影が見え隠れする。

    分割時は大混乱

    ■木村収・元大阪市立大教授(地方財政学)
    「都構想」の法定協議会を37回すべて傍聴したが、学識経験者の意見も聞かず、市民団体も交えず、議員だけで案を作ったことは論外だ。合併を足し算とすると、分割は割り算でまったく次元が違う難問だ。大阪市の廃止と4分割を2025年1月1日に設定しているが、前日までずっと各役所で公務が続いていることが考慮されていない。府職員2000人がWTCに移るだけで15億円かかった。3万5000人の市職員を分割移転する費用を13億円しか計上していない。しかも正月に一気に市を廃止・分割することは不可能であり、行政に未曾有の混乱をもたらす。

    コロナ危機助長

    ■山田明・名古屋市立大名誉教授(地方財政学)
    大阪市廃止・特別区設置は「大阪府による大阪市の乗っ取りである」ことは明らかだ。特別区の権限と財源はきわめて脆弱で、住民サービス低下は避けられない。介護保険は特別区でなく、「一部事務組合」が担当し、高齢社会に対応できない。コロナ禍での住民投票の強行が「大都市法」に違反するとして、関連予算の執行停止を求めて住民監査請求を行った。大阪市廃止・解体は大阪だけでなく、コロナ危機の日本社会に混乱をもたらす。いま求められているのは、足もとからの持続可能な街づくり、コロナ対策である。
    ……

  • 6面 「大阪都構想」を考える連続講座「嘘まみれの協定書」(矢野宏)

    新聞うずみ火主催の「『大阪都構想』を考える連続講座」第4弾が9月25日、大阪市中央区で開かれ、「都構想」の設計図である協定書について議論する法定協議会をすべて傍聴したフリージャーナリストの幸田泉さんが「看板に偽りあり~大阪都構想」と題して講演した。

    法定協議会は大阪府知事と大阪市長、府市両議会の各会派の議員ら計20人で構成され、2017年6月から20年9月まで計37回開かれた。昨年4月の統一地方選で大阪維新の会が議席を増やし、法定協議会で委員の過半数を握った。すべてを傍聴した幸田さんは「維新による『大阪市の廃止、分割ありき』の出来レースだった」と指摘する。

    何が行われたのか。幸田さんは「前回の住民投票で明らかになった『メリットがわからないから』『市民サービスがよくならないから』『行政のムダ減らしにならないから』との反対理由を一つずつ潰す作業を行った」と振り返る。

    メリットがわからないのなら見せようと、東京の嘉悦学園に1000万円で調査を委託。「制度移行による歳出削減効果が10年間で1兆1000億円に上る」との調査結果が公表されたが、いくつもの間違いや疑問点が専門家から指摘されている。

    市民サービスが低下するのではないかとの不安を解消するため、協定書に「市民サービスを維持する」と明記された。幸田さんは「5年前はサービスが低下するかわからないから書けなかったのに、今回は約束できないことを書いた。虚偽だと思う」と批判した。

    行政のムダを減らせるのかとの疑念を持たれたのは、新たに設置される特別区の本庁舎を建てる費用が600億円かかるため。特別区の淀川、天王寺区の一部部署を市役所本庁舎(中之島庁舎)に配置することで新設を見送り、241億円に抑えた。

    「淀川区では本庁舎の職員80人に対し880人が、天王寺区も本庁舎の150人を上回る580人が、区をまたいだ中之島庁舎に間借りする。これで住民へのきめ細やかなサービスができるのか、災害時に対応できるのか疑問です」

    さらに、今回の協定書には「区役所は残る」とも明記された。
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  • 7面 大阪市廃止 元副知事が解説「府民にとって不幸せ」(栗原佳子)

    大阪市廃止ってどういうこと? 市民レベルのミニ集会や講演会などが市内各地で開かれている。大阪市東成区で10月10日、市民グループ「すっきやねん大阪」が開いた集会では元大阪府副知事の小西禎一さんが解説した。小西さんは橋下府政改革チームのリーダーで「都構想」の制度設計にも携わった行政のプロ。要旨をお届けする。

    「都構想」「府市合わせ」「二重行政」、推進派がばらまく三つの言葉の幻想がある。 賛成多数になっても「大阪都」にはならない。地方自治法の条文にも「二重行政の解消」「成長を加速」などの文言はない。二重の意味で「都構想」という表現は誤りだ。

    府と市はいつもけんかしている「府市合わせ(不幸せ)」。大阪市がなくなればスピーディーに知事が決め成長が加速すると推進派はいう。

    だが、府市は協力して都市基盤整備や産業振興をはかってきた。確かに磯村隆文市長と太田房江知事が言い合いをしたこともあるが、行政は知事と市長だけがやるのではない。大阪市と府の立場の違いがあり意見が一致しないことがあるのは当然で、その不一致を協議調整して一致点を見出すことによって住民にとってよりよい選択をすることができる。「府市合わせ」で市がなくなれば成長が加速するというのは論理的に間違いだ。

    また、推進派は司令塔を一元化することで物事が早く進むという。しかし、地方自治制度は都道府県と市町村の二層制。大阪府と市町村が協力連携して地域の発展、安全安心の確保、福祉の向上をはかっていく。司令塔の一元化というなら、大阪の成長に特別区や市町村は関わってはいけないということになる。地方自治制度に反している。

    二重行政として推進派がいつも挙げるのが市のワールドトレードセンター(WTC)と府のりんくうゲートタワー。バブルに踊らされた施策の失敗で二重行政だったからではない。インテックスと国際会議場も二重行政だというが、国際会議を持ってこようと思ったら展示場と会議場は両方必要だ。図書館も体育館も二つある方が市民にも府民にもいいはずだ。しかも松井市長は議会で「いまは二重行政はない」と答弁している。
    ……

  • 8面~9面 ヤマケンのどないなっとんねん「前政権より悪い『特高内閣』」(山本健治)

    菅義偉内閣が発足して1カ月がたった。予想通り派閥配慮・安倍居抜き亜流内閣であるが、亜流はもっと悪くなるというが、その通りになっている。菅首相は第2次安倍内閣発足以降、官房長官として公安警察経験者を官房副長官や管理官・局長に据え、戦前、特高警察や憲兵が幅をきかしたような布陣を敷くとともに、官僚人事を一元掌握して官邸独裁体制を確立させた。首相になって、これをさらに強固なものにしようとしていることは言うまでもない。日本学術会議会員任命拒否は、そのはしりだろう。

    学術会議は、学問や言論の自由を奪い、学者・研究者に戦争協力させた結果、国が暴走し、悲惨な敗戦を迎え、学問・科学研究も遅滞したことを反省し、学者・研究者に自由に発信・発言し、国に学問や科学のあり方を提言してもらうということで1949(昭和24)年に発足したものであり、戦争協力・軍事研究しないことを原則にしたのは戦争時代の反省からで、当たり前のことであることを忘れてはいけない。

    今回の任命拒否で、33(昭和8)年の京大・滝川事件、35年の美濃部達吉・天皇機関説事件や、矢内原忠雄事件、津田左右吉事件など、昭和戦争時代の一連の学問弾圧事件を想起しないわけにはいかない。私は立命館で学んだので、京大・滝川事件で滝川先生とともに辞職させられた末川先生から、当時のことを聞かせてもらったことがある。「政府が学問や言論を弾圧するようになると時代は暗黒になる。何としても学問の自由、言論の自由は守らねばならない」と力説されたことを昨日のように思い出す。

    学術会議には10億円もの予算が使われているのだから、前例通りにする必要はなく、体制や活動内容なども見直す必要があると述べ、任命しなくても違法ではない、学問の自由とは関係ないと述べて理由を明らかにしようとせず、問題化してくると名簿は見ていない、判断したのは杉田和博官房副長官だと逃げを打ち、野党がそれでは杉田氏を国会に呼んで理由をただしたいと言うと、官房副長官が国会出席した前例はないと言い出した。菅首相は就任と同時に前例主義は排除すると述べたが、不都合なことは前例を盾に拒むのだからご都合主義と言う他はない。10億円の予算を問題にするなら、マスコミ対策、コメンテーター買収や国内のさまざまな分野で諜報活動するため毎年10億円以上も使いながら中身も領収書も一切公表しない「官房機密費」のすべてを明らかにしてから言ってもらいたい。

    首相官邸・内閣官房の秘密警察的活動の中心が、元警察庁警備局長・元内閣情報調査室長を歴任した杉田官房副長官で、安倍第二次内閣発足以来、この職にあって、今回の学術会議会員任命拒否についても中心的な役割を果たした。首相は名簿を見ておらず、副長官の判断だとしているが、首相の責任を避けるための言い逃れであって、杉田官房副長官が戦前の思想調査のようなことを行い、任命拒否された学者研究者たちが安倍政権が強行した防衛機密保護法や安保法制に異議を唱えたりしたことや日頃の研究や論文、講演内容などを調査・進言し、菅首相が任命拒否を判断したことは間違いないだろう。今回だけではない。前川元文科次官が辞任に追い込まれた時も、彼らが暗躍している。首相官邸には何人もの公安上がりの職員がいる。
    ……

  • 10面~11面 「袴田事件」姉ひで子さんに聞く「無実信じることが親孝行」(ジャーナリスト 粟野仁雄)

    元プロボクサーの死刑囚、袴田巌さん(84)は2014年3月、静岡地裁の再審開始決定で48年ぶりに釈放されたが18年6月に東京高裁に決定は取り消され、現在、最高裁に上告中。拘禁症の影響の残る巌さんと浜松市で暮らす姉ひで子さん(87)に様子をうかがった。

    ●毎日、巌さんは散歩されるんですね。この夏の猛暑でもですか。

    雨だろうが猛暑だろうが毎日午後1時ごろ家を出て6時ごろに戻ります。木陰や冷房のきくところで休んだりしながら。本人にとっては散歩ではなく浜松から「バイキン」を追い払うパトロールですね。最初は一人で歩いていましたが、ある日、階段で転倒して救急車が出てからはボランティアの「見回り隊」の方々が交代でついてくれます。巌はラーメン店で食べて1万円払って「釣り要らない」なんて言ったりして困りましたが、今はしません(9月末の取材日に巌さんを迎えに来た女性によれば、最近は植え込みに500円玉を置いたり、近所の子供に小銭をあげたりするとか)。自分ができなかったことをやりたいのかもしれません。巌は寡黙で何も言いませんけど。

    巌は糖尿病で、私や見回り隊の人が毎日インシュリンの注射を打ちます。甘い物が好きなので気を付けないと。私は健康で、2人ともよく食べます。

    最初、いつまでもトイレから出ないので心配したけれど、気づきました。3畳の独房で腰掛けられる場はトイレだけ。ソファよりトイレが落ち着くみたい。外出ではたくさんのちり紙を丁寧にたたんでポケットに入れます。汗を拭くのもちり紙です。タオルは使えなかったから(拘置所は自殺防止のためタオルが渡されない)。今の世に合わせさせるんじゃなくて巌の長年の生活を壊さず、好きにさせています。2人だけの時はあまり会話はしません。私は晩御飯を食べない習慣で早く寝ますけど、巌は自分で風呂を沸かして「沸いたよ」って起こすんですよ。

    ●6年前、釈放後初めての巌さんの記者会見に行きましたが、バイキンや西郷隆盛や松尾芭蕉などが脈絡なく飛び出しました。

    皆さんは「しばらくすれば正常に戻るから」って言ってくださったけど、拘置所で接見していた私はそう思わなかった。「姉なんていない」って言ってました。50年近くも閉じ込められ、いつ殺されるかに怯える毎日。ああなって当然ですよ。おかしくなったのは隣の独房だった死刑囚の刑が執行された頃からでした。「きのう、処刑があった。『皆さん、お元気で』って言ってた」と興奮して話しました。それからは「天狗がいる」「電波が来る」などと妙なことを言い出しました。長く面会も拒否されました。私は巌を精神科医に診せたりしません。世の中の人に巌のありのままを見せます。それが国家権力へのせめてもの抵抗なんですよ。

    ●静岡地裁の村山浩昭裁判長は、再審開始決定書の理由で明確に警察の捏造の可能性を指摘しました。警察が事件翌年に「袴田巌が犯行時に着ていて味噌樽に捨てていた」と提出した衣服のことですね。

    弁護団の小川秀世事務局長から「捏造だと言っては駄目」と言われ、私も「捏造だ」とか「でっち上げ」なんて言わないようにしていました。ところが村山裁判長が捏造と、はっきり言ったから驚きました。高裁は私だけで行きました。棄却された文書もまず最後のところだけ見ましたよ。再収監はされないとわかって安堵しました。私はそれだけでうれしかった。弁護団や支援の方たちはがっかりされていたけど、私は「100年でも頑張ります」と元気でした。

    ●巌さんは袴田事件のことを聞かれると「事件なんかないんだ」と言われます。 

    記憶から消したいのかもしれません。事件や裁判のことは、巌に聞かれない限りは話題にしないのでよくわかりませんけど。死刑囚のままではなく再審無罪になってほしいけども、裁判のことは弁護士さんにお任せしています。私の使命は巌をしっかりと見守ること。100歳まででも生きてほしいから。  

    拘置所で洗礼を受けた巌さんは去年の秋に来日したローマ法王(フランシスコ)に会いに東京ドームへ行ったんですね。
     
    せっかく招待されたのに「行かない」と言い出してはいけないので、1週間前に東京に連れて行ってホテルに缶詰めにしましたよ(笑)。ドームには大きなスクリーンもあってよく見えました。彼は「自分はローマ法王だ」と言ってましたが、上京後、言わなくなったんです。本物を見た感想は話さないけど巌なりに思うところがあったんでしょう。
    ……

  • 12面~13面 フクシマ後の原子力「任命拒否は学問の冒涜」(新聞うずみ火編集委員 高橋宏)

    菅義偉首相が誕生してから1カ月余りが経過した。「安倍政権の継承」を基本方針に掲げて発足した菅政権だが、このわずかな期間だけで、継承どころか前政権を「踏み台」にして一層強化させた、戦前回帰の独裁政治を思わせる動きを見せつけてきた。その最たるものが、日本学術会議の任命拒否問題である。

    「学者の国会」と言われる日本学術会議が第25期を発足させるにあたって、新会員候補105人を推薦したところ、菅首相がそのうち6人の任命を拒否したというものである。しかも、拒否の理由は一切明らかにされていない。拒否された6人に共通するのは、いずれも人文・社会科学の研究者で、安全保障関連法や共謀罪を創設した改正組織犯罪処罰法に異論を唱えたことだ。

    日常的にはあまりなじみのない日本学術会議について、簡単に紹介しておこう。日本学術会議は、1949年に内閣総理大臣の所轄の下、政府から独立して職務を行う「特別の機関」として設立された。日本学術会議法はその前文で「科学が文化国家の基礎であるという確信に立って、科学者の総意の下に、わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命とし、ここに設立される」とうたわれている。つまり、戦前の科学者たちが戦争を止められなかったばかりか、ある意味で加担までしたことへの深い反省に立って、設立されたものなのだ。

    内閣総理大臣の所轄で、経費は国庫負担となっているとはいえ、前出法の第3条に「日本学術会議は、独立して(略)職務を行う」とあるように、政府とは独立した立場から政府の諮問を受け、勧告する組織であった。それゆえ、そのメンバーは日本学術会議が推薦し、内閣総理大臣が任命してきた。これは、天皇が内閣総理大臣を「国会の指名に基づき任命」することと同様のものだといえる。

    これまでは、83年の中曽根政権当時の政府答弁「形だけの推薦制であって、学会のほうから推薦をしていただいた者は拒否はしない、その通りの形だけの任命をしていく」にのっとって任命がされてきた。それを今回、菅首相は破ったのだ。しかも、この問題を扱った国会質疑では、任命拒否することが「あり得る」という法解釈を示す文書が存在するのか問われた内閣府法制局は、「見当たりません」と回答しているのである。

    日本国憲法は第23条で「学問の自由は、これを保障する」と定めている。大日本帝国憲法を改正したものが今の憲法であるが、この条文は旧憲法にはなかった。一般的に「学問の自由」は、誰でも自由に学ぶことができる権利だと思われているようだが、それだけならば第19条の「思想及び良心の自由」の定めで十分なはずである。あえてこの条文が定められた理由は、大学の自治など、自由を担保するための制度的保障のために他ならない。学問への政治介入、あるいは学問の政治利用などを許さないためだ。菅首相の行為は、学問の在り方を揺るがす大変な問題なのである。

    もちろん、日本学術会議に全く問題がないというわけではなかろう。しかし、任命拒否問題が明らかになってから、(あえて言わせてもらうが)「御用文化人」や「御用メディア」が日本学術会議批判を声高に触れ回っていることに重大な危惧を感じる。フジテレビの番組で、「上席解説委員」が「学術会議OBは自動的に日本学士院会員になり死ぬまで250万円の年金をもらえる」という偽情報を公然と流すなど、目に余る状況が続いている。それが、問題をすり替えて日本学術会議を行政改革の対象にしようとしている菅政権を、バックアップしていることは明らかだ。
    ……

  • 14面~15面 世界で平和を考える「飢えているから紛争になる」(フリージャーナリスト 西谷文和)

    今年のノーベル平和賞は国連食糧計画(WFP)に贈られた。受賞を伝える新聞の大きな見出しを見ながら、私は11年前のアフガニスタンを思い出していた。2009年10月、自民党から民主党へ政権交代した直後の日本から岡田克也外務大臣(当時)が首都カブールにやって来た。これは自民党政権では考えられなかったこと。「テロとの戦い」と称するアメリカの無差別空爆に日本は協力していいのか。まずは現地を見て確かめようという趣旨だったと思われる。たまたま現地にいた私は、岡田外相が小学校を視察する模様を撮影。大臣とともにやってきた読売、朝日、毎日、NHK、共同通信の記者と挨拶を交わし、情報を交換した。記者たちは大臣とともに帰国していったが、共同通信だけが残った。なぜか?

    「医師でペシャワール会現地代表の中村哲さんが平和賞の候補になっている。獲得したら真っ先に取材する」。記者の言葉に興奮した。この時、中村さんは東部ジャララバードに居住していた。少々危険だが、中村さんに会いに行けるだろう。

    「平和賞を獲得されたら一緒にインタビューに行こう!」。ワクワクしながら結果を待った。衛星放送から受賞者インタビューが流れる。この年の平和賞はアメリカのオバマ大統領だった。

    「Why(何でや)!」。テレビに向かって通訳のイブラヒームが叫んでいる。「核なき世界の実現を」と言っただけのオバマ。確かにイラクからは米兵を撤退させたものの、その分をアフガンに回して、空爆を強化させたオバマ。ブッシュ時代よりも軍事費を増大させたオバマ。それまでの有人戦闘機からの空爆をプレデターという無人戦闘機に切り替えたオバマ。無人機なので誤爆を増やし、罪のない人々を殺戮していたオバマ。

    「ノーベル戦争賞の間違いじゃないのか?」。通訳イブラヒームのつぶやきとともに、共同通信の記者は帰国した。

    私はカブールに残り、その後「タリバンの本拠地」と呼ばれるカンダハルに入った。通行人も商店街の人々も、ほぼ全員が濃いあごひげを蓄えて、黒いターバンを巻いた彫りの深い顔立ちのパシュトゥン人。見ようによっては全員がタリバンに見える。そんなカンダハルの中心街にミルワイズ病院がある。特別に許可を得て、入院患者を取材した。猛烈なアメリカ軍の空爆と地上部隊による銃撃戦が続いていたので、病院は野戦病院状態だった。流れ弾が胸を貫通し肺に穴が開いた子ども、米兵に銃撃されて左手を失った少年、不発弾で遊んでいて、それが爆発し顔中穴だらけの子ども……。そんな中にアッサンビビちゃんがいた=写真。遊牧民の娘でその日も山の中にテントを張って寝た。米軍の戦闘機がやって来た。「不審なテントを発見。空爆します」。ミサイルを撃ち込まれたテントはひとたまりもなかった。きょうだいは焼死、ビビちゃんは大火傷を負った。米兵がやって来た。タリバンを殺害したかどうか、確認する部隊だった。撃ち殺したのは「タリバンではなく、子どもだった」。でもよく見れば大火傷の少女はまだ生きている。
    ……

  • 16面~17面 韓国人BC級戦犯救済訴え「無念の思い解決を」(栗原佳子)

    第2次世界大戦中、日本軍属として捕虜監視業務に従事し、BC級戦犯に問われた韓国人や家族が、日本政府の立法措置を求め続けている。日本人として裁かれ、処刑されたり服役を強いられたりしながら、戦後は「外国人」として援護や補償から切り捨てられた。戦後75年も残すところ2カ月あまり。10月26日開会の臨時国会で進展に望みを託す。

    「同じ元戦犯でありながら、日本政府は自国の元戦犯として恩給の支給など援護をしているが、韓国人、台湾人の私たちには何もない。同じ戦犯でも日本人は、国のためにという諦めもあるかもしれないが、私たちは違う。処刑された人たちは何のため、誰のために刑死したのか。無念の思いを癒すためにもどうか解決してほしい」

    10月19日、国会で開かれた記者会見で李鶴来(イ・ハンネ)さんは(95)は声を絞り出した。未解決の戦後処理問題を臨時国会で審議し、解決の道筋をつけてほしいと空襲や沖縄戦の民間人被害者、シベリア抑留体験者らとともに思いを訴えた。

    李さんは韓国人元BC級戦犯で作る互助組織「同進会」の会長。約70人で結成した同進会も存命は李さんのみ。その李さんも入退院を繰り返す身だ。

    1941年12月、真珠湾攻撃で太平洋戦争に突入した日本軍は、緒戦の勝利で30万人近い捕虜を抱えることになった。「生きて虜囚の辱めを受けず」と説いた日本軍には想定外のこと。欧米系の連合国軍の捕虜監視には、当時日本が植民地統治をしていた朝鮮半島、台湾から監視員を募集した。

    朝鮮では42年5月、捕虜監視員の募集が始まった。建前は志願というかたちだったが、実際は官憲を動員して強制的に徴用されたケースも少なくなく、朝鮮半島全体から約3000人が釜山に集められた。2カ月の軍事訓練の後、マレー、ジャワ、スマトラ、タイなど南方に送られた。

    ジュネーブ条約で捕虜の処遇が決められていたにもかかわらず、日本軍は捕虜を酷使、多くの捕虜が死亡した。これを問題視した連合国は戦争裁判でその罪を厳しく追及。捕虜と日常的に接していた朝鮮人と台湾人の監視員が、死刑を含む重罪に問われた。

    朝鮮人は148人が戦犯に問われ23人が死刑。台湾人は戦犯173人。21人が死刑になった。A級戦犯を裁いた東京裁判での刑死者は7人。重い罪が末端の植民地出身者に科されたことがうかがえる。BC級戦犯とは連合国が訴追したB級戦犯とC級戦犯の総称。B級戦犯は戦争法規または慣例に違反したとする「通例の戦争犯罪」に該当する者、C級戦犯は「人道に対する罪」に該当する者とされた。

    全羅南道の山村に生まれた李さんは面長(村長)の強い勧めで募集に応じた。行き先はタイとビルマ(現ミャンマー)を結ぶ泰麺(たいめん)鉄道の建設現場だった。過酷な労働、劣悪な衛生環境や食料事情で捕虜約1万人が死亡したとされる。李さんは仲間6人とともにジャングルの中にある捕虜収容所での勤務を命じられた。捕虜はイギリス兵やオーストリア兵500人。工事を指揮する鉄道隊の命令は絶対で、作業に出す捕虜の頭数をそろえるために、病人も駆り出さざるをえなかった。

    日本の敗戦。家族が待つ解放された祖国へ帰国がかなうかと思いきや、李さんらは捕虜の「首実検」を受け逮捕された。捕虜の憎しみは監視員に向いた。通訳も反対尋問もない裁判で李さんは絞首刑を下されシンガポールのチャンギー刑務所の死刑囚専用房に送られた。戸板が外れ、仲間が1人、また1人と奈落に落ちていく音が聞こえる独房で「自分は何のために死んでいくのか」と苦悩した。

    その後、20年に減刑。51年に東京の巣鴨プリズンに移送された。56年、仮出所した。
    ……

  • 18面 吉村知事「原発処理水を大阪湾に」 維新「またか」の放言(矢野宏)

    東京電力福島第一原発でたまり続けている処理済みの汚染水をめぐり、大阪府の吉村洋文知事が10月16日、「国からの要請があれば、大阪湾に放出する」と述べたことが波紋を広げている。政府が海洋放出する方針を固めたことに関連しての発言だが、処理済みとはいえ放射性物質を含む汚染水を海に流して大丈夫なのか。

    大阪の人の多くが「またか」と思ったのではないか。昨年9月、大阪市の松井一郎市長が科学的に環境被害がないという国の確認などを条件に「福島第一原発の処理水を大阪湾に放出する」と発言。市民団体から「大阪湾は特殊な地形上、(放射性物質が)湾内に滞留する可能性が高い」と抗議を受け、府漁業協同組合連合会からも発言の撤回を求められた。
     
    原子力利用の危険性について研究し続けてきた「熊取6人組」の一人で、京都大複合原子力科学研究所研究員の今中哲二さんは「大阪湾に放出するなんて、東電も国も真に受けていないし、維新のパフォーマンスとしか言いようがない」と批判した。
    ……

  • 19面 学術会議任命拒否 異論抑圧 学者にも(矢野宏)

    菅政権が日本学術会議の新会員105人のうち6人の任命を拒否した問題で、「学問の自由に対する侵害」として各界から批判の声が上がっている。大学や研究機関における軍事研究に反対する研究者らが設立した「軍学共同反対連絡会」(共同代表、野田隆三郎・岡山大名誉教授ら)も抗議の声を上げ、撤回を求める緊急声明を出した。      

    軍学共同反対連絡会は、緊急声明の中でこう訴えている。

    〈この事態は、日本を代表する独立した学術機関である日本学術会議の意志を無視した政府からの人事介入と捉えざるを得ず、学問の自由を踏みにじる重大な行為として強く抗議し、ただちに撤回するよう求める〉

    日本学術会議は、科学の立場から政策提言を行う機関で、「学者の国会」とも呼ばれている。その人選について、日本学術会議法17条で〈優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦するものとする〉とあり、首相は学術会議の「推薦に基づいて」任命する(同法7条)。

    では、首相は任命を拒否できるのか。1983年5月の国会で、当時の中曽根首相は「政府が行うのは形式的任命に過ぎない」と答弁。これが学術会議側の独立性を保障する事実上の担保とされてきた。

    ところが今回、それが覆された。拒否した理由について、菅首相は「総合的、俯瞰(ふかん)的な活動を確保する観点から判断した」と説明。さらには「推薦名簿を見ていない」とまで言い出した。日本学術会議法17条、7条に違反していることは明らかで、憲法が保障する学問の自由の侵害でもある。

    軍学共同反対連絡会は、緊急声明の中でこうも訴えている。
    ……

  • 20面 映画「ぼくが性別『ゼロ』に戻るとき」 女から男へ、そしてその先に(栗原佳子)

    自らの性別に揺れる若者の変化と成長を追ったドキュメンタリー映画「ぼくが性別『ゼロ』に戻るとき~空と木の実の9年間」が大阪・十三のシアターセブン、京都・烏丸御池のアップリンク京都で上映されている。あるがままの自分に向き合い、「こころの居場所」を探し続ける姿を通し、自分らしい生き方とは何かを問いかける。

    督は元NHKディレクターの常井(とこい)美幸さん。心と体の性が一致しない性同一性障害についての記事を目にし、「男女別を強いられる学校生活で、辛い思いをしている子どもたちがいるのではないか」と気にかかったという。そんな中、15歳の小林空雅(たかまさ)さんに出会った。2010年のことだった。

    空雅さんは女性として生まれたが、自分の性に違和感を持ち続け、13歳で性同一性障害と診断された。男子生徒として高校に通学。20歳で性別適合手術を受け、戸籍も男性に変えた。その生活の一部始終に常井さんは密着した。

    空雅さんは78歳で性適合手術を受け女性となった八代みゆきさん(95)、自ら「Xジェンダー(性別なし)として性別の多様性を提唱する中島潤さん(26)らと出会い、改めて自身を見つめ直す。そして、最終盤。24歳になった空雅さんは、ある決断をする。

    「色々なかたちの性別があることを描くことで、既成概念の枠を外れて自分らしく生きられる社会、互いの違いを受け入れあえる社会に近づけることができたらという願いを込めました」と常井さん。

    映画は昨年夏完成。全国で50回以上、自主上映を重ねている。短く再編集したテレビ版も昨年、NHKで複数回放映され、反響を呼んだ。

    英語字幕付き。「特に教育の一環として中学校や高校で上映してほしい」とダイジェスト版も用意している。問い合わせは映画のウェブサイトへ。

  • 21面 経済ニュースの裏側「地方移転で新たな展開」(羽世田鉱四郎)

    ロナ禍は、社会の在り方を再考させました。
     
    人口の集中 世界の人口78億人のうち、半分の40億人が都市に住んでいます。1000万人以上のメガ都市は30を数えます。その中には、コロナ禍の震源地とされる中国・武漢市も含まれています。コロナ禍は、そのような現代社会の矛盾を、私たちに突き付けています。
     
    本社機能の見直し 産業界においても、大勢の社員が集まる本社機能を見直す動きが出ています。人材派遣のパソナ(神戸市)は兵庫県の淡路島に、茶専門店のルピシア(東京都)は北海道ニセコ町に本社移転を決めました。9月末時点で、東京から49社、大阪から77社が転出しています。地方の事業所を充実させる動きも目立ちます。デジタルネットワークを中心とする情報インフラ、宅配便も含めた物流インフラ、電気・ガス・水道といった社会公共インフラが整い、地方に住んでも、それほど不便は感じません。むしろ、人件費や土地・建物など固定費の安さが魅力的です。また世界に比べて教育インフラが整っており、高等教育を受けた優秀な人材を確保できる大きな利点もあります。
     
    競争から共業へ 技術開発も含め、同業者間の過当競争は、大きな弊害と損失をもたらします。急速に進む人口減少や高齢化は、国内市場の縮小を意味します。縮みゆくパイを奪い合っても、ロスが大きいだけです。競争ではなく、共業や共助をして、社会のニーズに応える技術や商品・サービスを提供することが求められます。私見ですが、個人、零細・中小企業に大いに期待したい。若い人たちの起業意欲が高まっているのも楽しみです。

  • 22面 会えてよかった「屋宜光徳さん⑩入社して社会部に配属された(上田康平)

    1956年5月。入社すると先ず社会部に配置され、先輩記者についてサツ廻りをはじめいろんな部署を回り、取材のイロハを学んだ。

     土地を守る4原則
     
    54年3月、米国民政府は軍用地料一括払い(実質的な土地買い上げ)方針を発表したが、この方針に住民は反対し、立法院も4月、①一括払い反対②適正補償③損害賠償④新規接収反対という土地を守る4原則を全会一致で決議。琉球政府が交渉し、その訴えを受けて米調査団が56年6月にまとめたものがプライス勧告。

    軍事優先で、住民の4原則を退けるものだった。(核兵器を沖縄に置けるとも書かれていたが、沖縄では関心は土地問題に集中していた)
    ……

  • 23面 落語でラララ「嘘つきは…今や官邸?」(落語作家 さとう裕)

    日本人は泥棒が大好き。いえ、落語や歌舞伎の話。歌舞伎の泥棒はカッコイイ。実在の泥棒で有名なのが石川五右衛門。さらに鼠小僧に弁天小僧、稲葉小僧や田舎小僧なんてのもいた。歌舞伎では「盗みはすれど非道はせず」と見栄を切る。ホンマカイナなんて誰も言わない。「鼠小僧は泥棒でござる。盗られる奴はべら棒でござる」なんてダジャレも言うからカッワイイー!

    三田村鳶魚(えんぎょ)によると、市中引き回しの際には、かなりの無理が言えた。ここで止まって辞世を詠むといえば許された。で、「浜の真砂は尽きるとも、世に盗人の種は尽きまじ」。江戸の左官亀五郎、10両盗んで打ち首に。その辞世「万年も齢(よわい)を保つ亀五郎たった十両で首がすっぽん」。とぼけた奴もいたもんで。鼠小僧は江戸市中を引き回されるとき、黒麻の帷子(かたびら)に更紗を重ね、八端の帯を締めて薄化粧までしていたという。

    落語の泥棒は、まあだらしない。入った家の男はバクチに負けて一文無し。仕方ないので、有り金全部恵んで帰ったり(「うちがい盗人」)。かと思うと、玄関の敷居の下を掘って桟を外そうとして家人に見つかり、そのままそこで引っくくられ、明日になったら警察に突き出そうと一晩放置されたり。挙げ句、通りがかりの酔っ払いに財布を持ち逃げされるていたらく(「おごろもち盗人」)。 仏師屋に入ったのはええが、うっかり仏像の首を切り落としてしもたばっかりに、夜なべで修理を手伝わされるドジな泥棒まで(「仏師屋盗人」)。ちょっと知恵のある男が出てくるのが、「壺算」や「牛の丸薬(がんじ)」。詐欺まがいの手口で善人をだます噺やのに、なんか愉快でオモシロイ。
    ……

  • 24面 100年の歌びと「音楽シーンを変えた少女」(ジャーナリスト 三谷俊之)

    I can't help my feel Ah Yeah 七回目のベルで受話器を取った君/名前を言わなくっても声ですぐ分かってくれる

    1999年4月1日、大阪・梅田のライブハウス「HEAT・BEAT」(当時)は異様な熱気に包まれていた。前年末にデビューしたばかりの新人歌手の大阪と東京だけの初ライブだ。会場は選ばれた客以外、音楽関係者とテレビ・新聞・雑誌などのメディアが蝟集していた。この日、宇多田ヒカルが初めてステージに登場したのだ。際立つビート感とソウルフルな感性。ビブラートがかかるウイスパーボイスが聴衆を魅了した。デビュー曲『AUTOMATIC』は発売されてすぐオリコン・シングル・チャート初登場で上位に入った。曲は各地のFMラジオやクラブでこぞって取り上げられ波状的に流されていた。ニューヨーク生まれ。バイリンガルの帰国子女で、まだ15歳。アメリカンスクールに通う少女が、自らの作詞作曲でかつてない楽曲を作り出し、その母親が藤圭子であることなども洩れ伝わって、芸能マスコミを熱くさせていた。その後のファーストアルバム『First Love』は発売4週目で売上400万枚を突破。累積売上765万枚(全世界では991万枚)は国内のアルバムセールス歴代1位の記録となった。
    ……

  • 25面 坂崎優子がつぶやく「オンライン講座 工夫」

    コロナ禍でオンライン講座が増え、遠くで開催される講座でも参加しやすくなりました。とはいえ参加者は画面を見るだけで、質問すら受けつけないものもあります。対面でできないからオンラインでといった安直さも感じます。

    せっかく参加者とやり取りできる機能もあるのに、ほとんど使われていない現状を考え、先日、「Zoomの体験講座~いろいろな機能を使ってみよう~」を開催しました。消費生活アドバイザー仲間との情報発信の研究会で主催し、講師は私が務めました。
     
    双方向の講座を作るためには、機能を知ることが第一歩です。前半は「手を挙げる」や「いいね」など反応の仕方やチャットの練習、画面の違いやその替え方、名前の変更やバーチャル背景の設定方法、資料や動画、音楽などを共有する方法などを伝え、体験してもらいました。
     
    後半はグループに分かれてのセッションです。オンライン講座で困ったことやこれからやってみたいことなどを話し合ってもらいました。講座終了後は放課後と称して、質問や雑談の時間を設けました。ほとんどの方が残られて、質問が絶えませんでした。
     
    講座の評価も高く「ホストや主催者のための講座もやってほしい」などの要望も多数寄せられました。「みんなで集まっている感があったので楽しかった」という感想もあって、オンラインでもやり方次第で参加感が生まれることがわかりました。
     
    講座に参加している実感を持ってもらうためには工夫がいりますが、そこを追求していくことが満足度を高めます。受け身になりがちの参加者をどう巻き込んでいくかは対面でも大事な要素ですが、オンラインではそれがより求められます。
    ……

  • 26面~29面 読者からのお手紙&メール(文責 矢野宏)

    「総合的・俯瞰的」不可解な首相答弁    兵庫県 谷野勉
     
    日本学術会議の推薦した新会員候補6人が任命されなかった問題で、菅首相は「総合的・俯瞰的な活動、すなわち、広い視野に立ってバランスの取れる活動を行っている。国の予算を投じる機関として国民に理解される存在であるべき」と答弁していますが、広い視野に立つならば異なる意見も受け入れるべきではないですか。菅首相は「名簿を見た時にはすでに6人は除外されていた」とも言いますが、それならば誰が除外したのですか。答弁は理解不能です。
     
    「総合的・俯瞰的」という言葉を広辞苑で引くと、「個々のものを一つにまとめる高いところから見下ろす」とあります。まさに、上から目線で自分たちの気に入らない意見の人間を除外したということですか。このようなやり方は偏見であり、広い視野に立っているとは思いません。菅首相は官僚に対して「政策に反対であれば異動していただく」と発言されましたが、まさに言葉通りのことを実行しているのでしょう。
     
    かつて、日本は言論の自由を封殺し戦争に突入した苦い経験があります。二度と繰り返していけない。菅首相に猛省を促します。
     
    (安倍政権は人事権によって官僚を支配しましたが、その中心にいたのが当時の菅官房長官。気に入れば重用し、気に入らない人間を飛ばす。その手法で日本学術会議を御用機関にする。その狙いは大学での軍事研究を進めることではないでしょうか)

  • 28面 車イスから思う事「過去の自分との葛藤」(佐藤京子)

    忘れよう、気づかないように努めながら、頭の中に「黒い霧」が潜んでいる。
     
    「在宅ワーク」など、SNSの普及に伴って実際に会わなくても用が足りるようになった。画面の中に上半身が写れば良く、車イスに乗っていることなどは関係ない。そんな時代だからこそ、自身の障害を受け入れようとしない自分に気づかされる。周囲から見れば、車イスに乗って介助犬を連れている。ただそれだけのことだが、そのことが嫌で嫌でたまらない。これが黒い霧の正体だ。
     
    そんな気持ちを引きずり、講演を依頼された小学校へ行き、児童たちにユニバーサルデザインを説明したり、補助犬の啓発運動をしたりする。 それがつらい。自身を否定しているのに、障害者の目線からみんなで暮らす街づくりの話などをすることは自己矛盾でしかない。「ここに段差がないといいね」とか、「困っている人がいたら、勇気を出して声をかけてね」など言うこと自体、小学生たちに弱みを見せて話すことではないのにと思ったりもする。
     
    中途障害者ゆえの感覚かもしれない。事故に遭う前の感覚が残っており、現在と過去の自分が絶えず闘っている。このバランスが崩れると自分を愛することができなくなる。そんな話をすると、「世の中にはもっと大変な人もいるから」とか、「自分の意思で動けるのだから良いだろう」とか言われる。もちろん、重度障害を持った人を否定しているわけではない。単純に誰かと比べて良いとか悪いとかの話ではなく、主観の問題である。
    ……

  • 29面 編集後記(矢野宏、栗原佳子)

    李鶴来さんらの国会での記者会見をネットで視聴した。李さんは著書「韓国人元BC級戦犯の訴え、誰のために」に「故郷を離れ、日本軍の捕虜政策の末端を担わされ、日本の戦犯として責任を負わされ死んでいった仲間たちの無念を多少なりとも晴らすことは、生き残った私の責務なのです」と綴っている。しかし立法府に救済に道筋をつけてほしいという願いすらかなわない。国会議員の一部に嫌韓・反韓の意識が強い輩がいる。今回の住民投票も大阪市民にもかかわらず外国籍の住民に投票権がない。条例で投票権を認めた例は全国にあるが大都市法は日本国籍に限定している。松井市長は会見で外国籍住民が投票できない現状を問われて「国籍取得を」求めた。市民団体「みんなで住民投票!」はいま外国籍の市民に街頭アンケートを実施している。18日には北区のカトリック教会でミサのあと外国籍の信者さんたちがアンケートに応じた。スペイン人の神父はこの現状を「差別だ」と。投票する市民にとって、一票の持つ意味はとてつもなく重い。 (栗)
     
    ▼大阪市廃止に反対する市民学習会で再会した大阪経済法科大教授の西脇邦雄さんから後日、資料を送ってもらった。その一つが、大阪市経済戦略局企業支援課がまとめた「大阪市におけるセーフティネット保証認定件数」。大阪信用保証協会が経営不振の中小企業者に通常の保証限度額とは別枠で保証を行った件数で、今年3月~7月までの5カ月間で3万8972件、昨年の同じ時期と比べて100倍も増えている。さらに、失業などで住居確と保が困難な人のための社会福祉協議会による「住宅確保給付金の申請件数」では4月~6月までの3カ月間で5568件と、昨年度1年間の件数の60倍を記録している。新型コロナで苦しむ市民の「声なき声」だ。「府市合わせで市がなくなれば成長が加速する」と言いながら市民の間に分断を持ち込み、不幸せにしているのは誰なのか。西脇さんはこう訴えていた。「起きている事実から冷静に考えてほしい」。(矢)

  • 30面 クラウドファンディングで制作費呼びかけ「空襲体験者の『証言DVD』」(矢野宏)

    「新聞うずみ火」では、クラウドファンディングを利用して空襲体験者の証言DVDを制作するプロジェクトを進めています。インターネットを介して広く支援を呼びかける仕組みですが、10月20日現在で協力を申し出てくれた方は11人。まだまだ知れ渡っていなのが実情です。募集の締め切りは12月10日。それまでに目標額である50万円に到達しなければ、プロジェクトを断念しなければなりません。少しでも余力がある方は、私たちの趣旨にご賛同くださり、ご協力いただけると幸いです。
     
    今年は戦後75年目の節目の年でしたが、新型コロナの感染防止のため、小中高校で「平和学習」が見送られています。空襲体験の語り部から「若い世代に戦争の悲惨さを伝えたいのに、その機会を失うのは残念だ」と嘆く声を耳にします。空襲体験者の「記憶」を「記録」に残すことで平和学習に役立ててもらいたいと、「証言DVD]制作を企画。必要な資金を調達するため、クラウドファンディングで呼びかけています。
     
    募金は、3000円、5000円、1万円、3万円の四つのコースがあり、それぞれに還元させていただく商品を用意させていただきました。
     
    このQRコードを携帯で読み取れば、うずみ火が呼び掛けているクラウドファンディングのページにたどり着くことができます。「ネットは苦手やねん」という方は、うずみ火事務所までお問い合わせください。ご協力をよろしくお願いします。

  • 31面 うもれ火日誌(矢野宏)

    9月1日(火)
    栗原 早朝の新幹線で東京へ。関東大震災94年。横網町公園での朝鮮人犠牲者追悼式典を取材。

    9月2日(水)
    栗原 関東大震災後、朝鮮人の虐殺があった群馬県藤岡市の成道寺、埼玉県上里町の安盛寺を参拝、帰阪。

    9月3日(木)
    矢野、栗原 午後、大阪市議会で、いわゆる「大阪都構想」制度案である「特別区設置協定書案」が可決、閉会後の松井一郎市長の記者会見を取材。矢野は傍聴券当選。「一生の運を使ったかも」

    9月4日(金)
    矢野 午後、JR山科駅で片山美津子さんと待ち合わせ、タクシーで笠原寺へ。「大阪大空襲の体験を語る会」(久保三也子会長)が建立した空襲慰霊碑に手を合わせる。夕方、せせらぎ出版の山崎亮一さんと「『大阪都構想』を考える連続講座」の講演録をブックレットにするための打ち合わせ。夜、大阪・吹田市の市文化会館メイシアターで行われた西谷文和&松元ヒロのコラボライブへ。
    高橋 朝、和歌山放送ラジオ「ボックス」出演。

    9月5日(土)
    夕方、せせらぎ出版の山崎さんがゲラを持って来社。志馬宏行さんがせんべいを差し入れに。

    9月7日(月)
    矢野、栗原 夕方、「都構想」のブックレットで立命館大教授の森裕之さんを大阪・茨木市のキャンパスに訪ね、ゲラの最終チェック。

    9月9日(水)
    矢野、栗原 午後、せせらぎ出版で出張校正。夕方、矢野はMBSでYouTube「ニュースなラヂオ動画班」で豊中市議の木村真さんと「安倍首相の辞任」についてZOOM対談。
    西谷 昼過ぎ、ラジオ関西「ばんばひろふみ・ラジオ・DEしょ!」出演。

    9月11日(金)
    高橋 朝、和歌山放送ラジオ「ボックス」出演。

    9月14日(月)
    この日の自民党総裁選を受け、矢野がキャスターを務めるMBSラジオ「ニュースなラヂオ」は、時事通信社解説委員の山田恵資さんに「新政権の課題と解散総選挙」について電話で話を聞く。番組終了後、キャスターの北口麻奈さんと「ニュースなラヂオ動画班」収録。「年内に解散・総選挙はある? ない?」

    9月17日(木)
    午後、ブックレット「住民投票までに知っておくべき『都構想』の嘘と真」が出来上がり、200冊が届く。

    9月18日(金)
    高橋 朝、和歌山放送ラジオ「ボックス」出演。

    9月19日(土)
    矢野 午後、大阪市中央区のエルおおさかで開かれた「セブンイレブン松本実敏さんを支援する会」結成集会を取材。

    9月20日(日) 
    栗原 午後、大阪市東成区民センターへ。猪飼野せっぱらむ文庫主催の元韓国・朝鮮人BC級戦犯を知る企画展へ。支援する会の大山美佐子さんが講演。2日目(22日)は存命する元BC級戦犯、李鶴永さんの大阪在住の親族、3日目(23日)は研究者の内海愛子さんの講演へ。

    9月23日(水)
    午後、「ダイドーボウル」元支配人の椎野昇司さんが継続のため来社。毎年、事務所を訪ねてくれ、ありがたい。
    西谷 昼過ぎ、ラジオ関西「ばんばひろふみ・ラジオ・DEしょ!」出演。

    9月24日(木)
    矢野 午後、ラジオ大阪「早起き情報スタジオ」収録。

    9月25日(金)
    夜、大阪市中央区のターネンビルで「『大阪都構想』を考える連続講座」。第4弾の講師はフリージャーナリストの幸田泉さん。「看板に偽りあり!これが大阪都構想~事実を隠し夢を売る維新政治」と題して講演。

    9月26日(土)
    栗原 午前、大阪市北区の大阪市中央公会堂で開かれた「大阪都構想」住民投票の説明会に一市民として参加。
    夜、半年ぶりの「酒話会」。弁護士の定岡由紀子さんを囲んで憲法を学ぶ。

    9月29日(火)
    矢野、栗原 午後、大阪市のリーガロイヤルホテルで行われた黒田脩さんお別れの会。

    9月30日(水)
    矢野 午前、MBSラジオのスタジオで「ニュースなラヂオ動画班」収録。京都大教授の藤井聡さんと「大阪都構想」についてZOOM対談。午後、事務所でお茶を飲みながら交流する「茶話会」。大阪・枚方市の小林稔子さんが初参加。

  • 32面 うずみ火講座、忘年会のお知らせ(矢野宏)

    新聞うずみ火主催の「『大阪都構想』を考える講座」最終回は10月30日、大阪市中央区谷町2丁目のターネンビルで開講します。大阪市を廃止し四つの特別区に再編するかどうかを問う住民投票の2日前。講師に元大阪市長の平松邦夫さん=写真=を迎え、あらためて「都構想」の嘘と真を確認し、2日間を闘うための勇気を分かち合いたいと思います。

    【日時】10月30日(金)午後6時半~
    【会場】大阪市中央区谷町2丁目のターネンビルNo.2の2階会議室(地下鉄谷町線「谷町4丁目」から北へ徒歩2分、「天満橋駅」から南へ徒歩6分、1階が喫茶店「カフェベローチェ」)
    【資料代】500円、学生・障害者300円

    新型コロナ感染防止のため、参加ご希望の方は、うずみ火まで。

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