新聞うずみ火 最新号

2022年2月号(NO.169)

  • 1面~3面 大阪万博・カジノ最終案 公費負担どこまで膨張(栗原佳子・矢野宏)

    大阪府・市が大阪湾の人工島「夢洲(ゆめしま)」への誘致を目指すカジノを中核とする統合型リゾート(IR)の最終案が昨年末、公表された。2月からの府・市両議会で同意されれば4月にも国に申請する。夢洲は「2025大阪・関西万博」会場としても整備が進む。相乗の経済効果に期待が集まる一方、公費負担が膨らむ恐れがあり、防災や環境、治安などのリスクも抱える。大阪は、このままカジノと共存の道を歩むのだろうか。        (栗原佳子、矢野宏)
    1月中旬、JR環状線京橋駅前。市民ら十数人がカジノ計画中止と撤回を求めて街頭での署名活動を行った。帰宅ラッシュの時間帯。行き交う乗降客に呼びかけている。
     「カジノあかん」の横断幕を背に阪南大教授の桜田照雄さん(63)がマイクを握った。「カジノ問題を考える大阪ネットワーク」代表でカジノ問題の専門家でもある。
     「ターゲットはインバウンドの富裕層ではありません。入場者は年間2000万人。7割を国内の客と見込んでいます。夢洲のカジノのスロットマシンは6400台。大阪最大のパチンコ店でも1200台なのに、その5倍のゲーム機を並べ、年間7兆円もの賭博をさせようとしています。賭博には依存症がつきもの。カジノに通った100人のうち1人か2人は必ずギャンブル依存症になっています。松井市長や吉村知事はいろいろなことをごまかして賭博場を開こうとしているのです」
     昨年末、府・市は国に提出する区域整備計画案を公表。事業者に認定した米MGM・オリックスと共同で作成した夢洲開発計画だ。
    IRとはカジノ、国際会議場、娯楽施設、商業施設、ホテルなどの複合施設だが、儲けの大部分はカジノである。府・市の計画案でも年間売上5200億円のうち8割がカジノからと見込む。

    (中略)

  • 4面~5面 生活保護判決文コピペ疑惑 誇り捨てた違憲行為(粟野仁雄)

    「コピペ」。パソコンで他人の文章をそのまま「コピー」して取り込み、自分の文章に「貼り付け(ペースト)」て混ぜ込んでしまうことだ。コピペ行為のすべてが不正とは言えないが、裁判官が他の裁判官の判決文をコピペしているとなれば話は違う。
     判決文でコピペが露呈したのは京都地裁と金沢地裁。2013年に安倍政権下で厚労省が生活保護費の給付額を平均6・5%、最大10%引き下げたことが「憲法25条と生活保護法に違反する」と訴えた集団訴訟だ。全国29の都道府県で提訴され、各地で判決が出てきたが、勝訴は大阪だけ。ところが各地で敗訴させた判決文がそっくりなのだ。
     昨年9月14日の京都地裁と11月25日の金沢地裁の判決文から抜粋する。 
     京都地裁(増森珠美裁判長)
     テレビ、パソコン等は、生活保護受給世帯が生活扶助により購入することがあり得る品目であって、およそ生活扶助により支出することが想定されない非生活扶助相当品目(医療費、NHK受診料等)とは明らかに性質を異にする。
     金沢地裁(山門優裁判長) テレビやパソコンは生活扶助により購入することがあり得る品目であるから、生活扶助相当CPI(消費者物価指数)において排除された医療費、NHK受診料等の生活扶助により支出することが想定されない品目とは性質を異にするといえる。
     いずれも5月12日の福岡地裁(徳地淳裁判長)判決のコピペのようだ。福岡地裁判決はこうだ。
     テレビやパソコン等は、生活扶助により購入することがあり得る品目であって、生活扶助により支出することが想定されない生活扶助相当品目(医療費、NHK受診料等)とは明らかに性質を異にするというべきである。
     いずれもNHKの受信料を「受診料」と誤記している。各裁判官の変換ミスと言いたいのだろうが、陪席2人と書記官、1裁判所で計4人、つまり計8人が見逃すなどありえない。文脈も言葉遣いもそっくりで、裁判官が独自に考案したとは思えない。

    (中略)

  • 6面~7面 阪神・東日本の被災者交流 「震災障害者」目を向けて(矢野宏)

    阪神・淡路大震災で障害を負った「震災障害者」と東日本大震災で関西に避難している人たちとの交流会「阪神・淡路、東日本 今を生き共に語る」が1月9日、神戸市中央区の市勤労会館で開かれた。街の復興に目が向けられる中でともに見落とされがちな「忘れられた被災者」が自らの被災体験やこれまでの苦難などについて語り合った。   (矢野宏)
    主催は、神戸市を拠点に被災者支援を続けてきたボランティア団体「よろず相談室」と、東京電力福島第一原発事故からの避難者らを支える大阪府茨木市のNPO法人「災害とくらしの相談室iroiroの(イロイロ)」。震災障害者や県外避難者の存在を知ってもらい、これからの支援につなげようと初めて企画し、被災者9人が登壇した。
     神戸市北区の城戸洋子さん(41)は阪神・淡路大震災が発生した1995年1月17日、同市灘区の自宅でピアノの下敷きになり、意識不明の重体になった。当時14歳、中学3年生だった。病院に運ばれたとき、医師から「助かる望みは3%」と告げられたが、奇跡的に回復した。
     「でも、そこからが闘いでした」と、母の美智子さん(69)は振り返る。
     「笑顔が消え、言葉が続かない。色鉛筆の色が分からない。字も書けない。顔を洗いに行ったらいつまでも歯を磨いている。お風呂に入っても身体をちゃんと洗えない。これまでの娘ではない。『なんで?』ということが次から次に出てきたのです」
     CTやMRI(磁気共鳴断層撮影装置)でも特に脳に異常は見られなかった。
     洋子さんは2年間のリハビリを経て、震災特例を受けて内申書で私立高校に入学した。だが、勉強についていけずに1年で中退する。
     何の障害か。回復するのか。病名を知るまでに6年を要した。洋子さんは脳の損傷により、高次脳機能障害を負っていた。注意力や記憶力、感情のコントロールなどに問題が生じ、日常生活や社会生活が困難になり、周りの人が気づきにくい「見えない障害」とも言われる。現在、洋子さんは知的、精神、身体障害の手帳を持つ。

    (中略)

  • 8面 阪神・淡路大震災27年 母不明「喪失感は一生」(矢野宏)

    6434人が亡くなり、3人が行方不明となった阪神・淡路大震災は1月17日、発生から27年を迎えた。神戸市中央区の東遊園地で犠牲者を追悼する「1・17のつどい」が開かれ、地震発生時刻の午前5時46分に黙とうがささげられた。静かに手を合わせ、冥福を祈る遺族らの中に、行方不明者家族の一人、兵庫県加古川市の佐藤悦子さん(58)の姿もあった。神戸市須磨区で被災した母、正子さん(当時65)の行方は今もわからない。 (矢野宏)
    「震災から27年がたちましたが、自分の中ではまだ区切りをつけられていません」
     佐藤さんは祈りをささげた後、母の写真を抱きしめた。
     「ここを訪れるのは私にとってのお墓参りです。今年も母親に『孫も大きくなったよ。元気でやっているからね』と伝えました」
     正子さんは震災当時、神戸市須磨区の文化住宅に1人で暮らしていた。あの日の地震で文化住宅は倒壊、近所で発生した火の手が燃え移り、全焼した。
     自衛隊や警察の捜索は約2カ月で計6回に及んだ。焼け跡から出てきたのは腕時計と小銭などで、正子さんの遺体も遺骨も見つからなかった。
    佐藤さんは兄と一緒に焼け跡を掘り返し、白っぽいものを拾ってはふるいにかけたが、骨の欠片すら出てこなかったという。
     「母は記憶喪失になっているのかもしれない」と、佐藤さんは避難所や病院、高齢者施設などを訪ね回った。写真と特徴と書いたチラシを作って手がかりを探したが、見つからなかった。
     震災から半年後、親戚の勧めで葬儀を営んだ。骨壺には焼け跡の土などを入れた。
     やがて、焼け跡に新しい家が建ち、母の手がかりを探せなくなった。震災の翌年には家庭裁判所に失踪宣告を申し立てた。法律上は死亡とみなされるようになったが、踏ん切りはつかないという。
     「どこかで生きているのではと、今でも母が死んだ実感がわかない。あの日から時間は止まったままです」
     正子さんのお墓もない。佐藤さんは毎年1月17日に東遊園地を訪れ、犠牲者の名前を刻んだ「慰霊と復興のモニュメント」の銘板に花束と近況をつづった手紙を供えている。
     今年は会場の再整備工事で出入り口が限られる中、新型コロナ感染者が再び急増していることを受けて来場者が集中するのを避けるため、昨年に続いて16日と17日の2日間にわたって行われた。犠牲者を追悼する約5000本の竹と紙の灯ろうが「1・17」と「忘」の形に並べられた。
     「母の遺骨が見つかっていない私にとっては、忘れない、忘れようにも忘れられません。整理のつかない喪失感は一生持ち続けるものだと思っています」

  • 9面 大阪コロナ第6波 保健所またも限界値(栗原佳子)

    新型コロナウイルスの感染拡大で1月19日、沖縄、山口、広島の3県に追加、13都県の「まん延防止重点措置」適用が決まった。経済を優先して要請を見送った大阪府だが、新規感染者数が日々更新されるなか一昼夜で方針転換を迫られた、兵庫県、京都府の3府県で21日に政府に要請。適用は週明け24日以降にずれ込むと見られる。(栗原佳子)
    大阪府の1月18日の新規感染者数は5396人と東京の5185人を抜いた。19日は6101人、20日は5933人と高い水準で推移している。これまでは第5波の昨年9月1日の3004人が最大。感染力のすさまじさを物語る。 年末から沖縄を中心にオミクロン株の感染が急拡大、大阪でも昨年12月22日に国内初の市中感染が確認された。年明けの1月4日には吉村知事が「第6波」の入り口という認識を示した。それでも府は11月末に開始した独自の旅行喚起策「大阪いらっしゃいキャンペーン」を継続、年明けから利用者も府民限定から1府3県の在住者に拡大した。期間も2月28日までに延長した。感染が急拡大する中、1月12日に新規受付こそ停止したが、受付済のプランは利用できることになっている。

    (中略)

  • 10面~11面 ヤマケンのどないなっとんねん 改憲より貧困対策だ(山本健治)

    通常国会は1月17日召集、6月15日までの会期とされ、提出議案をしぼりこんで会期延長はないとみられている。夏に参院選が予定されているからだ。7月10日投開票が有力なようだが、今年は寅年、政界ジンクスでは「寅年は与党が負ける」らしく、先の総選挙と同じように危機感をあおって、自民としてはボロを出さないよう、通常国会を終わらせようとしている。
     主な議案は「2022年度予算」「経済安全保障推進法案」「こども家庭庁設置法案」「地球温暖化対策推進法案」「電気通信事業法改正案」などで、これまでの経験をはるかにこえて急速に感染拡大している新型コロナ対策が議論になることは言うまでもないし、中国・ロシア・北朝鮮の動き、とりわけ北朝鮮の再三にわたるミサイル実験を口実にしての「敵基地攻撃能力の保持」と防衛費の増加、さらに改憲論議を進めようとしていることに危惧を感じないわけにはいかない。
     改憲について言えば、これまでに何度か書いているが、維新が存在感を示すため先鋒になろうとしていることは明白で、去る12日にはこれまで①教育無償化②道州制導入のための統治機構改革③憲法裁判所設置をあげていたが、今回の改憲案ではこれまで言及していなかった「9条改憲」と「緊急事態条項創設」を加え、毎週、憲法審査会を開くよう求め、改憲の流れをつくりたいとしている。岸田首相は総裁選立候補前から改憲を口にし、改憲を悲願としてきた安倍元首相の協力を得て首相の座を手にしただけに、維新の前のめりの動きを利用しようとすることは間違いない。
     改憲には国会で3分の2以上の賛成で発議し、国民投票で過半数を得なければならない。国民投票を実施するためにはコロナ感染がそれなりに収まっていなければ、事前運動もできないし、投票も実施できない。その意味では感染状況がカギであるが、オミクロン株に置き換わったことで感染は急拡大して第6波に入り、この状態ではできない可能性が高いが、岸田首相は無症状の人が多く、重症化率は低いから「緊急事態宣言」の発令は避け、せいぜい「まんえん防止」にとどめ、社会活動や経済活動は普通のペースで動かしていこうとしているので、維新の松井代表が言っていた参院選と同時に改憲国民投票実施の可能性は決して消えてはおらず、警戒をゆるめてはいけないと思っている。

    (中略)

  • 12面~13面 世界で平和を考える 防衛費の無駄遣い(西谷文和)

    まず、下の図表を見ていただきたい。過去15年間の防衛費の推移である。2012(平成24)年に4兆6千億円だった防衛費は、第2次安倍政権になってⅤ字急騰。昨年度は5兆円を超えている。この数字は、基地を抱える沖縄県などの地元負担費や新たに導入される政府専用機の経費などを含んでいないため、実際の防衛費は5兆3千億円をはるかに超えている。
     9年間続いたアベ・スガ政治は、消費税を引き上げ、コロナ対策では自粛を求めながらも補償をせず、年金をカットした上に高齢者の医療費負担を増やしながら、防衛費だけは急ピッチで伸長させた。これは安保法制を強行採決したことと密接に関係する。専守防衛ではなく、アメリカの戦争に直接的に協力する。そのためには先制攻撃ができる武器を買わねばならない。アベ・スガ政治を引き継いだ岸田内閣が「敵基地攻撃能力」を持つと言い出して、防衛費のGDP2%を選挙公約にした。GDP2%といえば約10兆円になる。
     現在の世界の軍事費をざっくり言えば、1位アメリカ80兆円、2位中国20兆円、3位がサウジかロシア、インドで日本は6、7位にいる。韓国は2・5兆円で北朝鮮は0・5兆円くらいだろう。
     もし、このまま防衛費を膨らませていけば、日本は10兆円! なんと憲法9条を持ち、もう絶対に戦争はしません、と誓った国が世界3位の軍事力を持つことになってしまうのだ。
     安倍元首相は「台湾有事は日本有事」と言った。これは中国脅威論をあおることで、さらに武器を買い、基地を作り、アメリカのご機嫌をとる狙いがあるのだが、今はコロナ禍で財政は大赤字なのである。これこそ究極の「売国奴発言」で、安倍元首相にはコロナで困窮する国民の姿は見えていない。
     そもそも、軍事力世界第2位の中国を相手に、台湾問題で挑発を続けて実際に戦争になればどうなるか? 沖縄の基地が炎上し、多くの命が奪われる。台湾には米軍基地はなく、対中国戦争では米軍は沖縄基地から飛び立つことになる。中国は真っ先に沖縄の基地を報復攻撃の対象とするだろう。そして、アメリカへの集団的自衛権を行使して「敵基地攻撃能力」を持つ日本は中国の人々を大量に殺戮してしまうだろう。こんな事態を避けるためにこそ政治があり、外交があるはずなのに、安倍、高市、岸田あたりの「アメリカ下僕政治家」にはそれがわかっていない。このまま防衛費を急増させること自体が危険な事態を招いてしまう。

    (中略)

  • 14面~15面 フクシマ後の原子力 原発は環境破壊の先送り(高橋宏)

    新年早々に新型コロナウイルス感染の第6波が襲来し、感染者が激増を続けるなど、2022年は波乱に満ちた幕開けとなった。原子力をめぐっても、年末年始に大きな出来事が相次いだ。今年は核軍縮や原子力開発・利用について、様々な形で議論をする機会が増えることが予想される。
     まず12月26日、政府がプルトニウムを利用する「プルサーマル発電」を進めるために、新たに原発立地自治体が認める場合、交付金を支払う方針を固めた。日本は、これまでに原発の使用済み燃料から46㌧余りのプルトニウムを保有している。プルトニウムは容易に核兵器に転用できることから、国際社会に強い懸念を与えてきた。
     政府が掲げる「核燃料サイクル政策」では、すべて発電によって消費することになっていたが、高速増殖炉計画は破綻してしまった。保有量を削減する方策として考え出されたのが、ウランを燃料とする軽水炉でプルトニウムを混ぜたMOX燃料を用いるプルサーマル発電だった。
     しかし、実際に同発電を行っているのは関西電力の高浜原発3、4号機など4基に過ぎない。プルトニウム削減を進めるためには、今後より多くの原発でプルサーマル発電を行う必要があるのだ。
     そのために、新たな交付金を創設することによって、原発立地自治体に受け入れを促そうというのだ。だが、使用済み核燃料の再処理によってプルトニウムを取り出す意義は、高速増殖炉の実用化が前提であった。「核燃料サイクル政策」自体が破綻してしまった以上、プルトニウムは無用の長物に過ぎない。その利用に固執して資金を投入するのではなく、国際社会を納得させる管理方法などを模索する時に来ているのではないだろうか。
     暮れも押し迫った30日には、アメリカが原発の廃炉作業で生じる低レベル放射性廃棄物について、国外処分を禁じた日本の法規制の見直しを迫っていることが判明した。国際条約において、安全管理などの観点から放射性廃棄物は、発生した国で処分することが原則となっている。日本はこの原則を尊重して輸出を禁止しているが、アメリカはこの規制の見直しを求めてきたのだ。
     アメリカの要求を受けて、日本政府は低レベル放射性廃棄物の一部を輸出できるように、規制を見直す方針を固めたという。東京電力福島第一原発事故後、廃炉となる原発が続出している。原発の運転によって生じたタオルや手袋、作業衣などの廃棄物は青森県六ケ所村で処分されている。 実は、廃炉で生じる金属やコンクリートを、フライパン、飲用缶などの原料として再利用を可能とする「原子炉等規制法」の改正(いわゆる放射性廃棄物の裾切り)が05年に行われている。だが、蒸気発生器などの大型構造物は対象外で、処分先すら決まっていない。
     使用済み核燃料の最終処分を含め、運転開始直後から発電が終わった段階の対策を棚上げにしてきたツケが、現実のものとなってきているのが今の日本だ。20年代半ば以降は、福島第一原発を含む11原発24基の廃炉作業が本格化する予定で、アメリカからすれば大きなビジネスチャンスということになるのだろう。しかし、国際条約で放射性廃棄物の発生国処分が原則とされた大きな理由の一つに、原発の無責任な運用防止があったことを忘れてはなるまい。原則を守れないとなれば、日本は無責任に原発を運営してきたことになる。
     年が明けた1月1日、欧州連合(EU)の欧州委員会が、原発を天然ガスとともに「環境に配慮した投資先」と認める草案を加盟国に提示した旨の声明を出した。欧州委は昨年4月、投資家や企業に一定の評価基準を与えて脱炭素への投資を促すためだとして「EUタクソノミー(分類)」案を発表した。その際、賛否が割れていた原発と天然ガスについては、決定を先送りしていた。草案は、50年までの温室効果ガス排出量実質ゼロを実現するために、原発と天然ガスが必要だと明記している。そして、「環境に配慮した持続可能な投資先」としてEUタクソノミーに追加するとした。
     原発利用に積極的なフランスやポーランドなどが歓迎する一方で、すでに今年中の全廃を決めているドイツやオーストリアなどは反対しているため、決定に至るかどうかは不透明である。
     「発電時にCO2を出さない」とはいえ、事故を起こせば甚大な被害をもたらし、放射性廃棄物という負の遺産を生み出す原発が、果たして「環境に配慮した持続可能」なものだと言えるだろうか。そもそも、なぜCO2の削減が必要な社会になってしまったのか、そこに立ち返って見直さなければ環境破壊は食い止められないはずだ。
     EUの方針は、日本にも大きな影響を与えるだろう。特に「発電時にCO2を出さない」ということを強調し、原発を正当化しようとしている電力会社にとっては、「お墨付き」になり得る。関西電力は「ゼロカーボン」をキーワードとしたCMを盛んに流している。最近では「ゼロカーボン発電量国内ナンバー1」とうたっているが、国内の電力会社で原発の比率が最も高いのが、他ならぬ関西電力だったのだから当然だ。
     15日にトンガで起こった海底火山の噴火は世界を震撼させた。想定外の災害をもたらす自然界に、放射性廃棄物をため込んでいく原発利用は、未来に深刻な環境破壊を先送りすることにならないのか。地球環境を守るとは、本来どういうことなのか。あらゆる原点を確認しながら、長期的な視野で議論していくことが求められている。

  • 16面 NHK字幕ねつ造疑惑 決めつけ 誰の判断で(矢野宏)

    昨年末に放送されたNHK・BS1スペシャル「河瀬直美が見つめた東京五輪」で、ある男性が「五輪反対デモに金をもらって動員された」と事実に反する字幕が付けられた。NHKは「不確かな内容があった」「制作担当者間のコミュニケーション不足」などと釈明したが、市民の間では「事実上のねつ造ではないか」との声が広がっている。(矢野宏)
    番組は、映画監督の河瀬さんが総監督を務める東京五輪公式記録映画の制作過程に密着したNHK大阪放送局制作のドキュメンタリーで、昨年12月26日に放送、30日に再放送された。
    問題となっているのは、河瀬さんの依頼を受けた映画監督の島田角栄さんが競技場外で匿名の男性にインタビューする場面。取材に同行したディレクターが「五輪反対デモに参加している男性」「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」という字幕を付けた。
    視聴者から疑問の声が数多く寄せられ、NHKが調査したところ、男性が五輪反対デモに参加した事実は確認できなかったという。
    NHK大阪放送局は1月9日、「字幕の一部に、不確かな内容がありました。NHKの担当者の確認が不十分でした」と釈明。前田晃伸会長も13日の定例記者会見で「映画監督の河瀬さんや島田角栄さん、映画関係者、視聴者の方に申し訳ない。改めてお詫び申し上げます」と謝罪した。
    元NHKプロデューサーで武蔵大教授の永田浩三さんは「謝罪する順番が違う」と指摘する。

    (中略)

  • 17面 高校演劇「明日のハナコ」 放送送中止受け自主上演(栗原佳子)

    福井県で昨年開かれた高校演劇祭で県立福井農林高校演劇部が上演した創作演劇「明日のハナコ」。毎年、演劇祭の模様は地元ケーブルテレビがノーカットで放送するが、この作品だけが除外された。「反原発」「差別用語が含まれている」などの理由。脚本を手がけた同高演劇部の前顧問、玉村徹さん(60)らは「『表現の自由』の侵害」だとして、撤回を求めるインターネット署名に取り組み、脚本を手にして演じる朗読劇の全国ツアーも始めた。         (栗原佳子)
    「明日のハナコ」は女子高生、ハナコと小夜子の2人芝居。テンポのいい掛け合いで福井県の歴史をたどる。1948年の福井大地震、朝鮮戦争の特需、次々に建設される原子力発電所、東電福島第一原発事故、放射性廃棄物が残された10万後。過去から未来へ、縦横にストーリーは展開していく。不安と闘う少女の成長の物語でもあるという。
     高校演劇祭は昨年9月、3日間の日程で無観客で開催された。12校が参加、「明日のハナコ」の配役の一人は演劇祭で唯一、演技賞を受賞した。
     上演翌日、撮影したケーブルテレビ側から主催者の県高校文化連盟演劇部会に連絡が入る。「明日のハナコ」の放映について、反原発、特定の個人批判、差別用語の3点について懸念があるという。引用した過去の敦賀市長の発言に含まれる「かたわ」という表現や、著名タレントの原発に関する発言を、実名を挙げて引用した部分だった。
     同連盟演劇部会は演劇部の顧問会議で対応を協議。弁護士の助言を得て▽放映しない▽演劇祭で配布された脚本集は回収▽主催者撮影の記録映像も閲覧禁止などと決めた。会議では、テレビスポンサーの原発関連企業、演劇祭が受けている日本原電の助成に配慮する声も出たという。

    (中略)

  • 18面 「テレビで会えない芸人」自主規制 自ら飛び出す(栗原佳子)

    ライブのチケットは入手困難、だがテレビでその姿を見ることはほとんどない。政治や社会を風刺する松元ヒロさん(69)に郷里の鹿児島テレビが密着したドキュメンタリー映画「テレビで会えない芸人」が1月29日から大阪・第七芸術劇場などで公開される。放送文化基金賞など各賞を総なめにしたテレビドキュメンタリーの映画版。松元さんの至芸を通し、自主規制に縛られたテレビのありようが浮かび上がる。(栗原佳子)
    監督は1971年生まれの四元良隆さんと83年生まれの牧祐樹さん。2019年2月、松元さんの鹿児島公演の打ち上げで、四元さんが「撮らせてください」と願い出たのが始まりだった。松元さんの舞台に通うテレビ関係者は少なくないが、二言目には「でもやはり、テレビには出せない」。四元さんは「放映できないというテレビの方がおかしい」という考えだった。
     快諾を得た四元さんは牧さんに声をかけた。「ドキュメンタリーを撮ってみないか。一緒にやろう」。情報畑などが長くドキュメンタリー未経験の牧さんと経験豊富な四元さんがタッグを組んだ。
     2人が肉迫した松元さんは鹿児島市生まれ。東京での大学時代、チャップリンの映画などに触発されパントマイムの道へ。1987年、昭和天皇の病状悪化の自粛騒ぎで仕事が激減した3グループで社会風刺コント集団「ザ・ニュースペーパー」を結成した。
     テレビにも出演するようになったその矢先、松元さんは98年に独立、ピン芸人としてデビューした。客席に向かい1人でネタを披露する「スタンダップコメディー」で年間120本の舞台に立ち続けてきた。日本国憲法施行50年の97年から演じる『憲法くん』は憲法を擬人化した十八番。ライブでしか体験できない珠玉の芸も映像に収められた。
     稽古に励み、新聞を熟読し、研鑽を重ねる日常もカメラは追いかけた。恩師や友人、家族、偶然出くわした白杖の女性らとの交流に人柄がにじみ出る。舌鋒鋭く権力を風刺するが、弱いものに対する目線は優しい。松元さんの芸に一貫して流れるトーンだ。
     それでも松元さんにはテレビで会えない。なぜか。四元さんと牧さんの問いに局幹部が答える。「クレームとかトラブルとか、予防線を張っておきたい」「空気ですかね」。
     牧さんは「松元さんはテレビに出られないのではなく、テレビの自主規制という枠から自ら飛び出した。テレビで会えない芸人を作り出したのは私たち」と指摘する。
     一昨年放送したテレビドキュメンタリーを映画版として81分に拡大。ドキュメンタリー映画を数多く世に出してきた東海テレビの阿武野勝彦さんがプロデューサーを務めた。鹿児島で先行上映。第七芸術劇場、京都シネマ、元町映画館、ポレポレ東中野で1月29日から。全国で順次公開。

  • 19面 経済ニュースの裏側 円安誘導(羽世田鉱四郎)

    第2次安倍内閣の発足(2012年12月)。「ジャブジャブとマネーを供給してデフレ脱却(インフレ誘導)だ」。「あれ? うまくいかない」「それならマイナス金利を導入し、円安によるインフレだ。2%の物価上昇は間違いなし!」(16年1月)。「え? なんで? そんな馬鹿な?」。原発輸出もカジノ誘致も頓挫。アホノミクスの実態です。
     借金は預金で相殺? 旗振り役の浜田宏一氏ら、MTT(現代金融)理論に趣旨替えとの噂も。「国家財政が借金まみれでも大丈夫」という米国発の詭弁。恐らく日銀の資金循環表(速報/21年9月末)に示された数字、国債(借金)1219兆円のうち、日銀と公的年金で半分近く(47・8%)を占め、海外は13・2%に過ぎないこと。反面、世界一の海外純資産380兆円と、2000兆円に膨れ上がった家計の金融資産の半分が現預金という事実が根拠かと。最悪は、預金封鎖で相殺できるという魂胆? 何しろ「日銀は国の子会社」(安倍発言)ですから。ただし、GDP(国内総生産)を遥かに上回る借金と、株式に手を出す中央銀行(日銀)は日本だけという世界に例をみない異常な事態。ETF(上場投資信託)を買いまくり、400社余の大株主、REIT(不動産投資信託)も含め、官製相場で自作自演の株高、好景気の演出です。最後は、コロナ禍に責任転嫁?
     アホダノミクス 現政権。人柄は悪くなさそうだが、何をしようとしているのか、不透明。 過去最大の補正予算が成立。総額36兆円弱で財源の6割は赤字国債(借金)。防衛予算や大学ファンドの積み増しといった、緊急性とは程遠いものが紛れ込む。安倍・菅政権の65兆円余の補正予算(コロナ対策)も、21兆円余は今年度へ繰越しというデタラメさ。その象徴がアベノマスク。アホノミクスの名付け親・浜矩子氏(同志社大学教授)がアホダノミクスと命名。言い得て妙。
     金融が機能せず ゼロ金利、マイナス金利が長期化し、逆ざやが定着、間接金融の機能低下が目立ちます。深刻なのは地方の金融機関。過疎化に拍車も。預貸率(預金に占める貸出の割合)も、1990年末82・4%が、2020年度末には50・6%に低下。公的部門(国、地方自治体)の債権(借金)も、預金に対する比率が10・1%から45・3%に膨れ上がる。金融機関はコスト削減に必死。年間1千万円と言われるATMの維持費のせいか、支店の統廃合だけでなく、次々とATMを撤廃し、不便をかこっています。これもアベノミクスの副産物。
     資金は株、不動産に 実質賃金は減少し、GDPの6割以上を占める個人消費が不振。勤労統計調査を改ざんし、特に18年1月以降の伸び率が異常です。国交省の建築統計も偽装。法人企業統計(財務省)によれば、金融を除き1998年から2019年まで、人件費、企業設備、借入金の総額は、ほぼ横ばい。ひとり企業の内部留保だけが130兆円から480兆円に増加。アホノミクスの大規模金融緩和が、株式や不動産市場に流れ込み、外国人投資家、大企業、1億円以上の富裕層が潤って、いい年を迎えられました。(羽世田鉱四郎)

  • 20面 会えてよかった 鈴木陽子さん(上田康平)

    自然に資料館に行った
     1993年、多摩全生園隣に資料
    館が開館する直前、新聞記事が出た。
    今、思うと、違和感を持ったあの本
    を読んでからアンテナを張っていた
    かも、と鈴木さん。しかしその著者
    を思い出すこともなく自然に資料館
    に行った。こういうのがあるんだと。
     多摩全生園自治会が主体の
     隔離を批判する資料館
     53年に「らい予防法」が制定され
    たが、治る時代になってきているの
    に終生隔離強化の法であり自治会は
    反対運動に取り組んだ。そのときの
    座り込みの写真も展示されている。
    そして「らい予防法」改正を求める
    署名用紙が置かれていた。過去から
    ずっと現在も闘い続けていることに
    彼女はショックを受けるとともにエ
    ネルギーを感じたという。
     違和感を持ったあの本の中で著者
    が、〈乱暴者〉と言っているのは、
    この闘い続けている人たちだ。本を
    読んでのもやもやが消えた。
     知らないことが多くショック
     資料館で、知らない
    ことが多くショックを
    受けた彼女は細々とで
    も、まず知って、一つ
    ずつ理解していきたい
    と思った。それで帰り
    の電車賃を残し、全生
    園70年の歴史など、買
    えるだけの本を買い、
    貸出用の本も借りて帰
    った。
     隔離は当事者にとってどうだった
    のか。ここ(療養所)でどう生きて、
    暮らしてきたのか。家族とどう関わ
    ってきたのか。園の子どもたちは今、
    どうしているのか。そういうことも、
    とにかく知りたいと思った。
     神奈川県立高校に
     92年から25年勤務
     初任校では6年。倫理専門だった
    けど、社会科は何でも教えた。戦後
    50年にさしかかる頃で、慰安婦問題
    もクローズアップされていたが、新
    聞部顧問を務めたと彼女。
     新聞部の生徒たちとフィールドワ
    ーク。兵器廠跡地を見たり、学徒動
    員された方、土地を接収された方の
    お話を聞いたりしたんだけれど、当
    事者の方は生徒にはよく話してくだ
    さる。生徒への期待だと思う。それ
    で生徒が前に出てお話を聞かせてい
    ただくようにした。そしてお話を聞
    くなかで生徒は成長したという。
     授業でハンセン病を取り上げた
     ハンセン病については生徒に伝え
    るものがなく、自分が知ることから
    始めたが、「らい予防法」が廃止さ
    れた96年頃には、生徒に教えられる
    域になっていた。
     倫理は人権問題と密接にかかわる
    が、具体的に何を取り上げるかは教
    員の工夫。自分はハンセン病も取り
    上げた。患者はかわいそうで終わら
    せない授業をと、無らい県運動で私
    たちが当事者を追い出していったこ
    と、いつでもそうなるかもしれない
    ことを話した。そして最後は生徒自
    身で考えてほしいと思っていた。
                (続く)

  • 21面 落語でラララ SR落語(さとう裕)

    桂枝雀が爆笑王に変身する前(前名・小米)は、正統派の落語で割合地味な語り口だった。でも、関西テレビ「お笑いとんち袋」(1965年~)の大喜利では、いかにもひょうきんでいちびりの面を見せていた。随所にインテリっぽい回答も見られ、共演していた桂文紅は、「発想が奇抜で、そんなことあるかーというようなことを、さもあるかのように言って笑いを取った。苦し紛れに出す彼の答えが珍無類だった」と述べている。
     73(昭和48)年10月に道頓堀角座で「2代目桂枝雀」を襲名(笑福亭枝鶴、桂福團治とのトリプル襲名)。これをきっかけにそれまでの落語を変え始めた。初代春団治にもたとえられる所作や声の強弱、メリハリの利いた芸風になり、爆笑落語を生み、人気者に。
     劇的に変わる数年前から彼の模索があった。東芝EMIの「枝雀落語大全」の解説(戸田学)によると、内弟子時代に読んだ星新一のショートショートに触発され、SR落語を作り始めた。SRは、Short Rakugoの頭文字、SF Rakugoの意味合いも持つという。ラジオ大阪「オールナイト 叫べ! ヤングら」(昭43年頃)で紹介したところ、リスナーから反応があり昭44年の春から大阪の太融寺で「SRの会」を毎月開くようになったそうだ。SR落語とはどんなものか、二、三紹介すると、
     「おっちゃん、そこのいてんか。日が陰るねんな……ちょっとのいてんか」
     「おっ、今この犬物を言うたんと違うか……まさか、犬が物を言う訳ないわな」
     「おっちゃァん……そこのいて言うてんね。ちょっと寒いねん」
     「うわっ、犬が物を言うとる」
     「お父ちゃん、何さっきからワンワン言うてるの」
     奇妙な味わいの噺だ。犬と父がしゃべってるのを、横で息子が聞いているという設定。次などはさらに不可思議だ。

    (中略)

  • 22面 極私的「日本映画興亡史」マキノ省三伝 「脚本第一」惜しげなく(三谷俊之)

    マキノ省三にとって、映画(活動写真)制作は徒手空拳の闘いだった。撮影は手探りで失敗ばかり。長男・雅弘の『カツドウヤ一代』(大空社)に詳しいが、歌舞伎の『菅原伝授手習鑑』を題材にした作品で、当時、フイルムを入れ替える時、役者は動作を止めて待たなければならない。ところが、車引き役の1人がトイレに行ったことがわからず撮影が再開した。現像後みると、車引きの姿が途中から消えていた。省三はこれを見て、「これは使える」とトリックに利用することにし、松之助主演の忍術映画を生んだ。
     なにより省三が映画作りで重視したのは「1・スジ、2・ヌケ、3・動作」の3要素だった。スジというのは脚本、ストーリーのこと。「人気役者はすぐに出てくる。活動(写真)はスジが肝心や」とした。いい企画と脚本には金に糸目をつけなかった。
     「後の『マキノ映画』時代に、ベテラン二川文太郎監督の月給が250円で最高だったのに比べ、新鋭の寿々喜多呂九平のシナリオ『影法師捕物帖』には6倍の1500円の超高額を支払った」(都築正昭『シネマがやってきたー日本映画事始め』より)
     ヌケというのは撮影や現像も含めた画面のよさをいう。動作は役者の動きや台詞のこと。それを省三はスタッフたち言い続けた。この三つの要素はどれが欠けてもいけない。三位一体となって優れた映画ができるという。
     かつて、私は省三の孫にあたる俳優の津川雅彦にインタビューをしたことがある。マキノ雅彦の名で、3本の作品を監督もした津川は、祖父についてこう語っていた。
     「省三は『映画は目で見るものだけど、その見えている部分は30%や。見えないところを70%入れないかん』といっていた。つまり見えてることではなく、そこから想像できるもので勝負しないと映画ではない、と深いところを突いていた。今の映像文化というものを、とても見通している。画面で見えるだけではなく、やっぱり想像力を働かせることが映画にとっては一番大事なんだ、とクドいほどいつもいっていた」(2013年12月取材)

    (中略)

  • 23面 坂崎優子がつぶやく「白内障手術で日常守る」

    「子どもに頼らず自分たちでやる」をモットーに、2人暮らしを続けている義父母。昨年母が珍しく頼みごとをしてきました。
     「白内障の手術をすることになったのだけど、手術前の説明を一緒に聞いてもらえるかな」と。担当医師に「一人で大丈夫」と言い続けたけれど、「入退院を一人でやるのは全然いいのだけど、説明だけは一人ではダメ」と言われたとか。「何でも一人でやれると思ってきたけど、できないこともあることを初めて知った」と80代半ばでしみじみ語る義母。私もこの年でこんなセリフを吐いてみたいと思いました。
     白内障の手術は日帰りが当たり前になってきましたが、義母は別の疾患も伴っていたため、普通の手術よりも難しく、両目とも行うこともあって、入院して治療することになりました。
     担当は、他で治療ができない難しい手術も引き受ける、地元では有名な医師です。たまたま応援で来て母を診察し「この人は私が担当する」と、その医師の所属病院で手術することになりました。術前の説明では、そのまま放っておくと失明する可能性があったこともわかり、その前に手術ができて幸いでした。
     白内障は病気というよりは加齢による現象だとも言われます。そのため「いつ手術をしてもいいよ」と時期を患者に委ねる医師も多く、結果、手術を先送りしがちです。ところがこのことで弊害が生じています。

    (中略)

  • 24面~27面 読者からのお手紙&メール(文責・矢野宏)

    兵庫でも始まった
    現業職員への攻撃

      兵庫県 岩見健一
     いつも新聞うずみ火を送ってくださり、ありがとうございます。商業新聞にはない、鋭い視点からの記事を毎号興味深く熟読しています。
     さて、私は兵庫県立高校の現業職員(校務員)として23年ほど勤務しておりますが、昨年末、とても嬉しくないクリスマスプレゼントをいただきました。それは、2022年4月から現業職員だけを狙い撃ちにして給与カットを行うというのです。まだ、県教委と教職員組合が交渉中で、決定されたわけではありませんが、県教委の提案は、平均で月収5万円強、年収にして約100万円をカットするという信じられないものです。
     教員や事務職員と違い、現業職員には法律で決められた定員や身分保障がなく、ここ20年来、県教委の裁量で正規職員の採用がストップされ、臨時職員に置き換えられた上、人もどんどん減らされてきました。さらに乱暴な給与削減となれば、生活が脅かされ、職員のモチベーションは下がる一方です。
     私の憶測ですが、兵庫県も維新系の斎藤知事になり、大阪府・市のように現業職員への攻撃が始まったのでは、と感じています。一応、私は正規職員ですが、県教委のさじ加減ひとつでこうも都合よく扱われるのではたまったものではありません。やり場のない憤りでいっぱいです。
     (維新の大阪府政・市政は「民でできることは民へ」として、市営地下鉄や市営バスは民営化して公共から切り離し、一般廃棄物のごみ収集輸送事業や焼却処理事業などの現業部門も民営化しました。窓口業務の外注化も広がっており、競争入札ではパソナグループ同士が争っているのが実情です。いよいよ兵庫も、ですか……。教職員組合には頑張ってほしいですね)

  • 26面 車イスから思う事 「死刑になりたい」なんて(佐藤京子)

    「大きな事件を起こして死刑になりたかった」。昨年から今年にかけて面識のない人を巻き込む事件が相次ぎ、その都度、容疑者の言葉が気になる。何と無責任な言い草だろうか。自分が死にたいと思うことはそれぞれに事情が異なり、抱えている悩みが違うだろうが、なぜ「誰かを傷つけて」という発想が生まれるのか。
     1月15日も大学入学共通テスト会場で、高校2年生が自分の成績不振を棚に上げ、3人の背中を刺して逮捕されている。京王線の電車内で昨年10月31日夜、乗客が切りつけられるなどして17人が重軽傷を負った事件も、そう供述していた。
     自傷他害がわかっている場合、措置入院などの医療的介入が行える。高校2年生の事件も京王線での事件も、容疑者を「病」としては扱いづらかっただろう。精神科や心療内科に繋がっていない事の方が圧倒的に多いだろうから。
     どんな人でも気分が沈むことも晴れることもある。その程度の変調ならやり繰りして生きているのが一般的だ。それが、コントロールできないと感じた時に医療機関を受診する。そこで、その時の状態に合わせた医療にかかれた時はいい。この出会いが重要なカギと思う。
     なぜ、自分が死にたいからと「死刑になりたい」という気持ちになるのか。自分のせいではないと逃げ道を作っているのだろうか。
     誰かを巻き添えにしないでほしい。生きていることを否定しないでほしい。死を見つめてほしい。病が原因なら治療が必要であり、保護される必要がある。決して他人任せにはできない問題である。
     そう考えるのは冷たいだろうか。人間は人によって生かされているが、人が代わってあげられない現実もある。いかなる困難や現実があったにせよ、他人を傷つけて良い理由にはならない。なぜ、こんなにも簡単なことが分からなくなっていくのだろうか。理解できない。
    (アテネパラリンピック銀メダリスト・佐藤京子)


  • 28面~29面 年賀状から一言(文責・矢野宏)

    寒中お見舞い申し上げます。今年もよろしくお願いします。事務所宛にいただいた年賀状に添えられた一筆近況をご紹介します。

      京都市山科区 上原安治
           (京や酒店)
     昨年も大変な一年でした。政権が代わっても根元は一緒なので、付け焼刃政治で本当の庶民のための政治には程遠いと思います。

        堺市東区 今井恵子
     いつも細やかなニュースを拾って届けてくださいましてありがとうございます。楽しく拝読しております。

      大阪府吹田市 大田季子
     矢野君、いつもご苦労さまです。私も今年4月で朝日ファミリー歴41年目。今は「行けるところまで行く」心境です。

        東大阪市 大矢和枝
     世の中がザワザワと落ち着かないまま、2年が過ぎました。そんな中での取材、新聞発行と大変でしたね。お身体に気を付けてください。

      神戸市長田区 岡田征一
               育代
     問題多い日本。負けずに元気に参りましょう!

       神戸市東灘区 加賀翠
     昨年はお忙しい中、亮の論文を手伝っていただき、ありがとうございました。亮は年末年始にかけて児童養護施設の実習です。ちょうど12年前、寒中見舞いに寅年の年賀はがきを使い、父の訃報を皆さまにお知らせしたことを思い出しております。

      神戸市長田区 高馬士郎
               正子
     昨年は野党が共同して、自公政権を脅かしましたが、今年こそ憲法の原点に立ち還った政治を実現するために、夏の参院選勝利を目指します。今年は私たち夫婦が結婚60周年を迎えるので、健康に気をつけて日々を過ごす決意です。

    (中略)

  • 30面 うずみ火掲示板(矢野宏)

    大阪市中央区の戦争博物館「ピースおおさか」(大阪国際平和センター)の片山靖隆館長から感謝状が贈られました。文面には「戦争の悲惨さを次の世代に伝え、平和への誓いと祈りをともに確かめあうための貴重な資料を寄贈されました。ここに深く感謝の意を表します」と記されています。昨年秋、インターネットで支援を求めるクラウドファンディングを利用して空襲体験者の証言DVD「語り継ぐ大阪大空襲」を制作。小中高校での平和学習に活用してもらいたいと、ピースおおさかに5本謹呈しました。
     新聞うずみ火でも学校以外の職場や団体、地域での学習会にも無償で貸し出しており、好評を得ています。昨年12月には、「憲法9条の会・関西」での講演前に上映したところ、たくさんの感想を送っていただきました。
     「戦争体験者のDVDはとても良い内容で身につまされました。人をいじめてはいけない、差別をしてはいけないということが、そのつらさを体験された言葉として、とてもよくわかりました」「『戦争は誰一人にとってもいいことはありません』との言葉がその通りだと納得しました」「ビデオも大変良かった。戦争のできる国にしてはダメだ。若い人に伝える工夫が必要だ」
     今年は戦後77年。戦後生まれの人口が8割を超え、戦争を経験した「語り手」がいない時代は、そう遠くなく訪れます。一人でも多くの空襲体験者の証言を残すため、2回目のクラウドファンディングに挑戦します。「協力したいが、ネットはわからない」という方には次号で支援方法をご紹介します。ご協力、よろしくお願いします。

  • 30面 編集後記(矢野宏)

    「誰が泣いているのか、泣いている人に寄り添え」。読売新聞大阪本社が大阪府と包括連携協定を結んだとき、恩師である黒田清さんの言葉が脳裏をよぎった。「ジャーナリズムの役割は権力の監視や。自ずと立ち位置は決まっている。市民の側に立たなければあかん」「権力との距離を見誤れば、権力側の広報になってしまう」とも。戦争を憎み、差別を許さなかったジャーナリストの遺言でもある。大阪府は40を超える企業と連携協定を結んでいるが、大手新聞社との協定は初めてだ。背景に何があるのか。日本新聞協会によると、2021年10月時点の発行部数は約3300万部。ピークだった1997年の約5400万部から激減している。全国紙5紙をみると、かつて公称部数1000万部を誇った読売新聞は21年1月現在で731万部(前年同月比57万部減)。朝日新聞が481万部(同43万部減)、毎日新聞202万部(同27万部減)、産経新聞122万部(同12万部減)、日経新聞194万部(同28万部減)といずれもピーク時のほぼ半分近くにまで部数を減らしている。そこにコロナ禍だ。「背に腹はかえられぬ」と、読売新聞に続く新聞社が出ないとも限らない。すでに在阪のテレビ局は「維新の広報機関」と批判されて久しい。20年4月から21年5月までの14カ月間で、吉村知事のテレビ出演は143回。多くは関西の情報番組だという。元日特番に松井市長と吉村知事、橋下徹氏の3人を出演させたテレビ局もあるほどだ。今回結ばれた連携事項は8分野に及び、その一つ、地域活性化の中に大阪・関西万博の開催に向けた協力が盛り込まれている。維新の府政と市政は「万博を隠れ蓑」にしてカジノ誘致のためのインフラ整備を進めている。さらに、夢洲の汚染土壌の改良を名目に大阪市の財源をつぎ込もうとしている。これ以上、市民を泣かしたらあかん。記者は自制することなく、市民の側に立った報道を心掛けていただきたい。(矢)

  • 31面 事務所日誌(矢野宏)

    12月7日(火)
     矢野 午前、東京へ。墨田区で開かれた「全国空襲被害者連絡協議会」の総会と決起集会「見捨てられた戦後、民間空襲被害者はいま」を取材。元事務局長の足立史郎さん、沢田猛さんと歓談。夜、帰阪。
    12月9日(木)
     矢野 夜、兵庫県尼崎市内で平石昇さんと「在日韓国研究所」代表の金光男さんを囲む会。韓国の現状を学ぶ。
    12月10日(金)
     午後、「会えてよかった」を連載中の上田康平さんと大矢和枝さんが事務所に。矢野は夜、エルおおさかでドキュメンタリー映画「標的」を鑑賞した後、大阪大教授の木戸衛一さん、MBSの亘佐和子さん、文箭祥人さん、江口祐二さんらに誕生日を祝ってもらう。
    12月11日(土)
     矢野、栗原 午前、大阪・高槻市内で上映された映画「いのち見つめて~高次脳機能障害と現代社会」を鑑賞後、神崎川ダイドーボウルでボウリング大会。夜、淀川区の韓国料理店「セント」で忘年会。
    12月13日(月)
     矢野 夕方、西谷文和さんが主宰している「路上のラジオ」に出演。今年の主な出来事を二人で振り返る。
    12月14日(火)
     矢野、栗原 午前、「夢洲の都市計画変更を考える市民懇談会」のメンバーで名古屋市立大名誉教授の山田明さんと大阪府咲洲庁舎で待ち合わせ、大阪・関西万博の会場となる夢洲を案内してもらう。夜、スタッフの吉水享子さんが所属している大阪新音フロイデによる「第九」鑑賞後、佐藤好之さん夫妻、竹島恭子さん、小泉雄一さん、樋口元義さん、岩部始さん、遠田博美さんと懇親会。
    12月15日(水)
     矢野 午後、JR東海労新幹線関西地本の三田憲一さんとNPO法人「ちゅうぶ」で堀篤子さんらに話を聞く。
     栗原 京都府庁へ。宇治市・ウトロで起きた放火事件に対する弁護士らの会見。
    12月17日(金)
     生野区の足立須賀さんの店「Yosuga」でミャンマー写真展とトークを共催(~19日)。矢野は夜、「ミャンマー関西」代表の猶原信男さんと打ち合わせ。
    12月18日(土)
     栗原 午前、浪速区で「部落解放大阪共闘会議」の総会で「大江岩波訴訟」支援の経験を話す。午後、矢野、栗原は京都府宇治市のウトロ取材。
    12月23日(木)
     夕方、新聞うずみ火1月号が届き、発送作業。JR東海労新幹線関西地本の工藤孝志さん、多田一夫さん、康乗真一さん、小泉さんのほか、金川正明さん、樋口さんが手伝ってくれ、郵便局に手渡す。ビールがうまい!
    12月24日(金)
     夕方、ABC「おはようコール]でご一緒した大久保良則さんが事務所に。「番組が終わってもう1年ですか……」
    12月27日(月)
     栗原 午後、大阪府庁で大阪府と読売新聞の包括連携協定会見を取材。
     矢野 午後、「しんぶん赤旗」の小浜明代記者から包括連携協定についてコメントを求められる。夜、MBSラジオ「ニュースなラヂオ」年末特番。時事通信社解説委員の山田恵資さんをスタジオに迎え、十大ニュースを振り返る。関西福祉大教授の勝田吉彰さんとオンラインで結び、オミクロン株について話を聞く。
    12月28日(火)
     栗原 夕方 大阪府庁へ。ウトロ放火をめぐるコリアNGOなどの会見取材。
     夜、「ビッグイシュー」編集部の松岡理恵さんが来社。新聞うずみ火の購読料を収めてくれた後、飲み会。
    12月29日(水)
     夜、大阪日日新聞記者の木下功さんが来社。
    12月30日(木)
     夜、新井信芳さんの店「グランマ号」で樋口さん、角家年治さん、水田隆三さん、鈴木祐太さんと忘年会。
    12月31日(金)
     夜、樋口さんが事務所に。年賀状は……まあいいか。

  • 32面 うずみ火講座(矢野宏)

    1月の「うずみ火講座」は29日、大阪市立福島区民センターで開講。講師はフリージャーナリストの西谷文和さん。演題は「アフガン最新報告~テロとの闘い20年はいったい何だったのか?」。
    【日時】1月29日(土)午後6時半~8時半
    【交通】「野田阪神」駅から徒歩6分ほど

     維新の大阪府・市政がカジノを大阪に誘致するため、2、3月の府市議会で同意決議を行おうとしている。しかも松井市長は「カジノに税金は使わない」と言っていたが、夢洲の土壌汚染対策の費用を大阪市で負担することに。「カジノ問題を考える大阪ネットワーク」代表で阪南大教授の桜田輝雄さんが「着々と進む夢洲カジノ計画 府民に巨額のツケ必至」と題してわかりやすく説明してもらう。
    【日時】2月12日(土)午後2時半~4時半
    【場所】大阪市北区のPLP会館4階(地下鉄堺筋線「扇町駅」④出口から徒歩3分、JR環状線「天満駅」から南へ徒歩5分)

     東京電力福島第一原発事故の発生からまもなく11年。京大複合原子力科学研究所研究員で「熊取6人組」の一人、今中哲二さんがこれまでの調査研究から「世界の核被害・各災害」を振り返る。
    【日時】3月19日(土)午後2時半~4時半
    【場所】PLP会館4階
     いずれも、資料代は読者1000円、一般1200円、オンライン視聴、学生、障害者500円。
     三つの講座とも、当日、YouTubeでのライブ配信を行います。希望される方は「うずみ火ニュース」のホームページをご覧ください。


    ◆購読方法 新聞うずみ火は月刊の新聞です。ぜひ、定期購読の輪にご参加ください。
    購読を希望される方は、お近くの郵便局から年間購読料として1部300円×12カ月分、計3600円を下記の口座にお振り込みください。毎月23日頃、お手元へ郵送します。
     郵便振替口座 00930-6-279053  加入者名 株式会社うずみ火
    ◆賛助会員募集 より充実した紙面をお届けするため、賛助会員として応援してくれる方を募集しています。購読料のほかに年会費(1万円~)を収めていただけると、特典として増刊号(不定期)と新聞うずみ火をもう1部贈呈します。よろしくお願いします。

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