新聞うずみ火 最新号

2023年5月号(No.211)

  • 1面~3面 大阪IRカジノ政府が認定 リスク山積 見て見ぬふり(うずみ火編集部)

    カジノを含む統合型リゾート(IR)について、政府は4月14日、大阪府・市が申請した区域整備計画を認定した。同月9日に投開票された大阪府知事・市長のダブル選でIR推進派の大阪維新の会が勝利して5日後のこと。認定を受けて府市は2029年冬までの開業を目指すが、建設予定地「夢洲」の土壌問題や膨らむ公費負担、ギャンブル依存症の誘発など懸念材料も山積したままだ。(うずみ火編集部)

    「政府は認定を撤回せよ」「子どもたちの未来を博打でつぶさないで」
    大阪市中央区の府庁前、14日正午過ぎ、誘致反対を訴える市民ら約150人が集まって抗議の声を上げた。 この日午前に開かれた政府のIRの推進本部会議(本部長・岸田文雄首相)で大阪のIR計画が正式に認定された。ダブル選の結果がゴーサインとなった。
     
    「府民や市民が選んだと言い抜けるため。政府は逃げている。私たちは認定を受け入れることはできない。選挙で民意を得たとしているが、カジノについて十分な説明もなく、住民の合意は得られていない」
     
    山川義保さん(60)は昨年、IRの賛否を問う住民投票を求め署名運動した「夢洲カジノを止める会」の元事務局長。府民19万人以上の有効署名が集まったが、維新が過半数を占める府議会で一蹴された。
     
    住民説明会や公聴会もコロナを理由に打ち切られた。ダブル選では、カジノ反対を訴える対立候補に対し、維新側はカジノ問題に触れず、争点化を避けた。
     
    しかし知事に再選した吉村洋文氏は記者会見で、IRについて「一定の民意を得たと思う」と断言した。
     
    大阪IRは、大阪維新の会が推進する成長戦略の柱。府市は大阪湾の人工島「夢洲」(大阪市此花区)を候補地に「世界最高水準の成長型IR」を実現するとして19年に「大阪IR基本構想」を策定した。公募に応じたのは米カジノ大手MGMとオリックスの企業連合だけ。そのMGM、オリックスを中核に、関西企業20社が出資する「大阪IR株式会社」が運営主体として設立された。
     
    府市は同社とともに区域整備計画案を策定、昨年4月、国に申請した。1兆800億円を初期投資、カジノや国際会議場、展示場などのMICEのほか、ホテル、劇場などを整備する。年間売上額は5200億円。そのうち8割がカジノによる収益だという。
     
    だが、「高い国際競争力」とは名ばかりで、19年の基本構想で10万平方㍍以上だったMICEは5分の1に。国際会議場も半分になった。
    ……

  • 4面~5面 統一地方選「大阪四重選」 あきらめムード 維新を「伸張」(矢野宏)

    統一地方選の前半戦で注目を集めた大阪府知事・市長のダブル選は4月9日投開票され、大阪維新の会がいずれも勝利した。同時に行われた府議選・市議選でも過半数を獲得し、「大阪の4重選」を制した。なぜ、維新は勝てたのか。関西学院大教授の冨田宏冶さん(63)は「維新が勝ったというより、投票率を上げられなかった反維新が負けた」と指摘する。
    大阪ダブル選は、知事選(投票率46・98%)で現職の吉村洋文氏(47)が過去最多の243万9444票を獲得して再選を決め、市長選(同48・33%)では前府議の横山英幸氏(41)が政治団体「アップデートおおさか」が擁立した前大阪市議の北野妙子氏(63)に40万票差をつけて初当選した。維新のダブル選での勝利は2011年から4回連続となる。

    維新は府議選(定数79)で改選前46議席から55議席、市議選(同81)でも40議席から46議席と大きく議席を増やした。
     
    冨田さんは「維新が勝ったというより、反維新が負けた。自滅です」と指摘する。
     
    「維新の得票数は、知事選以外ほぼ前回(2019年)並みで、ほとんど増えていない。市長選は66万票から65万票へと減らしており、市議選でも前回無投票だった住吉区を除くと、15区でわずかに増やしているが、8区では減らしている。得票数で圧勝したわけではない。吉村氏は前回より17万票上乗せし、1999年の知事選で横山ノック氏が獲得した235万票を超えたが、各社の出口調査に見られるように自民、公明票の6割を取り込んだから。反維新の谷口真由美氏が自公支持票を取り込めなかったこともあり、驚くような数字ではありません」
     
    有権者総数に占める得票数の割合を示す絶対得票率で、維新の強さは「コンスタントに30%をうかがう固定票を持っており、着実に得票につなげることだ」と冨田さんは分析。維新支持層は「都心の高層マンションや衛星都市の戸建てに住むサラリーマン層を中心とする経済保守層」と見ている。
     
    「反維新側が絶対得票率30%を超えるためには、投票率を60%以上に引き上げねばならなかった。『大阪都構想』をめぐる住民投票で、反維新が勝利した2015年の投票率は66・83%、20年は62・35%だった。投票率が下がれば、固定票を持つ維新が有利になる。今回の知事選は49・49%から46・98%、市長選も52・70%から48・33%といずれも前回を下回った。これでは勝てません」
     
    なぜ、投票率が上がらなかったのか。
    ……

  • 6面~7面 岸田首相襲撃事件 異変察知は地元漁師(粟野仁雄)

    「雑賀﨑の男は、根は温かいんやけど言葉が荒っぽい。雑賀弁という和歌山県人でもわからん言葉も使う。昔は観光客も来たけど今はさびれて、よそ者はすぐわかるんや」
     
    4月18日、和歌山市南部の雑賀崎漁港を見下ろす高台のバス停前で老人が説明してくれた。15日、木村隆二容疑者(24)が南海電鉄和歌山市駅から乗り、ここで降りたとみられる。狭い階段を下りると漁港に着くが、わかりにくい。木村容疑者の自宅のある兵庫県川西市からは3時間以上かかり、バスは1時間に1本程度。早朝に自宅を出発したようだ。

     
    午前11時17分頃、衆院和歌山選挙区補選の自民党候補応援のために訪れた岸田首相の車列と木村容疑者が漁港の演説会場に入る様子が、階段下のカフェなどの防犯カメラに映っていた。
     
    この日はJR和歌山駅前でも首相演説が予定されていた。普通ならわかりやすい駅前に行きそうだが、わざわざ不便な漁港を襲撃場所に選んだのは、群衆が少なくターゲットに接近しやすいと踏んだからか。
     
    安倍元首相の悲劇以来、首相級の演説場所はぎりぎりまで伝えられず、自民党和歌山県連が広報したのは前日の夕方。下見に来る時間はなかったはずだ。
     
    この地域は中世から「雑賀衆」と呼ばれ、織田信長も手を焼いた勇猛な鉄砲衆の拠点で知られる。二つ目の金属パイプ爆弾に着火しようとした木村容疑者に男性(52・漁業組合員)がヘッドロックして取り押さえた。直後、すでに容疑者が投げていた一つ目が爆破したが、幸い岸田首相も聴衆も逃げていた。投げたのは11時27分頃とみられる。
    ……

  • 8面~9面 ストップ・リニア訴訟 沿線で何が起きているのか(阿久沢悦子)

     
    JR東海がリニア中央新幹線の工事を急いでいる。東京ー名古屋間の開業目標の2027年まであと4年。環境への影響を懸念する静岡県との対立で同県内では未着工だが、問題はそれだけではない。各地で工事が遅れ、事故も相次いでいる。東京地裁では1都6県の沿線住民ら249人が、国に対し、JR東海への工事認可の取り消しを求める「ストップ・リニア!」訴訟を7年にわたって争い、今年2月に結審した。リニア予定地の沿線で何が起きているのか。昨年10月から11月の原告側の証人陳述を中心に、取材を交えて検証する。

     
    東京のリニア起点にあたる北品川非常口(東京都品川区)。JR東海は2021年10月、ここに地中から深さ約70㍍の場所に組み立てたシールドマシンを水平に300㍍掘り進める「調査掘進」を始めた。当初は半年ほどかけて地盤や構造物への影響を調査し、沿線住民らに報告するとしていた。だが、わずか50㍍進んだ地点で、マシンは止まった。22年3月、異変に気づいた住民らが、JR東海の工事事務所に説明を求めた。
     
    原告の三木一彦さんはその一人。リニア路線直上の大田区田園調布の一戸建てに祖父母の代から住んでいる。「リニアから住環境を守る田園調布住民の会」を立ち上げて学習会を開き、「ストップ・リニア!」とは別にJR東海を相手取った工事差し止め訴訟も起こした。
     
    JR東海は三木さんらに、「(工事の遅れは)安全第一で丁寧に掘っているから」と繰り返すのみだった。住民への説明がないまま、5月になって金子慎社長(当時)は定例記者会見で「土をうまくマシン内部に取り込めない」と述べた。8月には自社のホームページで「(土を掘りやすい硬さに調節する)添加材注入設備の一部に故障が見つかり、それが原因で掘削土がカッターヘッドに付着したままの状態である可能性が高い」と発表した。
    ……

  • 10面~11面 福島原発事故に負けない 希望託すトルコキキョウ(平舘英明)

     
    福島県本宮市を抜けて国道4号線を北上すると、左手に「あだたらの里直売所」(大玉村)が見えてくる。地元の野菜や特産品が並ぶ直売所からは安達太良山が望める。食事処やカフェが隣接し、観光客にも人気のスポットだ。
     
    直売所は、季節になるとトルコキキョウが店内を彩る。それぞれの花束には生産者が記されている。佐野久美子さん(64)はその一人だ。大玉村に移住して11年になる。今年から生産を拡大するために土地を借り、ビニールハウスを2棟建てたばかりだ。
     
    なぜ、佐野さんはトルコキキョウをつくるのか。それは「故郷を追われても、あの頃と同じように信念を持って花づくりをしている」と子どもや孫に伝えたいからだ。
     
    佐野さんの故郷は浪江町津島地区(約450世帯1400人)。津島地区は原発事故による放射能汚染で全域が帰還困難区域になった。今年3月31日、先行除染した特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示が解除された。だが、解除区域は全体の1・6%に過ぎない。
     
    佐野さんの自宅は津島地区を貫く国道114号線から2㌔離れた山間部にある。道路は寸断され、自宅は原発事故当時のまま放置されている。除染のめども立たず、佐野さんは「(復興から)取り残されている」と話す。
    ……

  • 12面~13面 沖縄戦「集団自決」の教科書検定 日本軍の関与触れず(栗原佳子)

     
    住民の4人に1人が犠牲になった78年前の沖縄戦。史実を伝えるために、教科書は重要な役割を持つ。そんな中、2024年度から小学6年生が使う社会科教科書全てが住民被害を象徴する「集団自決」(強制集団死)を取り上げたものの、「アメリカ軍の攻撃」だけを要因と記述した。「集団自決」には旧日本軍の強制、命令、誘導があったことを示す住民の証言が多数ある。戦場に動員された元学徒でつくる元全学徒の会が「真実の歴史を多面的に教えるべきだ」と声明を出すなど波紋を広げている。 (栗原佳子)

    文科省は3月28日、24年度から使用する小学校教科書の検定結果を公表した。合格した6年生の社会科教科書3社は「集団自決」についてこう記した。
     
    ▼東京書籍「住民の多くが戦争に巻き込まれ、アメリカ軍の攻撃でおいつめられた住民には、集団で自決するなど、悲惨な事態が生じたました」(沖縄戦についての写真説明)
     
    ▼教育出版「沖縄ではアメリカ軍の攻撃で追いつめられて、多くの住民が集団で死に追い込まれるできごとが起こりました」(沖縄戦についての写真説明)
     
    ▼日本文教出版「ガマの奥まで焼きつくすアメリカ軍の激しい攻撃に、追いつめられた住民のなかには『集団自決』した人も多数いました』」
     
    東京書籍、教育出版の米軍に関する記述は現行の教科書を踏襲。日本軍については、日本文京出版が現行教科書の「戦争に総動員され」という表現を削り、米軍に言及した。結果的に3社全て、日本軍の関与に触れなかった。
    ……

  • 14面~15面 関東大震災 地方出身者3人犠牲 「言葉違う」集団狂気(栗原佳子)

    10万5000人を超す死者・行方不明者を出した関東大震災から100年。未曽有の天災は、朝鮮人や中国人らが虐殺され、「人災」の側面も大きかった。地方出身者が犠牲になる事件も頻発し、千葉県検見川町(現在の千葉市花見川区検見川)では沖縄、三重、秋田の出身者3人が自警団に殺された。「検見川事件」の真相を調査してきた島袋和幸さん=東京都葛飾区=は「ヘイトと差別は今も存在する。それがなくならない限り人災でもあった関東大震災は繰り返される」と歴史から学ぶ重要性を指摘する。

    1923年9月1日午前11時58分、相模湾沖を震源とするM7・9の大地震が発生、家屋の倒壊や火災、津波などを引き起こし、東京、神奈川を中心に甚大な被害をもたらした。千葉県や埼玉県に向かう街道には避難民が殺到したという。そんな街道筋で事件は起きた。
     
    昨年、島袋さんがまとめた「関東大震災 千葉県『検見川事件』」などによると、大地震から4日後の5日午後1時頃、京成線検見川停留所近くで若い男性3人が数十人の自警団に拘束された。風体や言葉が怪しいと疑われた3人は「日本人だ」と弁明したが聞き入れられず、針金で後ろ手に縛られた。200~300人に膨れ上がった群衆が取り巻くなか、殴られたり、罵声を浴びせられたりしながら花見川の「花見川橋」脇の派出所に引っ立てられた。

    3人は秋田県横手町(現横手市)出身の藤井金蔵さん(22)、三重県河芸郡出身の真弓次郎さん(21)、沖縄県中城郡出身の儀間次郎さん(22)。新聞によって名前や年齢などが若干異なるが、出稼ぎの労働者だったと見られる。巡査は3人が所有していた警視庁の身元証明書をかざし群衆を説得した。しかし、いきり立つ人々は逆に「朝鮮人に味方」する「ニセ巡査」呼ばわりし、派出所の戸を破り、ガラスを叩き割り、3人を花見川橋の上に引きずり出した。3人は針金で縛られ、日本刀や鳶口などで殺害され、遺体は川に突き落とされた。「20㌔余りの道のりを命からがら避難し、たまたま同じ頃、検見川にさしかかった3人。顔までぐちゃぐちゃにされ、海の藻屑です」と島袋さん。
    ……

  • 16面~17面 ヤマケンのどないなっとんねん 低投票率 肝に銘じよ(山本健治)

    この原稿を書いていた4月15日、衆院和歌山1区補欠選挙の応援で和歌山市雑賀崎漁港を訪れていた岸田首相に兵庫県川西市の男性が手製爆発物を投げつける事件が起きた。昨年7月の安倍元首相殺害事件を思い出した人もいるだろう。犯罪は許せないし、肯定するつもりはまったくないが、時代を映し出す。日本は衰退、貧困や格差拡大に歯止めはかからず、一部の者だけが温々、政治不信と不満は膨らんで暴走する。
     
    今から百年前、世界も日本も第一次大戦後の混乱で、イタリアではムッソリーニ、ドイツではヒトラーが台頭、テロと煽動で独裁政治へと進んだ。日本では1921年に安田財閥の安田善次郎、首相の原敬が暗殺され、23年には大杉栄と伊藤野枝らが甘粕憲兵大尉に殺害され、29年には山本宣治暗殺、時代はどんどん血生臭さくなり、5・15、2・26事件と続いて軍部独裁、テロと戦争の時代になった。こんな歴史を繰り返してはならない。政治は信頼を取り戻し、不安不満をなくし暴力戦争を否定しなければならない。
     
    しかし北朝鮮がミサイル発射したと言ってはアラートを発し、それがいつも的外れでみんなはオオカミ少年のようだと笑う一方で、あれは日本を狙ったもの、一刻も早く敵基地攻撃できるよう憲法・自衛隊法を変えなければならないと叫び、憲法審査会では9条を変え、「緊急事態条項」を入れるべきだと叫ぶ連中がいる。緊急事態条項は民主主義・基本的人権の否定である。岸田首相は就任以来、改憲とともに軍拡・軍事費倍増を叫んできたが、本年度予算は軍拡予算であり、日本は完全に軍国時代に入った。
     
    ところが、ミサイルがいつ飛んでくるかしれないと危機感を煽り、巨大地震が起き、いつ津波が襲ってくるかもしれないから気を付けろと言いながら、一番危ない大阪湾の埋立地で万博、カジノIRを開催するというのだから何を考えているのか。
     
    中国の動きを考えると沖縄南西諸島方面の防衛強化が必要だと、石垣島に駐屯地を開設し、視察で陸上自衛隊第8師団の師団長と幹部らが乗ったヘリコプターが墜落した。沈没位置の確認、機体発見に1週間もかかって、ようやく回収作業が行われるようになった。昨年の知床観光船の事故の際も同様で、とにかく遅い。今も6人が行方不明である。
    ……

  • 18面~19面 フクシマ後の原子力 形だけの避難指示解除(高橋宏)

    福島第1原発事故による福島県内の帰還困難区域のうち、3月31日に浪江町の津島地区など、翌4月1日に富岡町の夜の森地区などに設けられた特定復興拠点区域(以下、復興拠点)の避難指示が立て続けに解除された。除染作業やインフラの復旧を優先して進めている復興拠点は福島県内の6町村にあるが、今回の解除は4、5例目となる。
     
    関西でこうしたニュースに触れると、多くの人々が事故後12年を経て帰還困難区域でさえ、復興に向けて着実に前進しているとの印象を持つに違いない。だが、津島地区で私が目にした復興拠点の現実は、その印象とは程遠いものであった。
     
    再び、昨年の和歌山県平和委員会の福島フィールドワークに話を戻す。津島地区で私たちは、群馬県の市民グループを案内していた「原発事故被害いわき市民訴訟」の原告団長などを務める伊東達也さんと合流した。津島地区は、原発事故発生当時1400人余りの人々が暮らしていた。原発から半径10㌔圏内(後に20㌔圏内に拡大)に国の避難指示が出た際、役場の支所や診療所、学校などがある津島地区には、約8000人が避難してきた。国や県からの十分な情報が行き渡らなかった結果、ここで多くの人々が被ばくしてしまう。最終的に津島地区は帰還困難区域となり、住民は故郷を離れることになった。
     
    浪江町役場津島支所や津島診療所をはじめ、当時の建物はそのまま残されていた。雑草が生い茂っているものの、建物が傷んでいるのかどうか、外見からはほとんどわからない。国道沿いの街並みも、ほぼ当時のままで人だけがいない。文字通り、人々の生活が奪われた悲しい光景が広がっていた。
     
    そこから500㍍ほど離れた所に、つしま活性化センターがある。津島支所も兼ねた真新しい建物に隣接して、「再生賃貸住宅」の建設が行われていた。このエリアだけ除染が徹底されているせいか、放射線量は確かに高くはなかった。しかし、いまだ高線量の山林などに周囲を取り囲まれている。ここに戻って来る住民はどれだけいるのだろうか。
     
    津島地区を後にして、私たちは楢葉町に向かった。途中、現在は休校中の県立富岡高校に立ち寄った。校門の内側には空間放射線測定器が設置されており、毎時0・225㍃㏜を示していた。敷地内に、11年度のインターハイ出場などを祝う看板が掲げられたままで、あの時に時間が止まってしまったことを伝えてくれる。雑草が生い茂っているものの、放置されている感じではなかった。グラウンド奥のフェンスに大きく掲げられた「復校・富高」の文字が、生徒をはじめとした学校関係者の思いを伝えていた。
    ……

  • 20面~21面 世界で平和を考える テロとの戦いと自衛隊(西谷文和)

    2004年4月、大阪の吹田市役所職員だった私は有給休暇を取って、まずはヨルダンの首都アンマンへ飛んだ。前年にたまたまバグダッドで知り合った人道支援者のハリルを通訳として、2度目のバグダッドを目指すためだ。この時はまだ米軍が空爆を続けていて、民間機は飛んでいなかったので、陸路で行くしかなかった。今のウクライナも飛行機では行けない。ちなみに当時は、まだ橋下徹が知事になっていなかったので、「公務員が有給休暇を取って海外に行くこと」は、結構当たり前のことだった。
     
    レンタカーを借りてアンマンから国道をぶっ飛ばす。この道は通称「アリババ街道」と呼ばれていて、バグダッドを目指すジャーナリストたちをターゲットにした強盗がよく出没していた。
     
    イラクに入ると、アリババ街道は片道4車線の巨大な道路になる。いざという時にフセインが逃亡できるように滑走路にもなるのだ。01年の911事件直後のアフガニスタンは舗装された道路もなく、石がゴロゴロ転がる道で時速20㌔くらいしか出せないので、「馬で行く方が早い」くらいの国だった。
     
    イラクとアフガニスタン、国力が全然違っていた。砂漠の中の一本道を時速150㌔で飛ばすこと8時間、ユーフラテス川が迫ってくると茶色い大地が緑になり、激戦地ファルージャに入る。
     
    バリバリバリ。攻撃用アパッチヘリが地面スレスレに飛んでいる。国道沿いには米兵と後ろ手に縛り上げられたイラク親父たち。「かわいそうに、ヤツらはアブグレイブ刑務所行きだ」。ハリルがつぶやく。そう、この時まさに米軍のファルージャ総攻撃が始まったのだ。
     
    トランクに積み込んだポリタンクでガソリンを補給。アンマンからだとちょうどこの辺りでガス欠になる。ガソリンスタンドはあるが、ここで停車するのは危険だ。しばらく行くと米軍の戦車が「アリババ街道」をふさぎ、米兵は銃を水平に構えている。いつでも撃てるように。旧ユーゴでは米兵は銃を立てていた。緊張の度合いが違う。
    ……

  • 22面 映画「ハマのドン」 カジノ反対 菅氏に反旗(栗原佳子)

    カジノ誘致を撤回した横浜市民の闘いを描くドキュメンタリー映画「ハマのドン」(松原文枝監督)が5月5日、全国公開される。横浜市はカジノ旗振り役の菅義偉前首相の地元。誘致レースの本命と目されていた。しかし、そこに反旗を翻したのが「ハマのドン」藤木幸夫氏だった。当時91歳、港湾事業者の元締め的存在で保守の重鎮。菅氏の支援者でもあった。ドンはなぜ、市民とともにカジノ阻止に立ち上がったのか。

    昨年2月に放映され大きな反響を呼んだテレビドキュメンタリーの劇場版。松原さんが取材を始めたのは経済部時代の2019年。態度をあいまいにしてきた林文子市長がカジノ誘致に舵を切る中、敢然とカジノ反対を掲げた藤木氏に興味を引かれたという。地元政財界にも顔が利く横浜の「裏の権力者」で、歴代総理や自民党幹部との人脈の広さ、政治力から「ハマのドン」の異名で呼ばれていた。特に交友が深かったのが小此木彦三郎元衆院議員(91年死去)で、その秘書として頭角を表した菅氏の後ろ盾でもあった。
     
    「権力者が権力者に対峙するというのは大変なことで、返り血を浴びる可能性も高い。そのリスクを背負う。どんな人なんだろうかと」
     
    1930年、横浜市に生まれた藤木氏。戦争の時代に少年期を過ごし、横浜大空襲で九死に一生を得た。大学卒業後は父親の興した港湾荷役事業へ。藤木氏が「カジノ反対の言葉は、死んだ親父や先輩たちが言わせている」とつぶやく場面がある。港湾労働者の苦難の歴史が浮かび上がる。
    ……

  • 23面 経済ニュースの裏側 「GPIF」金融動向 年金運用に直結(羽世田鉱四郎)

    4月号で、「クロダノミクス」について、年金運用に大きな影響があると述べました。GPIF(年金積立独立行政法人)の運用状況(速報)を引用し、その実情と背景を探ってみます。
     
    GPIFの運用状況 総資産は、2022年12月末で191兆4807億円ですが、22年度の運用損を反映し、時価は189兆9362億円です。うち厚生年金分は180兆1636億円、国民年金は9兆7726億円。
     
    過去の運用状況ですが、公表資料によれば、01年から22年12月までの22回のうち、8回がマイナスです。直近の22年4月から12月では、資産全体で7・3兆円の損失。項目別では、国内債券1・8兆円、外国債券2・1兆円、国内株式0・6兆円、外国株式2・7兆円と、すべて損失です。
     
    さらに、3月10日に破綻した米国のシリコンバレー銀行(SVB)などの損失が株式238億円、債券199億円、シグネチャー銀行114億円と報じられています。横道に逸れますが、今回のSVB関連で、スウェーデンでは最大の年金基金アレクタが20億㌦(約2650億円)の損失を計上したようです。
     
    運用の基本理念 債券(内外債)と株式(内外)はほぼ半分に分けられ、また国内と海外も折半されており、191兆円の年金資産は4分の1ずつ分散投資されています。
     
    長期運用の背景 年金は、基本的には長期運用です。一つの指標として、先進主要国の10年国債の利回り推移(途中経過)を見てみます。米国は2・32%(22年3月)が3・88%(同年12月)に、ドイツは0・55%が2・53%に上昇していますが、日本は0・22%が0・42%です。人為的な金利抑制が、年金運用にも大きな影響を及ぼしています。
    ……

  • 24面 島袋艶子さん⑪ 艦砲の喰ぇー残さーを歌い伝える(上田康平)

    コロナ対策が公民館活動のマンネ
    リを打破していった。これからもそ
    ういうやり方でいきたい。たとえば
    敬老会などの余興。プロジェクター
    を使って、映像でやった。オードブ
    ル形式はやめ、弁当に。敬老会は各
    60名の2部形式でやっている。
     
     「プランターガーデン
      見守りプロジェクト」
     
    沖縄タイムスによれば、2022
    年2月7日、栄口区自治会でこの取
    り組みがスタートした。家の前にプ
    ランターを置いて花などを育て、近
    所同士のつながりを育むことが狙い
    で、特に1人暮らしの高齢者には声
    掛けを図る機会にする。島袋会長は
    「花いっぱい運動と見守り」に取り
    組み、住み良い地域づくりをめざす
    と語ったとのこと。記事といっしょ
    に掲載されている写真には花の苗を
    プランターに植えるため、公民館の
    庭に集まった区民30人(申し込み先
    着順)の笑顔がいっぱいだった。
     
    イベント屋と思っている
    ……

  • 25面 極私的日本映画興亡史 「傾向映画の時代」ロシアで発見 幻の名作(三谷俊之)

    「ジャズで踊ってリキュールで更けて 明けりゃダンサーの涙雨」という西条八十作詞、中山晋平作曲、佐藤千夜子の歌う『東京行進曲』が大ヒットした。同名の映画は日活太秦で、1929(昭和4)年、菊池寛原作、溝口健二監督、夏川静枝らの主演で制作された。映画と歌のタイアップが大成功した例である。モボ・モガが行き交う昭和初期の銀座の風俗が唄われ、傾向映画の現代劇としてヒットした。
     
    溝口は同年『都会交響楽』も監督している。原作は新感覚派からプロレタリア文学に転向した片岡鉄兵。脚本には片岡のほか3人の小説家が名を連ねている。大都会の資本家と貧しい民を対比し、資本家を貪欲で欺瞞に満ちた存在として徹底的にこき下ろしたため検閲でズタズタにされ、内容は大きく損なわれた。
     
    傾向映画として、最も成功した作品は30(昭和5)年、大阪の帝国キネマ長瀬撮影所による鈴木重吉監督『何が彼女をそうさせたか』だ。貧しさゆえ、親が自殺し、孤児となる少女が叔父を頼るが、曲馬団に売られてしまう。つらい日々の中、青年に恋心を抱くが、団長の虐待に耐え切れずに脱走。生活を転々とするが、追われた2人は心中をはかり、ヒロインだけが生き残ってしまう。
     
    すがる思いでたどり着いた教会の女子感化院も偽善と不正に腐敗しきっていた。ヒロインは絶望のあまり教会に放火する。燃え上がる教会から上がる炎と火の粉を背景に「何が彼女をそうさせたか」の大きな字幕とともに終わる。
    ……

  • 26面 坂崎優子がつぶやく「ケルンの『つなぐパン』」

    坂本龍一さんが亡くなりました。音楽はもちろんのこと、非戦や地球環境への思いを亡くなる寸前まで訴え続けた姿は大人の生き方の手本のようでした。
     
    過去のインタビューで、地球環境について考えるようになったのは子どもを持ったことがきっかけだったと話しておられました。私もこのところ子どもや孫世代のことを考えることが多く、そのたびに暗い気持ちになります。日本の政治の劣化や地球環境の悪化を前に、もっと何かできなかったのかと自問自答しています。
     
    せめて今できることをと、最近「エシカル消費」を推し進める団体設立に関わりました。エシカル消費。聞いたことがある方はまだ少ないかもしれません。直訳すると「倫理的消費」のことです。「商品を選ぶ」行動一つにも考えるべきことはたくさんあります。パッケージは廃棄プラスチックを増やさないか。児童労働や低賃金など、労働者の犠牲で作られた商品ではないか。動物福祉を考えているかなどなど。
     
    倫理的消費をするためには、判断するための情報が必要なのですが、消費者には届いていないのが現状です。エシカル消費の講座では「どこで買えますか」「どんな商品がありますか」という質問が多く出ます。興味を持つ人はいるのに具体的な消費行動につながっていません。
     
    そこで企業や商品をチェックし、勧められる商品や努力している企業を紹介していくためにサイトを立ち上げました。どのように消費者に訴えれば消費につながるかなど、神戸大学の研究室と協力して実験も行っていく予定です。
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  • 27面~30面 読者からのお手紙&メール(文責・矢野宏)

    なぜ「台湾有事」
    そんなにあおる

        那覇市 宮城政三郎
     
    このところ、連日のように「台湾有事」に関するニュースが報道されている。中国と台湾との問題であるのに、なぜ日本がこれほどまでに危機感を持ち、南西諸島に自衛隊の駐屯地やミサイル基地を置くのか。
     
    昨年末、政府はこれまでの専守防衛の基本的原則を大きく転換して「敵基地攻撃能力の保有」「外敵に対する防衛力強化」「今後5年間の防衛費総額43兆円」を盛り込んだ「安保3文書」の改定を閣議決定した。
     
    アメリカの民間シンクタンクが台湾有事を想定して、「中国領土や領海を攻撃してはならない」と報告している。在日米軍が日本本土から、嘉手納等から逃げる作戦を訓練しているという。なのに日本は……。
     
    アメリカは直接、中国と対戦しないだろう。その代わり、中国周辺の同盟国に戦争させるという戦略ではないか。だから日本が攻撃されない限り、中国とアメリカとの紛争に日本政府は関わらない立場を明確にすべきだ。戦争準備の愚かさを冷静に考えることが必要である。
     
    (宮城さんは沖縄戦を体験した元学徒たちに呼びかけ、「元全学徒の会」を設立しました。陸上自衛隊の南西シフトが加速する中、故郷の与那国島が最前線になりかねないと案じ、元学徒たちとともに「再び沖縄を戦場にするな」と声明を出しました)
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  • 28面 厄介なキックボード(佐藤京子)

    週に数回、訪問看護師さんに来てもらっている。その中の一人が頭と顔にばんそうこうを貼ってきた。どうしたのか尋ねると、「横断歩道を渡ろうとしたらキックボードが突っ込んできて転倒した」と言う。救急車で病院に運ばれたが、すり傷と打撲ですんだとのこと。本当に良かった。
     
    最近、よく目にするようになったキックボード。ナンバープレートを付けているが、歩道を走っている。ヘルメットを着用しないで、車道通行もしている。ヘルメット着用は努力義務だ。なんか都合よく軽車両を使い分けているのではないか。
     
    というのも、車を運転していて歩道から急に車道へ降りて来られて接触しそうになったことがある。車イスで歩道を歩いているときも、2度ほど後ろから追突された。最初は、追突されて振り向くと、そのまま走り去っていった。あっけにとられてしまった。2度目はフラフラと道をふさいでいた自転車を追い越そうとしていた時に斜め後ろから突っ込んできた。斜め後ろは死角になって見えづらい。今度こそは逃がしてなるものかと思ったが、一緒にいる介助犬のイムア君がおびえてしまった。その間に、やはり逃がしてしまった。これって、事故なのではないか。
     
    追い越しざまに「ちっ」と舌打ちをされたことは1度や2度ではない。もしかすると、歩道では自転車より厄介かもしれない。交通弱者が安心して歩けない街はおかしいと思う。
     
    春になり、小さな子どもたちや高齢者が外出の機会が増えている。危ない場面も見かける。歩道は歩行者のためのはず。その上で、自転車は歩行者と併走が可能な場所以外は降りて押す。または車道を通る。
    ……

  • 29面 絵本の扉「仔牛の春」(遠田博美)

     
    作者の五味太郎さんは1945年生まれで、デビューは73年です。『きんぎょがにげた』『みんなうんち』『さる・るるる』など、毎年何冊も刊行しており、77歳の現在もたくさんの作品を送り出しています。今回紹介する『仔牛の春』は80年の作品です。
     
    1ページ目に、真っ白な仔牛がいる。「春がきます」「雪がとけます」「土が顔をだします」ここで、仔牛の背中に黒い斑点が三つ現れる。「土がかおをだします」で、斑点がズームアップされる。「草が芽をふきます」で、斑点が土に変わり、たくさんの双葉が芽吹く。そして、次の場面の「花がさきます」で、1面の白い花とそれを笑顔で見つめる女の子が表れる。夏がきて、草がしげり、風が吹き、雨が降り、静かな秋がきて、草原に雪が降る冬になる。雪が積もり、場面は真っ白に。「そしてまた 春がきて」の場面で、仔牛の耳が見えてくる。「雪がとけて」の場面では、引きの画面で仔牛の黒い斑点が戻ってくる。季節が回った最後の場面では、仔牛の頭には可愛い角が2本見えている。
    ……

  • 30面 編集後記(矢野宏)

  • 31面 うもれ火日誌(矢野宏)

    3月10日(金)
     矢野 夕方、西谷文和さんと大阪市淀川区内で開かれた大阪維新の会タウンミーティングに出席。「大阪市長選公開討論会」(新聞うずみ火・路上のラジオ共催)を欠席する理由を市長候補の横山英幸氏に尋ねたかったが、質問時間もなし。怪しまれたか。
    3月12日(日)
     矢野 午後、東大阪市リージョンセンターで開かれた「大阪空襲78年朝鮮人犠牲者追悼集会」を取材。夜、神戸市東灘区の加賀翠さん宅へ。長男亮君の就職を祝う。

  • 32面 6月23日(金)「10・10空襲」フィールドワーク(矢野宏)

    6月23日(金)は沖縄慰霊の日。新型コロナ感染が収束していることを信じて沖縄ツアーの呼びかけです。
     
    「10・10空襲」をご存じですか。1944年10月10日に米海軍が南西諸島で行った大規模空襲で、特に被害が大きかった那覇市では「那覇空襲」とも呼ばれます。沖縄戦の始まりであるこの空襲の戦跡を元沖縄タイムス編集委員の謝花直美さんに案内してもらいます。
     
    原則現地集合・現地解散ですが、懇親会も予定しています。

  • 32面 7月29日(土)黒田さんを偲ぶ会(矢野宏)

    黒田清さんが亡くなって23年目の夏を迎えます。「黒田さんを偲び、平和を考えるライブ」を7月29日(土)午後2時半~大阪府豊中市の「すてっぷホール」で開催します。今年も黒田さんが好きだったコント集団「ザ・ニュースペーパー」結成時のメンバー、松崎菊也さんと石倉直樹さんを招いての風刺トーク&コントライブ。特徴のないあの首相をどう演じるのか、今から楽しみです。
     
    なお、当日会場でお配りするパンフレットの「一声広告」(メッセージを入れて1口3000円~)を募集します。ご協力いただいた方には当日の招待券をプレゼントします。
     
    新型コロナ禍に加えて物価高が収まらず、何かと大変だとは思いますが、今年も郵便振込用紙を同封させていただきました。しました。ご無理のない範囲でご協力いただけると幸いです。
    【日時】7月29日(土)午後2時開場、2時半開演
    【会場】豊中市立とよなか男女共同参画推進センターすてっぷホール
    【交通】阪急宝塚線「豊中駅」南口改札から右手、エトレ豊中5階
    【資料代】読者2000円、一般2200円、学生・障害者1500円

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