新聞うずみ火 最新号

2022年8月月号(No.202)

  • 1面~3面 安倍元首相銃撃死と参院選 岸田政権 困難の政局(矢野宏)

    安倍元首相が投票日2日前に銃撃され死亡する衝撃の中で行われた参院選は、63議席を獲得した自民党の圧勝で終わった。公明党とともに、非改選を含め与党で146議席と、過半数(125議席)を大きく超えた。これに対し、野党第1党の立憲民主党は改選議席を6議席減らす17議席にとどまり、12議席に倍増させた日本維新の会と明暗を分けた。選挙で示された民意とは何か、政局はどう動くのか。関西学院大法学部の冨田宏冶教授と時事通信社解説委員の山田惠資(けいすけ)さんに話を聞いた。

    選挙戦最終日の7月9日、京都・四条河原町。大雨にもかかわらず、両側のアーケードはびっしりの人波であふれていた。
     午後7時過ぎ、日本維新の会の最後の街宣。車の上には維新新人の楠井祐子氏(54)と並んで手を振る国民民主党の前原誠司代表代行の姿があった。「大阪で改革の実績を残し、今や全国で改革を広げていこうとする維新とタッグを組み、自民に代わる政権の受け皿を作りたいのです」
     京都選挙区は定数2。自民新人の吉井章氏(55)と5選を目指す立民の福山哲郎氏(60)の間に楠井氏が割って入った。前原氏は、かつての盟友・福山氏でなく、楠井氏を推した。
     大阪に続き、兵庫でも知事選を制した維新にとって京都は「鬼門」。参院選では最重点選挙区と位置づけ、代表の松井一郎・大阪市長、副代表の吉村洋文・大阪府知事が連日のように京都入りした。
     この日、遅れて登場した吉村氏が街宣車に上がった。
     拍手が沸き起こり、一斉にスマホが向けられた。吉村氏が大阪以外でマイク納めをするのは初めてのことだ。

    「日本に一つぐらい改革政党があってもいいじゃないですか。大阪は身を切る改革で税収を生み出しました。財政が厳しい京都も改革するしかないのです」
    3人がつないだ手を高く掲げアピールすると、突然「ヨシムラコール」が起きた。

    ……

  • 4面~6面 安倍元首相銃殺人 旧統一教会への憎悪(粟野仁雄)

    7月8日金曜日、蒸し暑くて泳ぎに行こうかと思ったら昼前の民放の速報ニュースがと流れた。「安倍前首相、撃たれる 心肺停止か」。正午のNHKニュースも見て現場に飛んだ。発生から約2時間あまり。奈良市の近鉄大和西大寺駅北口のロータリーに到着すると、多数の警官が走り回り、上空に報道ヘリが飛ぶ物々しい雰囲気だった。
     ある主婦は興奮気味に話した。「佐藤さん(啓氏・参院自民党候補)と交代で安倍さんが台に上がって演説を始めた直後、『ボソッ』という鈍い音が聞こえた。30から40歳くらいの男が直径15㌢、長さ30~40㌢くらいの黒い筒みたいなものを向けていた。言葉も発せず、おとなしく取り押さえられていた」
     午前11時半頃、安倍晋三元首相氏はロータリー中央付近のガードレールの中で台に乗って演説を始めた。外れた一発目の銃声で安倍氏は振り返ったが、約3秒後の2発目が命中し倒れた。
     「誰かあー、看護師免許を持つ人いませんか。お医者さんは」と騒然となる。居合わせた看護師が心臓マッサージをし、医師も駆けつけ、ヘリで橿原市の奈良県立医科大病院に緊急搬送された。
     筆者は病院にも向かった。
     3時間以上の手術が行われたが、鎖骨付近から入った弾丸は心臓も損傷した。病院は「午後5時3分に死去された」と発表したが、現場で応急処置をした医師は「一目見て厳しいと思った。自発呼吸はなく、心肺停止でした」と話しており、事実上、即死だったようだ。5時前に昭恵夫人が病院に到着しており「死に目に会えた」ということにしたのか。
     同大学の福島英資教授は「首に2カ所の銃創があり、一つは肩へ抜けていた。大量の輸血と止血をしたが心拍は再開しなかった。失血死とみていい」と説明した。体内に弾丸はなかった。「安倍さんの表情は」と筆者が聞くと、同教授は「見る余裕はなかった」と話した。
    ……

  • 7面  旧統一教会の被害は今も 公安捜査の対象外に(矢野宏)

     安倍元首相が銃撃された事件で、逮捕された山上徹也容疑者(41)=殺人容疑で送検=は「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)への恨みから凶行に及んだとみられる。不安をあおり、壺や印鑑を高額な値段で売りつける「霊感商法」が社会問題化したのは1980年代だったが、被害は今も続いていたのだ。保守系政治家との持ちつ持たれつの関係も垣間見えてきた。(矢野宏)

     山上容疑者が事件の前日、旧統一教会を批判するブログを運営する男性に送った手紙がネット上で公開されている。「私と統一教会の因縁は約30年前にさかのぼります。母の入信から億を超える金銭の浪費、家庭崩壊、破産……。この経過と共に私の10代は過ぎ去りました。その間の経験は私の一生を歪ませ続けたと言っても過言ではありません」と強い恨みが記されている。
     一方で安倍元首相については「本来の敵ではないのです。あくまでも現実世界で最も影響力のある統一教会シンパの一人に過ぎません」とつづりながらも、「安倍の死がもたらす政治的意味、結果、最早それを考える余裕は私にはありません」とある。
     ここ数十年、旧統一教会の霊感商法に関する報道はほとんどなかったが、全国霊感商法対策弁護士連絡会の加納雄二弁護士は「分派して多少下火になったとはいえ、今もやっていることは変わっていない」と指摘する。
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  • 8面~9面 ヤマケンのどないなっとんねん 疑惑「国葬」でうやむやに(山本健治)

     安倍元首相が参院選投票日2日前の午前11時半過ぎ、奈良市の大和西大寺駅前で自民候補者の応援演説を始めた直後、旧統一教会に恨みを持つ41歳男によって、手作りの散弾銃で撃たれ、夕刻に死亡したことで弔い選挙になり、自民圧勝となった。
     ロシアによるウクライナ侵攻が長期化して残虐さを増す中で、反共反左翼風潮が一層強まり、劣勢が予想された立民や共産はさらに厳しい状態に陥ったからだが、圧勝したと思っている岸田首相や自民党は早速、改憲や軍事費引き上げの話をしているが、得票率は34・4%で、前回より0・9%減らしていることを忘れてはならない。
     共同通信社が行った緊急世論調査では「改憲を急ぐべき」の回答は37・5%、「急ぐ必要はない」は58・4%。読売新聞社調査では「憲法改正の議論が活発になることを期待」は58%だったが、優先課題については「景気や雇用」がトップ、次に「物価高対策」。「憲法改正」は最も低かった。岸田首相は改憲はできる限り早期にと述べたが、国民の声とは違う。
     そんな中で7月14日午後6時から記者会見を開いた。コロナ感染が急拡大し感染者が1000万人を超え、第7波という状況になったので、緊急対策を国民に訴えようとしてのことかと思ったら、メインは安倍元首相の「国葬」を行うことだった。
     大日本帝国憲法下では国家に功労のあった人物が亡くなった際、天皇が勅令を出して国葬を行ってきたが、敗戦とともに天皇が国民の総意に基づく象徴天皇に変わって勅令は出されなくなるとともに、宗教の自由、良心の自由、政教分離などから国葬に関する勅令も1947(昭和22)年に廃止され、国葬は行われなくなった。67(昭和42)年10月吉田茂元首相が死去、当時の佐藤栄作首相が国葬にしたが、多額の税金を使い、国民に弔意と葬儀参加を強制する形になることへの批判も多く、佐藤元首相自身が亡くなった際は「国民葬」、中曽根康弘元首相の際は内閣と自民党の「合同葬」となった。
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  • 10面~11面 京都新聞元社主一族を告発 「新聞を愛しているから」(矢野宏)

     新聞うずみ火主催の「うずみ火講座」が7月2日、大阪市北区のPLP会館で開かれ、京都新聞滋賀本社編集部長兼論説委員の日比野敏陽さん(57)が「元新聞労連委員長が見た『メディアと政治の不思議』」と題して講演した。日比野さんは3日前、京都新聞の持ち株会社「京都新聞ホールディングス(HD)」が大株主の元相談役(81)らに支払った総額19億円は違法支出として京都地裁に告発したばかり。「我々は新聞を愛している」と記者会見で述べた日比野さんは、告発に至る経緯についても語った。              (矢野宏)

     日比野さんは2012年から14年まで、日本新聞労働組合連合(新聞労連)の委員長を務めた。「秘密保護法」に反対した新聞労連の先頭に立ち、「戦争は秘密から始まる。新聞人は憲法問題に対し、『客観』『中立』はあってはならない」と訴えた。18年から21年までは東京支社編集部長として国会などを担当した。
     首相記者会見に参加できるのは通常、内閣記者会(永田クラブ)に限られている。内外のメディア140社以上が加盟しており、地方の新聞やテレビ局、外国メディアも入っている。
     内閣記者会の常勤幹事社は19社。全国紙やブロック紙(北海道新聞、西日本新聞、東京新聞)、通信社(共同、時事)、在京テレビ局などの「常駐社」のほか、京都新聞はジャパンタイムスや中国新聞(広島)とともに「準常駐社」として入っている。
     日比野さんは、民主党政権下の09年、新型コロナ感染が急拡大する前の20年3月14日、そして現在の記者会見の写真を紹介し、どこが違うか問いかけた。
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  • 12面~13面 沖縄・座間味島と阿嘉島の戦跡を歩く 戦後生まれ語り継ぐ(栗原佳子)

     6月23日の「沖縄慰霊の日」に合わせ、「うずみ火」読者と現地を訪ねるスタディツアーを3年ぶりに実施した。8年ぶり、沖縄戦で最初に米軍が上陸した慶良間諸島へ。住民の「集団自決」が起きた座間味島、「集団自決」を紙一重で逃れた阿嘉島の戦跡を歩いた。    (栗原佳子)

     慶良間諸島は那覇市から西に30~40㌔に位置する島嶼群。座間味村(座間味島、阿嘉島、慶留間島)、渡嘉敷村(渡嘉敷島、前島)から成る。サンゴ礁に囲まれた海は、その美しさから「ケラマブルー」と称される。海水浴やダイビング、ホエールウオッチングなどを楽しむ日帰り客も多い。
     しかし沖縄戦では、そんな「地の利」ゆえ悲劇の島になった。日本軍は、米軍の沖縄本島上陸を想定し、背後から急襲すべく「陸軍海上挺進戦隊」を配備した。120キロの爆雷を積んだベニヤのボート特攻艇(通称マルレ)で敵艦に体当りさせる海の特攻で、座間味島に第一戦隊、阿嘉・慶留間島に第二戦隊、渡嘉敷島に第三戦隊が駐留した。
     米軍はその裏をかき、慶良間諸島から上陸した。沖縄本島での戦闘に備え、投錨地を確保する狙いがあったという。
     1945年3月23日、水平線に現れた米艦船はやがて慶良間海峡を黒く埋めた。海から艦砲射撃、空からは焼夷弾の雨を降らせ、26日朝、米軍は阿嘉島、慶留間島、座間味島の順で上陸した。28日には慶良間海峡を挟んだ渡嘉敷島に上陸。日本軍と米軍に挟まれた住民は「集団自決」に追い込まれた。座間味島、慶留間島、渡嘉敷島、鉱山だった屋嘉比島(座間味村)で700人近くが命を落とした。
    ……

  • 14面~15面 フクシマ後の原子力 元首相礼賛に危うさ(高橋宏)

     6月21日から23日、オーストリアのウイーンで核兵器禁止条約(核禁条約)の第1回締約国会議が開かれた。核禁条約には86カ国・地域が署名し、66カ国・地域が批准(6月29日現在)しているが、そのうち、締約国・地域とオブザーバー参加を合わせて80カ国・地域以上が会議に参加した。日本は、アメリカの「核の傘」に依存していることなどを理由に、未だに署名せず、核禁条約に背を向けたままだ。
     だが、オブザーバー参加した国の中には、日本と同様にアメリカの「核の傘」の下にある北大西洋条約機構(NATO)加盟国のドイツ、ノルウェー、オランダ、ベルギーの4カ国の他、日米印とともに「クアッド」を構成するオーストラリアもいた。国連における核禁条約の採択に大きな役割を果たした「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)のフィン事務局長は「唯一の戦争被爆国として核廃絶に向けた『橋渡し役』を自任しながら、オブザーバー参加すらせず、ボイコットする日本政府はどうやって橋渡し役を務めるのか」と指摘したが、返す言葉もない。
     日本では被爆者をはじめ、せめてオブザーバー参加するべきとの世論が多数を占めていたはずだ。その声に押されてか、締約国会議の前に開かれた「核兵器の非人道性に関する国際会議」には被爆者2人を含む代表団を日本政府は送っている。外務省が、締約国会議に参加する学生団体を「ユース非核特使」に任命もした。本会議には広島、長崎の両市長も出席した。だが、それは世界の人々に日本政府と、自治体や被爆者との間に大きな温度差があることを示したに過ぎない。
    ……

  • 16面~17面 世界で平和を考える ウクライナ戦争止めるためには(西谷文和)

     ウクライナ戦争が泥沼化している。現時点での戦況はどうなのか。
     当初、プーチンはウクライナをナメていて数日で首都キエフを落とせると思っていたようだ。だから15万人の兵力を北(ベラルーシ)と南(クリミア半島)、東(ドンバス)から侵攻させた。対するウクライナも15万人の兵力で首都の防衛に専念する。
     戦争の鉄則はまず首都を取ること。アフガニスタンではタリバンがカブールに攻め上がった時にガニ大統領が逃げたので、あっけなく首都が陥落し勝利した。ウクライナではゼレンスキーは逃げなかったし、背後に米軍がいた。アメリカは軍事偵察衛星とドローンで「ロシア兵がどこに隠れているのか」をウクライナ側にリアルタイムで伝えていた。そしてジャベリンが威力を発揮。この米国製ミサイルは熱に反応するので、あさっての方向に撃ってもロシアの戦車のエンジンに向かって飛んで行く。そして暖冬。例年より雪解けが早く、道はドロドロ。戦車は40〜50㌧もある。ぬかるみにはまって進めない。キエフ周辺は小高い丘や森が随所にあって、ウクライナ兵士は隠れながらジャベリンを命中させることができた。
     主戦場はドンバスに移る。ここは平坦な地形で、隠れる場所が少ないからジャベリンは有効ではない。それにロシア本国からの補給がきく。ロシアのミサイルは射程が長いので、ウクライナ側に被害が集中する。だからアメリカは多連式ミサイル、ハイマースを供給した。戦争は泥沼化し、少なくとも次の冬将軍が来るまでは終わらないと予想する。
     この状態は欧米、ロシアの兵器産業にとっては最も好ましい状況だ。ジャベリンは一発約2千万円、ロシアの戦車は約10億円。ハイマースは約20億円だ。軍縮に向かっていたドイツが軍事費をGDP2%まで引き上げることを決定した。日本でも岸田首相が「防衛費の相当な増額」を約束してしまい、最終的にはGDP2%まで引き上げようとしている。そうなれば日本の軍事費は11兆円。現在のトップはアメリカで約90兆円、2位が中国で25兆円、3位がインドで9兆円、日本は5兆4千億円で9位だが、11兆円に増額すれば世界3位だ。憲法9条を持ち、二度と戦争をしないと誓った国が世界3位の軍事大国とはもうブラックジョークの域に達している。何より、こんな事態になれば消費税は引き上げられ、年金は削り取られ、コロナ対策は放置されたままになるであろう。

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  • 18面 大阪IRカジノ 住民投票 声上げ続け(栗原佳子)

     大阪府と大阪市が進めるカジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致の是非を問う住民投票の実施を求め、署名を集めた「カジノの是非は府民が決める 住民投票をもとめる会」(もとめる会)が7月21日、吉村洋文知事に対し住民投票条例の制定を請求した。同月29日にも臨時府議会が開かれる見込みだ。(栗原佳子)

     直接請求には地方自治法の規定で有権者50分の1(6月末日現在14万6509)の署名が必要。もとめる会は3月下旬から2カ月間、府内全域で署名活動を展開、署名を集めることができる受任者は事務局が把握しているだけでも7729人。21万134筆が集まった。有効署名数19万2773筆。法定数を上回った。
     知事は請求を受けてから20日以内に府議会を招集し、意見を付けた上で住民投票条例案を提出しなければならない。府議会は住民投票を実施するかどうかを審議する。府議会で過半数を占める大阪維新の会はIR誘致の旗振り役。維新代表の吉村知事は6月の会見で、IR整備計画が国で認可申請中であることなどを理由に「住民投票をする必要はない」などと発言。反対意見を付けると見られている。
     21日は直接請求を前に府庁前に署名集めに奔走した大勢の府民が集合。軽トラックの荷台にピラミッドのように積み上げた市区町村ごとの署名簿を前、代表者がマイクリレー。「吉村知事は民意を尊重して住民投票で決着を」などとアピールした。
     国は秋以降に結論を出すとみられるが、もし認可されれば撤回はほぼ不可能。もとめる会は、強い民意を示し、待ったをかける狙いだ。
     一方、大阪市民5人が5月、市に対し、土壌対策費の市負担は違法だとして事業者との定期借地契約の差し止めを求め住民監査を請求した。予定地の人工島・夢洲は土壌汚染や液状化の可能性があることから、市は事業者の求めに応じ昨年末、約790億円の負担を決定した。市民側は「市が事業者と締結した基本協定書では追加の対策費が生じた場合、市が負担する内容となっている」と指摘、「過大な支出を制限する地方財政法などに違反する」と主張した。
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  • 19面 大阪大空襲77年 自らの体験伝えねば(矢野宏)

     1945年6月7日の大阪大空襲で母と3人のきょうだいを亡くした在日朝鮮人二世の鄭末鮮(チョン・マルソン)さん(89)=滋賀県野洲市=が7月1日、守山市立玉津公民館主催の「小学生自主活動学級」で玉津小6年生48人に空襲体験を語った。「忘れたいと思っていたが、忘れてはいけないと思うようになった。戦争はあかん、差別もあかんと伝えてほしい」と訴えた。(矢野宏)

     「昼間なのに黒い煙で真っ暗になり、何かにつまずいたと思って見たら死体。まさに生き地獄でした」。白いチマ・チョゴリ姿の鄭さんは静かに語りかけた。
     来襲した409機のB29爆撃機は大阪市東部の都島区や旭区、東淀川区、豊中市や吹田市などにも1㌧爆弾や焼夷弾を投下。B29の護衛のために飛来したP51戦闘機138機が地上で動くものを見境なく銃撃した。死者2759人、6682人が負傷した。
     両親がなぜ、韓国南部の慶尚南道から日本に来たのか、詳しく聞いたことはない。鄭さんは日本で生まれ、現在のJR新大阪駅の近くで育った。
     「学校でいじめられ、勉強した記憶がない」と振り返る鄭さん。「疎開先でもいじめられるのではないか」と両親が心配し、集団疎開もせず、学校にも通わなくなった。
     空襲当日も家の前で遊んでいると、「突然、どかーんと地球がひっくり返るような爆発音がした」。あまりの恐怖に、鄭さんは周りの家から飛び出してきた大人たちの後について逃げた。
    ……

  • 20面 映画「ゆめのじかん」自分見つめる 子の居場所(栗原佳子)

     子どもたちの「やってみたい」が詰まった公設民営の遊び場「川崎市子ども夢パーク」(愛称「ゆめパ」)を舞台にしたドキュメンタリー映画「ゆめパのじかん」が大阪市淀川区の第七芸術劇場などで公開された。「さとにきたらえええやん」(2016)の重江良樹監督(37)=大阪市=が、「子どもの力」と、それを支える「居場所の力」を再び描いた。         (栗原佳子)

     ゆめパは川崎市の「子どもの権利条例」に基づき2003年、市民参画でオープンした。約1万平方㍍の工場跡地にはウォータースライダーなどを備えたプレーパークや全天候型広場、音楽スタジオや木工などの創作スペース、ゴロゴロしても怒られない「ごろり」部屋などがある。
     学校に行っていない子どものための「フリースペースえん」も。小さな森は生き物の宝庫。昆虫や植物好きな子どもたちは観察に夢中になる。
     重江監督は大阪市西成区の児童施設「こどもの里」に密着した「さとにきたらええやん」を16年に製作。様々な困難が起きても跳ね返す子供たちの姿を撮影した。
    ……

  • 21面 映画「「Blue Island 憂鬱之島」自由への闘い 香港の歴史(栗原佳子)

    香港が中国に返還されて25年。「一国二制度」の理念は形骸化し、自由が失われつつある。その香港で、自由を求める人々の闘いの歴史を描いたドキュメンタリー映画「Blue Island 憂鬱之島」が大阪市北区のシネ・リーブル梅田などで上映されている。1987年生まれのチャン・ジーウン監督は「香港に関心を持ち続けてほしい」と話す。         (栗原佳子)

     チャン監督は2016年、初の長編ドキュメンタリー「乱世備忘」で雨傘運動の若者たちを追いかけた。2作目の長編「Blue Island 憂鬱之島」は香港人のアイデンティティとは何かがテーマ。その時代の若者の精神や展望に大きな影響を与えた「文化大革命」(1966〜76年)、親中派による反英抵抗運動「六七暴動」(67年)、「天安門事件」(89年)という三つの事件をクローズアップした。
     主人公の一人は74歳の男性。文化大革命を前に、中国本土から香港に泳いで逃れた。運命に翻弄されることなく粘り強く生きてきた彼は、いまもビクトリア湾で泳ぐことを日課としている。
    ……

  • 22面 読者近況(矢野宏)

    ■「老記者の伝言」

    【埼玉】さいたま市の武野大策さんから父・むのたけじさんのエッセイ集「老記者の伝言」を送っていただいた。
     2009年1月から朝日新聞東北6県版に連載した「再思三考」をまとめて一冊にしたもの。聞き手は朝日新聞記者の木瀬公二さん。
     自民党が大勝した13年8月の参院選について、むのさんはこう記している。
     「何より懸念されるのは、「自民1強」になって、安倍内閣が図に乗ること。戦争というものの実態を知らない若い政治家が威勢のいいことを言って、軍国日本に戻る危険性が高まった……」
     むのさんの懸念は現実のものとなろうとしている。
     朝日文庫、880円。
     大策さんも巻末に「父・むのたけじと過ごした5年間」と題してエッセイを寄せている。        (矢野)

  • 23面 経済ニュースの裏側 電力事情 大手10社優位揺るがず(羽世田鉱四郎)

    今夏の電力需給が厳しい。その背景を探ってみます。
     歴史 明治以降、全国に無数の発電、配電の会社が誕生。その後、10電力体制となり、地域を独占し、発電・送電・小売りの垂直一貫体制です。料金は、諸コストに利益を上乗せした「総括原価主義」。 周波数 交流の電気が1秒間に同じ変化を繰り返す回数。静岡県の富士川を境に、東日本側が50ヘルツ、西日本側が60ヘルツの周波数。1896年(明治29年)に東京電灯がドイツから、大阪電灯はアメリカから発電機を輸入し、そのまま定着しました。周波数変換所は、佐久間、東清水(以上、静岡県)、新信濃(長野県)の3カ所で、最大100万㌔㍗。原発1基分です。新幹線は、自前の周波数変換所を所有し、60ヘルツに変換して疾走しています。国内で異なる周波数を持つのは、世界で日本だけ。
     自由化 重化学工業を中心に経済発展を遂げ、家庭も電化が進み、消費電力は増大しました。高度成長期は、石油火力発電が7割以上を占め、原発やLNG火力も大幅に増加。同時に、地域独占や総括原価主義の弊害が目立ち始め、競争原理が働かない「高い電気料金」が大きな課題になりました。総括原価主義は、適正利潤が保有資産×報酬率で算出され、原発のように資産価値が大きいと、利潤も大きくなる側面があります。それらの反省から「電力自由化の動き」が始まりました。1996年からの発電部門の自由化で製鉄、石油会社が参入、2000年からの小売部門の自由化によりガス、総合商社、石油会社など大口需要家や新電力が加わりました。ただし、新電力のシェアは微少。また07年から石油価格が上昇し、原発や水力発電に対し、価格競争力も失いました。旧来の10電力は揺るがず。
    ……

  • 24面 会えてよかった 島袋艶子②でいご娘と比嘉恒敏さん(上田康平)

     父、比嘉恒敏さんの指導で歌、三
    線の稽古を積んだ四姉妹は1962
    年、舞台活動を開始。中学生だった
    と艶子さん。
     マスコミで話題になる前で、呼ば
    れたら、父、母もいっしょに出かけ
    た。結婚式の余興など。
     そのうちに呼ばれた先で、名前付
    けたらと言われて、比嘉恒敏グルー
    プとか、三女が「どじょうすくい」
    を三線で弾いて、四女が踊るという
    演目をしていたことがあって、おけ
    さ姉妹と名乗ったこともあった。
     その後、赤い花、明るい系の好き
    な父が「でいご娘」と命名したとい
    う。64年のことだった。
    ……

  • 25面 日本映画興亡史 第2章マキノ省三伝

     寿々喜多呂久平(すすきたろくへい)の脚本デビュー作は『紫頭巾』と改題されて製作された。監督は金森万象となっているが、実際はほとんど省三であった。省三は「殺陣は写実的に本刀でやろう」と提案し、実際に本身の刀で撮られた。寿々喜多自身の言葉によれば、「殺陣の撮影は雨の降る中で行われたが、白刃サッと閃いて火花を発し、凄惨の気が満ち、バッタリバッタリ泥水の中へ倒れる。(中略)猛烈を超越してお互いの眼光は血走る。負傷者が続出する。僕は俳優諸氏の火の出るような演出に涙ぐましい喜びを感じた」(田中純一郎『日本映画発達史』より)
     寿々喜多は、大人気だったフランスの活劇映画『ジゴマ』や『ファントマ』を下敷きに、主人公は中里介山『大菩薩峠』の机竜之介のイメージだ。大逆事件の処刑を感受した中里は、机が無明の闇に人を斬るというニヒリズムを投影させた主人公を生み出した。映画は大成功だった。
     画面展開のスピード感、物語の怪奇ロマン的魅力、虚無的な人物像の生々しさ、真剣を用いた立ち回りの迫真性などあらゆる点で新鮮さに満ち、大ヒットとなった。これぞ新しい時代劇と人気を呼び、新人脚本家として寿々喜多は華々しいデビューを飾った。
     省三の目に止まったのはもう一人いた。「御用御用!」と端役でいた阪東妻三郎だ。ひとくせありげな容姿と、スケールの大きさが目立っていた。ある日、省三は妻三郎にこういった。
    ……

  • 26面 坂崎優子がつぶやく 輸入頼み実感 食品値上げ

    今年3月、近所に生ハム専門店ができました。生ハムが大好きな私は、お店の前を通るたびに気になるのですが「高いなあ」とためらっていました。ところがある日、大幅値上げを予告するお知らせが貼り出され、「今しかない!」と買う決心がつきました。さすが専門店。納得するおいしさでした。
     日本に輸入されている生ハムの約7割はイタリア産です。そのイタリアでアフリカ豚熱が発生し、1月に輸入停止になったことで、国内で生ハムの争奪戦が起っています。イタリア産の在庫は大手が買い占め、個人店は手に入れることが難しい状況だとか。
     新たな輸入先の確保にもしのぎを削っています。スペイン産はもともと値段が高めだったところにさらに値上がりしたため、イタリア産に味が似ているスロベニア産に注目が集まっているそうです。
     知り合いの飲食店は、何とかスペイン産を確保できたと話していました。件の生ハム店はアメリカ産に切り替えるようです。料理人の中には輸入に頼らず自身で作ろうと動き出した人もいます。
     生ハムと味わうワインも価格が上がっています。輸入コストや資材の値上がりで「千円で仕入れていたものが3千円になった」とワインバーのオーナーが嘆いていました。投機目的でワインを買う人もいるそうです。飲食店は受難続きで気の毒です。
     コーヒーも値上がりしています。ブラジルの不作と輸入コストの値上がりが要因です。生ハム、ワイン、コーヒー。私の好きなものは輸入で成り立っていると改めて気づかされます。
    ……

  • 27面~30面 読者からのお手紙&メール(文責・矢野宏)

    阿嘉島に完成した
    「道標アリラン峠」

    奈良県大和郡山市 友井健二
     那覇市の西30~40㌔の位置にある慶良間諸島は渡嘉敷島や座間味島、阿嘉(あか)島、慶留間(げるま)島などの島々で構成されています。77年前の沖縄戦では本島より先に地上戦が始まったのが慶良間諸島の島々でした。600人以上が集団自決に追い込まれたと言われていますが、阿嘉島ではなかった。なぜなのか。
     2007年、私たち「魂魄の会」は事実を知りたいとの思いで阿嘉島を訪れました。そこで初めて、阿嘉島は神の島「一木一草」勝手に刈ってはならぬ習わし、村の人々がそれぞれの事情から沖縄戦について口を閉ざしている現実、戦跡が手付かずに残っていることなどを知りました。また、09年から毎年、戦跡巡りのフィールドワークを積み重ね、阿嘉島の実行委員会が主催する慰霊祭や「アリラン音楽祭」にも参加してきました。
    ……

  • 28面 車いすから思う事 「できないこと」どう対処?(佐藤京子)

    掃除機を買うことにした。
     これまで使っていたものは7年ほど前、介助犬ニコル君が我が家に来ると決まった時にホース付きから縦長のスティック型に買い替えたものだ。当初、母が使いやすいだろうと思ってのことだったが、結局、掃除は車イスの自分の役目となった。
     ニコル君のためにもひんぱんに掃除機をかけていたが、次第に使わなくなり、もっぱら訪問看護師さんにお願いするようになった。
     やがて、ニコル君が10歳を迎えて3月末に引退し、生まれた家に戻った。後輩の介助犬に来てもらうため、訓練士が生活環境など犬を飼育する状態になっているかを確認に来た。まず、指摘されたのが掃除機をあまり使っていなことだった。
     車イスの自分でもスティック型は使いやすかったのだが、使わなくなったのはなぜか。この7年ほどで、何気なく行っていた動作が徐々にできなくなっていることに気づいた。それを自覚するのが難しい。だが、よく考えてみると、一般の人でも年齢とともに体力が落ちたり、食が細くなったりするのだ。自分も例外ではない。
     長い間、車イスで生活していると、誰かに手伝ってと素直に言えないことがある。こんなことすらできないのかとイライラすることもある。結局、できないことは始めからやらなくなっていった。新しい掃除機は、訓練士が提案してくれた機種がとても軽くて小型化され、使いやすかった。おかげで、再び掃除するようになった。
    ……

  • 29面 絵本の扉 かたあしだちょうのエルフ(遠田博美)

     先日。一回り以上も年下の女性とランチした際、絵本の話になりました。小さい頃から母親に絵本を読んでもらった思い出の一冊が『かたあしだちょうのエルフ』でした。何度も繰り返し読んでもらったそうです。初版は1970年。私は中学1年生でした。絵本に触れる年齢でもないのに表紙がサッと浮かびました。
     若くて、強くて、たくましく勇気あれるダチョウのエルフは、草原中の人気者です。動物の子ども達からも慕われています。エルフも子ども達が大好きです。ところがある日、ライオンに他の仲間が襲われそうになった時、エルフは彼らをかばって勇敢に戦い、片足を食いちぎられてしまいます。その後、周りの仲間がエルフを支えてくれますが、徐々にやせ衰えていきます。 自分達が生きるだけで精いっぱいの他の仲間たちは、だんだん彼のことを忘れていきます。エルフは苦しみに耐えながら立っているしかありません。そんなある日、エルフは、クロヒョウが草原に現れるのを発見します。彼は自分の身体のことを忘れて危険を知らせ、仲間の子ども達を背中にかくまい、飛びかかるクロヒョウと最後の力を振り絞って戦い、仲間を守り切ります。子ども達がお礼を言おうとしたその時、エルフは……。
    ……

  • 30面 編集後記(矢野宏)

     参院選の演説中に銃撃され死亡した安倍元首相の「国葬」が9月27日、東京の日本武道館で行われることになりそうだ。国葬とは、国家の儀式として、国費を持って行われる葬儀のこと。対象となるのは、国家に功績があった人、国家に貢献した人などで、戦前は天皇をはじめ皇族関係などがその対象者となっている。戦前、国葬された首相経験者は伊藤博文、山県有朋、松方正義、西園寺公望の4人。戦後、国葬について定めていた「国葬令」(1926年公布)が政教分離の観点から廃止され、皇族以外で国葬となったのは67年の吉田茂元首相のみ。当時の佐藤栄作内閣の閣議決定による特例で国葬となったが、80年に死去した大平正芳元首相以降は「内閣・自民党合同葬」が慣例化していた。なぜ、国葬か。岸田首相は「首相在任期間が憲政史上最長となることや内政・外交の実績、国際社会の評価」をあげたが、その実績が吉田氏に比肩するとは思えない。ましてや、森友・加計・桜を見る会などの負の遺産、ここにきて旧統一教会との関係に疑惑の目が向けられている。そもそも国会で118回も嘘の答弁をするなど、民主主義を軽んじた安倍氏をなぜ、国葬にしなければならないのか。国葬ともなれば、安倍氏と親交のあった世界各国の首脳がこぞって参列するとみられている。ロシアのプーチン大統領も来るかもしれない。その中で、岸田首相が「国葬外交」の主役となればその名が一躍世界にとどろくことだろう。さらに、安倍元首相の選挙区・山口4区では補欠選挙が行われる予定だ。後継に昭恵夫人の名前がささやかれている。安倍氏国葬を仕切るのは電通か…。2020年の中曽根康弘元首相が内閣・自民党合同葬となった時の費用は約2億円。国葬の場合、国の全額負担となる。全ての省庁で弔旗を掲揚、公務員の黙祷も強いられる。断固反対の声を上げ続けたい。 (矢)

  • 31面 うもれ火日誌(矢野宏)

    6月10日(金)
     矢野 夜、全港湾大阪支部教宣部長の陣内恒治さんに依頼され、教宣部学習会で「読まれる機関紙の作り方」講演。
    6月11日(土)
     栗原 午後 宝塚で「平和を考える会」主催の講演会「沖縄が再び最前線に」
     矢野、栗原 夜、『釜ヶ崎に、グランマ号上陸す』(東方出版)を出版した新井信芳さんが経営する生野区の居酒屋「グランマ号」で樋口元義さん、角家年治さん、水田隆三さんらとお祝いの会。
    ……

  • 32面 うずみ火講座(矢野宏)

    7月30日(土)黒田さん偲ぶ平和ライブ

    いよいよ「黒田清さんを偲び、平和を考えるライブ」が近づいてきました。
     コント集団「ザ・ニュースペーパー」結成時のメンバー、松崎菊也さんと石倉直樹さんを招いての風刺トーク&コント。チョッキさんから「恒例大阪夏の陣 無愛想タロウの弔辞生で聞きたきゃ来い!」とのメッセージが入っています。久々に腹の底から大笑いしましょう。
     当日会場でお配りするパンフレットの「一声広告」(メッセージを入れて1マス3000円~)を募集しています。ご協力いただいた方にはライブの招待券をプレゼントします。カンパもできる範囲でご協力いただけると幸いです。
    【日時】7月30日(土)午後2時開場、2時半開演
    【会場】大阪市西淀川区大和田の市立西淀川区民会館(06・6471・9217)
    【資料代】2200円(読者2000円)


    8月13日(土)午後2時半~元朝日記者「被爆者語る」

     次回のうずみ火講座は8月13日(土)午後2時~「『個』のひろしま―被爆者 岡田恵美子の生涯」を西日本出版社から刊行した元朝日新聞記者でフリージャーナリストの宮崎園子さんに被爆者がどんな思いで戦後を生きてきたのかについて語ってもらいます。
     「被爆者団体に属さず、核兵器廃絶を訴え続けてきた彼女の人生は、『個』のひろしまの戦後史そのもの」という宮崎さん。岡田さんの生涯を通して「語り継ぐ」こと意味についても語っていただきます。
     PLP会館4階会議室。資料代として1200円(読者1000円)


    9月3日(土)午後2時半~前堺市議の野村友昭さん

    「NO!大阪IRカジノ』の呼びかけ人の一人で前堺市議の野村友昭さんを講師に招き、9月3日(土)午後2時半~大阪市中央区谷町のターネンビルNO.2で「大阪カジノを止めよう講演会」(仮題)を開催します。
    地下鉄谷町線「谷町4丁目駅」から北へ徒歩2分。資料代500円。

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