新聞うずみ火 最新号

2020年5月号(NO.175)

  • 1面~5面 新型コロナと緊急事態宣言「生活むしばむ感染拡大」(矢野宏、栗原佳子)

    新型コロナウイルスの国内の感染者が4月18日、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗船者を除いて1万人を超えた。特別措置法に基づく緊急事態宣言が東京や大阪、兵庫など7都府県から全国に拡大されたが、増加ペースに歯止めがかからない。各方面に経済的な影響が広がるが、新聞うずみ火の読者の中からも「このままでは生活が破綻する」と悲鳴が上がっている。

    「コロナで潰れます! 長男の『奈良県映画センター』がコロナの影響をもろに受けています」
    奈良県大和郡山市で出版社「遊絲社」を営む溝江玲子さん(82)から悲痛なメールが飛び込んできた。
    奈良県映画センターは、映画館のない地域にも上質の映画をスクリーンで届ける上映運動を展開する「映画センター全国連絡会議」の奈良支部。長男の純さん(53)が自宅倉庫を改装して拠点にし、県内の市町村や小中高校、老人施設などで移動上映を担ってきた。
    どんな映画を上映するか、主催者と話し合いを重ね、ポスターやチラシ、チケットなどを作って来場を呼びかける。当日はフィルムや映写機、暗幕やスクリーンなどの機材を車で運び、アルバイトと会場設営、上映後の片づけまで担ってきた。書き入れ時は夏休みで、売り上げが30万円を超えた月もあったという。
    ところが、今回のコロナ禍で3、4月の上映会はすべてキャンセル。移動映画会も映画館と同じで、密閉、密集、密接の「3密」が避けられないからだ。収入がゼロになったばかりか、すでに作っていたポスターやチラシなどの制作費計11万円もかぶらねばならない。
    「まったく先が見えません」と、純さんの声はか弱い。
    数日後、溝江さんからのメールはこんな言葉で締めくくられていた。
    「学校関係の上映は全部中止になるのは分かりきっています。雀の涙ほどの給料もなく、経費はどんどん出て行きます。もうお手上げ」

    「悲惨な戦いを強いられています」
    個人タクシーの運転手、青野秀樹さん(59)からメッセージを受け、その日の夜、予約を入れた。大阪・梅田の事務所から兵庫県尼崎市の自宅まで、車中での取材をお願いした。
    「きょう3人目です。25年のタクシー人生で、こんなことは初めてですよ」
    感染拡大に伴うイベント自粛やテレワークの推奨、観光客の激減で人の動きが停滞し、タクシー業界を直撃している。
    「3月初めはまだ人の動きはありました。しんどくなってきたのは3月末。緊急事態宣言が出された4月7日以降はピタッと止まりました。それまで1日平均3万円あった売上が4月に入ると1万円台に……。オイル交換や任意保険代、車庫代などの固定費が月割りで約15万円が飛んでいくので苦しいです」
    緊急事態宣言で、車窓から見る夜の街は人影もほとんどない。阪急十三駅周辺の繁華街では至る所に客待ちのタクシーが並んでいた。すれ違うタクシーの「空車」の赤い文字がむなしく見える。
    「知り合いの運転手の中には『10時間走って5000円しかなかった』とか、『売り上げが8割ほど減り、手取りが10万円を切った』という人も少なくありません。まさに生き地獄です」
    利用者心理で言えば、いかに換気しているとはいえ、狭い車内で同じ空気を吸っているという不安もタクシーが敬遠される理由の一つだろう。
    一方で、不特定多数の客を乗せる運転手自身も感染の危険にさらされている。乗客の利用目的を知らないこともほとんどで、例えば、感染の疑いがある人が「帰国者・接触者外来」で診察を受ける場合には公共交通機関を使わず来院することが原則だが、自家用車がない人がタクシーを利用するケースがないとは言えない。
    「毎朝、熱を計って乗車するようになりました。お客さまにはマスクをしていただくようにしており、代金も直接受け取らないようにしています。それでも、いつ感染しているかもわからないので、年老いた両親への見舞いも遠慮しています」
    東京都内を中心にタクシー事業を展開する「ロイヤルリムジングループ」が新型コロナの影響で経営状態が悪化、600人の運転手を解雇した。会社側が「休ませて休業手当を支払うより、解雇して雇用保険の失業給付を受けた方がいいと判断した」「終息すれば再雇用したい」などと説明したのが好意的に受け止められているがどうなのか。
    ……
             

  • 6面~7面 ドイツの新型コロナ対応「素早かった減収対策」(在独ジャーナリスト 田口理穂)

    ドイツでは新型コロナウイルス拡大を防ぐため、人々の接触を減らす「接触制限措置」を3月16日から実施している。学校や幼稚園、役所、図書館、映画館、博物館、娯楽施設、飲食店、また食料品店やドラッグストアを除く小売店を閉め、国境を封鎖した。 このたび一定の成果が見られたと、4月20日から段階的に規制を解除したが、まだ先行きは不透明である。ドイツの事情をレポートする。

    人口約8300万人のドイツでは4月19日現在14万4348人が感染し、4547人が亡くなっている。週1万6000人が検査できる体制が整えられ、症状が軽い人は自宅で療養している。
    ドイツは16の州からなり、州の自治権が強い。日本の衆議院にあたる連邦議会は約700人の議員からなり、連邦参議院は各州の代表者で構成される。重要政策は国が州知事らと直接討議することもあり、今回の新型コロナウイルス対策についてもビデオ会議が幾度も行われた。国が決定した指針を各州で実施するが、州によって微妙に違う。バイエルン州は公共の場でベンチに座ることは許されず、旧東ドイツのザクセンアンハルト州は州外からの人の流れを制限している。
    スポーツ教室や音楽教室も禁止となり、美容院など人と接触する職業やホテルも営業停止となっている。政府は在宅勤務を奨励し、不要不急の外出を控えるよう呼びかけている。ほとんどの飲食店は閉店しているが、州によって持ち帰りのみ営業を許可しているところもある。子どもたちが集まらないよう遊具のある公園は使用禁止だが、散歩やジョギングは許されている。他人とは1・5㍍以上の距離を開けることが義務付けられ、家族以外と会う場合は1人までとした。
    これらの措置は指令であるため、罰則がある。州によっては、1・5㍍間隔を守らないと150ユーロ(1万8000円)、スポーツ大会を開くと1000ユーロ、レストランなど集まりに場所を提供すると5000ユーロという具合である。
    ドイツ政府は新型コロナウイルス対策として、1560億ユーロ(約19兆円)を計上した。経済的損失を受けた人向けの「財政即刻支援金」は、5人以下の従業員を抱える個人事業者やフリーランスには3カ月分の経費として最大9000ユーロ(108万円)を支給する。従業員10人まで、30人まで、49人までに分類され、最高2万5000ユーロ(300万円)までとなっている。証拠書類は提出しなくてよいが、 後日、抜き打ち審査があり、経費の関係書類は10年間の保管が必要だ。
    看護や介護職には1500ユーロの特別手当を6月に支給することを決めたほか、融資を受けにくい企業のために6000億ユーロ(72兆円)分の保証を準備する。
    州や自治体の助成金もある。ベルリンではフリーランスや個人事業者は、申請すれば翌日か翌々日に5000ユーロの支援を受けることができた。3月末で打ち切りになったのは、申し込みが殺到したせいだろう。この5000ユーロは収入として換算されるため、確定申告する必要がある。とりあえず救済策として配り、収入が多くなった人からは回収するという方法である。
    私の住む北ドイツのハノーファー市でも、個人事業者や中小企業向けに3000~3万ユーロの助成金を出すとして、1000万ユーロ(12億円)を用意した。しかし受け付けから5日間で2658件の申請があり、予算を超えたため打ち切りとなった。早い者勝ちであるため、不公平であるとの声も上がったが、書類審査なく早急に支給されるのはありがたい。
    会社員には、仕事減で給与が減る分の60%(子なし)か67%(子あり)を国が補てんする「短縮勤務」の制度がある。これにより解雇を予防できる。金融危機の際も多くの会社が利用したが、今回も大企業から中小企業まで申請しており、3月1日までさかのぼって利用できる。適用は最大1年間だが、3カ月おけば更に1年延長できる。
    レストランやバーの営業停止のあおりを受けたビール業界では、9割のメーカーが申請している。また市民が3月1日から6月30日まで生活保護を受けやすくし、家賃滞納による契約解除を禁止するなど市民生活を守る工夫がされている。
    …… 

  • 8面~9面 ヤマケンのどないなっとんねん「緊急時に問われる首相の資質」(山本健治)

    周知の通り、3月下旬に新型インフルエンザ特別措置法改正法が成立・施行、会食三昧で後手に回って感染が急角度で拡大する中、安倍首相は4月1日、布マスク配布を言い出した。「マジか。これで感染対策、エイプリルフールの冗談にもならん」とあきれられ、小池・吉村知事や医師会に急かされながら、7日午後には7都府県に5月6日までの「緊急事態宣言」を出した。
    が、10日以上たっても広がるばかり、厚労省専門家会議西浦博北大教授の「何もしないと、感染者は400万人になり、重症患者は85万人、42万人が亡くなる」という説を持ち出し、国民に外出自粛・濃厚接触回避を求めると同時に「宣言」対象を全国に拡大するとしたが、国民からすれば首相はオタオタしているとしか見えない。
    少し前には、愛犬を抱き、星野源さんの「うちで踊ろう」を聞きながら、コーヒーか紅茶らしいものを飲む様子をネットに流したが、首相のとぼけた姿にみんなが怒った。
    企業活動や営業の自粛、休校延期、公共施設閉鎖や公共サービス停止、イベントや外出の自粛要請などで、世界大恐慌を上回る恐慌に発展する可能性が高いと言われる中、廃業・倒産、休業補償は焼け石に水、解雇・帰休を言い渡されて収入も住居も失い、頼みの綱のネットカフェも休業・廃業、それこそ路頭に迷う人、就職内定を取り消された学生、公共サービス停止・施設利用制限、休校、保育所・学童保育のストップなどで、みんなは必死になっている。とりわけ最前線で命がけで働いている医療関係者は、首相のあんなとぼけた姿に怒りを通り越して呆れる他なかったが、首相夫人も大分に旅行していたというのだから言葉がない。
    安倍首相が、あんな動画で「感染拡大を止めるため自宅にいてほしい」というアピールになると思っているとすればどうしようもない。もし、本当にそう思っているのなら、これまでの疑惑の責任を取る意味も込めて、この際、首相を辞めて、夫婦ともずっと家にいてもらった方がみんなのためだ。さらに、出るか出ないかわからない30万円の補償ではダメだと総スカンを食うや、今度は公明党の言うことを聞いて一律10万円支給、自分の懐から出すような顔をしているが、ふざけてはいけない。みんなの税金からだ。
    これとほぼ同時期、首都圏や近畿圏の電車に、「安倍首相の決断が新型コロナウイルスの爆発的感染を止めた」「現憲法では新型コロナウイルスの感染は止められない!いまこそ改憲を」などと書かれた月刊誌の中吊り広告が揺れていた。執筆者はどちらもほぼ同じアベ応援団、一方は首相が「緊急事態宣言」を発したから爆発的流行が阻止されたと大絶賛、他方は改憲しなければ新型コロナ感染を阻止できないとあおる。いずれにせよ感染を利用して改憲という人たちだが、首相は防衛大学校卒業式訓示で、また9条改憲の意欲を強くにじませた。今回の感染でも、ここぞとばかり自衛隊が出動、アメリカのように海上自衛隊に病院船を置くべきだと言い出し、きな臭さはどんどん強くなっている。
    以前、麻生副総理が、改憲したかったら、ヒトラーがワイマール憲法を利用したことを見習えというような放言をしたことがある。ヒトラーは世界恐慌に伴う混乱に緊急事態宣言を発し、共産党が国会議事堂に火をつけたという事件をでっち上げて、国民をあおり、独裁体制を確立していったが、憲法に「緊急事態条項」を設けようというのは、これを狙ってのことなのだろう。
    改憲して緊急事態条項を付け加えれば新型感染などに対応できるなどというのは「為にする議論」であり、何の対策にもならない。それよりも感染チェックを実施し、感染が判明すればただちに隔離して必要かつ的確な治療を行うこと、そしてワクチンや薬剤を開発することが最も有効な対策だという当たり前のことを書いてきた。
    ノーベル賞受賞者の本庶佑京大特別教授は、緊急宣言発出前日の4月6日、自らのホームページに緊急提言を発表された。1、感染者を検出するPCR検査を毎日1万人以上に増やし、無症状・軽症・重症に振り分け、見合った医療対応をすること。2、東京圏・大阪圏・名古屋圏の1カ月の完全外出自粛。3、有効性が示されている薬剤を直ちに実地導入すべきというものである。必要なのは「政治的緊急宣言」ではなく、緊急医療事態対応体制の確立だと提言されたものだと理解した。
    ……

  • 10面~11面 新連載「フクシマ後の原子力」(高橋宏)

    新型コロナウイルスの感染拡大防止を名目に、緊急事態宣言が出されて日本社会は完全にマヒ状態となった。期間は5月の連休明けまでとされてはいるものの、その先については全く不透明であり、私たちは不安といらだちにさいなまれながらの生活を余儀なくされている。私たちはまさに未曽有の危機に直面しているわけである。

    危機的な状況に置かれると、国家権力やその中枢に関わる人々の本性が露骨に表れる。日本で最初に新型コロナウイルスの感染者が明らかになったのは、3カ月以上前の1月16日だった。それ以後の安倍政権の対応は常に後手後手であったばかりか、400憶円以上をかけた布マスクの配布が象徴するように、対策は「やっている感」の演出に終始している。そして、世論調査における支持率の低下を受けて、しぶしぶ1人当たり10万円の一律給付を決めるというありさまだ。

    今の政権が誰のために、何のために私たちが収めた税金を使おうとしているのか、もはや誰の目にも明らかである。安倍政権にとって税金は、私たちから「吸い上げた」もので、それは自分たちを含めた一部の権力者が自由に使えるものでしかなかったのだ。

    私たちの命や生活よりも、大企業を中心とした経済活動やオリンピック、そして政権の維持が優先されてきた結果が、今の状況を招いていることに、私たちは本気で怒り、危機意識を持たねばならない。そうでなければ、文字通り多くの主権者は政権の具に過ぎない存在になってしまうだろう。

    それにしても、いつから日本はこのような社会になってしまったのであろうか。なぜ安倍政権が長きにわたって続き、好き放題の無茶苦茶ぶりを発揮できたのであろうか。その責任の一端が、私たち一人ひとりの主権者にあることは間違いない。今回の新型コロナウイルスによってもたらされた危機を、どのように乗り越え、その反省に立ってどのような社会を目指すのかが今こそ問われている。

    ところで、緊急事態宣言が出されるほどの未曽有の危機……10歳以上の主権者は既に経験済みであることを覚えているだろうか。そう、今から9年前に起こった福島第一原発事故である。2011年3月11日、東日本を襲ったマグニチュード9・0の巨大地震と、それに伴う大津波によって全電源喪失に陥った福島第一原発は、1号機から4号機が次々とメルトダウンや水蒸気爆発を起こし、環境に放射能をまき散らしてしまう。国際的事故尺度では、1986年のチェルノブイリ原発事故と並ぶ最高尺度のレベル7という、人類史上最悪の原発事故だった。

    この未曽有の危機に際し、当時の政府は、「原子力緊急事態宣言」を発令する。原発から20㌔圏内の警戒区域では約7万8000人、20㌔以遠で年間積算線量が20㍉シーベルトを超える計画的避難区域で約1万1000人、20〜30㌔圏内の緊急時避難準備区域で約5万9000人が避難対象とされ、そのうち約8万8000人が強制的に避難させられた。放射能汚染は東日本の広範囲に及び、避難対象とされなかった地域からも多くの人々が「自力避難」を余儀なくされたのである。

    復興庁のデータを見ると、約1年後の避難者数は約34万4000人、避難先は全国47都道府県に及んでいる。原発事故によるものだけとは言えないものの、膨大な数の人々が避難生活を強いられた。そして、今年3月末でもなお、全国の避難者は約4万7000人いるのだ。放射能汚染で広範な地域が「人の住めない土地」となり、私たちは「原発震災」の恐ろしさをまざまざと見せつけられたのであった。多くの人々は意識していないかもしれないが、原子力緊急事態宣言は現在も解除されていない。

    福島第一原発事故は、私たちに様々な教訓をもたらした。何よりも「原子力安全神話」が崩壊したことで、私たちは日本の原子力政策を見直す機会を得たはずであった。故郷を追われ、厳しい避難生活を送る人々を支えられる社会とはどのようなものか、真剣に考えることを迫られたはずであった。だが、事故から9年余りが経過した現在、それらは日本社会にいかされているであろうか。気がついてみれば原発は次々と再稼働され、収束とは程遠い福島第一原発が立地する双葉町ですら、帰還困難区域の一部が解除されている。
    ……

  • 12面~13面 世界で平和を考える「北イラク レポート」(西谷文和)

    今年2月イラクに入り、クルド軍と復活してきたIS(イスラム国)との最前線取材を敢行した。その後、安全地帯まで戻って別の取材地へと飛んだ。よく言われることだが「戦争と性暴力はセットで起きる」。女性たちに何が起きていたのか? その子どもたちは心にどれだけに傷を負ってしまったのか? 北イラクからレポートする。

    北イラク、油田で有名なキルクーク市から車で30分、チャンチャマルという小さな町に「ジアン・フアンデーション」という クリニックがある。訪問時は14名の女性と7名の子どもが生活していた。

    ここで何を治療しているかというと、それはPTSD。強烈なトラウマに襲われている女性と子どもの一時保護センターなのだ。14名の女性は全てイラク北部シンジャール出身のヤジディー教徒で、全員ISによって奴隷妻にされていた人々。2014年7月、ISはヤジディー教徒の村を襲った。ほとんどの男性は殺され、女性はラッカやモスルなど当時のIS支配地域に連れ去られた。その後、女性たちはIS兵士の妻としてあてがわれ、複数の兵士の「所有物」になった。

    ここへ来るのは昨年に引き続いて2回目。まずは支援物資の衣服を配る。食堂のテーブルに衣服を並べ、気に入った衣服を選んでもらう。バザールのような光景、最初は硬い表情の女性たちが次第に笑顔になっていく。14年から丸6年、自分の好きな買い物などしたことがなかった彼女たち、疑似体験とはいえ、ショッピングを楽しんでくれる。

    ショッピング体験が終わり、2名の女性が勇気を持って証言してくれることになった。自らが受けた「性暴力」について証言することは困難だ。触れられたくないことを聞かれるし、その体験がフラッシュバックして、PTSDが悪化することにもなりかねない。しかし「その体験」を広く伝えることでISの非道さ、戦争の理不尽さが伝わる。趣旨を理解してカメラの前に立ってくれたのがアディバ・ムラドさん(23)だった。

    ISが彼女のふるさと、コージョ村にやってきた。17歳、新婚10カ月で妊娠していた。夫妻は別々の所に監禁され、夫はそれ以来行方不明。彼女はシリアのラッカに連れて行かれ、ここで最初のIS兵士(当時25歳)の奴隷妻にされた。妊娠していた彼女は無事にディアラちゃんを出産。そしてこの兵士との間に息子が生まれる。2年後、ラッカで別の兵士(当時26歳)の奴隷妻にされ妊娠させられたが、この時は流産。さらに3年後、モスルに連れてこられた後に3番目のIS兵士(当時32歳)の妻にされる。

    そんな地獄の生活に転機が訪れる。17年ごろから本格的なIS掃討作戦が始まり、ISが劣勢に立たされていく。戦争を継続するためには金がいる。資金に苦しむISが奴隷妻と金の交換に方針を変えていった。彼女は初めて家族に電話することを許される。そして交渉の末、家族が8千㌦(880万円)の身代金を支払ってくれた。
    ……

  • 14面~16面 滋賀「人工呼吸器外し殺人事件」冤罪生んだ「巧妙」な調べ(粟野仁雄)

    逮捕から16年目の春だった。自然死が「殺人」に発展させられた冤罪。2003年に滋賀県東近江市の湖東記念病院で人工呼吸器の管を外して72歳の男性患者を殺したとされ、懲役12年に服した元看護助手の西山美香さん(40)の再審で3月31日、大津地裁は無罪を言い渡した。

    この日午前10時半、大西直樹裁判長(49)は「主文、被告人は無罪」と言った後、「西山さんは無罪です」と名前で言い直した。

    1時間半近い判決文朗読を終えた正午前。大西裁判長は証言席の西山さんに語りかけた。「嘘の供述をしたことを後悔し気に病んでいるかもしれません。それが有罪になったきっかけかもしれません。しかし嘘をついたことが非難されるべきではなく、嘘をついたことで有罪になったというべきではありません。問われるべきは捜査手続きの在り方です。(中略)嘘偽りのない西山さんを多くの人が支えてくれた。もう嘘をつく必要はありません。等身大の自分と向き合い自分を大切にしてください。今日がその第一歩です」と。

    温かい言葉に西山美香さんもハンカチで涙を拭い、父輝男さんと最前列で見守った車椅子の母令子さんは「裁判長、ありがとうございました」を繰り返した。大西裁判長の目も真っ赤だった。

    判決はまず、男性患者の死因について事前に滋賀県警から「呼吸器が外れていた」との情報を得て合わせたように「酸欠死」とした当初の鑑定(西克治医師=当時滋賀医科大教授)に疑問を呈し、「致死性不整脈などで死亡した可能性が高い。事件性すら証明されていない」とした。有罪の根拠となった西山さんの自白の信用性について「(患者が)目をぎょろぎょろさせ、苦しそうに口をハグハグさせた」などの表現を「患者は顔面神経が機能を失っておりありえない」などから否定した。ありえない患者の「断末魔」の詳細な供述を、一審の長井秀典裁判長は「真犯人しか知りえない迫真の供述」と認め、最高裁まで通っていたのだ。

    さらに供述の任意性について大西裁判長は、呼吸器の管を外した過程などの供述が変遷を疑問視し「被告人の特性や恋愛感情に乗じて(中略)供述をコントロールして」などと否定した。

    過去、殺人罪で女性が再審無罪となったのは徳島ラジオ商殺しの冨士茂子さん(死後に再審無罪)と大阪市東住吉区の小学女児焼死での青木惠子さんだけだ。閉廷後、裁判所の正門で「獄友でした」と青木さんに花束を渡された西山さんは「私は3号ですが、本当は鹿児島の原口アヤ子さん(92)(大崎事件・3月30日に第4次再審請求)が3号にならなくてはいけなかった」と語った。

    実は西山美香さんの冤罪は複雑な経緯がある。弁護団は最終準備書面で「痰吸引を懈怠した責任を問われることを恐れたT看護師が咄嗟に思い付いたチューブが外れていたという言い訳に関係者が翻弄された事件」を振り返る。

    2003年5月22日未明、西山さんと当直だった正看護師のTさんは患者が死んでいるのを見つけた。Tさんは居眠りしたのか、痰の吸引を飛ばしてしまっていたため、痰詰まりで死んでいたら自分の責任になると恐れ「呼吸器が外れていた」と報告してしまう。しかし外れれば、ナースステーションにも聞こえる大きなアラーム音が鳴る。

    滋賀県警は当初、「鳴ったのに放置した」とTさんを過失致死罪で調べ、傍証として西山さんを意聴取していた。しかし「アラーム音は聞いてない」という西山さんの椅子を蹴るなどして「鳴っていたはずや」と問い詰め、怖くなった西山さんは「鳴ってた」と嘘をついてしまう。
     一方、Tさんは追い詰められてノイローゼ状態になる。「シングルマザーのTさんが逮捕されたら大変。自分は親元から通う気楽な助手」と思った西山さんはあろうことか、咄嗟に「自分が呼吸器のチューブを外した」と言ったのだ。

    悲しい哉、そんなことを言えばどんなことになるかに考えが及ばない。

    軽い知的障害や発達障害がある西山さんには目前のことを将来と連動させにくい「愛着障害」もあった。

    「鳴っていた」と嘘をつくと急に優しくなった山本刑事は「殺人でも無罪から死刑まであり、執行猶予や保釈の場合もある。僕に任せておけば間違いない」などと自分だけを信用させる。当初の弁護士との接見内容を聞き出して「そんな弁護士は信用できない」と言った。学業優秀だった2人の兄に劣等感も持つ彼女に当時30代だった山本は「美香さんも賢いところあるで」などと言う。西山さんは「優しい男性だ」と勘違いして次第に恋慕し、取り調べのない日も愛知川署を訪ねる。供述書には「なんでこんな私のために一生懸命にしてくれるのだろう。本当にうれしい。こんな人は初めてや。私はどうしたらいいんでしょう」などと書かれる。

    県警も驚いた「呼吸器を外した」発言は、Tさんへの思いやりの他、取り調べが少なくなり寂しくなって「変わったことを言えば取り調べてくれ、また会える」と思ったためだ。「山本刑事が調書を書く間、空いた左手を触ったりしていた。最後の取り調べで別れ際に彼に抱き着いたら嫌がらず『頑張れよ』と肩を叩いてくれた」と回顧している。

    県警は組織としても「恋」を利用した。山本刑事は立ち合いの女性警官を取調室の室外に出して2人だけになり、西山さんが恋心を打ち明けられる雰囲気を醸し出した。
    ……

  • 17面 映画「精神0」ネット配信 「仮設劇場」で生き残る(栗原佳子)

  • 18面 読者近況(矢野宏)

    【大阪】「大阪空襲訴訟を支える会」事務局長として活動を支えた森下勉さんが3月21日、心不全のため亡くなった。77歳だった。
     森下さんは旧満州(現中国東北部)からの引揚者。大阪市交通局に入り、事務職として定年まで勤め上げた。同僚だった中川啓介さん(71)は「目立つことを嫌い、何でもコツコツと真面目にこなし、信念を通す人でした」と振り返る。退職後、大阪維新が打ち出した地下鉄民営化に反対し、「2人で市営地下鉄の123駅の防水設備について調べたことが今も思い出される」と話す。
     新聞うずみ火も支えてくれ、2月7日にクレオ大阪西で開講したうずみ火講座に参加した時に言葉を交わしたのが最後となってしまった。森下さん、お世話になりました。ゆっくりお休みください。(矢野)
    ……

  • 19面 経済ニュースの裏側「パンデミック」(羽世田鉱四郎)

    医療費が世界一高い米国。4人に1人が医療機関の受診を断念しており、「医療ローン」の破産者が多いことで有名です。2018年の医療費は3兆6500億㌦(約400兆円)。国民皆保険ではなく、無保険者は約2750万人にも上っています。また、ホームレスは60万人以上と言われ、カリフォルニア州だけで10万人を数えます。

    一方、感染者が急増しているイタリア。公的医療と私的医療が混在し、ホームドクター(家庭医)を経由して受診する仕組みですが、財政難のため公立病院の統廃合や給与カットなど医療費を削減中でした。財政難をつけ込まれ、中国との結びつきに活路を求めています。イタリアは「一帯一路」構想にEUで初めて参加し、観光立国も災いしました。イタリアの中国系市民は約40万人に上ると言われています。 スペインも首都マドリードを中心に感染者が急増しており、高齢者の介護施設などが感染の中心。2000年以降、中国系移民が急増し16万人余。マドリードに6万人弱、バルセロナに5万人弱が居住とか。

    「一帯」は陸上ルート、「一路」は海上ルートを意味します。一帯はユーラシア大陸を横断する鉄道網。中国・重慶を拠点に、中央アジアのカザフスタン、モスクワを経てベラルーシ、ポーランドを通過し、ドイツのデュイスブルグに到達する1万1000㌔の長大な鉄路です。輸送コストは、空路の5分の1、日数は海路の4分の1で、フランス便、イギリス便も開通しています。
    ……

  • 20面 会えてよかった 屋宜光徳さん(上田康平)

    屋宜さんたちの集団にいとこで1歳未満の子がいたが、母親の乳が出ないのでよく泣いた。すると集団の中から、米兵に見つかるので「殺せ」と言われる。それでいつも他の人たちとは距離をおいていた。

    山の中でも昼の間は藪の中に身を潜め、夜になると移動するのだが、ある日、沢から山頂に登ろうとしたときに米軍の野営地に紛れ込んだこ
    とがあった。

    軍用犬が吠え、照明弾が打ち上げられ、機関銃の弾が頭上を飛び交い、一行はころがるように沢の方へ逃げた。そのとき親戚の70代のおばあさんが逃げ遅れ、山頂に取り残されて置いてこざるをえなかった。戦後、その場所を訪ねると白骨が残ってい
    て、拾って帰った。

    あるときは道端で羽二重のいい布団を持ったおばあさんが「これをあげるから水をください」と懇願していたが、応える人はいなかった。
    山中の逃避行は夜間になるので、明るいう
    ちに目印をつけておく必要があり、出かけて
    行った父が米軍に捕まった。それで金武の収
    容所に連れて行かれたところ、多くの人たち
    が収容されており、読谷に置いてきた親戚の
    おじいさんもいた。

    収容所で聞いた情報では日本軍は南部に追い詰められ、もうすぐ全島が占領され、戦争は終わるとのこと。収容所には毎日、南部から多くの人たちが捕虜になって運ばれてきていた。米軍は住民には何ら危害を加えず、食糧も十分与えていたという。

    父は1週間ほどで収容所をぬけだし、みんなのもとに帰ると「白旗を上げて山を出よう」と言ったが、みんなに反対され、再び山中の逃避行
    が続けられた。
    ……

  • 21面 落語でラララ「首提灯」(さとう裕)

    コロナ禍を尻目に、今年ものどかに桜は咲いた。「桜は来年も必ず帰ってきます。もし人の命が奪われたら、二度と帰ってきません」。ノーベル賞の山中伸弥教授の言葉だ。新型コロナウイルスの猛威が止まらない。命や人生に思いを馳せる日々が続く。落語にも命を扱った噺がけっこうある。が、そこは落語、一筋縄では行かない。「首提灯」という噺。上方と江戸では、ストーリーが少し違うがオチはほぼ同じ。江戸の噺をみてみよう。

    酔った町人の男、武士に道を尋ねられるが、相手が田舎侍とみてさんざん悪態をつく。相手は酔っ払い、侍はぐっと我慢。調子に乗った男は、ペッと痰を吐く。それが侍の羽織の紋にかかった。羽織は主君からの拝領品。堪忍袋の緒が切れた。ズバッと抜き打つ。謡を口ずさみながらその場を後に。男はあんまり見事に斬られたので、何が起こったのか分からない。侍の悪口を言いながら歩き始めると、首が左へ左へ回る。つまずいた拍子に首が落ちかけ、斬られたことに気づく。と、半鐘が。火事だ。掛け出そうとすると、首が落ちかける。男は、自分の首をひょいと差し上げ、「はいごめん。はいごめん」。

    SFチックなお噺だが、寄席が始まった頃からの人気の演目だったようで、初期の小咄集にも出てくる。短い噺を現行のように一席に仕立て上げたのは、明治の落語家四代目橘家圓蔵。
    ……

  • 22面 100年の歌びと「決戦は金曜日」(三谷俊之)

    この夜が だんだん 待ち通しくなる はりつめた気持ち 後押しする/この夜を どんどん好きになってくる 強大な力が生まれてくる

    1992(平成4)年にはバブル時代は過ぎ去っていた。だが、多くの人々はまだバブルという言葉すら知らなかったし、どこかで景気は持ち直すだろうと楽観視していた。日本経済は崩落の一方だった。浮かれていた時代は終わり、のちに就職氷河期と呼ばれたように、求人率も低下していった。特に女子は、かつてない厳しい就職戦線にさらされるようになった。社会的には東京佐川急便事件があり、金丸信自民党副総裁が議員辞職。政治不信もひどくなっていた。

    そんな氷河期にドリームズ・カム・トゥルー(以下・ドリカム)の『決戦は金曜日』の勢いがある歌が流れていた。吉田美和の作詞、中村正人の作曲だ。ヴォーカルの吉田のソウルフルでパワーあふれる歌唱と、ドリカムらしいステキな曲で、初のミリオンセラーを突破した作品であった。バブル崩落後、女性たちは就職戦線から遠ざけられ、ある意味「恋愛」が主戦場となっていた。ユーミンとともに、恋愛は戦争であり闘争であった。若い女性たちにとって、この歌はバイブルのような存在だった。「ふくれた地下鉄」に乗り、彼のもとに近づいていく。冒頭から「恋人」に会いに行く気持ちの高まりを感じさせる。「戦闘の準備は ぬかりない 退がらない その手を離さない」。泣いたり笑ったりしたけれど、「わたしらしくあるために」と歌う。恋愛と自己愛とが分かちがたく結びあっている。「あなたといる時の 自分が一番好き」なのだ。だから「ダイジョウブ3回手の平に なぞって飲み込む」と、自己暗示をかけて勇気を奮い起こす。そして、地下鉄から押し出され「近づいてゆく 近づいてゆく 決戦の金曜日」に向かって、決意と緊張を持って彼のもとに行くのだ。
    ……

  • 23面 坂崎優子がつぶやく「持病のある人の診察は…」

    緊急事態宣言が私の住む兵庫県にも出ました。すでに自粛要請は続いているだけに、心がしんどくなっている人が私の周りでも増えています。突然汗が出てくる。お腹を壊す。不安な気持ちが身体にも影響を与えているようです。
     ちょっとした風邪症状でもコロナかもと心配になったり、外でコンと咳をするだけで人の視線を感じるなど、精神的にしんどくなる要素はあちこちにあります。

    私は2月末くらいから「なんだか喉がおかしいな」という症状が表れました。痰がからむような違和感です。「もしかして」とも思い、できるだけ人との接触を避けて家にこもりました。3月の仕事がすべてキャンセルになったのでいくらでもこもれました。

    数日経つと夜を中心に咳も出始めます。発熱や喉の痛みはありません。食欲もあって元気。「これはたまになる気管支の炎症だ。そのうち治るだろう」と思い、こもり続けていました。

    ところが咳がひどくなり、夜も寝られなくなっていきます。それでも「今、受診するのもなあ」と我慢し、気づくと3週間が経過していました。昼間も咳込むようになり、仕方なくかかりつけの診療所に電話を入れました。

    いつもなら診察券番号をまず聞かれるのに、いきなり症状を聞かれました。「咳が続いています」と言うや否や「相談センターに電話されましたか?」と相手。「いえ、そういうのではなくて……」と再度説明しようとすると「看護師に代わりますね」と。

    看護師さんもコロナを警戒した質問を続けます。「いつもこじらせるとぜんそくになるので、たぶんそれです」「そしたら、そのいつも診てもらっているところに行ってください」「いつも診てもらっているのがこちらです」。そこでようやく安心したような声になり、「どうぞ来てください」と言ってもらえました。
    ……

  • 24面~29面 読者からのお手紙&メール(文責・矢野宏)

    スーパーに押し寄せた
    買いだめの大波、小波

    大阪府 山本信彦

    私の職場はスーパーマーケットチェーンで、コロナでは様々に翻弄されています。

    まず、2月末頃にクルーズ船以外で感染者が出たと報道されたあたりから、マスクがあっという間に売り切れました。その後もほとんど入荷がありません。次にトイレットペーパーです。国内生産なのでメーカー在庫は十分あるのですが、かさばる商品なので配送トラックの手配が通常とは異なり、急に売れて品切れになっても物流が対応できません。品切れ状況が続き、お客さんに頭を下げ続ける毎日でした。

    最近、トイレットペーパーの供給は落ち着きましたが、マスクの大半は中国で生産しているため、入荷がありません。たまに入ってきても、あっという間に売り切れます。さらに、入荷を知った従業員が周りに教えるものですから、職場を離れてマスクを買いに走る従業員が出る始末。さすがに不公平でお客様に失礼ですから、マスクを並べる場合、黙ってコソコソと品出しするようになりました。

    次にやってきたのが買いだめの波。この波は2回ありました。1回目は学校の一斉休校が報道された時、子どもたちが家の中にいるので、その準備のため、お米やラーメン、冷凍食品などが飛ぶように売り場から消えて行きました。けれど、この波はまだ小さいものでした。2回目には「津波」が来ました。東京都の小池知事が3月25日に外出自粛の要請を出したのを受け、関西圏でも買い占めが起こったのです。子どもさんがいない家庭も含まれますから、波の大きさが違いました。平日にもかかわらず、お客さんが殺到しました。

    台風や地震の時にはカップ麺や水、レトルトご飯、冷凍食品、乾電池などが売れていくのですが、今回は5食入り袋麺、スパゲッティとパスタソース、お米が売れました。避難所へ行くのではなく、自宅に引きこもる前提で必要な品物を考えた結果です。それらは売り切れた経験がありませんから、事前に注文を増やすこともしていません。当然のごとく売り場はスカスカになり、そのための対応に走ることになりました。

    また、出勤している従業員も売り上げ計画に応じた人数しかいませんから、レジの混雑や品物の補充の作業に忙殺され、大変ハードな仕事となりました。

    首都圏の店で1人感染者が出たため、その店は大変でした。保健所へ連絡して2日間店を閉め、消毒と他の従業員のチェックにかかりきり。そんな時でも発注した商品は入荷されてきます。売りさばけないので、他の店舗へ引き取ってもらったり、次の発注の調整をしたりと慣れない作業の連続だったため、営業再開後も満足な品ぞろえはできず、まさに津波を被った状態になってしまいました。

    問題が現れるのは常に現場です。そこを仕切る責任者は大変なストレスを背負います。少しでも皆が平穏に暮らせるような配慮がほしいと思います。学校の一斉休校要請を唐突に出すのでなく、関係者と十分相談してからでもよかったのではないか。外出自粛を言い出す数日前まで、東京五輪は予定通り開催するなどと言っていたこととの落差が大き過ぎます。日本のリーダーは、人の立場に立って考える能力の弱い人が多いのではないでしょうか。

    昨年まで介護をしていた父親が肺炎をわずらっていたので、同じような境遇のお年寄りをかかえている方もさぞ心配でしょう。コロナ騒動が大きくならず、早く収まってくれることを祈っています。
    (新型コロナで翻弄されるスーパーマーケットの世界を垣間見ることできました。詳しく教えていただき、ありがとうございました。特に、首相や知事などのリーダーの資質が大きく左右するのですね。今回のコロナ騒動で、私たちの未来は人の痛みがわかる政治家にこそ託したいという思いを強くしました)
    ……

  • 26面 車イスから思うことは「翻弄させたものは…」(佐藤京子)

    母と一緒に暮らしていた時には、トイレットペーパーやティッシュペーパーなどは買えるときにまとめて買っていた。認知症の母に留守番を頼めないためだった。その母も施設に入所してしまったので、気が緩んでいたのか、気づいたら生活用品が足りなくなってきた。折も悪くどのお店を見てもアルコールティッシュやマスクもない。困った。 本当に困った。

    この国のお偉いさんは、ちっちゃいマスク2枚を配って事足りると考えているようだが、毎日絶対に必要なトイレットペーパーの代わりにはならない。1個また1個と減っていくたびに早く買わなければと焦るものの、車イスドライバーとしてはやみくもに店を回れない。入れる店では無情にも「入荷未定」の張り紙。世の中、情報戦を制した者が買い物をできるようだ。入荷するのかも分からない店の前に並ぶ勇気も元気もない。

    1人の生協職員のSNSへの投稿がきっかけで起こったトイレットペーパーの品切れ現象には心底恨めしい。
    ……

  • 30面 編集後記(栗原佳子、矢野宏)

    政府は、休業要請に従わずにいる施設について事業者名公表を伴う強い措置を検討しているという。自治体にせっつかれた形だが、その急先鋒が大阪府。吉村洋文知事は早期の公表を公言している。この「うずみ火」が皆さんの手元に届く頃には、施設名がSNSなどで血祭りにあげられているかもしれない。府が設置したコールセンターにはきのう(21日)までに640件もの「通報」があったという。行政が推奨・扇動していいのか。コロナも恐ろしいが人も怖い。その不安、劣情につけこむ輩はさらに。大阪府は休業要請に応じれば中小企業に100万円、個人事業主に50万円の支援金を支払うとしている。対象は4月の売り上げが昨年比半分以上減。対象外だがスレスレの店はいくらでもある。生きていくために営業しなければならない。見せしめにする前に行政がやるべきことは他にあるだろう。しかもだ。吉村知事は支援金を受けた事業者名を公表するという。面倒な手続きをクリアして支援対象になったらなったで名前をさらされる。なんの権利があって貶めるのか。人の尊厳に関わると思う。失点続きの政権が評価を下げても、吉村知事らがメディアに積極的に登場してもてはやされるのを、大阪に住む者の一人として暗澹たる思いで見つめている。「都構想」連続講座は何らかのかたちで続けたいし、紙面でも維新政治を検証したい。特に医療の場ではすでに弊害があらわれている。政権についてもだが、批判に対し「いまは一丸に」などと反論されることがある。75年前の空気もこうだったのか。(栗)

    ▼安倍首相が緊急事態宣言について報告した4月7日の衆院議員運営委で改憲に結び付ける議論に期待感を表明したことを受け、10日には自民党が憲法改正推進本部の会合を開き、新型コロナの感染拡大を踏まえた緊急事態の対応策を協議した。思い出されるのが、伊吹文明元衆院議長の発言。「(新型コロナの感染拡大は)緊急事態の一つの例。憲法改正の大きな実験台と考えた方がいいかもしれない」。改憲項目である緊急事態条項の導入を念頭に置いた発言。新型コロナの陰で、火事場泥棒たちが暗躍している。(矢)

  • 31面 うもれ火日誌(文責・矢野宏)

    3月2日(月)
     矢野 夜、MBSラジオ「ニュースなラヂオ」。新型コロナウイルス感染拡大について、TBSラジオ記者の崎山敏也さんに話を聞く。
    3月5日(木)
     矢野 午後、郵政ユニオン大阪西支部がエルおおさかで開いた「大阪西郵便局パワハラ自死事件糾弾会」で「パワハラ、過労自殺をなくすために」と題して講演。
    3月6日(金)
     矢野、栗原は沖縄タイムスの謝花直美さん、MBSアナウンサーの上田崇順さんと台湾取材の予定だったが、新型コロナの影響で断念。夜、大阪・十三で謝花さんと残念会。
     高橋 朝、和歌山放送ラジオ「ボックス」に出演。
    3月8日(日)
     西谷 午後、大阪市立天王寺区民センターで「路上のラジオ」主催の集会。思想家の内田樹さんと対談。
    3月9日(月)
     矢野 夜、MBSラジオ「ニュースなラヂオ」。福島第一原発事故から9年。福島県郡山市から子ども2人と「自力避難」している「東日本大震災避難者の会 Thannks&Dream」代表の森松明希子さんに話を聞く。
    3月13日(金)
     矢野、栗原 夜、大阪市内で朝日新聞記者の下地毅さんの送別会。事務所で二次会。
     高橋 朝、和歌山放送ラジオ「ボックス」に出演。
    3月14日(土)
     午後、うずみ火講座を大阪市立西区民センターで開講。京大複合原子力科学研究所研究員で「熊取6人組」の一人、今中哲二さんが福島第一原発の現状などを語る。
    3月15日(日)
     矢野、栗原 夕方、子どもの被ばくを懸念し福島市から京都市に自力避難した加藤裕子さんに話を聞く。「我が家にとっては二度目の災害です」
    3月16日(月)
     矢野 夜、MBSラジオ「ニュースなラヂオ」。コロナパンデミックについて、ニューヨーク在住のジャーナリスト津山恵子さんに話を聞く。
    3月17日(火)
     矢野は、南御堂ヒューマン・フォーラムで講演予定だったが、新型コロナで延期に…。
    3月20日(祝・金)
     矢野 午後、阪神・淡路大震災で一人娘を亡くした加賀翠さんの日本舞踊「華翠会」が国立文楽劇場であり、観賞。
     高橋 朝、和歌山放送ラジオ「ボックス」に出演。
    ……

  • 32面 うずみ火講座の案内(矢野宏)

    新型コロナウイルスの感染防止で、延期した「大阪都構想」を考える講座ですが、7月4日(土)に開講します。立命館大教授の森裕之さんに「大阪都構想と二重行政のゴマカシを斬る」と題して講演してもらいます。
     大阪都構想といっても、大阪市を解体して財源や権限を大阪府に吸い上げ、「1人の指揮官(知事)」のもとでやりたい放題できる体制をつくるのが狙いです。大阪都にはなりません。
     その是非を問う2度目の住民投票を、大阪維新の会は11月1日に行う方向で調整していまず。

    新聞うずみ火では、この構想を考える連続講座を企画しており、「大阪を知り・考える市民の会」代表の中野雅司さんのご厚意で大阪市中央区谷町2丁目の「ターネンビルNo.2」2階をお借りすることができました。

    【日時】7月4日(土)午後2時~
    【会場】大阪市中央区谷町2丁目の 「ターネンビルNo.2」2階・会議室(地下鉄谷町線「谷町4丁目駅」から北へ徒歩2分、「天満橋駅」から南へ徒歩6分)
    【資料代】500円、学生・障害者300円

定期購読申込フォーム
定期購読のご案内 定期購読のご案内

フォローする

facebook twitter