新聞うずみ火 最新号

2024年9月号(NO.227)

  • 1面~3面 能登半島地震 2度目の仮設暮らし どうなる ついの住み家(矢野宏)

    能登半島地震からまもなく8カ月になる。被災地では公費解体が進まず、倒壊した建物の多くが放置されたままだ。仮設住宅建設も遅れ、避難生活の長期化が懸念される一方で、入居者の多くは年金暮らしで、自力で自宅再建する余裕はない。「ついの住み家」はどうなるのか。復旧はいまだ緒に就いたばかりだ。
     
    石川県輪島市門前町道下(とうげ)の門前グラウンドゴルフ場。仮設住宅団地入り口近くに「絆の木道(こみち)」の碑がある。2007年3月の能登半島地震からの復興を祈念し、被災者やボランティアらがメッセージを書いた木板を並べた遊歩道のことだ。
     
    かつて150戸のプレハブの仮設住宅が並んだこの場所に、県内で最も多い279戸が再び建設された。
     
    「まさか2度も仮設で暮らすとは思わなかった」「しかも同じ場所で」
     
    門前町深見の六田明憲さん(74)、貞子さん(70)夫妻は、17年前にも集落ぐるみの避難を余儀なくされた。
     
    震度6強の地震に見舞われ、深見地区は土砂崩れで海岸沿いの道や林道が寸断され孤立した。集落への立ち入りが禁止されたため、全住民は船で避難した。その後、市内の避難所で1カ月暮らしたあと、約7カ月間をここの仮設で過ごした。
     
    17年後の元日、2㌔手前の海岸道路が土砂に埋まった。深見地区は再び孤立した。しかも深見港は海底が隆起し、船を出すことができなかった。
     
    最大58人が集落の避難所に集まった。先の地震の教訓から発電機、20㍑の水タンクを五つ備蓄していた。
    ……

  • 4面~7面 「有事」念頭 住民と意見交換 「疎開」よぎる全島民避難(栗原佳子)

    沖縄で「台湾有事」を前提にした避難計画が住民を置き去りにしたまま進んでいる。石垣市(石垣島)と与那国町(与那国島)では8月初旬、市と町が島外避難について、住民との意見交換会を開いた。このとき、石垣、与那国ともに陸上自衛隊と米海兵隊の共同訓練「レゾリュート・ドラゴン24」の真っ最中。全員が島を離れざるをえない可能性も示され、衝撃と戸惑いが広がった。

    8月1日夜、石垣市民会館大ホールには市民約200人の不安そうな顔が並んだ。国民保護法に基づく武力攻撃予測事態を想定した島外への住民避難計画とシェルターについての意見交換で、石垣市では初めて。中山義隆市長は「万が一の事態に備え、計画に取り組んでいる」と挨拶した。
     
    国民保護法(武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律)は2004年成立。有事関連法の一つで、都道府県や市町村に、国民保護計画の策定を義務付けた。
     
    今年6月には九州知事会議で宮古・八重山の住民ら12万人の避難先を九州・山口県に割り振る案が了承された。石垣市は山口、福岡、大分に分散されるという。
     
    避難指示が出されるのは、政府が「武力攻撃予測事態」を認定した場合。武力攻撃にはいたっていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるにいたった事態だとされる。
     
    その場合、石垣市は全住民(約5万人)と観光客を飛行機と船を使い6日間で島外に避難させる。空路だと手荷物は1人10㎏以内。介助が必要な人やペット同伴者は石垣港から海路で避難するが、会社は決まっていないという。
    ……

  • 8面 石垣・与那国の中学公民 「育鵬社」採択せず(栗原佳子)

    2025年度から石垣市と与那国町で使われる中学校教科書をめぐり、両市町の教育委員会が8月15日、臨時会を開催。公民では12年度から使われてきた育鵬社に代わり、日本文教出版(日文)が採択された。(栗原佳子
    両市町で組織する八重山採択地区協議会(会長・崎山晃石垣市教育長、委員8人)が10教科16種の教科書を選定。両市町の教委は全て答申通り採択した。
     
    協議会で、日文の公民は、QRコードなどデジタルコンテンツが豊富なことや、領土問題がわかりやすく記述されていることなどが決め手になったという。育鵬社版は候補にも上がらなかった。
     育鵬社はフジサンケイグループ傘下の扶桑社が100%出資した子会社。教科書は安倍晋三氏のブレーンだった「日本教育再生機構」の八木秀次理事長らが手掛け▽国防を強調▽憲法改正を推進▽国家主義色などが特徴だ。安倍政権下でシェアを伸ばしたが、20年の採択では石垣、与那国を含め0・4%に激減した。
    ……

  • 9面 兵庫県職員アンケート 知事の暴君ぶり続々(矢野宏)

    兵庫県の斎藤元彦知事への告発文書問題を検証する県議会の調査特別委員会(百条委員会)が実施した職員アンケートの詳細が明らかになってきた。「怒るとバンバン机を叩きだす」「すぐにどなる」「瞬間湯沸かし器」など、「暴君」ぶりが記されていた。
     
    百条委のアンケートは7月31日~8月14日、県職員約9700人を対象に行われ、元西播磨県民局長が作成した告発文書に書かれた7項目の疑惑について尋ねている。7割近い6711人が回答。中間報告は8月5日までの回答分4568件を集計したもの。知事のパワハラについて「実際に目撃した」「実際に知っている人から聞いた」との回答に、「人づてに聞いた」を合わせると、職員の4割に上ることが判明した。
     
    「視察先でエレベーターに乗り損ねた知事が、職員に対して『お前はエレベーターのボタンも押せないのか』などと叱責した」
     
    「知事はエレベーターで待たされると機嫌を損ねるため、県庁には普段から『知事が車でエレベーターの扉を開けておく係』が配置されていた」
     
    「公用車での移動中には後部座席からカーナビをのぞき込んで、到着が遅れそうになると怒って助手席を蹴った」
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  • 10面~12面 広島79年 慰霊碑めぐり 少年少女奪った建物疎開(矢野宏)

    原子爆弾投下で14万人もの命が奪われたあの日から79年。広島は8月6日、慰霊の日を迎えた。市内の各地で慰霊祭や集会が営まれ、犠牲者の追悼、核兵器や原発の廃絶を願う人たちの祈りに包まれた。猛暑の中、原爆や戦争を学ぶ「ヒロシマ連続講座」を主宰し、「ヒロシマ通信」を発行している東京都町田市の元高校教員、竹内良男さん(74)の案内で二つの女学校の慰霊碑を訪ねた。 

    市中心部を東西約4㌔にわたって貫き、「100㍍道路」とも呼ばれる平和大通り。戦時中、空襲による延焼を防ぐため、建物を取り壊して防火帯をつくる「建物疎開」に起因する。動員された旧制中学生と高等女学生らは約8000人。うち約6000人がここで原爆死した。大半が1年生で、通り沿いにはいくつもの慰霊碑がある。
     
    竹内さんが呼びかけた平和大通りフィールドワークで、2013年から19年まで案内役を務めたのが作家の関千枝子さん(1932~2021)だった。あの日、関さんは腹痛で勤労動員を休み、爆心地から約3㌔の自宅で被爆。建物疎開に動員されていた県立広島第二高等女学校の同級生は一人を除いて全員が亡くなった。級友たちの足取りをたどり、被爆40年後に刊行したのが「広島第二県女二年西」だった。
     
    関さんは生前、「平和大通りは少年少女たちの墓場だった」と語っていたという。
     
    「第一県女」と呼ばれた県立広島第一高等女学校(現県立皆実高校)の慰霊碑は、現在の中区小町にある。爆心地から約600㍍。校舎は倒壊焼失し、建物疎開作業をしていた1年生223人を含む生徒281人と教職員20人が命を落とした。
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  • 13面 宇部・長生炭鉱の水没事故 坑口開け遺骨発掘へ(栗原佳子)

    山口県宇部市の長生炭鉱で82年前、朝鮮半島出身者136人を含む183人が犠牲になった水没事故をめぐり、市民団体「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」(刻む会)が炭鉱の入り口(坑口)を掘り起こす準備を進めている。遺骨の発掘・返還を目指すもので、換気・排水筒の遺構「ピーヤ」の潜水調査も始まった。

    周防灘の海岸線に沿って広がる宇部炭田。長生炭鉱はその一つで、1914年に開坑。最盛期には炭鉱内外で100人超が働き、年間16万㌧の石炭を産出した。朝鮮半島出身の労働者が多く働かされていたことから、地元では「朝鮮炭鉱」などと呼ばれたという。
     
    事故が起きたのは1942年2月3日。坑道で異常出水が起こり、坑内で働いていた183人が犠牲になった。遺骨は今も海の底にある。
     
    刻む会は91年に発足。犠牲者の7割を占める朝鮮半島の住所に手紙を出し、遺族を探した。2013年には犠牲者全員の名前を刻んだ追悼碑を建て、韓国から遺族を招いて、追悼式典を開催してきた。
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  • 14面~15面 パリ五輪 レスリングの躍進 男女8つの金メダル(粟野仁雄))

    パリ五輪で日本に最も貢献した競技は金メダル20個中8個をもたらしたレスリングに尽きる。男女計12階級中9階級で決勝に進み、敗れたのは一人という驚異の強さだった。
     
    歴史的快挙の嚆矢はグレコローマン60㌔級の文田健一郎。決勝で中国選手を破り、「エッフェル塔のように一番輝きたいと思った」と話し、東京五輪の決勝でキューバの選手に敗れた時の涙はなかった。
     
    危なかった準決勝では得意の「反り投げ」で大逆転した。相手はキルギスの選手。昨年の世界選手権では、筆者の目前でこの選手に敗れた。文田は決勝で敗れた東京五輪後に反り投げを封印していた。しかし、相手の逃げない闘いで目が覚め、伝家の宝刀を復活させた。文田は後ろに体を反らすと手が床に着くほど背骨が軟らかい。大の猫好きで「にゃんこレスラー」のあだ名を持つ。現在、飼っているのは「ショウガ」と「ワサビ」。
     
    山梨県出身の文田は韮崎工業高から日本体育大に進んだ。父の敏郎さんも元レスラーで、同高レスリング部監督。五輪初出場で女子68㌔級で銅メダルを取った尾崎野乃香もこの高校で男性選手に交じって武者修業をしていた。
    ……

  • 16面~17面 ヤマケンのどないなっとんねん 被爆語りにドイツ再訪(山本健治)

    昨年5月に続いて8月2日から12日までドイツを訪れ、ベルリン、ハノーファー、ブラウンシュヴァイクで反戦・反核・反差別の市民運動の人たちと交流してきた。
     
    国民学校5年生の時に、母親と一緒に広島電鉄車内で原爆を浴び、火災と放射能で地獄以上の地獄と化した広島市内を逃げ回った故米澤鐡志さん。母親は25日後に、直接原爆を浴びなかったけれど母のお乳を飲んでいた妹さんも母の死後49日目に亡くなり、自らも生死の境をさまよい、死を覚悟したが奇跡的に生き残った米澤さんの被爆体験と生き残った者の使命としての核廃絶の叫びと活動を改めて伝えるためだった。
     
    昨年の訪問は米澤さんが元気だったら、自ら出席して話すはずだったが、残念なことに亡くなられたので、私が代理でハノーファー市役所や日本の高校にあたるギムナジウムなどで開催された平和イベントで伝えたのだったが、その続きだった。というのは米澤さんはやはり8月6日午前8時15分に話したいと言っていたからである。
     
    私が米澤さんの遺影、母と妹さんの遺影を胸に下げ、原爆で亡くなった人たちを追悼し、世界平和と核廃絶の実現を誓う会場であるイエーギデン教会に入っていくと、私に気づいた市長をはじめとする関係者は、「よく来てくれた。おかげで原爆で亡くなった人たちと心を一つにし、核廃絶に向けての活動をさらに発展させることができる」と感謝してくれた。夜には市役所裏の湖で灯籠流しが行われ、これまで以上に深い交流ができた。
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  • 18面~19面 世界で平和を考える ガザ虐殺の裏にネタニヤフ首相の保身(西谷文和)

    イスラエルの土曜日は全土が静まり返る。ユダヤ教のシャバット(安息日)は金曜の日没から土曜の日没まで。人々は屋内で静かに暮らす。通訳メイルの車でオッフェル刑務所へ行き、門前でリポート。シャバット中なので誰も外に出てこないだろうと安心していたが、看守に見つかってしまう。危うく逮捕されかけたが映像削除で難を逃れる。この刑務所に収容されているパレスチナ人政治囚と、ガザに捕らわれているイスラエル人捕虜との人質交換が停戦への決め手。オッフェル刑務所からエルサレムに戻る。日没が近い。安息日が明けると聖地エルサレム、最大都市テルアビブは大騒動に包まれる。果たしてどんな騒動が毎土曜日に起きているのだろうか?
     
    エルサレム中心部、誰もいない広場におしゃれなビルが建っている。ナショナルライブラリー、国会図書館だった。ここに車を置いて、国会議事堂前を歩く。シャバット中なので誰もいないが、ここはイスラエルの永田町。財務省前にテント村がある。「あなたがリーダー。そしてあなたは失敗した」「ネタニヤフは有罪」。ヘブライ語の大きな看板と未だに帰ってこない人質たちの写真。このテント村は10月8日、つまりハマス越境攻撃の翌日からこの場所に建てられ、人々が交代で泊まり込んでいる。3・11の福島原発事故直後、日本にも経産省前に脱原発を求めるテント村ができたが、あれと同じ。
     
    ネタニヤフ首相は相当に嫌われており、今すぐ総選挙をすれば、おそらく政権交代になる。逆に言えば、この戦争を続けないと選挙になり、失脚すれば牢屋行き。ネタニヤフ政権は汚職にまみれていて、彼は三つの罪で訴追されているのだ。だから無理やり戦争を続けている。ガザ大虐殺の裏に「ネタニヤフの保身」がある。そんな理由で殺されていくガザの人々。あまりにも理不尽な殺戮だ。まずはこの戦争を止めること。1日遅れれば、1日分の命が奪われてしまう。
    ……

  • 20面~21面 フクシマ後の原子力 「核なき世界」唱える二枚舌(高橋宏)

    8月8日、日向灘沖でマグニチュード7・1の地震が発生し、宮崎県日南市で震度6弱を観測した。震源が南海トラフ地震の想定震源域だったため、気象庁は同日「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表した。「南海トラフ地震臨時情報」は、南海トラフ沿いで異常な現象を観測した場合や、地震発生の可能性が相対的に高まっていると評価された場合などに発表されるもので、2017年に導入されたが、発表されたのは今回が初めてだ。
     
    南海トラフ地震の発生確率は、今後30年間に70~80%とされており、近い将来にほぼ確実に起こる巨大災害である。19年に内閣府が公表した最悪の場合の推計死者数は、23万1千人にのぼる。地震と、それに伴う巨大津波によって、太平洋沿岸の地域を中心にとてつもない犠牲者が出てしまう試算だ。想像を絶する死者数だが、かつてたった2発の爆弾でそれに相当する命が奪われた。
     
    広島、長崎に投下された原爆である。79年が経った今でも、正確な死者数は把握されていないが、1945年末までに広島で約14万人、長崎で約7万4千人、合計で約21万4千人が亡くなったとされる。その後も、多くの人々が放射線の影響で命を落としており、犠牲者の数は計り知れない。南海トラフ地震の推計死者数が30余りの都府県の合算であるのに対し、原爆の死者は広島市と長崎市を中心としたごく限られた範囲だったことを考えると、その被害は巨大自然災害をはるかにしのぐものだったと言える。
    ……

  • 22面 映画「うんこと死体の復権」鼻つまみ者が命を循環(栗原佳子)

    不潔なものとされるうんこ、なきものにされがちな生き物の死体。そしてそれらを食べる生き物たち。大阪・第七藝術劇場などで公開中のドキュメンタリー映画『うんこと死体の復権』は、そんな〝鼻つまみもの〟たちが織りなす「命の循環」の物語。探検家で医師の関野吉晴さん(75)が初めてメガホンを取った。「持続可能な未来」のヒントを提示している。

    関野さんは人類の起源をたどる旅「グレートジャーニー」で知られている。南米アマゾン奥地の狩猟採集民との暮らしを通し、自然と人との関係について考え続けてきたという。2015年には、地球で私たちが生きていく方策を考える場として「地球永住プロジェクト」をはじめた。「うんこと死体の復権」は、プロジェクトで出会った3人が主人公だ。
    ……

  • 23面 会えてよかった 小林武さん②(上田康平)

    移住先を宜野湾市内の
     ここにしたのは
     ここからは海に沈む夕日は絶対に
    きれいだと思う。私のところからは
    海の向こうに伊江島たっちゅうと言
    われる城山(ぐすくやま)が見える
    けれど、海に沈む夕日は見えない。
    うらやましい。しかし広大な基地の
    飛行場が街の真ん中に居座って、住
    民が利用する飛行場沿いの道路はよ
    うやく前の市長時代に開通した。1
    車線だけの住民のことを二の次にし
    た米軍優先、基地に沿うように造ら
    れた道路が見える。
     移住するのにアパートを探してい
    るとき、廊下の端のこの場所から普
    天間基地の飛行場や海を見て、この
    アパートに決めたそうだ。海が見え
    ない京都市内育ちで海が見えること
    も魅力だったとも言っておられたけ
    れど、著書「沖縄憲法史考」60頁に
    こう書いておられる−−−−
    ……

  • 24面 日本映画興亡史 千本組異聞 「お前たちが沖縄だ」(三谷俊之)

    激しい雷雨が列島各地を襲った6月28日、マキノ正幸氏(以下・敬称略)が逝去した。83歳だった。私が沖縄アクターズスクールの校長(当時)だった彼と出会ったのは、SPEEDが全国デビューした翌年の1997年春だった。取材でスクールを訪れ、その後も雑誌の連載などで何度も訪れることになった。
     
    なによりマキノ正幸は、この連載で触れた「日本映画の父」と呼ばれるマキノ省三を祖父に、父は任侠映画などの名作を生み続けた映画監督のマキノ雅弘。いわゆるマキノ3代目になる。彼が83年に開校したスクールからは、安室奈美恵やSPEEDをはじめ、MAX、DA PUMP、三浦大知、黒木メイサ、満島ひかりらが羽ばたいた。
     
    薩摩の収奪を含めた長い琉球時代を基底に、敗戦後のアメリカ統治や、日本への復帰という歴史的な異文化のアマルガム。色濃い土着の文化と外来の文化が、混ざり合う文化となった。文化の混淆現象をクレオリゼーションというが、マキノ正幸は、そんなクレオール化のなかで育まれた「沖縄の子」が持つ独特の感性や身体能力に、特別な才能を見いだした。それを伸ばす独特のメソッドを構想し、なにより、「沖縄の子」が持っている能力を、誰よりも感受し、愛した。
    ……

  • 25面 坂崎優子がつぶやく 先入観に目くじらを

    あるセミナーに参加しました。パワーポイントのスライドに男性医師と女性看護師のイラストがあったとしたら、皆さんは違和感を持つでしょうか。
     
    次は先日私が参加したセミナー。1人の大きな力と助け合うことで生まれる力の例えで、できる社員1人の画像が男性で、平凡な社員3人の画像がすべて女性でした。正直ドン引きしました。「まだこんな資料を作る?」と。
     
    この話を周りの何人かにしてみましたが、敏感に反応した人はごく少数でした。「確かにジェンダーバイアスがきついねえ」と言いつつ、「でもその講師は有名な人でねえ」と付け加える人や、「内容はよかったでしょ?」と論点を変える人など。社会的立場のある男性たちが、「そこまで目くじら立てなくても」という空気を醸し出していたのが印象的でした。
     
    ジェンダーバイアスは、男女の役割を無意識に固定することをいい、上記の二つは、ともにバイアスがかかっている事例です。女性である私も男女の役割的な考えに染まってきたの学生への授業などでは特に気をつけています。
     
    今ブームの生成AIも、このバイアスが問題の一つとなっています。ネットの様々な情報を学習してきた生成AIは、歪みのあるものも取り入れてきたからです。昨年、朝日新聞メディア研究開発センターが、ある調査結果を発表しました。30の職業に対するChatGPTの日本語での回答に、「宇宙飛行士は男性的、看護師は女性的」といったジェンダーバイアスがどのくらいあるかというもの。結果、無料版のGPT3・5では41・5%にバイアスが見られたと。有料版のGPT4では22・9%に減ってはいますが、バイアスのある情報は再生産されています。
    ……

  • 26面~30面 読者からのお手紙&メール(文責 矢野宏)

    奈良にもあった空襲
    聞き取った話を披露

      愛知県 西田敦
     
    8月11日、愛知県瀬戸市で奈良の空襲について講演しました。主催は「瀬戸地下軍需工場跡を保存する会」。1990年に発足し、地域に残る地下工場跡の見学会や学習会、清掃などの活動に取り組んでいます。
     
    日々の暮らしの中で知る奈良と観光で巡る奈良とでは、見え方がずいぶん違います。「昔はなぁ」で始まるご近所のお年寄りの話は戦争のことばかり。柳本飛行場建設の勤労奉仕、空襲、満州、集団疎開など、古代ロマンとはかけ離れたイメージです。2004年に開始した戦争体験の聞き取りと戦争遺跡の写真記録。「古都は空襲を免れた」定説を覆すために取り組みを続けてきました。
     
    敗戦前の3カ月間、執拗に空襲が繰り返された奈良県。パイロットが攻撃対象を臨機応変に選定可能となった時期です。人や列車、学校などが狙われました。「パイロットの顔を見た」という証言が多い理由は、至近距離からの攻撃だったからです。すでに日本は迎撃する力もありませんでした。また、空襲に備えた高射砲陣地や防空監視哨、地下壕などの戦争遺跡も人知れず存在します。
     
    建国の聖地とされた奈良県。戦意高揚の集客装置として利用され、度重なる空襲もかん口令でもみ消されました。戦後は「ウォーナー伝説」より、史実を知る機会はさらに失われました。「信じてもらえないかもしれないけれど」。体験者は諭すように語ってくれました。
     
    愛知県は空襲による動員学徒の死亡者数が日本一です。三菱重工業名古屋発動機製作所大幸工場では旧制畝傍中学の7名が、東洋一と言われた豊川海軍工廠の空襲慰霊碑には、多数の奈良県出身者の名前が刻まれています。教育をないがしろにし、若者を死に追いやった戦争はやはり脅威です。
    ……

  • 27面 車イスから思う事 空手で新たな出会い(佐藤京子)

    この半月ほど、あわただしい日々だった。空手の試合が重なったからだ。夏休み期間のため、平日にも試合があり、体力を維持するのが精いっぱいだった。なぜ、空手をしているのか、不思議に思われる方もいるだろう。 2008年の北京パラリンピックの前哨戦としてオランダで行われた世界陸上大会の2週間前に職場で事故に遭い、競技を続けることができなくなった。どうしようかと考えたが答えは出ない。できなくなった現実を認めたくない。生きがいを失い、悩み続けたが答えは出ない。
     
    それでも何かスポーツをできないかと考え、年齢を重ねても続けていける競技はないか。めぐりあったのが空手だった。 もちろん、車椅子で行う。空手には「型」と「組み手」がある。型は演武のことで点数で勝敗を決める。組み手は実際に戦う。面をかぶり、胴とグローブをつけて、相手と技を出し合って勝敗を決める。実際に相手に当ててはいけないが、自分は左手がほとんど上がらない。よくよく考えたら、型も組み手も片手で行うには難しい。それから約8年が過ぎた。
    ……

  • 28面 東から西から(有末和生)

    【広島】毎夏、原爆記念日には矢野氏、栗原氏が取材に来広しており、私が広島に引っ越した13年前から、取材後一緒に飲んでいた。私は中国新聞文化センターで「書評から始まる文章術」「私小説としての自分史を書く」という講座を持っており、飲み会に受講生有志も誘うようになった。そこで飲んだ勢いで『うずみ火』読者になる受講生もぼちぼち出現し、やがて夏の一夜は非公式の「広島読者の会」の様相を呈するようになっていった。
     
    今年は8月7日が講座なので、矢野氏にミニ講演会を依頼した。テーマは「ミニコミ紙のささやかな挑戦と夢」。『うずみ火』が生まれた経緯から今日の取り組み、将来の夢に至る熱い話だった。
     
    「『うずみ火』は客観報道なんか関係ない! 泣いている人の側に立って主観報道を貫く!」と出だしから矢野節がさく裂した。
     
    放っておけば一晩中でも続きそうな勢いだったが、早く飲みに行きたかったので、話を適当に切り上げてもらった。暑い夜だったが、もっと熱い気持ちを胸に、14人全員そろって飲み会に繰り出したのであった。

  • 29面 絵本の扉「だいふくもち」(遠田博美)

    田島征三さんは幼少期を高知県で過ごしたこともあり、作品には、土佐の自然や昔話、土佐弁での会話が多く登場します。今回紹介する絵本もすべて土佐弁で語られています。一見昔話のようですが、田島さんのオリジナルです。
     
    主人公「ごさく」はおでこや顔に皺があり、身なりもみすぼらしい中年男性。表紙に描かれた彼は、大きな口を開けて、大福もちを食べようとしていますね。ごさくは仕事もせず、毎日ぐうたら暮らしています。
     
    ある冬の夜、だれか呼ぶ声がします。昼間も人の来ない彼のもとに誰が来るのか? 声のする床下をのぞくと、「あずきをくわせろ」との声が。得体の知れない白い物体との問答が土佐弁でなされ、その正体が大福もちだと判明します。長年この家に住みついている大福もちが「腹が減ったので小豆を食わせろ」と要求してきたのです。なぜ? 何のために? 読み手はこれからの展開を想像します。泥絵の具で描いたようなタッチの色味の渋い描写が、何か起こりそうな雰囲気を醸し出します。
    ……

  • 30面 編集後記(矢野宏)

    この夏も能登半島地震の被災地に入った。大阪から特急サンダーバードで敦賀を目指し、北陸新幹線に乗り継いで金沢に入る。サンダーバード1本で金沢まで行けた時と比べ、片道2150円アップ。往復で新聞うずみ火の年間購読料に匹敵する▼被災地に入るたび、約240棟が焼失した「輪島朝市」を訪ねているが、解体・撤去作業は徐々に進んでいるようだ。先月まで赤褐色に焼けたガレキに覆われていたが、ようやく焼失した建物の基礎部分が見えるようになった。だが、川一本へだてた同市鳳至町(ふげしまち)に入ると、言葉を失う。公費解体は進んでおらず、倒壊した建物は手つかずのままだ。この惨状を見れば、日本が「先進国」とは誰も思わないだろう▼石川県内最大の水揚げを誇る輪島港で70代の漁師に声をかけた。港の海底が2㍍ほど隆起し、漁船200隻ほどが閉じ込められている。漁協の製氷施設も壊れ、元日から漁のできない日々が続いている。海底を掘り下げる工事を行っているが、11月6日はズワイガニの解禁日。水揚げの7割を占めていたが、間に合いそうもない。「わしらは陸に上げれば何もできん」▼岸田首相退陣で後任を決める自民党総裁選のニュースが過熱し始めた。能登半島地震の被災地は忘れ去られるのか。「棄民」の二文字が頭をよぎる。明日はわが身……。

  • 31面 うもれ火日誌(矢野宏)

    7月5日(金)
     矢野 午前から枚方市立楠葉中学校の平和学習。1年生に空襲、2年生に沖縄戦、3年生に国際紛争について話す。
    7月7日(日)
     矢野 午後、愛知県春日井市へ。戦時中に投下された模擬原爆を突き止めた「春日井の戦争を記録する会」代表の金子力さんに話を聞く。帰阪後、天満天神繁昌亭で開かれた笑福亭智丸独演会。黒田ジャーナルの同期、疋田吉継さんの息子さん。
    7月10日(水)
     矢野 午後、滋賀県湖南市で開かれた「びわこ南部地域人権啓発連続講座」で能登半島地震取材について講演。この日は堺大空襲から79年。夜、南海堺駅近くで営まれた犠牲者追悼会に参列。当時6歳だった浜野絹子さんの体験を紹介した後、前田純一さんらと献杯。
    7月12日(金)
     矢野 午後、大阪府豊中市の「すてっぷホール」の担当者と8月3日の「黒田清さんを偲び、平和を考えるライブ」の打ち合わせ。音響や映像担当の澤田和也さんと最終確認。
    7月13日(土)
     午後、大阪市西区のクレオ大阪西で「うずみ火講座」。日本国憲法の草案作りに参加したベアテ・シロタ・ゴードンのドキュメンタリー「私は男女平等を憲法に書いた」上映会を水田隆三さんが提案。上映後、水田さんの解説も。
    7月14日(日)
     矢野 午後、来社した友井健二さんから11月9日の「平和を訴えるコンサート」の出演依頼。今年は歌うことに。
    7月15日(月・祝)
     栗原 午後、大阪・ドーンセンターで開かれたMASAのコンサートへ。
    7月17日(水)
     能登半島地震から6カ月半。矢野、栗原は朝、特急サンダーバード、北陸新幹線と乗り継いで金沢入り。液状化被害を受けた内灘町を再訪。被災者の一人は「1軒だけ修復しても地区全体の地盤を改良しなければ意味がない」
    7月18日(木)
     矢野、栗原 午後、輪島中学校で炊き出しをしている割烹居酒屋店主の坂口竜吉さんらと再会。倒壊した自宅兼店舗から輪島朝市で焼死した伯父の漆器が見つかった話などを聞く。夜、帰阪。
    7月19日(金)
     矢野 午前、兵庫県庁前での斎藤元彦知事に辞職を求める集会を取材。午後、百条委員会を傍聴。
    7月22日(月)
     矢野 栗原、午前、兵庫県議会事務局へ。百条委員会の庄本悦子さんに話を聞く。午後、石田冨美枝さん、大垣さなえさん、石田肇さんがチラシセット作業に。ありがたい。夜、元衆院議員の服部良一さんがチラシを持って来社。
    7月25日(木)
     午後、新聞うずみ火8月号が届き、長谷川伸治さん、大村和子さん、金川正明さん、多田一夫さん、康乗真一さん、澤田さんと発送作業。
    7月26日(金)
     矢野 朝、大阪市東住吉区田辺の恩楽寺で開かれた「模擬原爆の犠牲者を追悼する集会」を取材。「空襲と模擬原爆」の証言DVDを作成中と報告。夜、事務所で弁護士の定岡由紀子弁護士を囲んでの憲法BAR=写真。
    7月27日(土)
     矢野、栗原 北大阪ハッキョサマーフェスタへ。大村さん、福原徹治さんらと再会。
    7月28日(日)
     矢野 夜、JR貨物労組関西地本第39回定期地本大会の懇親会に招かれ、あいさつ。
     栗原 早朝、空路与那国島へ。与那国島と石垣島で取材(8月2日まで)。
    7月31日(水)
     午後、事務所でお茶を飲みながらの茶話会。夜、MBSディレクターの亘佐和子さんが来社、酒話会に…あれ?
    8月2日(金)
     矢野が体調を崩した午後、樋口元義さんが久しぶりに事務所へ。元気そうで一安心。
    8月3日(土)
     午後、豊中市のすてっぷホールで「平和を考えるライブ」。コント集団「ザ・ニュースペーパー」結成時のメンバー松崎菊也さんと石倉直樹さんによる風刺トーク&コントは10年連続。プロジェクトX風のパロディー「大阪万博に群がる男たち」が大うけ。
    8月6日(火)
     79年目の広島原爆の日。矢野、栗原は朝、広島入り。平和記念公園の全域で入場規制、荷物検査を行ったため、市民団体ともめる一幕も。県立第一高女の慰霊祭に。竹内良男さんの案内で被爆地を回る。夜、有末和生さん、小松正幸さんと1年ぶりの再会。

  • 32面 うずみ火講座(矢野宏)

    ■9月14日午後2時半~大阪市北区のPLP会館

    次回のうずみ火講座は9月14日(土)、事件や災害、将棋や柔道まで幅広いテーマで本紙に執筆しているジャーナリストの粟野仁雄さんを講師に招いて開講。演題は「冤罪のつくられ方~私たちも他人事ではない」
     
    最近、袴田事件や大川原化工機事件などの事件を精力的に取材しており、8月25日には「袴田巖と世界一の姉」(花伝社)を刊行します。
     
    なぜ、冤罪がうまれ、罪のない人が逮捕・起訴されるのか。粟野さんにわかりやすく解説してもらいます。
    【日時】9月14日(土)午後2時半【会場】大阪市北区のPLP会館
    【交通】JR環状線「天満駅」から南へ徒歩5分、地下鉄堺筋線「扇町駅」④出口から徒歩3分
    【資料代】読者1000円、一般1200円


    ■10月26日(土)午後2時半~上脇教授「自民党裏金事件」

    10月のうずみ火講座は26日(土)、自民党の裏金事件を告発した上脇博之・神戸学院大教授を再び講師に迎えて開講します。タイトルはズバリ「裏金事件を終わらせるな!」
     
    先の国会で成立した「改正政治資金規正法」は再発防止を図るのが目的のはずなのに、政策活動費の領収書公開が10年後になるなど、抜け穴だらけ。政権中枢の「不透明なカネ」も温存されます。このまま幕引きを許していいのでしょうか。
     
    当日はオンライン中継を行います。ご希望される方はうずみ火事務所までご連絡ください。いつでも視聴できるURLをお伝えします。
    【日時】10月26日(土)午後2時半
    【会場】PLP会館4階
    【資料代】読者1000円、一般1200円、オンライン視聴600円

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