911日の内閣改造から2カ月足らず、しかも1週間のうちに2人の重要閣僚が相次いで辞任に追い込まれた。菅原前経産相に続き、当時の河井法務大臣が「政治とカネ」の問題で政権を去ったのは10月末のこと。いずれも「文集砲」といわれる「週刊文春」の報道がきっかけだった。

河井法務相の辞任につながった疑惑とは何か。

週刊文春117日号によると、7月の参院選で初当選した河井氏の妻・案里氏の事務所が、選挙カーで投票を呼びかける、いわゆる「ウグイス嬢」13人に、公職選挙法で定められた上限である一人当たり15000円の倍の3万円の報酬を支払っていたという。

事実ならば、公職選挙法が禁じる典型的な運動員買収に当たる。有罪になれば、3年以下の懲役・禁固又は50万円以下の罰金。買収などの選挙違反は連座制が適用され、秘書だけでなく候補者も当選無効になる場合がある。

小野寺元防衛相の場合、地元の有権者に線香セット配ったということで書類送検され、結果的に公民権停止となった。小野寺氏は議員も辞め、しばらくは立候補もできなかった。

今回の一件について、河井氏は「私も妻もまったくあずかり知らないところ。しっかりと調査して説明責任を果たしてまいりたい」と発言していたが、河井氏は衆院当選7回のベテランで、案里氏の選挙活動も事実上仕切っていたと、週刊文春は指摘している。

また、案里氏も「記事には大変驚いているが、内容をよく確認し、事実関係の把握に努めたうえで説明責任を果たしていきたい」というコメントを出しているが、案里氏は広島県議を4期つとめ、県知事選にも出馬した政治家である。いずれにしても知らなかったでは済まされない。夫婦とも国会の場で説明責任を果たしてもらいたい。

今回辞任した2人は、菅官房長官の側近と言われている。自民党には、無派閥の菅氏を囲むグループがいくつかあり、河井氏は「向日葵(ひまわり)会」の世話人であり、菅原氏は「令和の会」の中心メンバー。初入閣できたのも「菅さんの後押しがあったからこそ」と言われているという。

自民党の中からも厳しい意見が出ている。船田元衆院議員は「第1次安倍政権の『辞任ドミノ』を想起させる状況。相当引き締めて手直しを図らないと政権運営は難しくなる」と危機感を募らせている。

ところが、2人の閣僚辞任のあとも閣僚による心ない失言が相次いでいる。

萩生田文科相が受験生の経済・地域格差を容認したと受け止められかねない「身の丈発言」で批判を浴びた。実はこの3人、二つの共通点がある。

一つは、3人とも「首相補佐官」「官房副長官」として、安倍政権の官邸政治を支えた。

昨年、森友問題のシンポジウムでご一緒した前川元文科事務次官は「側用人政治」と表現していた。徳川将軍の権威を笠に着る人たち、田沼意次や柳沢吉保らをイメージしてもらえればいい。

もう一つは、3人とも「脛に傷持つ存在」だったこと。

菅原氏が選挙区の支援者に高級メロンを配っていたことが明らかになったのは10年前のこと。そのほかにも秘書給与のピンハネや有権者の買収なども指摘されていた。

河井氏も有権者へのジャガイモ贈与疑惑、秘書の残業代不払いとパワハラ問題が浮上していた。

萩生田氏も加計学園の獣医学部新設を巡り、「官邸は絶対にやると言っている」と対応を迫り、加計学園が有利になるよう特区のルール変更も指示された――という記録が文科省内で見つかっている。

もともと問題の多い議員だった3人をなぜ、入閣させたのか。「論功行賞」しかあり得ない。安倍一強の驕り、緩みを徹底的に改めるため、衆参予算委員会で質疑に真摯に応じていただきたい。

それにしても新聞はどうした。権力監視の看板を下ろしてしまったのか。(矢野)