「誰が泣いているのか、泣いている人に寄り添え」

読売新聞大阪本社が大阪府と包括連携協定を結んだとき、恩師である黒田清さんの言葉が脳裏をよぎった。「ジャーナリズムの役割は権力の監視や。自ずと立ち位置は決まっている。市民の側に立たなければあかん」「権力との距離を見誤れば、権力側の広報になってしまう」とも。戦争を憎み、差別を許さなかったジャーナリストの遺言でもある。

大阪府は50を超える企業と連携協定を結んでいるが、大手新聞社との協定は初めてだ。背景に何があるのか。

日本新聞協会によると、2021年10月時点の発行部数は約3300万部。ピークだった1997年の約5400万部から激減している。全国紙5紙をみると、かつて公称部数1000万部を誇った読売新聞は21年1月現在で731万部(前年同月比57万部減)、朝日新聞が481万部(同43万部減)、毎日新聞202万部(同27万部減)、産経新聞122万部(同12万部減)、日経新聞194万部(同28万部減)といずれもピーク時のほぼ半分近くにまで部数を減らしている。そこにコロナ禍だ。「背に腹はかえられぬ」と、読売新聞に続く新聞社が出ないとも限らない。

すでに在阪のテレビ局は「維新の広報機関」と批判されて久しい。20年4月から21年5月までの14カ月間で、吉村知事のテレビ出演は143回。多くは関西の情報番組だという。元日特番に松井市長と吉村知事、橋下徹氏の3人を出演させたテレビ局もあるほどだ。

今回結ばれた連携事項は8分野に及び、その一つ、地域活性化の中に大阪・関西万博の開催に向けた協力が盛り込まれている。維新の府政と市政は「万博を隠れ蓑」にしてカジノ誘致のためのインフラ整備を進めている。さらに、夢洲の汚染土壌の改良を名目に大阪市の財源をつぎ込もうとしている。これ以上、市民を泣かしたらあかん。記者は自制することなく、市民の側に立った報道を心掛けていただきたい。