まさかの辞意表明だった。総理大臣として連続在職日数が歴代1位を記録した直後であり、しかも新型コロナウイルスの感染が急増する中での辞任表明。健康問題でやむを得ないとはいえ、第1次安倍政権と同じように、また投げ出すとは……。

辞任会見によると、6月の検診で持病の潰瘍性大腸炎の再発の兆候が見られると診断された。8月上旬には再発が確認され、24日に再検査を受けた際に辞任を決めたという。

ストレスのもとはいくつかあろう。

まず、アベノマスクやGo toトラベルなどのコロナ対応の失敗。

アベノミクスの成果をアピールしてきた景気拡大も201810月に幕を閉じていたことが判明した。

内閣支持率が36%(共同通信)と低迷していたことも響いたのだろう。そこに健康不安が降りかかり、なにもかも嫌になったのではないか。

安倍政権が7年8カ月に及ぶ長期政権を担った原動力は二つ。

自民党総裁として政権を奪回した12年の衆議院選挙を含めて国政選挙で6連勝したこと。同時に「安倍一強」のおごりが出ることに。二つ目は内閣人事局を設置して、官僚たちの人事権を握ったこと。これも官僚の過剰な忖度を生むことになる。

では、安倍政権は何を残したか。

デフレ脱却のため打ち出したアベノミクスで株価は上がったが、国債発行残高は705兆円から964兆円に増え、実質国内総生産は498兆円から485兆円に減少している。

「外交の安倍」と言われるほど、世界各国を巡って配り歩いたお金は60兆円。にもかかわらず、北方領土は戻って来ず、拉致問題も進展しなかった。

「地方創生」「1憶総活躍」などの看板製作も、どれ一つ実現していないばかりか、モリ・カケ・サクラ疑惑で国政の私物化を追及されながら十分に説明責任を果たしていない。

「憲法改正も実現しなかった」という護憲派の指摘は当たらない。強引に安全保障法を制定して集団的自衛権の行使を容認し、平和憲法を事実上骨抜きにしたのだから。

早くも後任の自民党総裁を選ぶ総裁選に関心が寄せられているが、その時期や形式を二階幹事長に一任された。本来なら全国の党員を含めた自民党総裁選を実施すべきだが、今回は両院議員総会で決めることになりそうだ。国会議員と都道府県連の代表3人による簡略選挙で、票の比重は国会議員394票と地方票141票となりそう。

時期は915日が有力だか。というのも、16日に野党の新党結成大会がある。その前に新総裁を決めて、話題をさらいたいのだろう。

ポスト安倍は現在、岸田政調会長、石破元幹事長、そして菅官房長官の名前が挙がっている。両院議員総会で決めることになれば、国会議員票を期待できない石破氏は不利。人気のない岸田氏では次回の衆院選も戦えない。となると……。安倍首相が去っても「アベ政治」は変わらないことになる。悪夢は続くかもしれない。(矢野)