関西電力幹部の金品受領問題のポイントは大きく分けて二つ。
関西電力といえば、売上高が3兆円を超える、関西財界を代表する企業。その巨大企業の幹部たちを恐れさせた男、福井県高浜町の元助役、森山栄治氏とはどんな人物なのか。それが一点。
二つ目は、森山氏が関電幹部たちに贈った3億2000万円はどこから出たお金なのか。原発マネーが回り回って手渡されたものではないのか。
先日、高浜町へ行ってきた。森山氏はすでに亡くなっており、自宅も訪ねたが、近所の人の話では「現在は誰も住んでいないようです」
京都大学原子炉実験所の元職員で、10年前に高浜町に戻った東山幸弘さんに話を聞くと、当時の高浜町長に誘われ、綾部市役所職員だった森山氏が町役場に入ったのは41歳のとき。8年後には、町のナンバー2である助役に就任している。10年間務め、1987年に58歳で退職している。
高浜原発3号、4号機の建設に関しても力を発揮したそうで、地元の建設会社も「森山さんに頼めば仕事をもらえる」と言っていたという。
電力会社が原発立地自治体の理解や協力を得るために使う対策費や協力費、寄付金の実態は闇の中。森山氏が顧問を務める「吉田開発」は競争入札なしの「特命発注」で関電から巨額な事業を受注していたことがこれまでの報道で明らかになっている。
東山さんは「関電幹部が金品を受け取った背景に、これらの不透明な『原発マネー』があったのではないかと疑うのが自然の流れでしょう」と指摘する。
関電幹部が辞任を発表したからと言って幕引きを許してはいけない。関電も「第三者委員会」を設置したが、東山氏は「新たな調査結果が出るとは思えない」と疑問視している。
そもそも、金品受領問題が発覚したのは昨年1月、金沢国税局が吉田開発に税務調査に入ったことがきっかけだった。関電幹部は「金品を預かった」と言い逃れをしていたが、国税が動いたのは受け取ったと認識しているから。
その年の9月には、関電が「社内調査委員会」を立ち上げて報告書を作成したが、調査対象は主に原子力部門に関係する幹部や社員26人。期間も2018年までの7年間に限られていた。
しかも、その報告書というのが「原発工事の利害関係者である森山氏から金品を受け取った行為は、無理やり押しつけられたものであり、個人の責任は問わない」という内容だった。
この報告書を受けた監査役会も「報告書はおおむね妥当」として、取締役会にも報告しなかった。公表されたのは今年10月2日の記者会見で、それまで1年間封印されていた。
「幹部らは被害者で、森山氏が加害者」と言わんばかりの報告書をまとめた調査委員会。その委員長は元大阪地検検事正の小林敬弁護士。この時の監査役の一人が「関西検察のドン」こと、土肥孝治弁護士、元検事総長だ。
第三者委員会の委員長は、土肥氏から10年後に検事総長となった但木圭一弁護士。ほか3人の弁護士を加えた第三者委員会が、関西検察の重鎮たちが出した報告内容を覆す内容を出すことができるのか。
ましてや、彼らを選んだのは関電であり、金を出しているのも関電。その関電に不利なことを出そうものなら、今後の仕事にも差し支えると考える人がいないとも限らない。
高浜町では、原発3号、4号機が稼働しており、運転期間が40年を過ぎた老朽原発の1号機と2号機も20年間の運転延長を目指して工事が急ピッチで行われていた。
取り返しのつかない重大事故を起こしかねない原発の運営を委ねて大丈夫か、この関電に……。(矢野)