アメリカのトランプ大統領が帰るのを待っていたかのように、永田町では再び、キナ臭い風が吹き始めた。7月の参議院選挙に合わせて衆議院の解散・総選挙もあるのではないかという「解散風」だ。

530日には、安倍総理が東京都内で開かれた経団連の総会で、衆議院の解散風をめぐり、「風というものは気まぐれで、誰かがコントロールできるようなものではない」とあいさつ。総理自ら解散に言及したことで、発言の真意が憶測を呼んでいる。

一方、菅官房長官はその日の記者会見で、総理の発言を踏まえた上で解散風について問われ、「無風じゃないですか」と対照的な受け答え。風が吹いたり、やんだり、総理をはじめ官邸は野党に揺さぶりをかけているのではないか。

今の衆議院議員の任期は2021年秋まで。それまでに衆議院選挙を行うのなら、いつがいいか。景気後退が心配される今年10月の消費増税後や来年夏の東京オリンピックのあとよりも、今、衆参ダブル選を行った方が政権には得策だという声が自民党内に強まっている。参院選での32ある1人区のうち、30で野党共闘ができたという。そこに衆院選をぶつければ野党はバラバラになるという思惑もあるのだろう。

そもそも、解散するための「大義名分」は何か。消費増税の延期なのか。もし、そうだとしたら、増税延期は3回目。何のための消費増税なのか。

さて、「解散は総理の専権事項」と言われるが、果たしてそうだろうか。

憲法で衆議院の解散の要件を定めているのは69条だけ。

「内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、または信任の決議案を否決した時は、10日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職しなければならない」

要するに、内閣に対して「信任しない」という不信任決議案が可決されたり、逆に「信任してほしい」という信任決議案が否決されたりした時にしか、解散はできないのだ。

にもかかわらず、歴代の総理は自分たちの有利な時期を選んで衆議院を解散している。なぜか。

憲法7条に天皇の国事行為が定められ、その中の一つに「衆議院を解散すること」とあるからだ。天皇は政治に関与できないので、衆議院を解散する時には「内閣の助言と承認」が必要なので、事実上、内閣総理大臣が解散権を握っているという理屈なのだ。

つまり、「69条による解散は、その時の内閣にとって解散したいわけではないが解散せざるを得ないケース。7条による解散は、総理が自分でやりたいと思って解散するケース」である。

今の憲法が施行されてから行われた解散・総選挙は24回。うち69条解散は4回。それ以外は7条解散。それに対して、「党利党略」とか「解散権の乱用」などという批判がしばしば上がっている。2年前の20173月に開かれた衆議院憲法審査会では、参考人の憲法学者から「党利党略での解散を抑制するため、解散権には何らかの制限をかけていくことが合理的だ」と指摘している。

世界を見渡してみると制限をかけている国がある。イギリスだ。

イギリスでも国王が宣言することで解散が可能となり、その際には首相の助言が必要と定められている。そのため、事実上議会の解散権は首相の専権事項となったのだが、首相の意都合のいい時に解散権が乱用された。

そこで、2011年に成立したのが「議会任期固定法」。イギリスの下院議員の任期は5年。下院議員の3分の2以上の賛成がなければ、首相は勝手に解散できなくなったのだ。

日本にも「議会任期固定法」が必要だ。今、安倍政権が抱えている課題は山積している。日米貿易交渉、ロシアとの北方領土交渉、安倍総理が前提条件なしで金正恩委員長と会談したいと言い出した拉致問題。森友・加計問題も解明されたとは言えない。

こうした課題に対応するため、もっと真剣に議論してほしい。解散風に浮ついている場合ではないと思うのだが、いかがだろうか。

ちなみに、前回の解散・総選挙で使われた費用は650億円。私たちの税金である。(矢野)