年末の12月27日、海上自衛隊の中東派遣が閣議決定された。
ホルムズ海峡付近で日本関連のタンカーが攻撃されたのは昨年6月のこと。その後、日本の船舶が攻撃されたわけではないのに、なぜ自衛隊を派遣するのか。
今回の派遣は、アメリカが呼びかけた「有志連合」に参加するのではなく、日本独自に護衛艦1隻とP3C哨戒機2機派遣するもの。
活動範囲も、ホルムズ海峡やペルシャ湾ではなく、遠く離れたアラビア半島南部のオマーン湾やイエメン沖である。
防衛問題に詳しい東京新聞論説委員の半田滋さんはこう指摘する。
「『イランに対抗する有志連合に参加せよ』というアメリカ政府に嫌だとは言えない。かといってイランとの友好関係も壊したくない。アメリカとイランの狭間でひねり出したのが有志連合と一線を画して独自に派遣する形だったのでしょう」
では、自衛隊は中東で何をするのか尋ねると、半田さんは「やることはありません」と言い、こう言い添えた。
「これほどまでに目的があいまいな自衛隊の海外派遣は初めてです」
これまで自衛隊を海外派遣する場合、憲法9条の範囲内で特別措置法を国会で審議、制定してきた。インド洋でアメリカ軍艦に給油する「テロ対策特別措置法」や、イラク・サマワに陸上自衛隊を派遣するための「イラク特別措置法」などが、それ。
ところが、今回の派遣は「防衛省設置法」を根拠としている。
この法律が制定されたのは1954年。防衛省(当時は防衛庁)の組織の在り方などを定めた法律で、4条にある「調査・研究」に基づいて実施される。あくまでも目的は情報収集なのだ。
しかも、これなら防衛相の判断で実施でき、国会承認は必要ない。ただ、今回は防衛相一人に責任を負わせるのは無理があると閣議決定したのだろう。
今回のように防衛設置法の「庁瀬・研究」を使うと、「法の拡大解釈で、ますます海外派遣に道を開く」と、半田さんは警鐘を鳴らす。
中東では、イランやイスラエル、サウジアラビア、シリアなどの利害関係が複雑に絡み合っている。
しかも新年早々、アメリカ軍がイラン革命防衛隊の司令官を空爆して殺害したことで、両国間の緊迫度がぐっと増している。
殺害された司令官は、革命防衛隊の海外作戦を担当する中心人物で、イランの実質的なナンバー2。イランの最高指導者ハメネイ師の信任も厚く、イラン国民の英雄的な人物である。ビンラディン氏やISの最高指導者バグダディ氏とは違う。
派遣された自衛隊が不測の事態に巻き込まれる可能性は極めて大きい。
そもそも、中東を不安定にしたのはイランとの「核合意」から一方的に離脱したトランプ大統領である。イラン産原油の輸出を禁止するだけでなく、軍事的圧力を強めており、今回の司令官殺害もその延長線上にあるとみられている。
トランプ大統領にすれば、オバマ大統領時代に結ばれた「核合意」をひっくり返したい。
さらには、11月の大統領選挙を控え、イランに対して強硬派である政治的なタカ派やキリスト教原理主義ともいうべき福音派の支持を固めたいという思惑があってのことかもしれないが、仮にそうだとしたら、トランプ大統領が作り出した混乱に日本の自衛隊も巻き込まれかねないということ。
日本のやるべきことは中東へ自衛隊を出すことではなく、トランプ大統領を説得することではないか。年末、「アメリカとイランの橋渡しになる」と胸を張った安倍首相にやる気があれば、だが…。(矢野)