10月1日から消費税の税率が10%へ引き上げられる。消費税が1989年に導入されてから今年で30年。税率の引き揚げはこれで3度目だ。

今回の消費税増税の特徴は二つ。税率を現在の8%に据え置く「軽減税率」の導入と、キャッシュレス決済によるポイント還元制度などが始まること。

実際、消費増税前にして、新聞やテレビなどの大手メディアは「増税前に買っておくべきものは何? 無理して買わなくていいものは」などという買い物術に関するものばかりで、肝心なことを忘れていた。

そう、消費税の増税は必要なのか、ということ。

「消費税の増税は決まったことだから仕方ない」と、諦めていないだろうか。それこそが政府の思うつぼなのだ。

 

消費税が導入されるまでの主な税収は、所得税と法人税だった。ところが、所得税と法人税は景気の動向に左右されるため、何かいい税の取り方はないかと見つけたのが消費にかける税金「消費税」だった。これなら景気に振り回さず、一律に徴収できる、と。

しかし、消費税は買い物のたびに支払うので負担を実感しやすい。そのため、時の政権にとっては「鬼門」だった。逆に言えば、私たち消費者は、消費税に対して敏感だったのだ。

消費税を10%に引き上げる約束が、当時の民主党、自民党、公明党との間で交わされたのは2012年のこと。

その時の主な合意事項は二つ。

一つは、当時5%だった消費税の税率を2014年4月に8%、1510月に10%に引き上げること。

二つ目は、10%にした消費税の税収の5分の4を国の借金の返済にして、残り5分の1を社会保障の充実に使うこと。

ところが、安倍政権はこの二つの合意事項を守っていない。

10%への増税を二度にわたって延期し、「消費税を今上げていいのか、国民に信を問う」などと衆院を解散し総選挙を行った。いわば、議席数を増やすために「消費増税」を使ったと言ってもいい。

二つ目の税収の使い道についても変えている。

2%引き上げると、税収は年間で約5・6兆円増えることになるが、国の借金返済にあてられるのは半分の2・8兆円。残りは「幼児教育の無償化」など教育・子育ての充実に1・7兆円、「低所得高齢者の暮らし支援」など社会保障の充実に1・1兆円という配分になっている。

国の借金を将来世代につけ回ししていく構図は変わっていないのだ。

 

そもそも消費税の目的は何か。

消費税を創設する時、国はこう言っている。「少子高齢化のために、社会保障費が増大する。そのため、消費税が不可欠なのです」と。

つまり、社会保障の財源にすると言っていたのだが、本当に社会保障費に使われているのか。

消費税が導入された翌年度の1990年度と、28年後の2018年度の法人税と所得税を比べてみると、驚くべき事実が明らかになっている。

1990年度に約18兆円だった法人税は、2018年度には約12兆円と6兆円減少。1990年度に約26兆円だった所得税は、2018年度には約19兆円とこちらも7兆円ほど減っている。

一方で、2018年度の消費税の税収は約17兆円。

つまり、消費税は引き上げられるたびに、大企業を対象とした法人税と、高額所得者を対象とした所得税は引き下げられている。つまり、消費税は所得税と法人税の減税の穴埋めに使われていると言っていい。

「法人税を下げることによって大企業が儲かり、それがいずれは私たちにも回ってくる」と信じている人もいるかもしれないが、そんなアベノミクスの「トルクルダウン」構想はまやかしに過ぎない。

だって、大企業の内部留保は400兆円を超えているのだから。

 

消費税は、所得の水準に関係なく同じ税率が適用される。それゆえ、所得が少ない人ほど、負担感が大きくなる「逆進性」があるとされている。

かつて、消費税が導入される前、日本社会は「一億総中流社会」と言われていた。格差が非常に少ない社会だったのだ。

ところが、消費税が導入されてから格差が広がっていった。今回、3度目の増税で、ますます格差が広がることになるのではないだろうか。

 

現在、消費税の税率は10%だが、これで収まるとは思えない。

この国の借金は1000兆円と言われている。「おぎゃあ」と生まれてきた赤ちゃんに800万円の借金が背負わされることになる。

財務省の悲願は、消費税を上げて財政を健全化すること。

経済協力開発機構(OECD)が4月15日、日本に対して「経済審査報告書」を発表した。「プライマリーバランス(財政の基礎的収支)を黒字化するためには赤字国債を発行していてはだめ、消費税率を最大26%まで引き上げる必要がある」という指摘だった。

日本はOECDへの拠出金が米国に次いで2位の国、事務局次長は財務省官僚が務めている。いわば、財務省が外圧を使って消費税増税を迫っていると見るのは勘ぐり過ぎだろうか。

 

私たちは税金が引き上げられるときには敏感だが、引き上げられた後は税金がどんなことに使われているのか、無関心ではないか。

先日、防衛省が発表した2020年度概算要求によると、第2次安倍政権になって6年連続で過去最大を更新して5兆3223億円を要求している。

本当に消費税を増税しなければならなかったのか。税金の使い道にも敏感にならないと、近い将来、消費税の税率26%という時代がやってくるかもしれない。(矢野宏)