神戸市長田区の長田神社前商店街。大きな朱色の鳥居をくぐって左手すぐのところに10階建てのマンションがある。1階はコンビニエンスストア、2階から上の階は神戸市が震災の被災者向けに賃貸で提供する「借り上げ復興住宅」だった。昨年8月に神戸市と交わした20年契約が切れ、新たに賃貸マンションとして貸し出すための改修工事が行われている。
地権者の一人、岡田征一さん(80)は「まだ建築費の返済も残っており、改修工事の費用も合わせると、借金は5800万円ほどです」と話す。その隣で、妻の育代さんが言い添える。「いろいろ勉強しました。ドラマはまだ終わっていません。へこたれませんよ」。
岡田さん夫妻が営む岡田酒店は震災で全壊した。被災地の復興に夢を託した地酒「福倖(ふっこう)酒」の売れ行きは順調だったが、長田に人が戻ってこない。
震災から5年7カ月後、コンビニエンスストアとして再出発することを決意。7人の地権者と10階建てのマンションを建てた。神戸市が復興住宅として借り上げてくれることもあって商売に専念できると考えていた岡田さん夫妻だったが、いくつもの試練が降りかかってくる。(矢野宏)