大阪市淀川区の大阪市立十三市民病院が、新型コロナウイルスに感染した中等症の患者を受け入れる専門病院に指定されて2カ月が過ぎた。病院全体がコロナ専門病院となるのは全国でも稀なこと。その後、十三市民病院はどうなっているのか、元の病院に戻れるのか、西口幸雄(ゆきお)病院長に話を聞いた。
発端は4月14日、大阪府庁で開かれた新型コロナのワクチン研究開発会合で、医療の専門家から「中等症患者の受け入れが整っていない」との指摘を受け、松井市長が地方独立行政法人「大阪市民病院機構」の理事長に対し、「十三市民病院を受け皿とするように」と指示した。
病院との事前調整はなく、病院長ら医療関係者らは、その日の夕方のニュースで知る。西口病院長は「まさか自分のところの病院がコロナ専門病院になるとは思っていませんでした」と振り返る。
入院患者130人、通院患者は1日平均500人、分娩予約も280件入っていたにもかかわらず、「5月1日に運営開始」というロードマップが示された。医師や看護師、職員らは不安を抱えながら準備に奔走。患者に周辺の病院への紹介状を書き、転院調整を3週間足らずで行った。
西口病院長もこう語る。
「特に出産を控えた患者さんには気の毒なことをしました」
入院患者を送り出すと同時に、受け入れ態勢も整えなければならない。病院側はコロナ専用の病床を90床とした。現在、入院患者は9人。
かつて、十三市民病院はベッド数が263床だったが、これで採算がとれるのか。
事務部長の三田村事務部長は「採算とれるはずもない。スタッフもほとんど減らしていないので人件費も丸々かかる。公立病院でないとなかなか難しい」と語る。
政府は、コロナ患者の入院治療を行った病院には、診療報酬を通常の3倍に引き上げた。
6月12日に成立した第2次補正予算では、1床あたり1日最大約30万円の「空床補償」を設けた。
大阪府も新型コロナ用の感染症病床に1床あたり1日最大で12万円の補償制度を設けていると言うが、とうてい赤字解消にはならない。
あとは大阪市からの税金をとなるのだが、補償額がいくらなのかはもちろん、支払われるのかどうかもまだ決まっていないという。
その後の「コロナ差別」が病院関係者を追い詰めたのが、これまでに医師40人のうち2人が退職したほか、200人ほどの看護師の中で辞めた人は10人ほどだという。
それでも、わずか9人の患者のために……。つい本音を漏らすと、西口病院長はこう話す。
「医師には『コロナの勉強をしておきなさい。チーム制にしてコロナ患者の治療に当たれるようにしておきなさい』と言っており、ローテーションを組んでやっています。論文を書かせたり、何かをやらせたり、モチベーションを持つのに苦労しています」
病棟の壁のいたるところに、市民からの激励の手紙やはがきが貼ってある。なかには、「マスクを1500枚送りました」という手紙も。西口病院長はこれらすべてに返事を送ったという。
私が訪ねた7月6日、十三市民病院はコロナ専用の病床を90床確保した上で、通常診療を27日から再開すると決めた。
西口病院長はこう語った。「僕は開けたくて開けたくたまらないのよ」(矢野宏)